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オレのヒロ sideルイ
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オレの名前は、ルイ
オレには家族がいない
この森でオレと同じ種族を見かけた事もない
ずっとオレ1人だ
小さな時の記憶がないから、どこで生まれたのか、どこで育ったのかもわからない
しかし不思議なことに自分の名前だけは覚えていたんだ
"ルイ"と言う名前を
誰にも告げる事のない名前を
それまでの記憶はないけれど、何故かある日突然、気づいたらオレは手に短剣を持ってこの森の中にいたんだ
この森は高レベルの魔物が跋扈する危険な森で、はじめオレは逃げ回ってばかりだった
お腹が空けば果物を採って食べた
偶に逃げきれず魔物に襲われて怪我をして何度も死にかけた
ただ、オレは回復が早く、死にかけても数日で元気になったのは今でも不思議に思っている
ある日、オレは偶然岩山の中腹にある洞窟を見つけて、そこを寝ぐらにするようになった
弱い魔物ならば、狩って食べる事も出来るようになったが、何故かオレが焼く肉は全て真っ黒な消し炭になってしまう
仕方なくオレはその消し炭を食べていた
残った魔物の皮はなめして腰に巻いている
時が過ぎ、オレの体もだんだん逞しくなって、ボアやベア系の魔物ならば問題なく倒せるようになった
そんなある日、オレは岩山の崖下で、人間の女の子を見つけた
はじめは死んでいるのかと思った
生きているとわかると、オレは自分の寝床に女の子を運んで寝かせた
あのまま崖下に放置すれば、間違いなく魔物に襲われて絶命するに違いないから
オレは女の子が眼を覚ますのを今か今かと待ちわびていた
女の子は目を覚ました時に、オレと目があって驚いたようだった
オレが水を汲みにその場を離れてから戻ると、女の子は怯えて逃げようとする
オレは慌てて水を差し出して、飲むように身振り手振りで伝えた
女の子は何か叫んだあと水をぐっと飲み干し、オレに
「ありがとう」
と言ったんだ
オレにはなんて言ったのか意味がわからなかったが、多分お礼を言ってくれていたような気がした
オレは女の子の手を引いて洞窟の入り口に連れて行き、肉を焼いて女の子に振る舞った
消し炭になったそれを手に取った女の子は、それを見るなり首を横に振って、オレに返してきた
オレは少し悲しくなって、自分でその消し炭を食べた
女の子は次に手渡した果物を口にすると、ニッコリと笑ってくれた
オレは凄く嬉しくなった
すると女の子はオレを見ながら、自分を指差して何度も
「"ひろ"……私は"ひろ"……"ひろ"……"ひろ"」
と言うんだ
多分自分の名前を言っているのだと気づいたオレは
「ヒ………ロ」
「そう、私は"ひろ"」
「ヒロ」
「あなたは?」
女の子はオレを指差して聞いてきた
多分オレの名前を聞いているのだと思ったので、オレは初めて悲鳴以外の言葉を喋った
「ル…………イ」
「ルイ?ルイって言うの?」
「ル…イ…」
オレは、生まれて初めて人に自分の名前を告げた
オレは嬉しくなって、その時から女の子の事が大好きになった
これから2人でここで暮らすかもしれないと思うと、嬉しくてオレは気持ちが高ぶり、もう少しで叫びそうになって、たいそう慌てた
すると、女の子はオレの目の前でフッと姿が消えてしまったんだ
本当にあっという間で、オレはそれに反応する事すら出来ず、取り残されて無様に立ち尽くしていた
やっと見つけた、一緒に暮らせると思った大事な女の子だったのに目の前で消えてしまった
オレは、泣いた
泣いて泣いて、気づいたら夜が明けて朝になっていた
朝になっても何もする気になれなかった
不思議とお腹も空かなかった
森で死にかけた時も、これほどまで絶望した事はなかった
ーー もう一度会いたいなぁ ーー
ぼーっとする頭の中で、オレはずっとそんな事を考えていた
女の子の事は夢だと思って忘れる事にしようと決めた頃、オレの目の前にあの女の子がフッと現れたんだ
オレは一瞬我が目を疑った
そして反射的に女の子を抱きしめて、泣きじゃくった
ヒロがオレのところに戻って来てくれた
それだけでどんなに嬉しかったことか、言葉では言い表せないくらいだ
するとオレはヒロの声かけで、ヒロの言葉がわかるようになっている事に気付いた
