74 / 140
第3幕 虹色の刀士と悪霊連合編
秦右衛門と金太の牙 *挿絵有
しおりを挟む「いや~~・・・鮮やかというかなんというか・・・長年殺人事件を扱ってきた刑事歴の中でも恐ろしいぐらいにきれいな惨殺死体だよ・・・。」
バーコード頭をかきつつ、年配の背広を着た男性が足元にある遺体を見ながら、感想を話す。
「・・・間違いなさそうですか?」
空柾が腕組みをしながら、その遺体を一緒に見下ろして、不意に言葉を零す。
「えっ?」
年配の刑事が後ろを振り返り、空柾を目を丸くしてみている。
「あっ、すいません・・・私、独り言が多いもので・・・。」
空柾がいつも通りの対応で年配の刑事をはぐらかす。
空柾が年配の刑事をはぐらかしていると、空柾が意見を求めた者が口を開いた。
「間違いないねぇ~・・・この切れ味・・・骨もきれいに一刀で切断してる・・・奴がこの近くにいるのか・・・いたのか・・・。」
空柾の隣で、着物の中で腕組みをして、右手だけを胸元から出して、あごを触っている秦右衛門が話す。もちろん、刑事には見えていない。
「・・・・・・。」
秦右衛門のさらに隣で、黙って遺体を見ている冥。
悪霊連合討伐のために結成された人と霊の連合軍が発足されて3週間。
ずっと闘々丸を追っていた秦右衛門達が、今までで一番闘々丸に近付く手がかりを掴もうとしていた。その手がかりは男性の2つの遺体で、2つとも鋭利な刃物で惨殺されていた。一つは廃墟の中、もう一つの遺体は廃墟の外の少し開けた広場で発見された。二つの遺体の身元は判明しており、『Year!tube』という動画投稿サイトで心霊動画を中心に投稿していたそこそこ登録者がいる男性二人組だった。ここの場所は都心から車で4時間弱の山間の森の中にある心霊スポットとして、有名だった廃墟。どうやら、二人はこの心霊スポットで動画を撮影していて、何者かに襲われたようだった。
「すいません、刑事さん・・・廃墟の中も見て回っても、よろしいですか?」
空柾が丁寧に年配の刑事に廃墟の中を調べる許可をもらうために、頭を下げる。
「えっ、えぇっ・・・先生方には失礼がないように上からも言われてますので・・・あまり、踏み荒らさない程度にして頂ければ・・・。」
年配の刑事は、丁寧な応対をする空柾に、困惑しながらも丁寧に対応する。
「冥、行こうか?」
「うん。」
兄妹は示し合わせて、廃墟の中へと入っていく。
空柾達が廃墟に入っていくと
「どうでしたか?外の遺体は?」
廃墟の中で、別の遺体を見ていた曹兵衛が空柾達に声を掛けた。
「スッパリ、一刀・・・しかも、霊力を隠さず、そのままときた・・・闘々丸さんはこちらを誘ってらっしゃるようで・・・。」
秦右衛門がニヤニヤしながら曹兵衛に答える。
「・・・魂の痕跡がありません・・・やはり、取り込まれたと考えるべきでしょう・・・。」
曹兵衛の隣でそう答えたのは乃華だった。
乃華も管理官として、闘々丸捜索チームに派遣されていた。
乃華が言う『取り込まれた』というのは、文字通り、悪霊に魂を抜かれた、又は、食べられたと言っても語弊はない。悪霊は人々を襲い、殺しては魂をもてあそぶ。縄破螺のようにわざわざ人形にしたりして、魂を苦しめて、その恐怖や苦悶を力に変える。他にも、魂自体を己の中に取り込んで力に変えたりもする。闘々丸は後者のようだった。
「秦兄ッ!」
廃墟を見て回っていた金太が突然、秦右衛門の名前を呼ぶ。
金太に名前を呼ばれてそちらの方をみる秦右衛門。
「・・・どうやら、お客さんが来た様で・・・。」
秦右衛門は金太が何かに気付いた事を察知して、周囲をぐるりと見て、そう話す。
「少しまだ距離がありますね・・・刑事さん達が被害にあわないようにしないといけません・・・頼めますか?」
曹兵衛は地面にお尻を付けない状態でしゃがんだまま、秦右衛門をジッと見て、そう頼んだ。
「任されましょう。」
秦右衛門はニヤリと口角をあげて、曹兵衛の申し出を快く引き受ける。
「わっ、私も行きますっ・・・サポートぐらいは出来ますのでっ!」
そう願い出たのは乃華だった。
そんな乃華の姿を見て、曹兵衛は微笑む。
「それは助かります・・・管理官殿は秦右衛門さん達のサポートを・・・冥さんの警護は私と空柾さん、ヒヒロさんで・・・外の刑事さん達は引き続き、ゴウさん、ノムラさん、サユミさん達で大丈夫でしょう・・・ヒヒロさん、外にそう伝えてきて下さい。」
続いて、曹兵衛は透かさず、テキパキと部隊の編成、動きを指示して行き、ヒヒロに外との連絡係を頼んだ。
「分かったわ。」
ヒヒロは曹兵衛の指示に即座に従い、廃墟の外へと文字通り、飛んで行った。
「さてさて、金太さん・・・せっかくのお客さんをオモテナシしましょうか?」
秦右衛門は着物の中にしまっていた両腕をバッと広げて、着物を直し、腰に下げていた刀を左手で触る。
「メインディッシュの前にちょうどいいやっ。」
金太は腹をパンと叩いて、準備万端だと答える。
