4 / 21
第4話 スケートに行こう
しおりを挟む 馬車と列車で辺境伯領に行くのだが、今回は馬車二台に列車も個室席が二つ予約してあった。
個室席は三人掛けの椅子が向かい合っていて六人で座れるのだが、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が座ればひと席は満員になって、ヘルマンさんとレギーナとデボラとマルレーンが座ることができない。
身の回りの世話をしてもらえるように、ヘルマンさんとレギーナだけでなく、デボラとマルレーンも今回の旅行にはついて来てくれていた。
馬車が二台になったのはそのせいもあったが、単純に荷物が多くて一台では積み切れなかったという理由もあった。
護衛付きの二台の馬車が列車の駅について、個室席に荷物を運び込んで座る。
まーちゃんとふーちゃんが窓際の席に座って、わたくしがふーちゃんの隣りに、クリスタちゃんがまーちゃんの隣りに座った。
わたくしの隣りに父が座って、クリスタちゃんの隣りに母が座っている。
「フランツとマリアが小さい頃にはもっとゆとりがあったのですが、かなりきつくなってきましたね」
「フランツとマリアがそれだけ成長したということだね」
笑いながら話している両親に、わたくしは隣りに座るふーちゃんを見詰める。まだ背は低いので金色の髪の中につむじが見えているが、それがまた可愛くて堪らない。
まーちゃんは最近は三つ編みにしてもらっているようだ。細い二つの三つ編みがよく似合っている。
「エクムント様とカサンドラ様は待っていてくれるでしょうか?」
「今日出発すると先方にはお伝えしてあります」
「歓迎してくださると思うよ」
両親もエクムント様のことに関しては、進路の相談を受けていた十一歳の頃からよく知っているので、表情が柔らかい。辺境伯領に長期間滞在するということになっても、両親がすぐに了承してくれたのは、エクムント様とディッペル家との関わりが深いからかもしれなかった。
わたくしは小さな頃からキルヒマン家に連れて行かれていて、エクムント様が抱っこして庭を散歩してくださっていた。
エクムント様が士官学校を卒業すると、侯爵家の子息なので仕える家がないと困っていたところを、名乗りを上げたのがディッペル家だった。
エクムント様はディッペル家で五年間修業をしてから、カサンドラ様の養子になって辺境伯を継いだ。
士官学校を卒業したときにはエクムント様は十七歳だったので、いきなり辺境伯になるには若すぎたのだろう。それでディッペル家で騎士をして五年間過ごして学んだのだ。
列車が辺境伯領に着くと、馬車に乗り換える。大量の荷物も馬車に積みこまれた。
日差しが強くて馬車の窓を開けて風を入れても蒸し暑さが抜けない。吹き込む風も暑さを含んでいた。
「エリザベートおねえさま、おのどがかわいちゃった」
「水筒に紅茶がありますよ」
「のみたい」
「わたくしも、のみたい!」
ふーちゃんとまーちゃんに順番に水筒の紅茶を飲ませたが、水筒の中の氷は溶けていてすっかり常温になっていた。常温の紅茶でも、ふーちゃんとまーちゃんは喉を鳴らして飲んでいた。
辺境伯家に着くと、庭に木々が茂っていて、噴水もあるので、木陰を吹く風は少しは涼しく感じられる。
辺境伯家ではエクムント様とカサンドラ様が迎えてくれた。
昼食を一緒に食べることになって、わたくしとクリスタちゃんは楽なワンピースに着替えさせてもらう。ふーちゃんはシャツにショートパンツ、まーちゃんは可愛いワンピースにカボチャパンツといういで立ちになっていた。
両親も若干ラフな格好に着替えている。
「遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」
「お招きいただきありがとうございます。家族一同、とても楽しみにしてきました」
「私とカサンドラ様もディッペル家の皆様がいらっしゃるのを楽しみにしていました」
「エリザベート嬢とクリスタ嬢からは、学園のことも聞かないといけないね」
「カサンドラ様、よろしくお願いします」
父とわたくしでご挨拶をすると、エクムント様とカサンドラ様が答えてくれる。
