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アルタリア王国へ
港にて
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翌日の早朝、魔狼の兄弟とバーストを護衛に、ひろはルイと手を繋いで港にやってきた
近海の漁船の水揚げは、早朝が多い。
ここデュポン領の港は、だいたい早朝が近海物、午後から遠洋物という流れになっている
近海物も遠洋物も見たいひろは、眠いと駄々をこねるルイを宥めすかして、早朝より繰り出したのだ
港のそばに乱立する建物は、それぞれが魚を仕分けする棟、魚を卸す棟、そして魚を小売する棟の三つに分かれていて、魚を仕分けする棟と卸す棟には生簀もあった。嬉しいことに、別棟で食堂街もあった(ここは異世界の築地かもしれない)
ーー まさか、この世界にも生簀があるなんて思わなかった ーー
そしてデュポンの港にあがる近海物は、赤、青、緑、黄色など色とりどりの鮮やかな模様の魚が多く、見ただけではどれが元の世界と同じ魚なのか、さっぱりわからなかった
とにかくここの魚は沖縄の市場で見れる魚よりももっと色鮮やかで、例えるなら原色の大きな熱帯魚と言った方が早いかもしれない
これは、とりあえず全種類買って食べてみないとわからないかもしれないと思い、手当たり次第に購入しては無限収納に入れていったのだが、その様子を見ていたルイに呆れられてしまった
「ひろ、それだけの魚を誰が食べるの?」
「一応、全種類味見するよ?どうせ無限収納に入れるからいつまでも新鮮だし。私が味見してみて、これだ!と思った物をルイに食べてもらうようにするからね。心配ご無用だよ~」
ひろは、ここに来てから、ずっとハイテンションである
ひろ大好きのルイですら、ちょっとお疲れ気味であった
因みに昆布であるが、わかめやひじきに似た海藻はあったが、ここが温暖な気候のためか、昆布らしき物は見つからなかった
その日の昼食は、庶民が行く近くの魚料理が自慢の食堂で食べる事にした
その左腕を見れば、ルイが国王だと直ぐにわかるので、どこに行っても自己紹介不要なのだが、そのかわりルイの周りには誰も近寄らない半径5mの無人地帯が出来ていた
みんなが気にはなるけど恐れ多くて口がきけない。なので、ルイが動くと同じようにルイを取り巻く輪も移動する
その中でひろだけが能天気にギャラリーに話しかける
「ねえ!どこかオススメのお店教えてくれる?あ!できれば、安くて美味しいところがいいな。高くて美味しいのは当たり前だから、私は安くて美味しいところで食べたいんだよね~」
「え?なに?あそこの角の店がいいって?他の人もそう思う?あ、そうなの?で、そこ従魔一緒でも大丈夫?」
「従魔も大丈夫なのね。ありがとう!」
ひろはギャラリーと満面の笑みで会話を楽しんでいる
"庶民王妃"
その後、デュポン領でひろはこう呼ばれることになる
そこはお世辞にも綺麗とは言えない店だった。とても一国の国王と王妃が入るような店ではない。しかし死の森で1年以上過ごしたことのある二人にとっては、そんな事は些細な事で問題にすらならなかった
元の世界では見た目はお嬢様、しかし大学生になってもら毒親からは小学生並みのお小遣いしかもらえなかったひろは、根っからの庶民だった
二人はごった返す店の中に何気なく入っていくと、目ざとく空いている席を見つけてさっと腰掛ける。魔狼の兄弟は素早く子犬の大きさになり、二人の足下に控える。ひろが周りで一心不乱に食べている客に、自然に声をかけた
「ねえ、ここのお勧めを知ってたら教えて下さいな」
「ああん?ここのはどれを食っても美味いぞ!壁に書いてあるメニューから、好きなのを選べばいい」
言われて周りを見ると、壁一面にメニューがびっしりと書き込まれている
ーー わあ~~、物凄い量だな!何を頼めばいいのか、逆に迷っちゃう ーー
「ねえ、ルイ、何にするかもう決まった?」
「何でも美味いって言われてもなぁ~」
「そうなんだよね~。もう面倒くさいから、煮付けか揚げ物か焼き物で選ぶ?」
「そうだな。魚の名前見たってどんな魚なのか、検討もつかないしな。じゃぁ俺、揚げ物にするわ」
「じゃぁ、私は煮付けにしようかな。この子達には焼き物かな。よし!決めた!」
ここでも手を高く上げた、ひろの大声が炸裂する
「おばちゃ~~ん!こっちこっちぃ!注文お願~~い!」
ルイがまた肩を震わせている
そこへエプロン姿のおばちゃんがやってきた
「注文は決まったかい?」
