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第六話
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さて。
そこまでローランドを溺愛するカミーユが、彼の嘘が発覚したことによって、結婚指輪を外すほど心情が陥るものなのか。
これは彼女が“嘘に対して過敏になる価値観”を持っていたことが原因であり、それを形成したのには『大きな理由』があった――。
精霊界の上には神の領域である『天界』があり、そこの宮殿には二柱の夫婦が住んでいた。
『全知全能の神ユピシオン』と『大地の女神テラディア』である。
世界を創造したユピシオンは、カミーユに負けず劣らず容姿端麗なテラディアを妻に迎えていた。
そして、大地の女神とは“全ての生物の根源”たる存在である。
人間界で『子供は神様からの授かりもの』という言い伝えがある所以は、テラディアに“全生物を妊娠させる決定権”が委ねられているからだった。
そんな彼女は、泉の精霊である可憐なカミーユを我が子のようにとても可愛がっていた。カミーユ自身も彼女には全身全霊を持って慕っており、それこそ母のように信頼していた――。
一方、テラディアの夫であるユピシオンは勇敢かつ豪快な男の割に、中性的で恐ろしく端正な顔立ちをした神である。
まだ人間が言葉を扱えなかった頃の時代。
何やら神々が集まって『人間に言葉を与えるかどうか』という議論をしていたところ、突然ユピシオンが現れて「そんなもの、さっさと与えてやれば良かろう」と不躾に言い放った。
しかし。
「そんなことしたら、凶暴な人間なんかすぐに戦争を起こして、たちまち絶滅してしまうぞ!!」
「そうだそうだ! 他の生物達にも必ず悪影響を及ぼすはずだ!」
「綺麗な自然界が人間達に破壊し尽くされてしまう!!」
多くの神々が人間に言葉を与えることに懸念して反対する最中――ユピシオンは騒ぎ立てる彼等を、威圧的な「黙れ」の一言で一蹴した。
「奴等の性根はそこまで捨てたものではない。お前らは知らぬだろうが、人間界には“他を思い遣る粋な気持ち”を持つ者も沢山おるのだ――」
こうして言葉を覚えた人間達は、後に他の生物を置き去りにして大きな繁栄を築くこととなる――。
そんなユピシオンに見初められたテラディアは、彼の妻としてとても幸せな時を過ごしていた。
「はい、あ~ん!」
「ん……美味いな。さすが私の妻が作った手料理だ」
「うふふ――」
ところが――その幸福は長く続かなかった。
何とあの全知全能の神であるユピシオンは、これがまた“とんでもないほどの浮気性”だったのだ。
テラディアが全力を駆使して、不穏な行動を繰り返していた夫を調べ上げた結果。
浮気回数12回、浮気未遂26回、隠し子19人。
驚異的な数字を平然と叩き出したユピシオンには、大地の女神として寛大な心を持つテラディアでさえも激怒した。
「こんなこと前代未聞の狼藉よ!! 私のことメチャクチャ舐めてない!? 貴方今までどの面下げて私が作った料理食べてたワケ!?」
「そんなこと言ったって仕方なかろう。お前以外にも私に『抱かれたい』という女神や精霊がたくさん寄って来てしまうのは事実だし、私の子供達はみんな世界を管理する上で必要な存在になるワケだし」
神同士の交配によって産まれる子は一人目が神となり、以降は精霊として生を受ける。さらに、精霊が人間と交配すれば『聖女』が産まれるという仕組みがこの世界の“理”としてある。
神や精霊達が人間の眼前に現れることなど滅多にないにしろ、彼等は世界の様々な分野を分担して見守る役目を持っていた。
そんな神々の中でもずば抜けて優秀であるユピシオンの子種は、世界中の女神達からしても喉から手が出るほど欲しいもの。
