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第5幕 霊界武闘大会編

ワラウササツキ *挿絵有

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〔うわあああああああああああああっ!!〕
〔ぐわああああああああああああっ!!〕
 年に一度の歓迎すべきお祭りが開催された喜ばしい日だと思っていた日が、突然、霊界の命運をかけた壮絶な戦いの幕切れだったとは、そこにいる曹兵衛達を含め、誰もが思いもよらなかった。

 たった5人の妖怪達に、霊界の猛者達は果敢に挑むも、その力の差は歴然としており、12人衆達がやっと数人でスクラムを組んで対抗する中、100を優に越えていた仲間達は次々と滅消されたり、妖怪たちの胃の中へと消えて逝った。

「皆さんっ!決して一人で立ち向かわないで下さいっ・・・敵は少数ですが、力では明らかに向こうが優位ですっ・・・しかし、我々は一人ではないっ。仲間達と共に闘い、的確に相手の隙をついていきましょうっ!」
 目の前でいつもは笑い合っていた仲間達が次々と消えていく中、それでも曹兵衛は諦めるわけにはいかなかった。なぜなら、自分達の立っているそここそが守るべき霊界であり、自分達の居場所だったからだ。

 しかし、非情な現実が曹兵衛達に突きつけられる。
 それは仲間だと思っていたナルキによって、突如として顔に押し付けられる。


「ぎゃははははははっ、どうした曹兵衛っ!お前はそんなものだったかっ?武城《むじょう》っ、お前もいつも上から俺を蔑む|《さげす》様に見てたよなっ?・・・どうしたっ、いつものように見下してみろよっ!」
 12人衆のナルキだった妖怪ヨルノはその異様に裂けた口をさらに裂けさせて、大笑いしながら猛者達に囲まれている曹兵衛や武城に向かって、関係無しに突っ込んでいく。そして、猛者達をその得意な槍術でなぎ払いながら、曹兵衛達の目前まで迫る。


 曹兵衛の喉元に槍が差しかからんとする中、総大将を守ろうとした武城。
「調子にのるんじっ・・・ッ?!」
〔バゴンッ!〕
「俺の相手もしてくれよっ!」
 曹兵衛に迫るヨルノに立ち向かおうとした武城だったが、横から迫っていたエンコウの太い右フックになぎ払われて、大きく後方に飛ばされる。エンコウは飛ばした武城目掛けて、更に迫る。

〔ぎゃああああああああああああっ!!〕
 周りでは、他の3人の妖怪たちも暴れ回り、近くに来た者達から手当たり次第無造作になぎ払っていく。会場にはもはや、苦悶の悲鳴しか聞こえなくなっていた。

「ッ?!」
 周囲が収集がつかないほど混乱する中、秦右衛門のアンテナがある者を捉える。
(ササツキっ!?)
 秦右衛門が異様を感じて、視線を移した先には、善朗達に近付くササツキの姿が映る。





「・・・善朗君、君は闘わないんですか?」
 会場全体が混沌に飲まれる中、ササツキは丈夫な船に乗るようにスルリとそれを乗り越えて、善朗にスッと近付いて声をかける。

「・・・ササツキ・・・さん。」
 善朗はワナワナと身体を震わせて、左手で今にも大前を鞘から抜こうとしているが、それが出来ない苦悩の表情をササツキに向け、そう示す。

「ササツキさんっ、善朗君は・・・。」
「知ってますよっ・・・貴方が戦いたくても、戦えない事を・・・確認しただけです。」
「ッ?!」
 乃華が善朗を庇うようにササツキとの間に身体を入れて、事情を説明しようとしたが、ササツキはそれに割り込むように笑う。その歪な笑顔に善朗と乃華は戦慄する。



 ササツキがおもむろに善朗の方へと手を伸ばそうとしたその時、死角からササツキに飛びかかろうとする者有。
「ササツキッ!!」
 秦右衛門が混乱を掻き分けて、善朗に迫るササツキに迷いなく一刀を振るう。



「ハハハハハハハッ、さすが秦右衛門殿・・・目鼻が利きますねぇ~~~・・・。」
 ササツキは秦右衛門の行動を見透かしたように、死角から放たれたその秦右衛門の一刀をヒラリと交わして数m善朗達から離れる。

「お前っ・・・いったい善朗に何をするつもりだっ!」
 ササツキと善朗の間に割って入った秦右衛門が刀を右下に流すように構えて、ササツキを睨む。

「善朗君は極上の魂を持っている・・・だが、今は無防備で無力・・・そんな魂という名の甘美な果実を手に入れれば、容易に強くなれると思わないか?」
「ッ?!」
 ササツキはそう秦右衛門にアンサーを示すように懐より見覚えのある球を取り出した。その球を見た秦右衛門達は驚愕する。

