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第4幕 姉妹激突編(妖刀 闘々丸)
悪霊連合頭目 断凱
しおりを挟む「・・・・・・。」
善朗は血の海から折れた脇差を拾い上げて、悲しそうにそれを見つめる。
「よしろうさっ・・・。」
「善朗ッ、よくやった!」
あの大悪霊に勝利した善朗が、悲しそうに立ちすくんでいるのを見かねた乃華が優しく声を掛けようとソッと近付こうとしたが、そんな優しさなど戦場には不要とばかりに、乃華を押しのけて、菊の助達がズカズカと善朗の周りを固める。
そんな菊の助たちに跳ね除けられる形になった乃華。
(・・・こいつらッ!)
力一杯拳を握りこむ乃華だった。が、
菊の助達に褒められて、笑顔になった善朗をみると、その拳も自然と緩んでいく。
「ご苦労だったな善朗ッ・・・さすがに闘々丸・・・4色も使わされるとは・・・敵ながら天晴れだッ。」
ガハハッと胸を張りながら、善朗の手の中で眠る折れた脇差を見て、喧嘩両成敗のように両者を褒める菊の助。
「善朗君・・・頑張ったねッ。」
激闘を戦え終えた弟弟子を労うように、秦右衛門が優しく善朗の肩を抱く。
「・・・ありがとうございます。」
善朗は素直に秦右衛門の労いを受け入れて微笑む。
「・・・善朗、ありがとうな・・・お前に全部押し付けちまって・・・。」
菊の助達と違い、どこか浮かない顔の金太。金太は善朗の手の中にある闘々丸を悲しい目で見ている。
「・・・なんとか、なりませんか?」
善朗がそう言いながら、折れた闘々丸を金太にソッと渡す。
「・・・なんとか・・・か・・・。」
金太は渡された闘々丸を大事そうに大事そうに扱う。
金太にとっては、闘々丸はトラウマを植えつけられた恐怖の対象ではあったが、それと同時に家宝でもあり、自分がしっかりしていれば、こうはならなかったのではないかと心の中でも自責の念を持っていた。
自責の念にかられる金太に優しい眼差しを向ける菊の助。
「・・・闘々丸は、もうよみがえる事はないかもしれねぇ・・・蘇ったとしても、元通りとはいかねぇだろうよ・・・だが、罪滅ぼしのためにも、やってやらにゃぁ男が廃るわな・・・。」
菊の助は金太が大事そうに扱う闘々丸にも優しい目を向け、そう話す。
金太は今にも零れ落ちそうな涙を堪えながら闘々丸をただ見詰めている。
「殿・・・お願いしますッ。」
意を決した金太は菊の助に深々と頭を下げて、闘々丸を大事そうに菊の助の方にそっと差し出した。
「・・・おうっ、まかせときな・・・。」
菊の助は金太から闘々丸を手渡されると、父が子を包み込むように闘々丸を受け取った。
善朗達が闘々丸を中心に柔らかな雰囲気に包まれていると、
「菊の助サアアアアアアアンッ!」
曹兵衛の菊の助を呼ぶ声が木霊する。
「おうっ、どしたい?」
菊の助が代表して、曹兵衛の声に答えた。
「どうしたもこうしたもありませんよっ!」
どこかイライラした表情で善朗達の元に駆け寄ってきて、菊の助をいの一番に渋い顔をしながら見る曹兵衛。
感情が先行して、菊の助に目が行っていたが、ふと曹兵衛の目に、今回の大功労者の姿が飛び込んでくる。
「あっ・・・申し訳ないっ・・・私は、ネオ大江戸12人衆筆頭『真煌 曹兵衛』という者です。善朗君、貴方の戦いっぷりは実に見事でした・・・皆を代表して、お礼を言わせて頂きます。」
曹兵衛は年端もいかぬ善朗に丁寧に、そして堂々と深々と頭を下げた。
「ええええっ・・・いやあの・・・僕は、その・・・当然のことをしたまでで・・・。」
あまりにも大業な役職にビビリ倒した善朗は少年らしくドン引きしながら曹兵衛に慌てて答える。
「ガハハハッ、善朗ッ、気にする事はねぇ、頭でも撫でてやりなッ。」
曹兵衛の対応を茶化すように菊の助が大笑いしながらバンバンと善朗の背中を叩く。
「まったく・・・そんなお気楽に話している場合ではありませんよっ!」
曹兵衛は善朗に丁寧に対応した後、キッチリと服装を整えて、菊の助をイブカしげに見る。
「なんでぇ~・・・もったいぶってちゃ、わかんねぇだろうがっ。」
曹兵衛の対応に少し笑みが冷める菊の助。
「奴が見つかったんですか?」