そして、テラディアは下界に住む生物の妊娠には決定権を持っていても、その力は神の領域までは及ばない。
とは言っても、テラディアからすればフラフラと女遊びをする夫の行動は至極遺憾でしかなく、プロポーズの際に“もの凄いキメ顔”で『私の心はお前だけのものだ』と告白したのはどこへやらである。
「何それっぽい言い訳抜かしてんのよ!! そんなの通用するワケないでしょ!? 全知全能が聞いて呆れるわ!! ――」
その後どれだけ注意しても聞かず懲りず、ユピシオンはあの手この手で妻を騙しながら、なりふり構わずの浮気三昧の日々を送る。
時には、浮気相手とお互い“蚊に変身して交尾する”という何とも呆れる荒技までやってのけたという――。
そんなある日。
様々な花に埋め尽くされる宮殿の中庭では、ユピシオンの噂を聞きつけたカミーユが、心配そうな顔をしながら彼女の隣に寄り添っていた。
「テ、テラディア様……お気を確かに」
「ありがとう、全然大丈夫よ」
と言いつつも死んだ魚のような目をして意気消沈するテラディアだったが、これまで浮気を繰り返すユピシオンに対してただ黙っていた訳ではない。
雷神に頼んで夫に“裁きの雷”を落としてみたり、蛇神から大量の猛毒を借りて料理に仕込んでみたり、一時は宮殿の寝室で夫が寝ている隙を突いてアレを切り落とそうと試みたこともあった。
しかし、すこぶる逃げ足の早いユピシオンに、全ての報復はことごとく回避されてしまっていたのだ。
「カミーユ、よく聞いて頂戴。あの『超絶ナルシストポンコツ馬鹿』を側から見てもう分かったでしょ? “嘘を吐く男”だけは絶対ダメよ。私なんか一瞬にして神生をペロッと喰われてしまったわ」
「えっと……あ、はい――」
こうして、死神すら恐れをなして逃げ出すほどの形相を浮かべるテラディアは、恋愛経験が皆無なカミーユに“強烈な教訓”を授けたのであった――。
そこまでローランドを溺愛するカミーユが、彼の嘘が発覚したことによって、結婚指輪を外すほど心情が陥るものなのか。
これは彼女が“嘘に対して過敏になる価値観”を持っていたことが原因であり、それを形成したのには『大きな理由』があった――。
精霊界の上には神の領域である『天界』があり、そこの宮殿には二柱の夫婦が住んでいた。
『全知全能の神ユピシオン』と『大地の女神テラディア』である。
世界を創造したユピシオンは、カミーユに負けず劣らず容姿端麗なテラディアを妻に迎えていた。
そして、大地の女神とは“全ての生物の根源”たる存在である。
人間界で『子供は神様からの授かりもの』という言い伝えがある所以は、テラディアに“全生物を妊娠させる決定権”が委ねられているからだった。
そんな彼女は、泉の精霊である可憐なカミーユを我が子のようにとても可愛がっていた。カミーユ自身も彼女には全身全霊を持って慕っており、それこそ母のように信頼していた――。
一方、テラディアの夫であるユピシオンは勇敢かつ豪快な男の割に、中性的で恐ろしく端正な顔立ちをした神である。
まだ人間が言葉を扱えなかった頃の時代。
何やら神々が集まって『人間に言葉を与えるかどうか』という議論をしていたところ、突然ユピシオンが現れて「そんなもの、さっさと与えてやれば良かろう」と不躾に言い放った。
しかし。
「そんなことしたら、凶暴な人間なんかすぐに戦争を起こして、たちまち絶滅してしまうぞ!!」
「そうだそうだ! 他の生物達にも必ず悪影響を及ぼすはずだ!」
「綺麗な自然界が人間達に破壊し尽くされてしまう!!」
多くの神々が人間に言葉を与えることに懸念して反対する最中――ユピシオンは騒ぎ立てる彼等を、威圧的な「黙れ」の一言で一蹴した。