「ルイ、何に決めたの?自分で言って?」
「俺はガスターの揚げ物定食」
「私はロブの煮付け定食。で、この子達にアライの焼き物を三つね」
「あいよ!そっちの旦那がガスターの揚げ物定食、そっちの嬢ちゃんがロブの煮付け定食、で、下に座っている従魔にアライの焼き物を三つだね。まいどあり~!!父ちゃ~~ん!!注文行くよぉ~~!ガスターの揚げ物定食!ロブの煮付け定食!アライの焼き物が三つ!」
「あいよ~~!!」
現場で鍛え上げられた本物の大声は、迫力が違った
「はい!おまたせ!え~っと、ガスターは旦那だったね。ロブは嬢ちゃんでアライが下にいる子達だね。おかわりしたくなったら言っとくれ」
おばちゃんはテキパキとトレイをテーブルに置いていく
ルイの左腕の紋様を見ても動じない、正にプロである
ルイとひろは仲良く揚げ物と煮付けを、半分こして食べた
「お!ひろ、これ美味いぞ。食べてみ?」
ルイが先割れスプーンにガスターの揚げ物を小さく切った物をさして、ひろの口元に突き出してくる
ルイがニコニコ笑っている。ニコニコと。
ーー わ~ん、これって、あ~んじゃん。え~ん、これ食べないと多分ずっとこのままだよ~ ーー
仕方なくひろは口を開けてそれを口に入れた
「なっ?美味いだろ?」
「う、うん……」
「俺、ひろのも食べてみたい」
ルイはそう言うと、キラキラした目で見て口を開けている
ーー これはどう見ても、お返しの"あ~ん"を期待してるんだろうなぁ ーー
これまた、仕方なくひろはロブを切り分けて、お返しの"あ~ん"をした
「おっ!これも美味いな」
ルイは殊の外嬉しそうだったが、ひろは周りの生暖かい目が痛かった
食べてみたひろの感想は、ガスターは鯵に似た青物の魚で揚げ物にするとより味が引き立つ魚だった。ひろの頼んだロブは白身魚で、煮付けにすると身が引き締まって旨味が増す、そんな魚だった。流石に従魔達が食べたアライの味はわからなかったが、とても美味しかったそうです(魔狼の兄弟談)
そして午後、遠洋物が港に水揚げされると、これはまた近海物の時とは全く違って、とにかく大きくて黒っぽい地味な色合いの魚が多かった
流石にクジラとまではいかないが、それでも一本一本が大きな鯱並にでかい
ひろはここでも一通り魚を買ったが、いつになったら全ての味見が終わるのか、検討もつかない量であることだけは伝えておくとしよう
近海の漁船の水揚げは、早朝が多い。
ここデュポン領の港は、だいたい早朝が近海物、午後から遠洋物という流れになっている
近海物も遠洋物も見たいひろは、眠いと駄々をこねるルイを宥めすかして、早朝より繰り出したのだ
港のそばに乱立する建物は、それぞれが魚を仕分けする棟、魚を卸す棟、そして魚を小売する棟の三つに分かれていて、魚を仕分けする棟と卸す棟には生簀もあった。嬉しいことに、別棟で食堂街もあった(ここは異世界の築地かもしれない)
ーー まさか、この世界にも生簀があるなんて思わなかった ーー
そしてデュポンの港にあがる近海物は、赤、青、緑、黄色など色とりどりの鮮やかな模様の魚が多く、見ただけではどれが元の世界と同じ魚なのか、さっぱりわからなかった
とにかくここの魚は沖縄の市場で見れる魚よりももっと色鮮やかで、例えるなら原色の大きな熱帯魚と言った方が早いかもしれない
これは、とりあえず全種類買って食べてみないとわからないかもしれないと思い、手当たり次第に購入しては無限収納に入れていったのだが、その様子を見ていたルイに呆れられてしまった
「ひろ、それだけの魚を誰が食べるの?」
「一応、全種類味見するよ?どうせ無限収納に入れるからいつまでも新鮮だし。私が味見してみて、これだ!と思った物をルイに食べてもらうようにするからね。心配ご無用だよ~」
ひろは、ここに来てから、ずっとハイテンションである
ひろ大好きのルイですら、ちょっとお疲れ気味であった
因みに昆布であるが、わかめやひじきに似た海藻はあったが、ここが温暖な気候のためか、昆布らしき物は見つからなかった
その日の昼食は、庶民が行く近くの魚料理が自慢の食堂で食べる事にした
その左腕を見れば、ルイが国王だと直ぐにわかるので、どこに行っても自己紹介不要なのだが、そのかわりルイの周りには誰も近寄らない半径5mの無人地帯が出来ていた
みんなが気にはなるけど恐れ多くて口がきけない。なので、ルイが動くと同じようにルイを取り巻く輪も移動する
その中でひろだけが能天気にギャラリーに話しかける