ヒロもオレの言葉がわかるようになったみたいだった
オレは生まれて初めて、人と話した
もう、オレは歓喜で神様に何度感謝したかわからない
その時、オレは二度とヒロを見失いたくない
ーー ヒロを護りたい ーーと思ったんだ
それからオレは自分でも驚くほど強くなった
どんな攻撃魔法でも使えるようになった
どんな武器でも使えるようになった
武器がなくても、体術のみで戦えるようになった
どんなに強い魔物でも、相手に気づかれる前に倒すことが出来るようになった
オレはまるで自分に闘神が乗り移ったように感じた
オレはこの力で絶対にヒロを護ると誓った
ヒロとの生活は、夢のような毎日だった
特にヒロの作るご飯は、なによりも美味しかった
オレは沢山あるメニューの中でも、特にヒロが作ってくれる煮込みハンバーグとクリームシチューとコロッケとフレンチトーストが大好きだ
もう以前の消し炭生活には戻れないと思う
それから面白い事にオレのヒロは、オレができる事が殆ど出来ない
例えば、攻撃魔法はからきしだ
でも、ヒロはオレが出来ない事が出来る
例えば治癒魔法だったりあらゆるものを作ったり出来るのだ
オレはヒロから何でも入るマジックバックとスラックスとチュニックを作ってもらい、身に付けるようになった
靴というものも作ってもらった
オレの持っている短剣以外の武器は、長剣も槍も棍も全て我が家の洞窟から採掘されたミスリルとアダマンタイトを使ってヒロが作ってくれたものだ
ヒロはオレの神様だ
再会して直ぐに、ヒロは互いの事を知るために、自分の事を話そうと言ってきた
ヒロの生い立ちを聞いたオレは、涙を堪えきれず抱きついて泣いた
「ヒロ……ヒロ………オレ、ヒロの事、要る、ヒロが、要る、ヒロ、大事」
思わず泣きながら叫んでいた
ヒロはオレが絶対に幸せにすると誓った
ヒロと再会したその日からオレは毎日ヒロを抱きしめて眠っている
もう二度とヒロがここからいなくならないように
ヒロはオレのこと、弟とか子供のように思っているかもしれない
でも、オレが魔狼の子を庇って瀕死の怪我をして、ヒロの魔法で助けられて長い眠りから目覚めた時に、オレは自分のヒロに対する気持ちに気付いた
オレは、ヒロが好きだ
オレはヒロのために生まれてきたと思った
オレのヒロ
オレの
オレには家族がいない
この森でオレと同じ種族を見かけた事もない
ずっとオレ1人だ
小さな時の記憶がないから、どこで生まれたのか、どこで育ったのかもわからない
しかし不思議なことに自分の名前だけは覚えていたんだ
"ルイ"と言う名前を
誰にも告げる事のない名前を
それまでの記憶はないけれど、何故かある日突然、気づいたらオレは手に短剣を持ってこの森の中にいたんだ
この森は高レベルの魔物が跋扈する危険な森で、はじめオレは逃げ回ってばかりだった
お腹が空けば果物を採って食べた
偶に逃げきれず魔物に襲われて怪我をして何度も死にかけた
ただ、オレは回復が早く、死にかけても数日で元気になったのは今でも不思議に思っている
ある日、オレは偶然岩山の中腹にある洞窟を見つけて、そこを寝ぐらにするようになった
弱い魔物ならば、狩って食べる事も出来るようになったが、何故かオレが焼く肉は全て真っ黒な消し炭になってしまう
仕方なくオレはその消し炭を食べていた
残った魔物の皮はなめして腰に巻いている
時が過ぎ、オレの体もだんだん逞しくなって、ボアやベア系の魔物ならば問題なく倒せるようになった
そんなある日、オレは岩山の崖下で、人間の女の子を見つけた
はじめは死んでいるのかと思った
生きているとわかると、オレは自分の寝床に女の子を運んで寝かせた
あのまま崖下に放置すれば、間違いなく魔物に襲われて絶命するに違いないから
オレは女の子が眼を覚ますのを今か今かと待ちわびていた
女の子は目を覚ました時に、オレと目があって驚いたようだった
オレが水を汲みにその場を離れてから戻ると、女の子は怯えて逃げようとする
オレは慌てて水を差し出して、飲むように身振り手振りで伝えた
女の子は何か叫んだあと水をぐっと飲み干し、オレに
「ありがとう」
と言ったんだ
オレにはなんて言ったのか意味がわからなかったが、多分お礼を言ってくれていたような気がした
オレは女の子の手を引いて洞窟の入り口に連れて行き、肉を焼いて女の子に振る舞った
消し炭になったそれを手に取った女の子は、それを見るなり首を横に振って、オレに返してきた
