ハッピーエンド異世界恋愛短編集

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私を『一生愛し続ける』とおっしゃいましたよね?

最終話

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 夜道を並んで歩く二人。

 クリスティナはフレディが苦労していることを知っていて、ダグラスの言いなりになって何も手を差し伸べなかったことに、申し訳ない気持ちで一杯だった。

「フレディ……本当にごめんなさい。力になってあげられなくて」

「そんなこと謝る必要なんてないさ。僕達は友達だろ?」

 荒む心が救われる言葉だった。

 にこやかに笑うフレディは、クリスティナやダグラスの事をまだ友達と思ってくれていたのだった――。

 しかし、ダグラスの屋敷に着いた二人は目を疑う光景を目撃してしまう。

「さ……足元に気を付けてくれ、ライラ」

 なんと、ダグラスが見たこともない女性を屋敷へ連れ込もうとしているではないか。すかさずクリスティナが詰め寄り「そのお方は誰ですの?」と冷静に尋ねると。

「ク、クリスティナ!? 死んでなかったのか!? ち、違うんだ、この人はただの友人で――」

 慌てふためくダグラスの隣にいたライラが口を尖らせる。

「え~ダグラス様、話が違うじゃない。『クリスティナはもうとっくに死んでるから私と結婚してくれ』って言ったのは貴方様でしょ?」

「いや待ってくれ、こんなことになる――」

 ダグラスの言葉を遮るようにフレディが「ふざけるな!!」と怒りを露わにして思い切り殴りつけた。ダグラスは土砂崩れにあったクリスティナを早々に見切り、浮気相手のライラと結婚することを選んでいたのだ。

「クリスティナがどんな気持ちでここに戻ってきたと思ってるんだ!! 君の彼女への想いはそんな程度じゃなかったはずだ!!」

 口から“ぺッ”と血を吐き捨てたダグラスが睨み返す。

「……貴様、この私に向かって何たる無礼!! この場で殺してくれるわ……おい!!」

 屋敷からゾロゾロと現れた護衛兵達がフレディを取り囲む。クリスティナが「おやめ下さいダグラス様!!」と制止するも、顔を真っ赤に染めたダグラスの勢いは止まらない。

「うるさいぞクリスティナ!! こうなればもはやお前にも用はない……二人とも首を切り落としてしまえ!!」

 無慈悲な号令でクリスティナも護衛兵に捕まり、二人は正座するように押さえつけられた。

「く……」

 そして、フレディの真上から鋭い剣が振り下ろされそうになった、その時。
 

 クリスティナ達の目の前に、箒に跨った魔女が忽然と舞い降りてきた。


「けけけけけ……何やら楽しそうなことをしているな、人間どもよ」

 漆黒のローブに身を包む魔女の登場に、驚きを隠せないダグラス。

「な、なぜ忌々しい魔女がこんなところに……そ、即刻ひっ捕えろ!!」

 護衛兵達が「はっ!」と魔女へ向かって一斉に剣を振りかざしたが。

「そうはさせないよ」

 魔女が杖を掲げた途端、護衛兵達が全員「う……」と固まり、金縛りの如く身動きが取れなくなる。

「クリスティナ、賭けは私の勝ちだ。約束通りこの男は貰っていくよ……あ、オマケにそこの女もね」

 ニヤリとそう告げた魔女はダグラスとライラに向けて手をかざし、二人の身体を宙に浮かせた。

「な、何だ!?」
「きゃー!!」

 空中で無駄にジタバタと暴れる二人をよそに、魔女は冷徹な視線を周囲に向けた。

「いいかいお前達……今後クリスティナとフレディの二人に危害を加えることは私が許さないよ、けけけけけ」

 背筋に悪寒が走る不気味な笑い声を残した魔女が、悲鳴を上げるダグラスとライラを連れて、颯爽と星も見えない夜空の彼方へ消えていく。

 終始呆気に取られていたクリスティナとフレディは呆然としていた――。

 あれから二年が経過した頃。

 そこには、土砂崩れによって命を落とした者達を弔う墓の前で、黙祷を捧げるクリスティナとフレディの姿があった。

 クリスティナは親の反対を何とか説得してフレディと結婚し、さらに一人の子供を出産していた。

 決して裕福な生活とは言えないものの、生涯を通してクリスティナの笑顔は絶えず、彼女はフレディや子供と共に末長く幸せに暮らしたそうな――。

 さて。

 一方で漆黒の魔女の正体は一体何者だったのか。

 魔女は二百年も前の昔、永遠の愛を誓ってくれた“婚約者から裏切られた”王家出身の美しい娘だった。
 当時から強い魔力を持っていた彼女は絶望感から荒れ狂い、人を信じることが出来ない魔女に変貌してしまう。

 しかし、偶然出会ったクリスティナに若き頃の自分を重ね合わせた魔女は、彼女が幸せになることを心から望んだ。

 そして。

 目の前に『一生愛してくれる者』が現れたら、老婆の姿を解除する。

 という仕掛けを施した指輪をクリスティナに授けたのだ。

 クリスティナとフレディが結婚したあとも、魔女は陰から二人を長い間見守り続けて、密かに優しく微笑んでいた。


「けけけけけ――」


 これは魔女以外、誰にも知られていない逸話である――。

 fin
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