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動乱
マジョール城にて④
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《第三者目線》
ルイが今までになく怒っている
与えられた部屋に戻るまで、難しい顔をして一言も話さず、ひろの手を引いたまま、長い城の廊下をずんずん歩いて行く
部屋に戻ったルイは、ドカンと乱暴に備え付けのソファに座ると、イライラする気持ちを隠そうともせず「チッ」と、舌を鳴らした
「なんなんだ!あの女は!高貴な身分だと?父上はそのために殺されたんだがな!身分なぞ、いるならくれてやる!今夜来るなら来てみろ!この部屋に一歩でも足を踏み入れたが最後、沸いた頭を真っ二つに叩っ斬ってやる」
すごい剣幕だ
これからこの国の力を借りなければならない重要な時に、私情を挟んでいてはまずい事になる
「ルイ、冷静になろう?ハイネ様が言ってたいざこざってこのことかもしれないよ。ルイが私を強く愛していれば大丈夫だって言ってたじゃない。だから、何も心配することはないよ。ねっ?この客室の入り口はバーストに、寝室の入り口にはメシアに護ってもらって、念のため寝室に結界を張ったまま眠れば良いんだし。備えあれば憂いなし!それに私はルイの事信じてるから大丈夫だよ」
「ひろ、嫌な思いをさせてすまない。愛してるよ、どんな事があっても俺の妻はお前だけだ」
その夜、ひろ達はバーストとメシアにこの部屋の警備をお願いして、寝室にちょっとした罠をプラスした結界を張ってから、いつものようにルイに抱きしめられて眠った
次の日の朝、女王から朝食に誘われた二人は、それを断りきれず仕方なく城のダイニングルームに行った
そこには、女王ご夫妻しかおらず、件の頭の沸いた王女様はいなかった
どうやら、彼女は朝食を自室で食べるらしい
ーー どうしたのだろう…まさか昨夜張った結界の罠に引っかかって身動き取れないとかないよね ーー
ほぼ、そのまさかに近いのだが、身動きが取れないのではなく、動きたくても恥ずかしくて動けない、というのが真実だった
城の中には王族しか知らない秘密の通路がある
王女は貴賓室に繋がるその通路から寝室への侵入を試みたが、ヒロの張った結界とその罠に阻まれ、敢えなく退散となったのだった
ひろが張った結界の罠
実はひろは、何者かが結界に触れると、翌朝まで痺れて動けなくなると言う罠とセットで、寝室に結界を張ったのだ
ただ意に反して、罠に引っかかった者の全身の毛を電撃で焼き切るという不可抗力が付いてしまったのだった
その不可抗力で、エヴァ王女は髪の毛やら、まつ毛やら、その全てがなくなっていたのである
特に髪の毛は、正しくゾンビのようで、これではウイッグでも被らなければ人前には出られない
一国の王女が、これではかたなしである
これは王女付きの侍女以外誰も知らないトップシークレットであった
そんな理由で、現在王女用のウイッグが急ピッチで作られており、それは騎士団の出陣式までに何としても納品せよとの期限付きとなったのが幸いして、ひろとルイは穏やかなお城ライフを送る事が出来た
やはりひろも女である
あの時の王女様の言動には少なからず腹を立てていたらしい
それがひろがちょっとした意地悪をしたくなった理由である
これにはルイも気づいていないが、女性には多かれ少なかれこういった面はあるかもしれない
王女の髪の毛が淋しくなった次の日の夜、ジャックがフローレンスから戻ってきた
何もなかった空間に、急に黒い霧が現れたかと思ったら、その霧が集まってみるみるジャックの姿になった
「マスター、今戻った」
「ジャック、お帰り~。疲れてない?」
「マスター、オレには疲れると言う感覚がわからないのだが」
「それで、向こうはどうだったの?」
「向こうは、面白いことになっていたぞ。まぁ、大混乱とも言えるがな」
「面白いとは何だ?」
ルイがジャックに先を急かす
「まあ、そう焦るな。まず、前国王と王妃と皇太子を陥れた奴等だが、一派一絡げで、その末端までが醜悪な魔物に変化していたぞ。ハイネ様が呪詛返しに何か手を加えたんじゃないのか?」
「そう言えば、あの時、ハイネ様は今頃大変なんじゃないかなって笑ってた!あれって、このことだったんじゃないかな?ねえ、ルイ、どう思う?」
