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私を『一生愛し続ける』とおっしゃいましたよね?
第二話
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ふと目を覚ましたクリスティナは、見知らぬ部屋にいることに気付く。
それだけでなく全身の服を脱がされ、手脚も縄で縛られた状態で横になっている。
「おや……もう起きちまったのかい?」
声のする方を見遣ると、漆黒のローブを着た老婆が壺を火にかけて何やらかき混ぜている。クリスティナは即座にその人物が“魔女だ“と察した。
「あと少しでお前の身体を溶かす“薬“が出来上がるから、大人しくしてな」
背を向けて身の毛もよだつ言葉を放った魔女に、クリスティナは怯えながらも必死に声をかけた。
「お願いします……! 私は明日、結婚式を挙げる予定なのです。ですから、この命だけはどうかお助け下さい……!」
魔女が肩越しにこちらへ振り向く。
「ほう、結婚式とはこれまた幸せそうな話じゃないか。そんなに婚約者の元へ嫁ぎたいのかい?」
「はい……ダグラス様は私に『一生愛し続ける』と約束して下さいました」
すると、魔女は「けけけけけ」と高笑いして壺から離れ、横たわるクリスティナの脇にしゃがみ込んだ。
「現実というものが分かっていないな小娘。男は歳を取るごとに“貫禄”というものがつくが、女は逆に色んなものを失っていくんだ。そんな女を“一生愛せる男”なんて、この世にいやしないのさ」
「そんなことは決してございません! 私はダグラス様を心から信じております!」
「ならば私と賭けをしようじゃないか。本当にそのダグラスという男が、お前を“一生愛し続けることが出来るのか”をね」
「もし……もし私が負けたら……?」
「その時はお前ではなくダグラスの命を頂く。最愛の男を失い、絶望に平伏するお前の顔を拝みたいからねぇ……けけけけけ――」
縄を解かれたクリスティナは魔女から衣服を渡され、それに着替えた。
「この指輪をはめな。勝負の行く末を左右する大事なものだ」
そう指示されたクリスティナは、何の変哲もない鉄製の指輪を右手の小指にはめ、魔女から貰った地図を頼りに都へ歩き始めた――。
やっとの思いで何とか都の城壁まで辿り着いたクリスティナ。門番から通行証を求められたので、それを懐から出して提示すると。
「――ん、通ってよし。しかしまぁ、そんなヨボヨボな体でよくここまで歩いて来れたな。見かけによらず元気な“婆さん”だ」
突飛な言葉に「……え?」と疑問を抱いたクリスティナが、門番の鎧に映る自分の顔を確認してみる。
すると、いつの間にか自分の姿が“老婆”に様変わりしているではないか。
「……そ、そんな……!? ……どうして!?」
「おいおい、頭ボケてんのか? いいからとっとと行けよ、邪魔だし」
邪険にされたクリスティナが訳もわからず門を通過して都へ入ると、周囲を歩く民衆から冷ややかな視線が刺さってきた。
「何あれ? 汚な」
「あんな婆さんいたっけ?」
コソコソと聞こえてくる民衆の声に耐えれなくなったクリスティナは、急いでダグラスの屋敷へと向かった――。
それだけでなく全身の服を脱がされ、手脚も縄で縛られた状態で横になっている。
「おや……もう起きちまったのかい?」
声のする方を見遣ると、漆黒のローブを着た老婆が壺を火にかけて何やらかき混ぜている。クリスティナは即座にその人物が“魔女だ“と察した。
「あと少しでお前の身体を溶かす“薬“が出来上がるから、大人しくしてな」
背を向けて身の毛もよだつ言葉を放った魔女に、クリスティナは怯えながらも必死に声をかけた。
「お願いします……! 私は明日、結婚式を挙げる予定なのです。ですから、この命だけはどうかお助け下さい……!」
魔女が肩越しにこちらへ振り向く。
「ほう、結婚式とはこれまた幸せそうな話じゃないか。そんなに婚約者の元へ嫁ぎたいのかい?」
「はい……ダグラス様は私に『一生愛し続ける』と約束して下さいました」
すると、魔女は「けけけけけ」と高笑いして壺から離れ、横たわるクリスティナの脇にしゃがみ込んだ。
「現実というものが分かっていないな小娘。男は歳を取るごとに“貫禄”というものがつくが、女は逆に色んなものを失っていくんだ。そんな女を“一生愛せる男”なんて、この世にいやしないのさ」
「そんなことは決してございません! 私はダグラス様を心から信じております!」
「ならば私と賭けをしようじゃないか。本当にそのダグラスという男が、お前を“一生愛し続けることが出来るのか”をね」
「もし……もし私が負けたら……?」
「その時はお前ではなくダグラスの命を頂く。最愛の男を失い、絶望に平伏するお前の顔を拝みたいからねぇ……けけけけけ――」
縄を解かれたクリスティナは魔女から衣服を渡され、それに着替えた。
「この指輪をはめな。勝負の行く末を左右する大事なものだ」
そう指示されたクリスティナは、何の変哲もない鉄製の指輪を右手の小指にはめ、魔女から貰った地図を頼りに都へ歩き始めた――。
やっとの思いで何とか都の城壁まで辿り着いたクリスティナ。門番から通行証を求められたので、それを懐から出して提示すると。
「――ん、通ってよし。しかしまぁ、そんなヨボヨボな体でよくここまで歩いて来れたな。見かけによらず元気な“婆さん”だ」
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「……そ、そんな……!? ……どうして!?」
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「何あれ? 汚な」
「あんな婆さんいたっけ?」
コソコソと聞こえてくる民衆の声に耐えれなくなったクリスティナは、急いでダグラスの屋敷へと向かった――。
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