カサンドラ様はスラックスにシャツ姿で、細身だがよく鍛えられた体が目立っていた。エクムント様もシャツとスラックス姿でリラックスしている。
何を着ていても格好いいのだと見惚れてしまうが、そんなわたくしにクリスタちゃんが前に出た。
「カサンドラ様、エクムント様に言って差し上げてくださいな」
「どうしましたか、クリスタ嬢?」
「エクムント様はお姉様のこと、子どものように扱うのですよ。それなのに、急に『そのドレスの色は私の目の色ですよ』みたいなことを仰ったりして。わたくし、聞いていてびっくりしましたわ」
「クリスタ!? 聞いていたんですか!?」
「全部聞いていたと言ったではないですか」
クリスタちゃんに聞かれていた。
わたくしが熟れたトマトのように真っ赤な顔をしていたことも、声が裏返ってしまったことも、ミルクポッドを落としてしまったことも、不作法にカップとソーサーを落としかけて音を立ててしまったことも、全部クリスタちゃんに見られていた。
恥ずかしさに頬を押さえるわたくしに、カサンドラ様が呆れた顔でエクムント様を見ているのが分かった。
「エクムント、それは意味が分かってやっているのか?」
「意味が、とは?」
「エリザベート嬢に、口説くような甘い言葉をかけている自覚があるのか、ということだ」
「く、口説く!? 私が、エリザベート嬢にですか?」
動揺しているエクムント様にクリスタちゃんは止めとばかりに告げる。
「誠実なのはいいことなのですが、お姉様以外の異性からの贈り物は受け取らないとか、目の前で言ってしまうのも、どうかと思いました」
「それは当然のことでしょう? 婚約者に不義理はできません」
「エクムント、そういうところだぞ?」
「え? どういうことですか!?」
カサンドラ様に叱られてエクムント様が動揺しているのが分かる。わたくしもあれだけ動揺させられたのだから、エクムント様にも少しは動揺して欲しかった。
「エリザベート嬢はお前が思っているほど子どもではない。大人の女性だよ?」
「エリザベート嬢はまだ十三歳です」
「十三歳とは、もう精神的にはかなり大人なのだよ」
「そ、そうですか……。私は、エリザベート嬢の顔を見るたびに、小さくて柔らかくて可愛いエリザベート嬢が浮かんできて……」
「それがいけないと言っているのだ。今すぐエリザベート嬢の認識を改めよ」
「は、はい!」
優しくて穏やかで非の打ち所がないと思っているエクムント様が、カサンドラ様の前に出るとこれだけ少年のようになってしまっているのにも驚いてしまった。
エクムント様はわたくしの中でずっと完璧な大人なイメージがあったのだが、それを覆された気がした。
それもそのはず、エクムント様はまだ二十四歳、前世で考えると大学を卒業して二年目の新人社員くらいなのだ。
「エリザベート嬢、私が気付かぬうちに失礼をしていたようで、申し訳ありません」
「失礼なことはされていません」
「いえ、頭の中で失礼なことを考えていたかもしれません」
「それは、時間と共に変わっていくものだと思っていました」
「これから変えていくように努力します。どうか、私のことをお見捨てなく」
見捨てるなんてあるわけがない。
それなのに、反省してしょんぼりした少年のようになっているエクムント様の口からそんな言葉が出てきている。
「見捨てるわけがありません。エクムント様はわたくしの大事な婚約者です」
「そう言っていただけるとありがたいです。これからもエリザベート嬢のことを今まで以上に大事にすると誓うので、婚約者のままでいてくださいね」
辺境伯家とディッペル家の婚約は国の一大事業であるし、破棄などあり得ないのだが、エクムント様が珍しく気弱になっているのだと気付いてわたくしは目を丸くした。
エクムント様にもこんな一面があるのだ。
「エクムント、ディッペル家の方々も、昼食にしましょう。フランツ殿とマリア嬢がお腹が空いて涎が出そうになっていますよ?」
カサンドラ様に声をかけられて、わたくしがふーちゃんとまーちゃんを見ると、ふーちゃんとまーちゃんは急いで服の袖で涎を拭いていた。
