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第5幕 霊界武闘大会編
~~エピローグ~~ 絶望の世界と蘇る希望
しおりを挟む「ナルキよ、ササツキよ・・・よくやった。霊界十二人衆筆頭曹兵衛殿・・・この翁、首をなが~~~くして、待っておりましたぞっ!」
特別に用意されたアリーナ席からぬらりひょんが曹兵衛達にそう話す。
「・・・・・・。」
リングがある広場にいる曹兵衛達は突然の出来事に完全に思考が追いつかずに、誰も何も言葉を発せずにいる。
〔バキンッ!・・・ドカアアアンッ!〕
「ぐはっ?!」
そこにいる全員がぬらりひょんに注目し、次の言葉を待っていたその時だった。ササツキが突然殴り飛ばされて、またもや壁に叩きつけられる。
「なんやっ、場所が変わったからって、やることはかわらんやろっ!なにボサッとしとんじゃっ!」
賢太は曹兵衛達の方を見て、そう大声で発破をかける。
「・・・・・・そっ、そうです。ここがどこだろうと、私達のやる事は変わらないっ・・・みなさん、相手の方が多いのなら一箇所に固まりましょうっ・・・背中を守りあって、突破口を開けましょうっ!」
予想外の発破に一瞬呆然としていた曹兵衛だったが、ここがどうであれ、自分達がする事は決まりきっているのを賢太にハッキリと改められて、現状をしっかりと判断し、周囲の人間に的確に指示する。
〔ババババババッ!〕
曹兵衛の号令の元に、組織された霊界の猛者達は、一斉にヨルノ達妖怪から離れて、広場の一画に曹兵衛を中心に集まっていく。
「善朗君っ、乃華ちゃんっ、俺たちも行くよっ!」
「えっ、でも、賢太さんは?」
「俺の事はほっとけっ!はよういけやっ!」
秦右衛門が曹兵衛の指示の声を聞き、近くにいる善朗達を先導する。その中で、乃華がたった一人ササツキとにらみ合う賢太の心配をするが、賢太が一声で乃華の余計な心配を切り捨てる。
「待ちなさいっ!お前を逃がすわケッ。」
「つれないこといいなやっ・・・俺がいるやんけっ。」
「このっ。」
ササツキは善朗を執拗に追おうとするが、賢太はそれを手を広げて妨げる。
しかし、ササツキとタイマンの形に持ち込んだ賢太だったが、アリーナ席から賢太を見下ろす悪霊達はそんなことなど関係なかった
「げへへへっ、あいつ一人きりだぞ・・・みんなでいたぶれるぜっ。」
「ひゃっはっはっはっ。」
「ふひょひょひょひょっ。」
一人っきりとなり、孤立した賢太を格好の獲物だと、アリーナ席の悪霊や怨霊達が集まってくる。
それを察知したのか、霊界の面々で固まっていた場所から佐乃がたった一人で賢太の元へとかけつけてくる。
「賢太っ!」
佐乃はアリーナ席をけん制するように悪霊達を睨み付けながら賢太に近付いた。
「余計なお世話でっせ師匠・・・こんなん一人でも大丈夫やっ。」
背後に近付いてきた佐乃に対して、賢太はそう平然と構えた態度を取る。
「安心しなっ、あんたの喧嘩を邪魔させないように手伝いに来ただけさっ・・・思う存分、暴れてやりなっ。」
佐乃もまた弟子に負けない余裕を持った面持ちで、そう賢太に答える。
「師匠・・・はっ、師匠に言われんでも、キャンッ、いわしたりますわっ。」
賢太はそういうと気兼ねなく、ササツキだけをにらみつけて近付いていく。
悪霊達に取り囲まれた広場の片隅、方陣を張ったその内側。
「・・・・・・善朗君・・・大丈夫かい?」
乃華と一緒にいる善朗に曹兵衛がソッと近付いてそう尋ねる。
「・・・すいません。」
善朗は左手に力を入れたまま、曹兵衛の目を見れずにうつむきながらそう答えるだけだった。
「・・・そうか。」
曹兵衛は善朗のその答えに、諦めの笑顔を返して、静かに離れていく。それはこの窮地に追い詰められた自分達の状況を脱するための選択肢としての善朗に過度な期待を持たないと言う意味を示していた。
曹兵衛が善朗から離れた後、善朗の傍にずっと付き従っていた乃華が、ギュッと善朗の左手を掴む両手に力を入れる。
「善朗さんっ・・・私は最後まで貴方の傍にいますから・・・貴方が戦えないなら私が最後まで守りますっ・・・だから、貴方は貴方の思うままにしていいんですっ・・・冥さんを守りたいなら・・・私も最後まで冥さんを守る貴方の思いを守りますっ。」
乃華は善朗の左手をしっかりと両手で包み込み、善朗に涙混じりの微笑みを送る。
「・・・ッ!?・・・」
善朗は自分の中で葛藤する。
自分が闘って、乃華達を守りたいという思いと。
自分が闘わないことで、冥の魂を守りたいという思いと。
(さぁっ、俺の手を取れよ・・・女なんてどうでもいいだろ?)
