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第三話
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最寄りの村で土地を購入したローランドは、カミーユと共にそれを耕して種や苗を植えた。
初めてカミーユを目にした村人達はその美しさに騒めき、彼女の噂はたちどころに広まっていったそうな。
ローランドが森で猟をしている間は、カミーユが畑の面倒を見ていた。
「野菜のことでわからないことがあったら、何でも聞いてくれ!!」
「体大変だろ!? 手伝うよ!!」
「ノド渇かない!? 水持ってこようか!?」
「とりあえず何でもいいから隣にいさせてくれ!!」
「あ……ありがとうございます」
村の男達は自分の畑などそっちのけで、カミーユの側に付きっきり。そんな下心丸出しな男達の親切な指導の甲斐あってか、畑の野菜はスクスクと健康に育っていった。
「あんた、何時だと思ってんの!? また朝っぱらからカミーユちゃんの畑に油売り行ってたんでしょ!?」
「……ち、違うわ!! 少しだけ雑草抜いてやちょっただけだわ!!」
畑仕事は、予想していたより大変な作業も多かった。
川から水を汲んで巻いたり雑草を刈ったりと、屈んだ厳しい姿勢での肉体労働をかなり強いられる。
それでもカミーユは陽が沈む前に自宅へ戻り、ローランドの帰りを心待ちにしながら家事もそつなくこなしていた。
そんな嫁の頑張りに応えるように、ローランドは収穫にあり付けなくても、遅くまで猟に精を出す日々が続いていたという――。
「カミーユ……愛してる」
その魅惑的で妖艶な体は、毎晩のようにローランドから求められた。しかし、カミーユは日中の畑仕事でどれだけ疲弊していても、嫌な顔一つせずに付き合っていた。
ところがどれほど体を重ね合わせても、何故か二人の間には中々子供が出来なかった――。
「かみーゆ! おだんごあげるー!」
「えー、ありがとう! パクパク……あら、おいしー! ――」
小さな女の子から泥団子を受け取ったカミーユが、しゃがみ込んで遊び相手をしている。
う~……可愛いなぁ。
村で走り回る子供達からも慕われていたカミーユは、その純粋さが溢れる可愛さに触れてきた所為か、愛するローランドの子供が欲しくて堪らなくなっていた――。
満月が丸々と輝いて浮かぶ深夜。
営みを終えて果てるように眠るローランドの隣で、カミーユが寂しそうに月を見上げている。
子供は『神様からの授かりものだ』って村の人達は口を揃えて言うけれど、ここまで子供が出来ないのは……きっと私に何か“原因”があるに違いないわ。
『全然子供が出来ないけど、何でだろう』と、カミーユの口から相談など持ちかけられなかった。お互いどっちに原因があるかなんて不毛な言及を避けたかったからだ。
ローランドさんも、子供は絶対欲しいはずなのに……。
妊娠できない理由を自分の責任だと感じていた彼女は、一人静かに枕を濡らす日も少なくなかった――。
そんなある日。
燦々と眩しい太陽の光が作物の葉を照らす、お昼前のこと。カミーユは頬に泥をつけながら、頃合いの野菜を収穫をしていた最中だった。
するとそこへ、村の入り口に見慣れない豪華な馬車が停まったのが見えた。
この地方の領主である、ウェスタン卿である。
夫婦で馬車から降りた二人の貴族が、地方巡礼で村にやって来たのだ。
ところが――カミーユは信じられない光景を目の当たりにしてしまう。
ウェスタン卿の妻が“泉で紛失した衣装”をこれ見よがしと身に纏っているではないか。
立ち上がると同時に、思わず手に持っていた野菜をポトリと落としたカミーユが妻に走り寄り「この衣装はどこで手に入れたのですか!?」と、血相を変えて尋ねてみる。
「な、何よ……小汚い女ね。気安く近寄らないで頂戴!」
妻は意地悪くカミーユに噛みついてきたが、隣にいたウェスタン卿は即座に彼女の洗練された美しさに目を奪われた。
「き、君は、この村の住人なのかね?」
「あ、いえ……山の麓に住むカミーユと申す者で御座います。突然取り乱すような真似をして、大変申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げると、ウェスタン卿は「構わんよ」とカミーユに顔を上げるよう促した。