個室席は三人掛けの椅子が向かい合っていて六人で座れるのだが、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が座ればひと席は満員になって、ヘルマンさんとレギーナとデボラとマルレーンが座ることができない。
身の回りの世話をしてもらえるように、ヘルマンさんとレギーナだけでなく、デボラとマルレーンも今回の旅行にはついて来てくれていた。
馬車が二台になったのはそのせいもあったが、単純に荷物が多くて一台では積み切れなかったという理由もあった。
護衛付きの二台の馬車が列車の駅について、個室席に荷物を運び込んで座る。
まーちゃんとふーちゃんが窓際の席に座って、わたくしがふーちゃんの隣りに、クリスタちゃんがまーちゃんの隣りに座った。
わたくしの隣りに父が座って、クリスタちゃんの隣りに母が座っている。
「フランツとマリアが小さい頃にはもっとゆとりがあったのですが、かなりきつくなってきましたね」
「フランツとマリアがそれだけ成長したということだね」
笑いながら話している両親に、わたくしは隣りに座るふーちゃんを見詰める。まだ背は低いので金色の髪の中につむじが見えているが、それがまた可愛くて堪らない。
まーちゃんは最近は三つ編みにしてもらっているようだ。細い二つの三つ編みがよく似合っている。
「エクムント様とカサンドラ様は待っていてくれるでしょうか?」
「今日出発すると先方にはお伝えしてあります」
「歓迎してくださると思うよ」
両親もエクムント様のことに関しては、進路の相談を受けていた十一歳の頃からよく知っているので、表情が柔らかい。辺境伯領に長期間滞在するということになっても、両親がすぐに了承してくれたのは、エクムント様とディッペル家との関わりが深いからかもしれなかった。
わたくしは小さな頃からキルヒマン家に連れて行かれていて、エクムント様が抱っこして庭を散歩してくださっていた。
エクムント様が士官学校を卒業すると、侯爵家の子息なので仕える家がないと困っていたところを、名乗りを上げたのがディッペル家だった。
エクムント様はディッペル家で五年間修業をしてから、カサンドラ様の養子になって辺境伯を継いだ。
士官学校を卒業したときにはエクムント様は十七歳だったので、いきなり辺境伯になるには若すぎたのだろう。それでディッペル家で騎士をして五年間過ごして学んだのだ。
列車が辺境伯領に着くと、馬車に乗り換える。大量の荷物も馬車に積みこまれた。
日差しが強くて馬車の窓を開けて風を入れても蒸し暑さが抜けない。吹き込む風も暑さを含んでいた。
「エリザベートおねえさま、おのどがかわいちゃった」
「水筒に紅茶がありますよ」
「のみたい」
「わたくしも、のみたい!」
ふーちゃんとまーちゃんに順番に水筒の紅茶を飲ませたが、水筒の中の氷は溶けていてすっかり常温になっていた。常温の紅茶でも、ふーちゃんとまーちゃんは喉を鳴らして飲んでいた。
辺境伯家に着くと、庭に木々が茂っていて、噴水もあるので、木陰を吹く風は少しは涼しく感じられる。
辺境伯家ではエクムント様とカサンドラ様が迎えてくれた。
昼食を一緒に食べることになって、わたくしとクリスタちゃんは楽なワンピースに着替えさせてもらう。ふーちゃんはシャツにショートパンツ、まーちゃんは可愛いワンピースにカボチャパンツといういで立ちになっていた。
両親も若干ラフな格好に着替えている。
「遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」
「お招きいただきありがとうございます。家族一同、とても楽しみにしてきました」
「私とカサンドラ様もディッペル家の皆様がいらっしゃるのを楽しみにしていました」
「エリザベート嬢とクリスタ嬢からは、学園のことも聞かないといけないね」
「カサンドラ様、よろしくお願いします」
父とわたくしでご挨拶をすると、エクムント様とカサンドラ様が答えてくれる。
カサンドラ様はスラックスにシャツ姿で、細身だがよく鍛えられた体が目立っていた。エクムント様もシャツとスラックス姿でリラックスしている。
