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第1話 冬の始まり
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高校生になって、初めての冬。中学の頃よりも丈の短いスカートは寒さを倍増させた。痛いくらい冷たい風が顔に吹きつける。そんな風を切りながら一人の少年が自転車に乗りながら通り過ぎてゆく。
「おーっす、冬菜おはよっ」
「お、おはよう!!奏くん!今日も元気だね」
「もちろん!んじゃ、教室でね~」
笑顔で通り過ぎてゆく少年にひらひらと手をふり返す。
さっき通り過ぎた少年は、桐乃奏汰、幼馴染。幼稚園から高校、さらにクラスまで一緒で、小さい頃からずっと行動を共にしている。
校門をくぐり、昇降口に寒さに耐えながらやっとたどり着いた。
昇降口は外よりもまだあったかい。
「おはよ~、冬菜」
「おはよ!みずちゃん!」
と、いつもの挨拶を交わす。挨拶してきたのは、堺美鈴。冬菜の中学からの親友であり、高校もクラスが同じで入学当時はものすごい安心感があった。冬菜は美鈴を略してみずちゃんと呼んでいる。この呼び方をするのは冬菜だけであった。
美鈴とともに、1年6組の教室にたどり着く。1年生の教室は4階にあるので上がるまでに、冷え切っていた手もあったまってゆく。そこには、先ほど通りすぎていった奏汰の姿もあった。そんな奏汰の隣にいつもいるのは、安堂祐羽。いつもニコニコしていて、少しチャラい。
そんないつものメンバーと顔を合わせが終わり、席に着くといつも通り朝のSTが始まった。
*********
この学校では12月にマラソン大会がある。運動が苦手な冬菜にとって最も辛い行事の一つだ。
今日はそのマラソン大会の試走の日。
「あっ!!」
何もないところで転んだ。冬菜にとってよくあることなのだが。
「大丈夫か、冬菜。立てるか?」
と、少し前を走っていた奏汰が気づいて戻ってくる。
「よっ、いてっ……」
転んだ時に足をひねったらしい。
うまく立てない。
すると、奏汰が背中を向けてしゃがんだ。
「乗れよ。運んでってやる」
「え、あ、でも、でも、おんぶとかわわ私重いよ?!奏くん潰れちゃうよ!!!」
「なわけねぇだろ……いいから。歩けないんだからどうしようもないだろ。それともお姫様抱っこのがいいか?」
「いやいや、お、おんぶでいいです!お願いします……」
諦めて奏汰におぶってもらう。懐かしい感じがし、すごく落ち着いた。
「めちゃくちゃ軽いな。ちゃんとご飯食べてるの?」
「た、食べてるよ!そ、それよりなんで奏くん私と同じくらいのとこ走ってるの?もっと早いでしょ?」
「それは……ち、調子が乗らないからだ」
紛れもなく、奏汰は相当昔から冬菜のことが好きだ。ずっと一緒にいる奏汰だからこそ分かることだったが、冬菜がドジしそうだなと思っており心配で近くを走っていた、なんて言えるわけがなかった。
「え、大丈夫?!調子悪かったの?」
「違う……そうじゃないけど……」
冬菜は、察しが悪い。ちょくちょく奏汰がアピールしてるはずなのだが、一向に気付く気配がない。マラソン大会当日はカッコイイとこ見せてやろうと奏汰は思った。
「奏くん、いつもありがとね」
耳元で冬菜が囁く。奏汰は顔が真っ赤になった。
今すぐ叫びながら走りたい気持ちになる。
「おう……」
照れ隠ししながら、平然を装い答える。冬菜は何の気なしに突然の不意打ちを仕掛けてくる。それがますます奏汰の気持ちを膨れ上がらせていた。
奏汰におぶわれながら学校に到着した。
「冬菜!?大丈夫?!」
そうやって走って寄ってくるのは、先に学校に到着していた美鈴だ。そっと奏汰が降ろしてくれる。