「げへへへっ・・・こんな山奥に人間がギョウサン来とるとは・・・闘々丸も用意がいいや・・・。」
廃墟から少し離れた茂みの中で、全身ずぶ濡れの男が口からヨダレを垂らしながら歩いている。
その周りには、人の形が崩れた霊体が何人かついて来ている。
ずぶ濡れの男が目の前に見える廃墟に向かって歩いていると
「おっとっとっ・・・お客さん・・・ここから先は有料ですよっ。」
廃墟の方から、そうずぶ濡れの男に声を掛けたのは秦右衛門だった。
秦右衛門は左手を腰の刀に添えたまま、金太と乃華を後ろに従えて、ニヤニヤしながら、臆する事無く、ずぶ濡れの男に近付いていく。
「・・・えっ・・・秦右衛門さん・・・ちょっと、あいつ、ろ組の悪霊ですよっ?!」
秦右衛門の後ろからついてきていた乃華が黒革の手帳を見ながら、目の前にいるずぶ濡れの男を見て、そう話した。
「げへへへへへっ・・・式霊如きが、何人いようと、俺の敵じゃぁないね・・・お前達も取り込んでやる・・・。」
ずぶ濡れの男はそう言うと、自分が来ていたずぶ濡れのワイシャツを両手で広げて、裸体を秦右衛門達に見せ付ける。
〔ゴボゴボゴボッ・・・ゴボボボボッ・・・。〕
ワイシャツの下から見えた男の裸体は水のように青みがかった湖面の底のように見え、その湖面に向かって、もがき苦しむ人々の顔が何人も交互に浮かび上がっていた。
「いやはや、これはまたまた・・・悪趣味な事で・・・気を使ってもらって、助かりますねぇ~~・・・。」
秦右衛門は隣で、悪霊の人々を苦しめる所業に怯える乃華とは裏腹に、笑みを強めて、さらに距離を詰める。
「げははははっ・・・お前達も時期に湖底に沈むっ!」
ずぶ濡れの男が両手を広げて、そう叫んだ。
「金太君、周りの悪霊は頼んだよっ。」
秦右衛門が、スラリと刀を抜きながら、目の前のずぶ濡れの悪霊を見据えたまま、金太にそう指示する。
「チッ・・・秦兄はいつもいいとこばっかり食いやがるっ・・・まかせとけっ!」
金太は舌打ちしたものの、秦右衛門に言われたようにずぶ濡れの悪霊が引き連れている他の悪霊達に向かって行った。
「ちょっとっ、秦右衛門さん!大丈夫なんですか?!周りの悪霊も『は組』ばっかりですよっ!」
乃華が恐怖で秦右衛門の後ろにしがみ付きながら、金太の心配をする。
「いやっ、ちょっと・・・乃華ちゃん、そんなにしがみ付かれると、刀振れないんですけど・・・。」
秦右衛門がしがみ付く乃華に視線を移して、そう苦笑いする。と、
その隙を逃さなかったずぶ濡れの悪霊が秦右衛門に襲い掛かった。
「バカめっ!!!」
ずぶ濡れの悪霊は叫びながら両手を広げ、茂みを走り抜けて、秦右衛門との距離を一気に詰める。
「乃華ちゃん、大丈夫だから少し離れててね。」
「はっ、ハイッ!?」
秦右衛門が迫り来る悪霊を見向きもせず、乃華に対応する。乃華は迫ってくる悪霊に恐怖して、自ずと秦右衛門から素早く離れて、後ろに距離を取った。
「お前からっ・・・さっ・・・きいいいいいいいいっ?!」
ずぶ濡れの男は秦右衛門との距離をいよいよ詰める。が、突然、激変した目の前の状況に驚愕する。
「赤刀 活火激刀!」〔ゴゴゴゴゴゴゴゴッ、ズバアアアアアアアアアンッ!〕
秦右衛門は乃華が自分から離れると、乃華から即座に悪霊に向き直り、素早く上段に刀を振り上げ、悪霊に向かって無慈悲に容赦なくその一刀を振り下ろす。その刀は地獄の業火をまとい、燃え上がり、その流れる斬撃が炎の尾を形作る。
「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
ずぶ濡れの悪霊は目の前に迫る斬撃よりも、大炎に度肝を抜かれる。
それが悪霊の魂に最後に刻まれた光景だった。
〔ジュワアアアアアアアアアアアアッ!!〕
秦右衛門の一刀を受けた悪霊はその業火に焼かれて、見事に蒸発した。
「ひえっ、化け物っ!」
「にっ、にげっ・・・。」
金太に数をあっという間に減らされた悪霊達は、自分達のリーダーすらも、あっけなく除霊される光景に恐怖して、背を向けて逃げ出していく。が、その背に閃光が走り、突き抜ける。
〔パパパパンッ!〕
逃げ出そうとした悪霊を容赦なく、銃声を上げながら弾丸が打ち抜いていった。
「大当たりぃ~~~・・・さすがの腕前ですねぇ~~~・・・。」
刀をしまった秦右衛門が拍手をしながら廃墟の方を見て、その人物を讃える。
そこにいたのは2丁拳銃を構える看護士、もちろん、サユミだった。
「まったく・・・取りこぼしは後々迷惑だから、しっかりしなさいっ。」
サユミが銃を素早くしまいながら、呆れ顔で秦右衛門達に文句を言う。
「・・・すごっ・・・。」
乃華はあっという間に『ろ組』を含めた、凶悪な悪霊達を除霊する手練に目を丸くするのが精一杯だった。
「・・・・・・。」
そんな面々を遠くで見ていたOL姿の女性が静かに森の奥へと姿を消す。
もちろん、その手には、一振りのきれいな脇差が握られていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる