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第10話 すれ違う心
しおりを挟む冬菜は美鈴の泣き顔は今まで見たことがなかった。そんな美鈴のことが心配でたまらない。美鈴は冬菜に何があったのかを聞かれ、放課後に起こった出来事を話し始めた。冬菜は話を聞き終わっても本当に悲しそうな顔をする美鈴になんて言っていいのかわからなかった。
「私……祐羽に嫌われたかな」
うつむいて弱々しい声で呟いた。
冬菜は「嫌われてないと思うよ」なんて無責任な言葉はかけられないと思い、迷った。
「……私にはみずちゃんと祐羽くんがどんな風に話してたのは分からないからなんとも言えない......けど、祐羽くんはそれだけで人を嫌うような人じゃないって私は思うな」
あまり自分の意見をはっきり述べることが少ない冬菜の強い言葉には説得力があった。
「そ、そうかな……」
「みずちゃんが一番分かってるでしょ?」
美鈴は祐羽が優しいことは分かっている。そこが好きになった理由の一つだからだ。
「......そうだね」
美鈴は頭では祐羽は怒ってないとわかっていても、気持ちが晴れなかった。そして、冬菜には図書室での零との出来事は話せなかった。日も暮れてきたので冬菜とは別れ、家に帰った。
美鈴は家に帰るとそのままベッドに倒れこみ、なんで気持ちが晴れないのかを考えた。祐羽に教室で言い合ったとき、美鈴は祐羽に必要とされてないような気がした。告白して振られたわけではない。でも、美鈴は失恋したようだった。祐羽のことをこのままずっと好きでいることはいけないのかと思った。
祐羽のことを考えているはずなのに、なぜか零の顔がなんども頭の中をよぎった。
静まり返った部屋に、携帯の着信音が鳴り響いた。画面には 安堂祐羽 の文字が書かれていた。しかし美鈴は電話に出なかった。
*****
奏汰と別れた祐羽は家に帰った。そして今までずっと開かなかった中学のころのアルバムを開いた。あすかとのツーショット写真を眺め、写真のあすかを指で撫でた。
「ごめんな……あすか。あすかは優しいな、俺に幸せになれって言ってくれた。お前のことは一生忘れない。あすかも俺のことずっと見ていてくれ」
アルバムのあすかに語りかけ、そっとアルバムを閉じた。机の上に置いてあった携帯を見る。美鈴と今すぐ話したい気持ちでいっぱいだった。謝りたかった。携帯を手に取り、少し躊躇したが美鈴に電話をかけた。
しかし、美鈴は出なかった。祐羽は教室で美鈴にひどいことを言った自分が許せなかった。美鈴のことを本当に傷つけてしまったのだと実感する。やっと美鈴のことが好きだと気づけたのに。
*****
祐羽は昨日泣きすぎたせいで少し腫れている目を気にしながら学校へ向かった。教室へ入ると無意識に美鈴がいるかいないかを確かめた。いつも登校するのが早い美鈴だが今日はまだいなかった。
「祐羽、おはよ」
後ろから奏汰が声をかけてきた。そのまま祐羽が席に着くと美鈴が教室に入ってきた。祐羽は美鈴の方を見た。祐羽と同じで目が腫れていた。改めて祐羽は美鈴を泣かしてしまったことに気がつく。美鈴の元気がないのは自分のせいだと思うと、心が苦しくて苦しくてたまらなかった。
祐羽は何度も美鈴に話しかけようとした。話しかけるタイミングはここだと思った途端、美鈴は毎回冬菜を誘い教室を出て行ってしまう。
「避けられてる……か」
祐羽は机に座り頭を抱えた。
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