墓地々々でんな ~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~

葛屋伍美

文字の大きさ
上 下
109 / 145
第5幕 霊界武闘大会編

優勝はダントツ!?

しおりを挟む


 佐乃道場に併設されている屋敷の縁側。
「・・・・・・。」
 善朗は何をするわけでもなく、ただただボ~ッと流れる雲を眺めていた。

 善朗は冥との面会の後、菊の助の武家屋敷から足が遠のいてしまい、気を酌《く》んだ佐乃の誘いから、ここでただただ時間を潰していた。道場で稽古をするわけでもなく、幽霊だけあって、食事をするわけでもない。寝る必要さえないことが、今の善朗にとっては地獄のような苛酷《かこく》な環境だった。流石の賢太さえも無神経に話しかけることも出来ず、いつしか、善朗のいる縁側は聖域のように誰も近付かなくなっていた。ただ、それだけでは余りにも毒だと、たまに佐乃が外出させるように街に茶菓子を買いに行かせていた。


「正味な話・・・辛気臭くて敵なわんでぇ・・・。」
 縁側の善朗が見える廊下の影から善朗を見て、賢太が目を細める。


「しかし、事情が事情だけに皆も声を掛け辛いのだろう?・・・あんなに固執していた賢太ですら、何もしないとは・・・拙僧《せっそう》としては賢太の成長を感じるぞ。」
 賢太の足元で舌を出しながら、太郎が善朗を見て、そう話す。

「・・・・・・おいっ、それはどういぅ~意味じゃっ?」
 賢太は不意に太郎に馬鹿にされたことに気付いて、太郎を睨む。


 賢太と太郎がじゃれあっていると、ふと後ろから賢太の後ろの襟を掴んで引っ張る者がいた。
「あんた達、何してんだいっ!?・・・賢太っ、あんたはしっかり稽古しなっ・・・い組を倒したからって、調子に乗るんじゃないよっ。」
 もちろん、そんな事を賢太に出来るのは佐乃だけだろう。佐乃は賢太の後ろの襟をムンズと掴むと善朗から見えなくなるように自分の顔の方に引っ張り込んで、善朗の様子を伺っていた賢太をしかりつけた。

「いやいや、師匠・・・さぼってへんよっ・・・俺は俺なりに強ぉ~なろうって、善朗を観察しとるんやっ。」
 首根っこを掴まれて、身を縮ませながら賢太が弁明をする。

「なんだって?」
 賢太の弁明に眉を細める佐乃。

「確かに俺もい組の悪霊を知らんまにぶっとばしとったわ・・・でも、善朗はい組を2匹っ・・・しかも、聞いた話やと一匹は妖怪化っちゅぅ~えらい強いやつやったんやろ?・・しかもしかもやでっ、なんかようわからん必殺技も使っとったちゅうやないかっ!・・・俺はくやしゅぅ~てくやしゅぅ~てたまらんよっ!」
 賢太は子供が玩具をせがむ様に悔しさを表現して、佐乃に抗議する。

「・・・あんたまた、そんな変な事考えてたのかい・・・。」
 佐乃は賢太の主張に呆れかけて頭を抱える。

「師匠っ!何が変な事なんやっ・・・俺にとっては重要なことなんやぞっ!」
「ばっ、ばかっ!あんたっ、声でかいよっ!」
「拙僧には二人とも声がでかいように思えるが・・・。」
 佐乃の言葉に賢太は感情を露わにして、善朗の事など忘れて、大声で佐乃を怒鳴ると、佐乃も佐乃で対抗して大声で賢太を叱る。そんな様子をせせら笑う様に太郎が現状を淡々と話した。





「・・・・・・。」
 佐乃は善朗から死角になっている廊下の端の壁際からソッと善朗の様子を伺う。

 善朗は佐乃達の騒がしい声も聞こえていないのか、最早、気もならないのか、相変わらず空の流れる雲を見ながらボ~~ッとしていた。

「ふ~~~っ・・・こっちにきな・・・。」
「あいててっ・・・師匠っ、ひっぱらんといてっ!」
 佐乃はこれ以上善朗を煩《わずら》わせないように更に賢太の首根っこを引っ張って、縁側から遠ざけていった。





 佐乃は賢太達を善朗から遠ざけて、落ち着いて話せる屋敷の別の場所まで移動した。
「賢太・・・あんたは大会のメンバーにも選ばれたんだろ。何をそんなに焦ってるんだい?」
 佐乃は頭を左手で軽く掻きながら駄々をこねる子供をあやすように優しく賢太に尋ねる。