オレは少し悲しくなって、自分でその消し炭を食べた
女の子は次に手渡した果物を口にすると、ニッコリと笑ってくれた
オレは凄く嬉しくなった
すると女の子はオレを見ながら、自分を指差して何度も
「"ひろ"……私は"ひろ"……"ひろ"……"ひろ"」
と言うんだ
多分自分の名前を言っているのだと気づいたオレは
「ヒ………ロ」
「そう、私は"ひろ"」
「ヒロ」
「あなたは?」
女の子はオレを指差して聞いてきた
多分オレの名前を聞いているのだと思ったので、オレは初めて悲鳴以外の言葉を喋った
「ル…………イ」
「ルイ?ルイって言うの?」
「ル…イ…」
オレは、生まれて初めて人に自分の名前を告げた
オレは嬉しくなって、その時から女の子の事が大好きになった
これから2人でここで暮らすかもしれないと思うと、嬉しくてオレは気持ちが高ぶり、もう少しで叫びそうになって、たいそう慌てた
すると、女の子はオレの目の前でフッと姿が消えてしまったんだ
本当にあっという間で、オレはそれに反応する事すら出来ず、取り残されて無様に立ち尽くしていた
やっと見つけた、一緒に暮らせると思った大事な女の子だったのに目の前で消えてしまった
オレは、泣いた
泣いて泣いて、気づいたら夜が明けて朝になっていた
朝になっても何もする気になれなかった
不思議とお腹も空かなかった
森で死にかけた時も、これほどまで絶望した事はなかった
ーー もう一度会いたいなぁ ーー
ぼーっとする頭の中で、オレはずっとそんな事を考えていた
女の子の事は夢だと思って忘れる事にしようと決めた頃、オレの目の前にあの女の子がフッと現れたんだ
オレは一瞬我が目を疑った
そして反射的に女の子を抱きしめて、泣きじゃくった
ヒロがオレのところに戻って来てくれた
それだけでどんなに嬉しかったことか、言葉では言い表せないくらいだ
するとオレはヒロの声かけで、ヒロの言葉がわかるようになっている事に気付いた
ヒロもオレの言葉がわかるようになったみたいだった
オレは生まれて初めて、人と話した
もう、オレは歓喜で神様に何度感謝したかわからない
その時、オレは二度とヒロを見失いたくない
ーー ヒロを護りたい ーーと思ったんだ
それからオレは自分でも驚くほど強くなった
どんな攻撃魔法でも使えるようになった
どんな武器でも使えるようになった
武器がなくても、体術のみで戦えるようになった
どんなに強い魔物でも、相手に気づかれる前に倒すことが出来るようになった
オレはまるで自分に闘神が乗り移ったように感じた
オレはこの力で絶対にヒロを護ると誓った
ヒロとの生活は、夢のような毎日だった
特にヒロの作るご飯は、なによりも美味しかった
オレは沢山あるメニューの中でも、特にヒロが作ってくれる煮込みハンバーグとクリームシチューとコロッケとフレンチトーストが大好きだ
もう以前の消し炭生活には戻れないと思う
それから面白い事にオレのヒロは、オレができる事が殆ど出来ない
例えば、攻撃魔法はからきしだ
でも、ヒロはオレが出来ない事が出来る
例えば治癒魔法だったりあらゆるものを作ったり出来るのだ
オレはヒロから何でも入るマジックバックとスラックスとチュニックを作ってもらい、身に付けるようになった
靴というものも作ってもらった
オレの持っている短剣以外の武器は、長剣も槍も棍も全て我が家の洞窟から採掘されたミスリルとアダマンタイトを使ってヒロが作ってくれたものだ
ヒロはオレの神様だ
再会して直ぐに、ヒロは互いの事を知るために、自分の事を話そうと言ってきた
ヒロの生い立ちを聞いたオレは、涙を堪えきれず抱きついて泣いた
「ヒロ……ヒロ………オレ、ヒロの事、要る、ヒロが、要る、ヒロ、大事」
思わず泣きながら叫んでいた
ヒロはオレが絶対に幸せにすると誓った
ヒロと再会したその日からオレは毎日ヒロを抱きしめて眠っている
もう二度とヒロがここからいなくならないように
ヒロはオレのこと、弟とか子供のように思っているかもしれない
でも、オレが魔狼の子を庇って瀕死の怪我をして、ヒロの魔法で助けられて長い眠りから目覚めた時に、オレは自分のヒロに対する気持ちに気付いた
オレは、ヒロが好きだ
オレはヒロのために生まれてきたと思った
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