「大丈夫。ちょっとこけちゃって」
てへっと冬菜が笑う。
「ならよかった。保健室行こう」
美鈴の肩を借りながら保健室にいく冬菜を奏汰は見送る。
「あらあら奏くん、やるじゃん」
と声をかけてきたのは祐羽だ。
「なんだその呼び方は……やめろよ気色悪い……」
「え……そこまで言う?冬ちゃんの真似だよ?」
と言って、祐羽はウインクをしながら去っていった。
授業の終わりを知らせる鐘の音が鳴り響く。
「冬菜、今日奏汰におぶってもらったでしょ?」
「うん、そうだよ」
「どう、何もなかったの?」
「何もって、何が?」
冬菜の鈍感さには、美鈴も呆れた。美鈴は奏汰が冬菜のことを想っていることは知ってる。というか、周りにいる人ほとんどが知っている。唯一知らないのが本人の冬菜だけだ。
「冬菜は、好きな人とかいないの?」
「んー、いない……かな?」
「なんで疑問系……」
「好きって気持ちどんな感じなのかな?」
「どうなんだろう。自然と目で追っちゃうとか?」
「そっか、みずちゃんは祐羽くんのこと好きだもんね!」
「……なんでそこは気づくかな……」
美鈴は祐羽のことが好きだとは認めたくはないけど、きっとこの気持ちは好きなんだろうと思っていた。
「応援するよ!みずちゃん!」
冬菜が目をキラキラさせてガッツポーズをしている。
「あ、ありがとう。冬菜もがんばりなよ」
「なにを?」
「恋だよ!コイ!」
美鈴は冬菜にも恋を知って欲しいと思った。
****
一方こちらも帰り道。
「で、今日はどうでした??」
と、祐羽が嬉しそうな顔で聞いてくる。
「そんなニコニコして聞くか?なんにもねぇよ」
「だって、楽しいじゃん?コイバナー」
「そんなことをいう祐羽は?恋してんの?」
「さぁーー、どうだろうね!」
「人のことは、からかっといて……」
と、いつもな感じで祐羽は流していく。
「まっ、がんばれ奏汰!全然気づかれなさそうだけどな!」
なんだかんだ祐羽はからかってくるが友達思いながらいいやつだった。
もうすぐそこには冬がやってきていた。
「おーっす、冬菜おはよっ」
「お、おはよう!!奏くん!今日も元気だね」
「もちろん!んじゃ、教室でね~」
笑顔で通り過ぎてゆく少年にひらひらと手をふり返す。
さっき通り過ぎた少年は、桐乃奏汰、幼馴染。幼稚園から高校、さらにクラスまで一緒で、小さい頃からずっと行動を共にしている。
校門をくぐり、昇降口に寒さに耐えながらやっとたどり着いた。
昇降口は外よりもまだあったかい。
「おはよ~、冬菜」
「おはよ!みずちゃん!」
と、いつもの挨拶を交わす。挨拶してきたのは、堺美鈴。冬菜の中学からの親友であり、高校もクラスが同じで入学当時はものすごい安心感があった。冬菜は美鈴を略してみずちゃんと呼んでいる。この呼び方をするのは冬菜だけであった。
美鈴とともに、1年6組の教室にたどり着く。1年生の教室は4階にあるので上がるまでに、冷え切っていた手もあったまってゆく。そこには、先ほど通りすぎていった奏汰の姿もあった。そんな奏汰の隣にいつもいるのは、安堂祐羽。いつもニコニコしていて、少しチャラい。
そんないつものメンバーと顔を合わせが終わり、席に着くといつも通り朝のSTが始まった。
*********
この学校では12月にマラソン大会がある。運動が苦手な冬菜にとって最も辛い行事の一つだ。
今日はそのマラソン大会の試走の日。
「あっ!!」
何もないところで転んだ。冬菜にとってよくあることなのだが。
「大丈夫か、冬菜。立てるか?」
と、少し前を走っていた奏汰が気づいて戻ってくる。
「よっ、いてっ……」
転んだ時に足をひねったらしい。
うまく立てない。
すると、奏汰が背中を向けてしゃがんだ。
「乗れよ。運んでってやる」