「妻の衣装は隣町の質屋から売ってもらったんだ。確かその質屋は……『猟師のローランドから買い取った』と言っていた気がしたが」
「……え?」
刹那――カミーユの頭の中は真っ白になってしまった。
不意に固まった彼女を心配したウェスタン卿が、どこか興味深々気味に顔を覗き込ませる。
「どうかしたのかな?」
「あ、いえ……実は、元々その衣装は私が着ていた大事なものでして、誰かに盗まれてしまったのです」
「ほう……つまり、ローランドという者に盗まれてしまった訳か」
「あの、大変恐縮で申し上げづらいのですが……出来ればその衣装をお返しして頂けないでしょうか?」
恐る恐るカミーユが願いを告げると、黙って話を聞いていた妻が横槍を入れてきた。
「ちょっと、服の管理もロクに出来ない癖に今更何言ってるのよ! これはもう私のものだし、貴女なんかがこの衣装を着こなせるはずないでしょ!? そもそも、この衣装が貴女の物だなんて言う証拠なんて――」
声を荒げる妻に、ウェスタン卿が肩をすくめつつ手を挙げて制止する。
「お前ちょっとうるさいな。カミーユはこうして困っているんだ。新しい服なんざ後で幾らでも買ってやるから、その衣装を今すぐ彼女に返してやりなさい」
威厳のある彼の言葉にたじろいだ妻は、「貴方……」と一歩退きながらも、渋々とした面持ちで頷いた――。
村人の家を借りた妻が別の服に着替え、衣装を無事に返してもらったカミーユに突如――雷が落ちるような衝撃が迸った。
何と――記憶が全て蘇ってきたのだ。
自分が何者なのか。
何故あの泉で水浴びをしていたのか。
それだけではなく――あの時、ローランドが衣装を盗んでいた情景まで頭に思い浮かんできてしまったのだ。
そんな……あの人はずっと私を騙していたの?
余りのショックに愕然とするカミーユを、ウェスタン卿が憂う目をして見つめている。
「おい、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
やけに夫がカミーユへ優しく接する様子に嫌気が差した妻は「どうせ生理かなんかでしょ! もう行きましょ!!」とウェスタン卿の腕を引っ張って、足早に馬車へ乗り込んでしまった――。
初めてカミーユを目にした村人達はその美しさに騒めき、彼女の噂はたちどころに広まっていったそうな。
ローランドが森で猟をしている間は、カミーユが畑の面倒を見ていた。
「野菜のことでわからないことがあったら、何でも聞いてくれ!!」
「体大変だろ!? 手伝うよ!!」
「ノド渇かない!? 水持ってこようか!?」
「とりあえず何でもいいから隣にいさせてくれ!!」
「あ……ありがとうございます」
村の男達は自分の畑などそっちのけで、カミーユの側に付きっきり。そんな下心丸出しな男達の親切な指導の甲斐あってか、畑の野菜はスクスクと健康に育っていった。
「あんた、何時だと思ってんの!? また朝っぱらからカミーユちゃんの畑に油売り行ってたんでしょ!?」
「……ち、違うわ!! 少しだけ雑草抜いてやちょっただけだわ!!」
畑仕事は、予想していたより大変な作業も多かった。
川から水を汲んで巻いたり雑草を刈ったりと、屈んだ厳しい姿勢での肉体労働をかなり強いられる。
それでもカミーユは陽が沈む前に自宅へ戻り、ローランドの帰りを心待ちにしながら家事もそつなくこなしていた。
そんな嫁の頑張りに応えるように、ローランドは収穫にあり付けなくても、遅くまで猟に精を出す日々が続いていたという――。
「カミーユ……愛してる」
その魅惑的で妖艶な体は、毎晩のようにローランドから求められた。しかし、カミーユは日中の畑仕事でどれだけ疲弊していても、嫌な顔一つせずに付き合っていた。
ところがどれほど体を重ね合わせても、何故か二人の間には中々子供が出来なかった――。
「かみーゆ! おだんごあげるー!」
「えー、ありがとう! パクパク……あら、おいしー! ――」
小さな女の子から泥団子を受け取ったカミーユが、しゃがみ込んで遊び相手をしている。
う~……可愛いなぁ。
村で走り回る子供達からも慕われていたカミーユは、その純粋さが溢れる可愛さに触れてきた所為か、愛するローランドの子供が欲しくて堪らなくなっていた――。