「奴等の性根はそこまで捨てたものではない。お前らは知らぬだろうが、人間界には“他を思い遣る粋な気持ち”を持つ者も沢山おるのだ――」
こうして言葉を覚えた人間達は、後に他の生物を置き去りにして大きな繁栄を築くこととなる――。
そんなユピシオンに見初められたテラディアは、彼の妻としてとても幸せな時を過ごしていた。
「はい、あ~ん!」
「ん……美味いな。さすが私の妻が作った手料理だ」
「うふふ――」
ところが――その幸福は長く続かなかった。
何とあの全知全能の神であるユピシオンは、これがまた“とんでもないほどの浮気性”だったのだ。
テラディアが全力を駆使して、不穏な行動を繰り返していた夫を調べ上げた結果。
浮気回数12回、浮気未遂26回、隠し子19人。
驚異的な数字を平然と叩き出したユピシオンには、大地の女神として寛大な心を持つテラディアでさえも激怒した。
「こんなこと前代未聞の狼藉よ!! 私のことメチャクチャ舐めてない!? 貴方今までどの面下げて私が作った料理食べてたワケ!?」
「そんなこと言ったって仕方なかろう。お前以外にも私に『抱かれたい』という女神や精霊がたくさん寄って来てしまうのは事実だし、私の子供達はみんな世界を管理する上で必要な存在になるワケだし」
神同士の交配によって産まれる子は一人目が神となり、以降は精霊として生を受ける。さらに、精霊が人間と交配すれば『聖女』が産まれるという仕組みがこの世界の“理”としてある。
神や精霊達が人間の眼前に現れることなど滅多にないにしろ、彼等は世界の様々な分野を分担して見守る役目を持っていた。
そんな神々の中でもずば抜けて優秀であるユピシオンの子種は、世界中の女神達からしても喉から手が出るほど欲しいもの。
そして、テラディアは下界に住む生物の妊娠には決定権を持っていても、その力は神の領域までは及ばない。
とは言っても、テラディアからすればフラフラと女遊びをする夫の行動は至極遺憾でしかなく、プロポーズの際に“もの凄いキメ顔”で『私の心はお前だけのものだ』と告白したのはどこへやらである。
「何それっぽい言い訳抜かしてんのよ!! そんなの通用するワケないでしょ!? 全知全能が聞いて呆れるわ!! ――」
その後どれだけ注意しても聞かず懲りず、ユピシオンはあの手この手で妻を騙しながら、なりふり構わずの浮気三昧の日々を送る。
時には、浮気相手とお互い“蚊に変身して交尾する”という何とも呆れる荒技までやってのけたという――。
そんなある日。
様々な花に埋め尽くされる宮殿の中庭では、ユピシオンの噂を聞きつけたカミーユが、心配そうな顔をしながら彼女の隣に寄り添っていた。
「テ、テラディア様……お気を確かに」
「ありがとう、全然大丈夫よ」
と言いつつも死んだ魚のような目をして意気消沈するテラディアだったが、これまで浮気を繰り返すユピシオンに対してただ黙っていた訳ではない。
雷神に頼んで夫に“裁きの雷”を落としてみたり、蛇神から大量の猛毒を借りて料理に仕込んでみたり、一時は宮殿の寝室で夫が寝ている隙を突いてアレを切り落とそうと試みたこともあった。
しかし、すこぶる逃げ足の早いユピシオンに、全ての報復はことごとく回避されてしまっていたのだ。
「カミーユ、よく聞いて頂戴。あの『超絶ナルシストポンコツ馬鹿』を側から見てもう分かったでしょ? “嘘を吐く男”だけは絶対ダメよ。私なんか一瞬にして神生をペロッと喰われてしまったわ」
「えっと……あ、はい――」
こうして、死神すら恐れをなして逃げ出すほどの形相を浮かべるテラディアは、恋愛経験が皆無なカミーユに“強烈な教訓”を授けたのであった――。
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