いつも察しのいい秦右衛門が曹兵衛に含みを持った言い方で尋ねる。
秦右衛門の核心をついた問いに少し不満げな顔をする曹兵衛。
「えぇ、察しのとおりです・・・闘々丸と同等・・・もしくはそれ以上の化け物。い組の大悪霊 『断凱《だんがい》』 がその姿を現しました。仲間が交戦しているようですが、ダイブ苦戦しているようです・・・救援要請が来ています・・・我々は幸いにも善朗君以外はほぼほぼ無傷ですから、これから全員で向かおうと思います。」
曹兵衛は淡々と正確に情報を提供する。
「・・・・・・。」
善朗は今は鞘に収めた大前を持つ手に自然と力が入った。
次の強敵との戦いになぜか、善朗の心は躍っていた。
善朗の内心は誰もが分かるはずもない中、曹兵衛が善朗に向かって口を開く。
「善朗君は、霊界に戻って下さい。」
「ッ?!」
曹兵衛の意外な一言がその場に居た全員を驚かせる。
「君はまだまだ闘い慣れていない・・・君が強いのは重々承知しているが、連戦させるわけにはいきません・・・。」
曹兵衛の組織を引っ張るリーダーシップが光る。
「いや、だめだ・・・善朗はつれていくっ。」
曹兵衛の主張に対して、真っ向からぶつかったのは、もちろん菊の助だった。
曹兵衛は当然予測していた菊の助の言葉だったが、眉をひそめる。
「・・・だめです・・・ダメージどうこうの問題ではありません。」
曹兵衛は冷静に菊の助を見据えて、ハッキリと拒否する。
「連れて行ってくださいっ!」
「ッ?!」
曹兵衛と菊の助が対立する中、善朗の一声が曹兵衛だけを驚かせる。
善朗は曹兵衛が自分にしたように深々と頭を下げている。
「お願いしますッ・・・俺の力で少しでも助かる命があるのなら、俺は黙ってはいられない・・・俺にも闘わせて下さいッ。」
善朗は頭を下げたまま。しかし、身体をしっかりと曹兵衛に向けて訴える。
善朗の攻勢に続くように菊の助も前に出る。
「・・・マン桃もちゃんとあるんだろ?・・・さっさと善朗に渡して向かおうじゃねぇかっ。」
菊の助が腕組みをしながらニヤリと笑って、曹兵衛にマン桃を催促する。
「・・・んっ・・・。」
菊の助達に囲まれて、当の本人のたっての願いをムゲにもできない曹兵衛は観念せざるを得なかった。曹兵衛としても、闘々丸と同等以上に渡り合える戦力を出し惜しみするほど余裕があったわけではない。
だが、曹兵衛はこの流れを全て分かった上で、話していたのかもしれない・・・。
曹兵衛達が体勢を整えて、向かおうとした先に広がっていたのは・・・。
「うわあああああああああああああああっ!」
「きゃああああああああああああああああっ!」
「にげろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
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「グオオオオオオオオオオオっ!!!」
獰猛な肉食獣が猛る魂を外界にぶつけるように、己の内から解き放つように叫ぶ。
両手に大きな斧を持ち、向かってくる敵、逃げ惑う敵を次々となぎ倒していく。
傍若無人に?否、冷静に弱者を見分けて、襲っていっている。
「チィッ!狡猾な奴だ・・・ネヤ、全員下げさせろッ!中途半端な奴を前に出しても、相手のエサになるだけだッ!!」
左手に盾を持ち、右手にロングソードを構えた中世の戦士風の男が後方で支援をする巫女姿の女性にそう指示する。
「わかりましたっ!みなさん、無理に前に出ないで下さいッ!」
ネヤが戦士に言われた事を忠実に守るように周囲にそう指示する。
「わっ、わかりましっ・・・あっ・・・うぎゃああああああああああっ!」
また一人、また一人と逃げ遅れた弱者が狡猾に狩られていく。
そんな地獄絵図を見ていた少年は周囲の人間とは違った思考をしていた。
(・・・楽しいなぁ~~~・・・楽しみだなぁ~~~・・・。)
少年は無意識に笑みを零し、刀を持つ手が小刻みに震えている。
「ぐるるるるぅ~~~~~・・・。」
獰猛に狡猾に猛り狂うその者がその場にいる誰よりも異質な少年を見分けて、その手に握る斧をギラつかせる。
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