満月が丸々と輝いて浮かぶ深夜。
営みを終えて果てるように眠るローランドの隣で、カミーユが寂しそうに月を見上げている。
子供は『神様からの授かりものだ』って村の人達は口を揃えて言うけれど、ここまで子供が出来ないのは……きっと私に何か“原因”があるに違いないわ。
『全然子供が出来ないけど、何でだろう』と、カミーユの口から相談など持ちかけられなかった。お互いどっちに原因があるかなんて不毛な言及を避けたかったからだ。
ローランドさんも、子供は絶対欲しいはずなのに……。
妊娠できない理由を自分の責任だと感じていた彼女は、一人静かに枕を濡らす日も少なくなかった――。
そんなある日。
燦々と眩しい太陽の光が作物の葉を照らす、お昼前のこと。カミーユは頬に泥をつけながら、頃合いの野菜を収穫をしていた最中だった。
するとそこへ、村の入り口に見慣れない豪華な馬車が停まったのが見えた。
この地方の領主である、ウェスタン卿である。
夫婦で馬車から降りた二人の貴族が、地方巡礼で村にやって来たのだ。
ところが――カミーユは信じられない光景を目の当たりにしてしまう。
ウェスタン卿の妻が“泉で紛失した衣装”をこれ見よがしと身に纏っているではないか。
立ち上がると同時に、思わず手に持っていた野菜をポトリと落としたカミーユが妻に走り寄り「この衣装はどこで手に入れたのですか!?」と、血相を変えて尋ねてみる。
「な、何よ……小汚い女ね。気安く近寄らないで頂戴!」
妻は意地悪くカミーユに噛みついてきたが、隣にいたウェスタン卿は即座に彼女の洗練された美しさに目を奪われた。
「き、君は、この村の住人なのかね?」
「あ、いえ……山の麓に住むカミーユと申す者で御座います。突然取り乱すような真似をして、大変申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げると、ウェスタン卿は「構わんよ」とカミーユに顔を上げるよう促した。
「妻の衣装は隣町の質屋から売ってもらったんだ。確かその質屋は……『猟師のローランドから買い取った』と言っていた気がしたが」
「……え?」
刹那――カミーユの頭の中は真っ白になってしまった。
不意に固まった彼女を心配したウェスタン卿が、どこか興味深々気味に顔を覗き込ませる。
「どうかしたのかな?」
「あ、いえ……実は、元々その衣装は私が着ていた大事なものでして、誰かに盗まれてしまったのです」
「ほう……つまり、ローランドという者に盗まれてしまった訳か」
「あの、大変恐縮で申し上げづらいのですが……出来ればその衣装をお返しして頂けないでしょうか?」
恐る恐るカミーユが願いを告げると、黙って話を聞いていた妻が横槍を入れてきた。
「ちょっと、服の管理もロクに出来ない癖に今更何言ってるのよ! これはもう私のものだし、貴女なんかがこの衣装を着こなせるはずないでしょ!? そもそも、この衣装が貴女の物だなんて言う証拠なんて――」
声を荒げる妻に、ウェスタン卿が肩をすくめつつ手を挙げて制止する。
「お前ちょっとうるさいな。カミーユはこうして困っているんだ。新しい服なんざ後で幾らでも買ってやるから、その衣装を今すぐ彼女に返してやりなさい」
威厳のある彼の言葉にたじろいだ妻は、「貴方……」と一歩退きながらも、渋々とした面持ちで頷いた――。
村人の家を借りた妻が別の服に着替え、衣装を無事に返してもらったカミーユに突如――雷が落ちるような衝撃が迸った。
何と――記憶が全て蘇ってきたのだ。
自分が何者なのか。
何故あの泉で水浴びをしていたのか。
それだけではなく――あの時、ローランドが衣装を盗んでいた情景まで頭に思い浮かんできてしまったのだ。
そんな……あの人はずっと私を騙していたの?
余りのショックに愕然とするカミーユを、ウェスタン卿が憂う目をして見つめている。
「おい、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
やけに夫がカミーユへ優しく接する様子に嫌気が差した妻は「どうせ生理かなんかでしょ! もう行きましょ!!」とウェスタン卿の腕を引っ張って、足早に馬車へ乗り込んでしまった――。
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