上 下
8 / 15
私を『一生愛し続ける』とおっしゃいましたよね?

第二話

しおりを挟む
 ふと目を覚ましたクリスティナは、見知らぬ部屋にいることに気付く。

 それだけでなく全身の服を脱がされ、手脚も縄で縛られた状態で横になっている。

「おや……もう起きちまったのかい?」

 声のする方を見遣ると、漆黒のローブを着た老婆が壺を火にかけて何やらかき混ぜている。クリスティナは即座にその人物が“魔女だ“と察した。

「あと少しでお前の身体を溶かす“薬“が出来上がるから、大人しくしてな」

 背を向けて身の毛もよだつ言葉を放った魔女に、クリスティナは怯えながらも必死に声をかけた。

「お願いします……! 私は明日、結婚式を挙げる予定なのです。ですから、この命だけはどうかお助け下さい……!」

 魔女が肩越しにこちらへ振り向く。

「ほう、結婚式とはこれまた幸せそうな話じゃないか。そんなに婚約者の元へ嫁ぎたいのかい?」

「はい……ダグラス様は私に『一生愛し続ける』と約束して下さいました」

 すると、魔女は「けけけけけ」と高笑いして壺から離れ、横たわるクリスティナの脇にしゃがみ込んだ。

「現実というものが分かっていないな小娘。男は歳を取るごとに“貫禄”というものがつくが、女は逆に色んなものを失っていくんだ。そんな女を“一生愛せる男”なんて、この世にいやしないのさ」

「そんなことは決してございません! 私はダグラス様を心から信じております!」

「ならば私と賭けをしようじゃないか。本当にそのダグラスという男が、お前を“一生愛し続けることが出来るのか”をね」

「もし……もし私が負けたら……?」

「その時はお前ではなくダグラスの命を頂く。最愛の男を失い、絶望に平伏するお前の顔を拝みたいからねぇ……けけけけけ――」

 縄を解かれたクリスティナは魔女から衣服を渡され、それに着替えた。

「この指輪をはめな。勝負の行く末を左右する大事なものだ」

 そう指示されたクリスティナは、何の変哲もない鉄製の指輪を右手の小指にはめ、魔女から貰った地図を頼りに都へ歩き始めた――。

 やっとの思いで何とか都の城壁まで辿り着いたクリスティナ。門番から通行証を求められたので、それを懐から出して提示すると。

「――ん、通ってよし。しかしまぁ、そんなヨボヨボな体でよくここまで歩いて来れたな。見かけによらず元気な“婆さん”だ」

 突飛な言葉に「……え?」と疑問を抱いたクリスティナが、門番の鎧に映る自分の顔を確認してみる。

 すると、いつの間にか自分の姿が“老婆”に様変わりしているではないか。

「……そ、そんな……!? ……どうして!?」

「おいおい、頭ボケてんのか? いいからとっとと行けよ、邪魔だし」

 邪険にされたクリスティナが訳もわからず門を通過して都へ入ると、周囲を歩く民衆から冷ややかな視線が刺さってきた。

「何あれ? 汚な」
「あんな婆さんいたっけ?」

 コソコソと聞こえてくる民衆の声に耐えれなくなったクリスティナは、急いでダグラスの屋敷へと向かった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

50歳前の離婚

家紋武範
恋愛
 子なしの夫婦。夫は妻から離婚を切り出された。  子供が出来なかったのは妻に原因があった。彼女はそれを悔いていた。夫の遺伝子を残したいと常に思っていたのだ。  だから別れる。自分以外と結婚して欲しいと願って。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

処理中です...