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第12話 メリークリスマス
しおりを挟む駅に着き、美鈴は祐羽を見つけた。奏汰と冬菜はまだ到着してなかった。美鈴は少し立ち止まった。しかし、いつまでも祐羽を避けるわけにはいかないと思い、大きく深呼吸してまた歩き始めた。精一杯の笑顔を作って祐羽に話しかける。
「お、おはよっ!祐羽」
「わっ!あ、お、あ、美鈴、おはよ」
祐羽は後ろから話しかけられ驚き、さらに美鈴が笑顔で話しかけてくるので、祐羽も必死に笑顔を作った。しかし、美鈴にはその祐羽の引きつった笑顔が面白く、笑いが堪えれなかった。
「ふふっ」
なんで、笑われたか気づいていない祐羽は、不思議そうに美鈴を見つめている。そうしているうちに、早く出てとっくに到着しているはずだった祐羽と冬菜が来た。二人は手を膝につき、ゼーゼー息を切らしながら謝った。
「なんで、謝るの?まだ待ち合わせ時間まで五分もあるのに」
と、美鈴が笑顔で答えた。それを見ている祐羽もニコニコしている。奏汰と冬菜は一瞬顔を見合わせ、二人で笑った。美鈴と祐羽が気まずい雰囲気でなかったことにとりあえずホッとした。
*****
四人は、たくさんの装飾が施された街の中を歩いた。そして、喫茶店に入り世間話をしていた。クリスマスだからと言ってもあまり学校帰りと変わらなかった。しかし、そんな明るいクリスマスムードとは違い、祐羽と奏汰はこの後、待ち構えていることのが気になって気になって仕方がない。奏汰は思い切って、話を切り出した。
「冬菜、ちょっとついてきて」
冬菜にはあらかじめ、美鈴と祐羽を二人きりにさせようとだけ言っているので、すんなりついてきた。店を出ると、日はとっくにくれていた。
「奏くん、あの二人大丈夫かな」
「朝も、雰囲気悪くなかったし、ちゃんと話せるだろ」
「そうだといいね!」
冬菜は無邪気に笑った。その笑顔を見ると胸が苦しくなり今すぐ抱きしめたくなった。その気持ちを頑張ってこらえ、公園に到着した。冬菜はブランコに向かって走り出した。「久々だ~」と言いながら、楽しそうにブランコをこいでいた。
「冬菜」
奏汰がいきなり真剣な顔つきになり、低い声で呼んだ。冬菜は驚いてブランコを降りた。奏汰は冬菜の前に歩み寄る。大きく深呼吸をして、しっかりと冬菜の目を見つめて言った。
「......冬菜……好きだよ」
奏汰はたくさん言葉を考えておいたはずなのに、これしか出てこなかった。冬菜は一瞬驚いて、目から涙をぽろぽろ流していた。奏汰はやっぱり困るよなと思って、なんて言えばいいのか言葉を探していた。
「……私も、奏くんのこと、大好きだよ」
「えっ」
奏汰は思いもよらない返事が返ってきたので、変な声が出てしまった。
冬菜はいつもより、一段と大人びて見えた。思わず冬菜を抱きしめる。そして冬菜の耳元で囁いた。
「俺と付き合ってくれますか」
「……はい」
冬菜は震える声で答えた。それを聞いて奏汰はもっと強く抱きしめる。冬菜も奏汰の腰に手を回してギュッと抱きしめかえす。時間がゆっくりと流れるような気がした。奏汰は腕を緩め、冬菜の顔をじっと見つめる。そのまま引きつけられるように、顔を近づけ唇を重ねた。
二人にとって初めてのキスだった。
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