「ああ、たぶんそうだ!!」
「その殆どがゴブリンとオークで、イザベラとか言う側妃は正に雌ブタだったぞ。おまけに全員がもう心も人間ではなかったな」
「猿人類になった俺がそうだったから、呪詛返しなら普通そうなるだろう」
「一族が皆、魔物になってたからな。ある日突然、国の重鎮の屋敷が魔物で溢れて大混乱になって、もうあの国は殆ど国の体をなしていない」
「でも、ゴーレム軍団が死の森に魔道具を使って火事を起こしてるけど、あれはどうして?」
「ああ、あれは始めオークに変身しても、宰相だけはまだ一応人間としての意識があったらしい。なので、あれは宰相がやったことだ。ただ、オレ達にハイネ様からマスターに力を貸して欲しいという依頼が来た時くらいに、宰相が廃人になってしまったようだ」
「それって、私達がハイネ様のところでゴーレム軍団の進行を知った時に、ハイネ様が怒ってしたことじゃないかな?」
「ああ~~、それってありえるね~ハイネ様ならやりそうだ」
ルイが呆れたように言った
「今回、オレはフローレンスしか見てこなかったが、もしかしたらアルタイルで糸を引いていた奴等も、同じ運命を辿っているかもな」
「これはあまり時間をかけずしてフローレンスを落とせるかもしれない。マジョールの侵攻に対してフローレンスにはもう抵抗する力はないかもしれないしな。明日、女王と相談して作戦を決めよう」
「ジャック、ありがとう。お疲れ様!ゆっくり休んでね」
「マスター、また呼んでくれ」
ジャックはそう言い残して、霧の中に消えていった
明日、女王に今の話を伝えれば、直ぐにでもマジョールはフローレンスに戦線布告をして戦争が始まることになるだろう
ルイとひろの二人はフローレンスの城にある北の塔を目指すことになる
王妃様救出のミッション発動だ
「ねえ、ルイ。王妃様をお助けできたら、ルイはどうするの?」
「やはり俺はアルタイルへ行く。国の事は、俺が帰国するまで、母上に俺の代理を、そしてマジョールの女王には後見をお願いしようと思っている」
「ルイが悩んで決めた事なら、私は反対するつもりはないよ。私はそれを応援するだけ。私はどこにでもついて行く。邪魔だって言われてもついて行くから、覚悟してね」
「ひろ…………」
二人はその夜、優しく愛し合った
ルイが今までになく怒っている
与えられた部屋に戻るまで、難しい顔をして一言も話さず、ひろの手を引いたまま、長い城の廊下をずんずん歩いて行く
部屋に戻ったルイは、ドカンと乱暴に備え付けのソファに座ると、イライラする気持ちを隠そうともせず「チッ」と、舌を鳴らした
「なんなんだ!あの女は!高貴な身分だと?父上はそのために殺されたんだがな!身分なぞ、いるならくれてやる!今夜来るなら来てみろ!この部屋に一歩でも足を踏み入れたが最後、沸いた頭を真っ二つに叩っ斬ってやる」
すごい剣幕だ
これからこの国の力を借りなければならない重要な時に、私情を挟んでいてはまずい事になる
「ルイ、冷静になろう?ハイネ様が言ってたいざこざってこのことかもしれないよ。ルイが私を強く愛していれば大丈夫だって言ってたじゃない。だから、何も心配することはないよ。ねっ?この客室の入り口はバーストに、寝室の入り口にはメシアに護ってもらって、念のため寝室に結界を張ったまま眠れば良いんだし。備えあれば憂いなし!それに私はルイの事信じてるから大丈夫だよ」
「ひろ、嫌な思いをさせてすまない。愛してるよ、どんな事があっても俺の妻はお前だけだ」
その夜、ひろ達はバーストとメシアにこの部屋の警備をお願いして、寝室にちょっとした罠をプラスした結界を張ってから、いつものようにルイに抱きしめられて眠った
次の日の朝、女王から朝食に誘われた二人は、それを断りきれず仕方なく城のダイニングルームに行った
そこには、女王ご夫妻しかおらず、件の頭の沸いた王女様はいなかった
どうやら、彼女は朝食を自室で食べるらしい
ーー どうしたのだろう…まさか昨夜張った結界の罠に引っかかって身動き取れないとかないよね ーー
ほぼ、そのまさかに近いのだが、身動きが取れないのではなく、動きたくても恥ずかしくて動けない、というのが真実だった
城の中には王族しか知らない秘密の通路がある
王女は貴賓室に繋がるその通路から寝室への侵入を試みたが、ヒロの張った結界とその罠に阻まれ、敢えなく退散となったのだった
ひろが張った結界の罠