「メンバーに選ばれたかて・・・肝心の善朗と決着つけれるわけでもあらへんっ・・・変なおっさんに聞いたんや・・・公然と善朗と全力で戦えるのは今回だけやろって・・・。」
 賢太は武道大会に選ばれた事よりも、武城から聞いた善朗と全力で戦えるチャンスが消えた事の方に憤りを感じていた。

「・・・確かにあんたの言うとおり、武闘大会は年に一度、誰もが何の制限もなく全力で戦える場所だよ・・・だからこそ、今では娯楽が溢れ返ってる霊界でも昔から盛り上がるお祭りなんだ。あんたが全力で善朗と戦いたいっていうのもわかる・・・道場であんた達を全力で戦わせてやれりゃいいんだろうけど、流石に今のあんた達を制限無しで戦わせたら、ここら一帯が更地になっちまう・・・善朗と全力で闘える最後のチャンスか・・・正直、そうかもしれないね・・・。」
 佐乃は駄々をこねる賢太の本音を聞いて、思わず微笑ましくなり、賢太の頭をそう話しながら撫でる。

「ちょっ、なんやねんっ!・・・師匠っ、やめてぇーなっ!!」
 賢太は太郎もいる手前、佐乃から撫でられるのが恥ずかしくなり、佐乃の自分の頭を撫でる手を強めに跳ね除ける。


 佐乃は手をどけられると両脇に両手をそれぞれ置き、仁王立ちで微笑む。
「あと、善朗みたいに技だのなんだと、あんたがこだわるんじゃないよっ・・・。」
 佐乃は右手の人差し指を賢太の顔の前に近づけて振りながら、さらに賢太をあやす。

「・・・なっ・・・なんでやっ?」
 佐乃の突然の物言いに賢太は素直に尋ねる。

「いつも口酸っぱく言ってるだろ・・・霊の戦いは思いの強さをその拳に乗せる事だって・・・あんたの良さはその素直さだよ・・・善朗の使う技って言うのは、思いの形を変えて、状況に応じて使え分けたりすることで、威力を増したりするもんさ・・・それに霊力の性質変換は一朝一夕で出来るもんじゃないんだよっ・・・あの秦右衛門ですら、使いこなせないモノをあんたが出来るわけないだろ?」
 佐乃は賢太の言い分も分からんでもないと思うも、それに囚《とら》われる賢太に呆れて、優しく諭す。

「おっ、俺も桃源郷っちゅうところで、稽古つけてもらえればっ!」
「場所の問題じゃないよっ!」
 佐乃の諭す言葉を跳ね除けるように賢太が叫ぶとそれを打ち消す佐乃の大きな声が響く。

 佐乃の言葉に怯むすご賢太を見て佐乃が優しい顔で見る。
「さっきも言ったけど・・・あんたは深く考えずに、そのあんたの拳に思いを乗せて、思いっきり相手を殴りなっ!・・・それがあんたの最強の技だよ。」
 佐乃は大きな声ながらも優しさをにじませる口調で賢太に言葉を送る。

「・・・最強の・・・技・・・。」
 賢太は自分の両手の手の平をジッと見ながらそう呟く。


 賢太は自分の拳をジッと見た後、ふと真剣な目で佐乃を見て、
「・・・・・・師匠、桃源郷に連れて行くのがめんどくさいだけちゃうんか?」
「違うよっ!」
 賢太の的を得たような検討外れの言葉に思わず佐乃が怒鳴る。


 賢太のオオボケともいえる言葉にあきれ果てた佐乃が賢太に背を向けて、その場を離れていく。
「まったく・・・あんたってやつは・・・とにかく、善朗と戦えなくても、強い奴はまだまだいるよ・・・大会のメンバーに選ばれたなら、しっかり恥をかかないようにしなっ。」
 そう言葉を残していく佐乃。そして、最後に・・・。



「・・・・・・あんたには言わなくても、大丈夫だろうと思うけど・・・ササツキには気をつけな・・・。」
 佐乃は賢太ではない虚空を睨むように重い言葉を賢太に発する。



(・・・・・・忘れとったわ・・・善朗よりもどつきたい顔をっ・・・。)
 賢太は佐乃の言葉で、メンバー発表の際にいた因縁の男の顔を思い出して、右拳を今日一力強く握りこんだ。







しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...