棘のある善朗の声が、善朗の頭の中で響く。
(だめだよっ・・・冥ちゃんには何の罪も無い・・・冥ちゃんを守れるなら・・・仕方ない・・・全てを受け入れよう。)
柔らかい口調の善朗の声が、善朗の頭の中に響く。
「ぐぅ・・・ううぅ・・・。」
善朗は頭の中にいる二つの意志にもがき苦しむ。
そんな葛藤のうねりに善朗がもがく中、
(いいかげんにしなさいよっ!)
善朗の頭の中で聞き覚えのある少女の声が響き渡る。そして、
次の瞬間、
〔パンッ!〕
善朗の頭の中で、棘のある声をしている善朗の頬を思いっきり誰かがハタく音が響き渡る。
そこに立っていたのは、他でもない現世の病院のベッドでこん睡状態のはずの冥だった。しかし、善朗の頭の中に現れたその冥の姿は、いつもの元気な冥で威風堂々としている。
(冗談じゃないわっ・・・私を守るですってっ!見くびられてものねっ・・・私は善朗君に守られるほど、ヤワじゃないわよっ!)
棘のある声をした善朗をハタいた冥が仁王立ちで立ち胸を張り、堂々とそう叫ぶ。
(善朗君っ、ウジウジしたまま皆をっ、乃華さん達を守れなかったら、私が貴方を地獄に突き落としてあげるわっ・・・だから、貴方の持てる力全てを使ってでも、乃華さんを守りなさいっ。余計なお世話だわっ、私がそんなことで消えるわけないでしょっ!)
冥は仁王立ちしたまま、腕組みをして、胸をさらに大きく張り、そう善朗に向かって言い放ち、不敵に笑う。その冥の笑顔に引っ張られるように善朗の顔も自然と緩む。
「曹兵衛さん・・・乃華さんの事、お願いしますっ。」
「えっ?」
曹兵衛は突然善朗に声を掛けられて、善朗の方を振り向こうとする。が、その傍を一陣の風が駆け抜けた。その風は大悪霊断凱と対峙した、あの洞窟で吹いた風に似ていた。
〔シャキンッ!ヒュンッ・・・・・・ガキンッ!〕
「ナッ?!」
ヨルノは突然現れた白刃を反射的に自分の槍で危機一髪防ぐ。そして、その白刃を放った善朗の姿に驚愕した。
「・・・こっ・・・こいつっ?!」
ヨルノの隣にいたエンコウが突然現れた善朗の姿に目を丸くして驚く。
ヨルノを襲った善朗に最初に飛び掛ったのはポニーテールの男だった鳥の妖怪。
「シャアアアアッ!」
「赤刀 活火激刀」〔ゴバアアアアアアアアアッ〕
「ゲヒャアアアアアアアッ!」
善朗は素早く鳥の妖怪の鋭い足を使った攻撃を交わし、業火の一刀を振りぬく。鳥の妖怪は地獄の大火に包まれ、大いにもがき苦しみノタ打ち回る。
そして、返す刀で、近くにいた木の妖怪にも切りかかる。
「橙刀 烽炎連刀」〔ゴゴゴゴゴゴッ、ズバアアンッ、ズバアアアアアンッ!〕
「ぎゃあああああああああああああああっ!!」
業火の2連撃が見事に突然の事で隙だらけだった妖怪を切り裂いて、木の妖怪は豪快に燃え上がる。
次に狙うのは水の妖怪。
「蒼刀 一刀氷心」〔ヒュパンッ、パキパキパキッ、コンッ・・・パキーーンッ、ガラガラガラッ〕
善朗は素早く水の妖怪を即座に凍らせて、その後にカチカチに凍りついた妖怪の身体をチョンと柄で叩くと、妖怪は脆くも崩れ去った。
仲間を次々と斬られたエンコウが善朗を捉えて、怒り狂って殴りかかる。
「なめるなよっ!」
「黄刀 疾刀迅雷」〔パーーーンッ!!〕
「ゴッ、ハッ?!」
善朗の雷の一刀がエンコウを突き抜けて、エンコウが痺れ上がる。
ヨルノの周りにいた邪魔な妖怪を一時的に黙らせた後、善朗の渾身の刃が再びヨルノに迫る。
「紫刀《しとう》 光陰流刀《こういんるとう》」〔ヒンッ・・・ドゴオオオオンッ!〕
「がっ、ハッ・・・。」
善朗の一刀を反射的に槍で庇ったヨルノだったが、その一刀は凄まじく速く重かった。次に気がついたときには、ヨルノはリング上から瞬時に壁に叩きつけられて、善朗から見下ろされていた。
それはまさに神速の一刀。
善朗の瞬時の納刀からの抜刀により繰り出された一振り、反射的にそれを槍で防いだヨルノだったが、それはまさに皮肉にも神の奇跡に守られたようものだった。
「俺は、この一刀で大事な人達を・・・世界を守るっ!妖怪なんかに何も奪わせたりはしないっ!」
足元に倒れているヨルノに善朗はそう力強く言葉を浴びせた。
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