実はひろは、何者かが結界に触れると、翌朝まで痺れて動けなくなると言う罠とセットで、寝室に結界を張ったのだ
ただ意に反して、罠に引っかかった者の全身の毛を電撃で焼き切るという不可抗力が付いてしまったのだった
その不可抗力で、エヴァ王女は髪の毛やら、まつ毛やら、その全てがなくなっていたのである
特に髪の毛は、正しくゾンビのようで、これではウイッグでも被らなければ人前には出られない
一国の王女が、これではかたなしである
これは王女付きの侍女以外誰も知らないトップシークレットであった
そんな理由で、現在王女用のウイッグが急ピッチで作られており、それは騎士団の出陣式までに何としても納品せよとの期限付きとなったのが幸いして、ひろとルイは穏やかなお城ライフを送る事が出来た
やはりひろも女である
あの時の王女様の言動には少なからず腹を立てていたらしい
それがひろがちょっとした意地悪をしたくなった理由である
これにはルイも気づいていないが、女性には多かれ少なかれこういった面はあるかもしれない
王女の髪の毛が淋しくなった次の日の夜、ジャックがフローレンスから戻ってきた
何もなかった空間に、急に黒い霧が現れたかと思ったら、その霧が集まってみるみるジャックの姿になった
「マスター、今戻った」
「ジャック、お帰り~。疲れてない?」
「マスター、オレには疲れると言う感覚がわからないのだが」
「それで、向こうはどうだったの?」
「向こうは、面白いことになっていたぞ。まぁ、大混乱とも言えるがな」
「面白いとは何だ?」
ルイがジャックに先を急かす
「まあ、そう焦るな。まず、前国王と王妃と皇太子を陥れた奴等だが、一派一絡げで、その末端までが醜悪な魔物に変化していたぞ。ハイネ様が呪詛返しに何か手を加えたんじゃないのか?」
「そう言えば、あの時、ハイネ様は今頃大変なんじゃないかなって笑ってた!あれって、このことだったんじゃないかな?ねえ、ルイ、どう思う?」
「ああ、たぶんそうだ!!」
「その殆どがゴブリンとオークで、イザベラとか言う側妃は正に雌ブタだったぞ。おまけに全員がもう心も人間ではなかったな」
「猿人類になった俺がそうだったから、呪詛返しなら普通そうなるだろう」
「一族が皆、魔物になってたからな。ある日突然、国の重鎮の屋敷が魔物で溢れて大混乱になって、もうあの国は殆ど国の体をなしていない」
「でも、ゴーレム軍団が死の森に魔道具を使って火事を起こしてるけど、あれはどうして?」
「ああ、あれは始めオークに変身しても、宰相だけはまだ一応人間としての意識があったらしい。なので、あれは宰相がやったことだ。ただ、オレ達にハイネ様からマスターに力を貸して欲しいという依頼が来た時くらいに、宰相が廃人になってしまったようだ」
「それって、私達がハイネ様のところでゴーレム軍団の進行を知った時に、ハイネ様が怒ってしたことじゃないかな?」
「ああ~~、それってありえるね~ハイネ様ならやりそうだ」
ルイが呆れたように言った
「今回、オレはフローレンスしか見てこなかったが、もしかしたらアルタイルで糸を引いていた奴等も、同じ運命を辿っているかもな」
「これはあまり時間をかけずしてフローレンスを落とせるかもしれない。マジョールの侵攻に対してフローレンスにはもう抵抗する力はないかもしれないしな。明日、女王と相談して作戦を決めよう」
「ジャック、ありがとう。お疲れ様!ゆっくり休んでね」
「マスター、また呼んでくれ」
ジャックはそう言い残して、霧の中に消えていった
明日、女王に今の話を伝えれば、直ぐにでもマジョールはフローレンスに戦線布告をして戦争が始まることになるだろう
ルイとひろの二人はフローレンスの城にある北の塔を目指すことになる
王妃様救出のミッション発動だ
「ねえ、ルイ。王妃様をお助けできたら、ルイはどうするの?」
「やはり俺はアルタイルへ行く。国の事は、俺が帰国するまで、母上に俺の代理を、そしてマジョールの女王には後見をお願いしようと思っている」
「ルイが悩んで決めた事なら、私は反対するつもりはないよ。私はそれを応援するだけ。私はどこにでもついて行く。邪魔だって言われてもついて行くから、覚悟してね」
「ひろ…………」
二人はその夜、優しく愛し合った
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