「え、あ、でも、でも、おんぶとかわわ私重いよ?!奏くん潰れちゃうよ!!!」
「なわけねぇだろ……いいから。歩けないんだからどうしようもないだろ。それともお姫様抱っこのがいいか?」
「いやいや、お、おんぶでいいです!お願いします……」
諦めて奏汰におぶってもらう。懐かしい感じがし、すごく落ち着いた。
「めちゃくちゃ軽いな。ちゃんとご飯食べてるの?」
「た、食べてるよ!そ、それよりなんで奏くん私と同じくらいのとこ走ってるの?もっと早いでしょ?」
「それは……ち、調子が乗らないからだ」
紛れもなく、奏汰は相当昔から冬菜のことが好きだ。ずっと一緒にいる奏汰だからこそ分かることだったが、冬菜がドジしそうだなと思っており心配で近くを走っていた、なんて言えるわけがなかった。
「え、大丈夫?!調子悪かったの?」
「違う……そうじゃないけど……」
冬菜は、察しが悪い。ちょくちょく奏汰がアピールしてるはずなのだが、一向に気付く気配がない。マラソン大会当日はカッコイイとこ見せてやろうと奏汰は思った。
「奏くん、いつもありがとね」
耳元で冬菜が囁く。奏汰は顔が真っ赤になった。
今すぐ叫びながら走りたい気持ちになる。
「おう……」
照れ隠ししながら、平然を装い答える。冬菜は何の気なしに突然の不意打ちを仕掛けてくる。それがますます奏汰の気持ちを膨れ上がらせていた。
奏汰におぶわれながら学校に到着した。
「冬菜!?大丈夫?!」
そうやって走って寄ってくるのは、先に学校に到着していた美鈴だ。そっと奏汰が降ろしてくれる。
「大丈夫。ちょっとこけちゃって」
てへっと冬菜が笑う。
「ならよかった。保健室行こう」
美鈴の肩を借りながら保健室にいく冬菜を奏汰は見送る。
「あらあら奏くん、やるじゃん」
と声をかけてきたのは祐羽だ。
「なんだその呼び方は……やめろよ気色悪い……」
「え……そこまで言う?冬ちゃんの真似だよ?」
と言って、祐羽はウインクをしながら去っていった。
授業の終わりを知らせる鐘の音が鳴り響く。
「冬菜、今日奏汰におぶってもらったでしょ?」
「うん、そうだよ」
「どう、何もなかったの?」
「何もって、何が?」
冬菜の鈍感さには、美鈴も呆れた。美鈴は奏汰が冬菜のことを想っていることは知ってる。というか、周りにいる人ほとんどが知っている。唯一知らないのが本人の冬菜だけだ。
「冬菜は、好きな人とかいないの?」
「んー、いない……かな?」
「なんで疑問系……」
「好きって気持ちどんな感じなのかな?」
「どうなんだろう。自然と目で追っちゃうとか?」
「そっか、みずちゃんは祐羽くんのこと好きだもんね!」
「……なんでそこは気づくかな……」
美鈴は祐羽のことが好きだとは認めたくはないけど、きっとこの気持ちは好きなんだろうと思っていた。
「応援するよ!みずちゃん!」
冬菜が目をキラキラさせてガッツポーズをしている。
「あ、ありがとう。冬菜もがんばりなよ」
「なにを?」
「恋だよ!コイ!」
美鈴は冬菜にも恋を知って欲しいと思った。
****
一方こちらも帰り道。
「で、今日はどうでした??」
と、祐羽が嬉しそうな顔で聞いてくる。
「そんなニコニコして聞くか?なんにもねぇよ」
「だって、楽しいじゃん?コイバナー」
「そんなことをいう祐羽は?恋してんの?」
「さぁーー、どうだろうね!」
「人のことは、からかっといて……」
と、いつもな感じで祐羽は流していく。
「まっ、がんばれ奏汰!全然気づかれなさそうだけどな!」
なんだかんだ祐羽はからかってくるが友達思いながらいいやつだった。
もうすぐそこには冬がやってきていた。
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