「ねえ!どこかオススメのお店教えてくれる?あ!できれば、安くて美味しいところがいいな。高くて美味しいのは当たり前だから、私は安くて美味しいところで食べたいんだよね~」
「え?なに?あそこの角の店がいいって?他の人もそう思う?あ、そうなの?で、そこ従魔一緒でも大丈夫?」
「従魔も大丈夫なのね。ありがとう!」
ひろはギャラリーと満面の笑みで会話を楽しんでいる
"庶民王妃"
その後、デュポン領でひろはこう呼ばれることになる
そこはお世辞にも綺麗とは言えない店だった。とても一国の国王と王妃が入るような店ではない。しかし死の森で1年以上過ごしたことのある二人にとっては、そんな事は些細な事で問題にすらならなかった
元の世界では見た目はお嬢様、しかし大学生になってもら毒親からは小学生並みのお小遣いしかもらえなかったひろは、根っからの庶民だった
二人はごった返す店の中に何気なく入っていくと、目ざとく空いている席を見つけてさっと腰掛ける。魔狼の兄弟は素早く子犬の大きさになり、二人の足下に控える。ひろが周りで一心不乱に食べている客に、自然に声をかけた
「ねえ、ここのお勧めを知ってたら教えて下さいな」
「ああん?ここのはどれを食っても美味いぞ!壁に書いてあるメニューから、好きなのを選べばいい」
言われて周りを見ると、壁一面にメニューがびっしりと書き込まれている
ーー わあ~~、物凄い量だな!何を頼めばいいのか、逆に迷っちゃう ーー
「ねえ、ルイ、何にするかもう決まった?」
「何でも美味いって言われてもなぁ~」
「そうなんだよね~。もう面倒くさいから、煮付けか揚げ物か焼き物で選ぶ?」
「そうだな。魚の名前見たってどんな魚なのか、検討もつかないしな。じゃぁ俺、揚げ物にするわ」
「じゃぁ、私は煮付けにしようかな。この子達には焼き物かな。よし!決めた!」
ここでも手を高く上げた、ひろの大声が炸裂する
「おばちゃ~~ん!こっちこっちぃ!注文お願~~い!」
ルイがまた肩を震わせている
そこへエプロン姿のおばちゃんがやってきた
「注文は決まったかい?」
「ルイ、何に決めたの?自分で言って?」
「俺はガスターの揚げ物定食」
「私はロブの煮付け定食。で、この子達にアライの焼き物を三つね」
「あいよ!そっちの旦那がガスターの揚げ物定食、そっちの嬢ちゃんがロブの煮付け定食、で、下に座っている従魔にアライの焼き物を三つだね。まいどあり~!!父ちゃ~~ん!!注文行くよぉ~~!ガスターの揚げ物定食!ロブの煮付け定食!アライの焼き物が三つ!」
「あいよ~~!!」
現場で鍛え上げられた本物の大声は、迫力が違った
「はい!おまたせ!え~っと、ガスターは旦那だったね。ロブは嬢ちゃんでアライが下にいる子達だね。おかわりしたくなったら言っとくれ」
おばちゃんはテキパキとトレイをテーブルに置いていく
ルイの左腕の紋様を見ても動じない、正にプロである
ルイとひろは仲良く揚げ物と煮付けを、半分こして食べた
「お!ひろ、これ美味いぞ。食べてみ?」
ルイが先割れスプーンにガスターの揚げ物を小さく切った物をさして、ひろの口元に突き出してくる
ルイがニコニコ笑っている。ニコニコと。
ーー わ~ん、これって、あ~んじゃん。え~ん、これ食べないと多分ずっとこのままだよ~ ーー
仕方なくひろは口を開けてそれを口に入れた
「なっ?美味いだろ?」
「う、うん……」
「俺、ひろのも食べてみたい」
ルイはそう言うと、キラキラした目で見て口を開けている
ーー これはどう見ても、お返しの"あ~ん"を期待してるんだろうなぁ ーー
これまた、仕方なくひろはロブを切り分けて、お返しの"あ~ん"をした
「おっ!これも美味いな」
ルイは殊の外嬉しそうだったが、ひろは周りの生暖かい目が痛かった
食べてみたひろの感想は、ガスターは鯵に似た青物の魚で揚げ物にするとより味が引き立つ魚だった。ひろの頼んだロブは白身魚で、煮付けにすると身が引き締まって旨味が増す、そんな魚だった。流石に従魔達が食べたアライの味はわからなかったが、とても美味しかったそうです(魔狼の兄弟談)
そして午後、遠洋物が港に水揚げされると、これはまた近海物の時とは全く違って、とにかく大きくて黒っぽい地味な色合いの魚が多かった
流石にクジラとまではいかないが、それでも一本一本が大きな鯱並にでかい
ひろはここでも一通り魚を買ったが、いつになったら全ての味見が終わるのか、検討もつかない量であることだけは伝えておくとしよう
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