 それは見間違うわけもない。
 たったついさきほど、ナルキを妖怪へと変貌させた『集獄魂』だったのだから。

「秦右衛門・・・お前は目鼻が利くが・・・詰めが甘い。死神なんぞに媚びへつらい、ぬるま湯で逆上せのぼせているからだ。」
〔ゴクンッ〕
 ササツキは秦右衛門をニヤニヤした表情で見ながら、そう言うと集獄魂をいとも容易く飲み込む。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
 ササツキは集獄魂を飲み込むと、ナルキと同様に異様に体大きく膨らむ。その膨張はすぐさま収まり、収束する。そして、


「・・・・・・これが俺か・・・素晴らしい・・・誰にも負けぬ・・・善朗、お前の魂は俺がもらうぞっ。」
 ササツキは妖怪へと変貌して、その姿を善朗達に見せつけ、大きな裂けた口で笑う。

 ササツキは全身にメラメラと揺らめく炎をまとい、肌は褐色に染まり、所々流れる血管が赤く光る。

「秦右衛門、おまえもついでにっ。」
〔ドゴオオオンンッ!〕
「やかましいわっ!」
 ササツキが準備万端とばかりに善朗達に近付こうとしたその時だった。ササツキの死角から颯爽と飛び込み、ササツキに右ストレートをお見舞いしたものがいた。その者はキツイ関西弁を使い、ササツキの口上を怒鳴り散らす。

 ササツキはその者に殴られ、壁へと叩きつけられる。
「・・・なっ・・・ッ?!」
 そして、ササツキは驚愕の目でその者をみて、固まる。

 その者は時代錯誤の学生服に身を包み、リーゼントをバシッと決めた高校生。
「お前、妖怪なんやろ?なら、お前をボッコボコにしても、誰にも怒られへんのやなっ!」
 賢太がササツキにガンを飛ばしながら、右拳をさらに握りこむ。

(・・・どういうことだ・・・全く気付かなかった・・・俺は妖怪になって、霊界のカス共では到底敵わない力を得たはず・・・。)
 ササツキは秦右衛門の攻撃もいとも容易く交せたのに、賢太の攻撃には反応すらできなかった事に驚きを隠せなかった。しかも、賢太の攻撃は完全に妖怪に変貌した後だった。全く抜かりはないはずだったのに、見事に攻撃を食らった事実が、さらにササツキの脳内を揺らす。



「立てや、ササツキっ・・・オドレの顔面グシャグシャにしたるわっ。」
 賢太は右拳を構えながら、ユラリユラリとササツキに近付いてく。もはや、その姿は地獄の鬼に近かった。



「くっくっくっくっくっ・・・虎丞のことですか?・・・貴方も呆れるほど執念深いですね・・・悪霊の才能ありますよ。」
 ササツキは身体を起こして、ゆっくりと立ち上がり賢太を見て笑う。

「秦右衛門のおっさん・・・こいつは俺の獲物や・・・あんたはその腑抜けたガキを連れて、はようにげぇ。」
 賢太はササツキを睨み付けながら、秦右衛門に善朗を連れて逃げるように指示する。

「・・・あぁっ・・・あぁっ、分かったっ。」
 秦右衛門は賢太を一人にするのは心配だが、まずはササツキに狙われている無力な善朗を逃がす事に賛同する。

「逃がすわけがないだろうっ!お前たちは全員、ここで死ぬんだよっ!」
 ササツキが善朗を逃がそうとする賢太達に大声でそう叫ぶ。

 ササツキが叫んだその時だった。


「きゃああああああああああっ!」
「救援はまだなのかっ?!早く援軍を呼べっ!」
「にげろおおおおおおおおおおっ!」



『界居反転《かいいはんてん》』



「役人達はなにしてるんだっ!死神はどうしたっ?!」
「妖怪が霊界をめちゃくちゃにするぞっ!」
「いやああああああああああああああっ」


 見知らぬ老人の声が、阿鼻叫喚で喧騒としている会場中でも変わらず、透き通るように響き渡る。すると、リングが設置されていた広場を中心に空間が歪み、リングを囲んでいたアリーナ席が暗闇に包み込まれて消える。



「ぎゃはははははははっ!」
「ついにきたぜっ!」
「おいおい、もう先にはじまってんじゃねぇーかっ!」
「みろよっ、女が居るぞっ!」
「ひゃははっはははははっ!」



 闇が開けて、次にアリーナ席の代わりに姿を現したのは、リングの広場を囲むように設置されたアリーナ席・・・ではあるが、そこには、何千ともいえるほどの悪霊や怨霊達の姿があった。


「お待ちしておりましたぞ、霊界の皆々様方・・・裏霊界にようこそっ。」
 悪霊達が埋め尽くすアリーナ席にポッカリと一箇所空いた空間に作られた特別席から一人の老人が曹兵衛達に声をかける。紅いチャンチャンコを着て、白い髭を携え、好々爺のような風貌のその老人。
 

 大妖怪ぬらりひょんが口を大きく裂きながら笑っていた。





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