何を着ていても格好いいのだと見惚れてしまうが、そんなわたくしにクリスタちゃんが前に出た。
「カサンドラ様、エクムント様に言って差し上げてくださいな」
「どうしましたか、クリスタ嬢?」
「エクムント様はお姉様のこと、子どものように扱うのですよ。それなのに、急に『そのドレスの色は私の目の色ですよ』みたいなことを仰ったりして。わたくし、聞いていてびっくりしましたわ」
「クリスタ!? 聞いていたんですか!?」
「全部聞いていたと言ったではないですか」
クリスタちゃんに聞かれていた。
わたくしが熟れたトマトのように真っ赤な顔をしていたことも、声が裏返ってしまったことも、ミルクポッドを落としてしまったことも、不作法にカップとソーサーを落としかけて音を立ててしまったことも、全部クリスタちゃんに見られていた。
恥ずかしさに頬を押さえるわたくしに、カサンドラ様が呆れた顔でエクムント様を見ているのが分かった。
「エクムント、それは意味が分かってやっているのか?」
「意味が、とは?」
「エリザベート嬢に、口説くような甘い言葉をかけている自覚があるのか、ということだ」
「く、口説く!? 私が、エリザベート嬢にですか?」
動揺しているエクムント様にクリスタちゃんは止めとばかりに告げる。
「誠実なのはいいことなのですが、お姉様以外の異性からの贈り物は受け取らないとか、目の前で言ってしまうのも、どうかと思いました」
「それは当然のことでしょう? 婚約者に不義理はできません」
「エクムント、そういうところだぞ?」
「え? どういうことですか!?」
カサンドラ様に叱られてエクムント様が動揺しているのが分かる。わたくしもあれだけ動揺させられたのだから、エクムント様にも少しは動揺して欲しかった。
「エリザベート嬢はお前が思っているほど子どもではない。大人の女性だよ?」
「エリザベート嬢はまだ十三歳です」
「十三歳とは、もう精神的にはかなり大人なのだよ」
「そ、そうですか……。私は、エリザベート嬢の顔を見るたびに、小さくて柔らかくて可愛いエリザベート嬢が浮かんできて……」
「それがいけないと言っているのだ。今すぐエリザベート嬢の認識を改めよ」
「は、はい!」
優しくて穏やかで非の打ち所がないと思っているエクムント様が、カサンドラ様の前に出るとこれだけ少年のようになってしまっているのにも驚いてしまった。
エクムント様はわたくしの中でずっと完璧な大人なイメージがあったのだが、それを覆された気がした。
それもそのはず、エクムント様はまだ二十四歳、前世で考えると大学を卒業して二年目の新人社員くらいなのだ。
「エリザベート嬢、私が気付かぬうちに失礼をしていたようで、申し訳ありません」
「失礼なことはされていません」
「いえ、頭の中で失礼なことを考えていたかもしれません」
「それは、時間と共に変わっていくものだと思っていました」
「これから変えていくように努力します。どうか、私のことをお見捨てなく」
見捨てるなんてあるわけがない。
それなのに、反省してしょんぼりした少年のようになっているエクムント様の口からそんな言葉が出てきている。
「見捨てるわけがありません。エクムント様はわたくしの大事な婚約者です」
「そう言っていただけるとありがたいです。これからもエリザベート嬢のことを今まで以上に大事にすると誓うので、婚約者のままでいてくださいね」
辺境伯家とディッペル家の婚約は国の一大事業であるし、破棄などあり得ないのだが、エクムント様が珍しく気弱になっているのだと気付いてわたくしは目を丸くした。
エクムント様にもこんな一面があるのだ。
「エクムント、ディッペル家の方々も、昼食にしましょう。フランツ殿とマリア嬢がお腹が空いて涎が出そうになっていますよ?」
カサンドラ様に声をかけられて、わたくしがふーちゃんとまーちゃんを見ると、ふーちゃんとまーちゃんは急いで服の袖で涎を拭いていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。


〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる