10 / 15
私を『一生愛し続ける』とおっしゃいましたよね?
最終話
しおりを挟む
夜道を並んで歩く二人。
クリスティナはフレディが苦労していることを知っていて、ダグラスの言いなりになって何も手を差し伸べなかったことに、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「フレディ……本当にごめんなさい。力になってあげられなくて」
「そんなこと謝る必要なんてないさ。僕達は友達だろ?」
荒む心が救われる言葉だった。
にこやかに笑うフレディは、クリスティナやダグラスの事をまだ友達と思ってくれていたのだった――。
しかし、ダグラスの屋敷に着いた二人は目を疑う光景を目撃してしまう。
「さ……足元に気を付けてくれ、ライラ」
なんと、ダグラスが見たこともない女性を屋敷へ連れ込もうとしているではないか。すかさずクリスティナが詰め寄り「そのお方は誰ですの?」と冷静に尋ねると。
「ク、クリスティナ!? 死んでなかったのか!? ち、違うんだ、この人はただの友人で――」
慌てふためくダグラスの隣にいたライラが口を尖らせる。
「え~ダグラス様、話が違うじゃない。『クリスティナはもうとっくに死んでるから私と結婚してくれ』って言ったのは貴方様でしょ?」
「いや待ってくれ、こんなことになる――」
ダグラスの言葉を遮るようにフレディが「ふざけるな!!」と怒りを露わにして思い切り殴りつけた。ダグラスは土砂崩れにあったクリスティナを早々に見切り、浮気相手のライラと結婚することを選んでいたのだ。
「クリスティナがどんな気持ちでここに戻ってきたと思ってるんだ!! 君の彼女への想いはそんな程度じゃなかったはずだ!!」
口から“ぺッ”と血を吐き捨てたダグラスが睨み返す。
「……貴様、この私に向かって何たる無礼!! この場で殺してくれるわ……おい!!」
屋敷からゾロゾロと現れた護衛兵達がフレディを取り囲む。クリスティナが「おやめ下さいダグラス様!!」と制止するも、顔を真っ赤に染めたダグラスの勢いは止まらない。
「うるさいぞクリスティナ!! こうなればもはやお前にも用はない……二人とも首を切り落としてしまえ!!」
無慈悲な号令でクリスティナも護衛兵に捕まり、二人は正座するように押さえつけられた。
「く……」
そして、フレディの真上から鋭い剣が振り下ろされそうになった、その時。
クリスティナ達の目の前に、箒に跨った魔女が忽然と舞い降りてきた。
「けけけけけ……何やら楽しそうなことをしているな、人間どもよ」
漆黒のローブに身を包む魔女の登場に、驚きを隠せないダグラス。
「な、なぜ忌々しい魔女がこんなところに……そ、即刻ひっ捕えろ!!」
護衛兵達が「はっ!」と魔女へ向かって一斉に剣を振りかざしたが。
「そうはさせないよ」
魔女が杖を掲げた途端、護衛兵達が全員「う……」と固まり、金縛りの如く身動きが取れなくなる。
「クリスティナ、賭けは私の勝ちだ。約束通りこの男は貰っていくよ……あ、オマケにそこの女もね」
ニヤリとそう告げた魔女はダグラスとライラに向けて手をかざし、二人の身体を宙に浮かせた。
「な、何だ!?」
「きゃー!!」
空中で無駄にジタバタと暴れる二人をよそに、魔女は冷徹な視線を周囲に向けた。
「いいかいお前達……今後クリスティナとフレディの二人に危害を加えることは私が許さないよ、けけけけけ」
背筋に悪寒が走る不気味な笑い声を残した魔女が、悲鳴を上げるダグラスとライラを連れて、颯爽と星も見えない夜空の彼方へ消えていく。
終始呆気に取られていたクリスティナとフレディは呆然としていた――。
あれから二年が経過した頃。
そこには、土砂崩れによって命を落とした者達を弔う墓の前で、黙祷を捧げるクリスティナとフレディの姿があった。
クリスティナは親の反対を何とか説得してフレディと結婚し、さらに一人の子供を出産していた。
決して裕福な生活とは言えないものの、生涯を通してクリスティナの笑顔は絶えず、彼女はフレディや子供と共に末長く幸せに暮らしたそうな――。
さて。
一方で漆黒の魔女の正体は一体何者だったのか。
魔女は二百年も前の昔、永遠の愛を誓ってくれた“婚約者から裏切られた”王家出身の美しい娘だった。
当時から強い魔力を持っていた彼女は絶望感から荒れ狂い、人を信じることが出来ない魔女に変貌してしまう。
しかし、偶然出会ったクリスティナに若き頃の自分を重ね合わせた魔女は、彼女が幸せになることを心から望んだ。
そして。
目の前に『一生愛してくれる者』が現れたら、老婆の姿を解除する。
という仕掛けを施した指輪をクリスティナに授けたのだ。
クリスティナとフレディが結婚したあとも、魔女は陰から二人を長い間見守り続けて、密かに優しく微笑んでいた。
「けけけけけ――」
これは魔女以外、誰にも知られていない逸話である――。
fin
クリスティナはフレディが苦労していることを知っていて、ダグラスの言いなりになって何も手を差し伸べなかったことに、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「フレディ……本当にごめんなさい。力になってあげられなくて」
「そんなこと謝る必要なんてないさ。僕達は友達だろ?」
荒む心が救われる言葉だった。
にこやかに笑うフレディは、クリスティナやダグラスの事をまだ友達と思ってくれていたのだった――。
しかし、ダグラスの屋敷に着いた二人は目を疑う光景を目撃してしまう。
「さ……足元に気を付けてくれ、ライラ」
なんと、ダグラスが見たこともない女性を屋敷へ連れ込もうとしているではないか。すかさずクリスティナが詰め寄り「そのお方は誰ですの?」と冷静に尋ねると。
「ク、クリスティナ!? 死んでなかったのか!? ち、違うんだ、この人はただの友人で――」
慌てふためくダグラスの隣にいたライラが口を尖らせる。
「え~ダグラス様、話が違うじゃない。『クリスティナはもうとっくに死んでるから私と結婚してくれ』って言ったのは貴方様でしょ?」
「いや待ってくれ、こんなことになる――」
ダグラスの言葉を遮るようにフレディが「ふざけるな!!」と怒りを露わにして思い切り殴りつけた。ダグラスは土砂崩れにあったクリスティナを早々に見切り、浮気相手のライラと結婚することを選んでいたのだ。
「クリスティナがどんな気持ちでここに戻ってきたと思ってるんだ!! 君の彼女への想いはそんな程度じゃなかったはずだ!!」
口から“ぺッ”と血を吐き捨てたダグラスが睨み返す。
「……貴様、この私に向かって何たる無礼!! この場で殺してくれるわ……おい!!」
屋敷からゾロゾロと現れた護衛兵達がフレディを取り囲む。クリスティナが「おやめ下さいダグラス様!!」と制止するも、顔を真っ赤に染めたダグラスの勢いは止まらない。
「うるさいぞクリスティナ!! こうなればもはやお前にも用はない……二人とも首を切り落としてしまえ!!」
無慈悲な号令でクリスティナも護衛兵に捕まり、二人は正座するように押さえつけられた。
「く……」
そして、フレディの真上から鋭い剣が振り下ろされそうになった、その時。
クリスティナ達の目の前に、箒に跨った魔女が忽然と舞い降りてきた。
「けけけけけ……何やら楽しそうなことをしているな、人間どもよ」
漆黒のローブに身を包む魔女の登場に、驚きを隠せないダグラス。
「な、なぜ忌々しい魔女がこんなところに……そ、即刻ひっ捕えろ!!」
護衛兵達が「はっ!」と魔女へ向かって一斉に剣を振りかざしたが。
「そうはさせないよ」
魔女が杖を掲げた途端、護衛兵達が全員「う……」と固まり、金縛りの如く身動きが取れなくなる。
「クリスティナ、賭けは私の勝ちだ。約束通りこの男は貰っていくよ……あ、オマケにそこの女もね」
ニヤリとそう告げた魔女はダグラスとライラに向けて手をかざし、二人の身体を宙に浮かせた。
「な、何だ!?」
「きゃー!!」
空中で無駄にジタバタと暴れる二人をよそに、魔女は冷徹な視線を周囲に向けた。
「いいかいお前達……今後クリスティナとフレディの二人に危害を加えることは私が許さないよ、けけけけけ」
背筋に悪寒が走る不気味な笑い声を残した魔女が、悲鳴を上げるダグラスとライラを連れて、颯爽と星も見えない夜空の彼方へ消えていく。
終始呆気に取られていたクリスティナとフレディは呆然としていた――。
あれから二年が経過した頃。
そこには、土砂崩れによって命を落とした者達を弔う墓の前で、黙祷を捧げるクリスティナとフレディの姿があった。
クリスティナは親の反対を何とか説得してフレディと結婚し、さらに一人の子供を出産していた。
決して裕福な生活とは言えないものの、生涯を通してクリスティナの笑顔は絶えず、彼女はフレディや子供と共に末長く幸せに暮らしたそうな――。
さて。
一方で漆黒の魔女の正体は一体何者だったのか。
魔女は二百年も前の昔、永遠の愛を誓ってくれた“婚約者から裏切られた”王家出身の美しい娘だった。
当時から強い魔力を持っていた彼女は絶望感から荒れ狂い、人を信じることが出来ない魔女に変貌してしまう。
しかし、偶然出会ったクリスティナに若き頃の自分を重ね合わせた魔女は、彼女が幸せになることを心から望んだ。
そして。
目の前に『一生愛してくれる者』が現れたら、老婆の姿を解除する。
という仕掛けを施した指輪をクリスティナに授けたのだ。
クリスティナとフレディが結婚したあとも、魔女は陰から二人を長い間見守り続けて、密かに優しく微笑んでいた。
「けけけけけ――」
これは魔女以外、誰にも知られていない逸話である――。
fin
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる