墓地々々でんな ~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~

葛屋伍美

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第3幕 虹色の刀士と悪霊連合編

救霊会

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 霊界での12人衆会談を終えた佐乃達は、その足で早速現世の救霊会の本部へと赴く。佐乃達が訪れたのは、都心から少し離れた都会のオアシスを思わせる森に並列されているビル。人通りは多くもなく少なくもなく、人が行き交う何の変哲もない風景だが、幽霊の団体客が横を通り過ぎていても、一般人には分かるはずもなく、佐乃達は空からビルの手前に舞い降りて、ビルの中へと次々と入っていく。


「お待ちしておりました、曹兵衛さん。」
 ビルに入って、最初に佐乃達を出迎えたのは他でもない空柾だった。


「空柾さん、首尾の方はどうですか?救霊会の方向性は?」
 曹兵衛がついて早々、空柾に救霊会の立場を訪ねる。

「・・・こちらも、一枚岩ではありません・・・悪霊連合とのやりとりも少なからずありましたので・・・。」
 空柾が険しい顔をして、曹兵衛に正直に話す。

「今まで、なあなあで付き合ってきたツケでしょう・・・こちらも責めれるような現状ではないので・・・しかし、動かなければ、大変な事になりかねませんから・・・。」
 曹兵衛はポーカーフェイスで涼しい顔をしながら、空柾と意見交換をする。

 曹兵衛は分かっている。こちらが、武城を送り込んだように、穏健派も誰かを送り込んでいる事に。それは、大体見当はついているのだが・・・。

「それにしても、武城がルールを重んじる男だなんて思わなかったね。」
 天凪が佐乃に対して、12人衆会談の動きについて話しかける。

「どうだろうな・・・人間、外見だけでは判断は出来ない・・・少なからず、区をまとめている人間だ・・・周囲との関係を重んじているのかもしれないな・・・。」
 佐乃が真剣な顔で前を向いて、歩きながら天凪に答える。

「・・・佐乃さんは、悪霊連合とかと仲良くなんか出来ないよね?」
 天凪が腰の辺りで後ろ手に両手を組んで、佐乃の顔を上目遣いで覗きこむように見る。

「佐乃ちゃんは、善朗君のお師匠さんですもんね・・・。」
 ヒヒロがひょいと会話に割り込んで、佐乃の代わりに答える。

「善朗君って、たしか『ろ組の悪霊』縄破螺を倒した少年だよね?」
 天凪が会話の中に出てきた善朗の事を誰に聞くでもなく口にする。

「・・・そうだ・・・私の自慢の弟子だよ・・・あいつが動かなければ、私も組織の中で盲目だったかもしれないね・・・。」
 佐乃が自慢げに善朗の事を話し、微笑んで天凪の顔を見る。

「空柾も、善朗君の一件で、考えを改めたみたいだけど・・・悪霊連合と戦う事になると危険が増えるから心配だわ・・・。」
 ヒヒロが空柾の事を心配して、顔を曇らせる。

「・・・・・・そうだね、難しい所だよね・・・。」
 天凪が少し間をおいて、ヒヒロに優しく触れて、微笑みながらヒヒロの考えに共感した。



「・・・・・・。」
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ・・・三人とも、向こうを待たせているから少し急ぎましょう。」
 曹兵衛は佐乃達の様子を横目で静かに見ていた。そこを空柾に声を掛けられて、ハッとして、話をそらすように後ろで話していた佐乃達を急かす。



 曹兵衛達は、階段から地下に降りて、ビルのボイラー室の中へと入っていく。ボイラー室の中は、ボイラーが動いているので、そこそこの温度があるが、霊には関係ない。そのボイラー室の奥に進み、空柾がボイラー室の一角にある倉庫のような物が乱雑に置かれたスペースに置かれている物置の扉をおもむろに開ける。物置の中には掃除用具などが置かれているが、空柾はそんな掃除用具に見向きもしないで、何の変哲もない物置の奥側の面を触った。

 すると、「カチャッ」という音と共に、奥の面にクボミが現れて、手を離すとふたのような形状で面のクボミの部分が飛び出した。空柾はそのふたを外すと、中にあるテンキーを触り、番号を入力する。

 〔ガコンッ、ガタガタガタガタッ、ガシャンッ〕

 テンキーに正しい番号を入力すると、物置が動き出し、物置の後ろに物置の高さから少し低く壁を切り抜いたような空洞が現れた。空柾はその空洞を潜り、曹兵衛たちもついていく。空柾達が空洞に入ると、物置がまた動き出し、ボイラー室を元の状態へと戻した。



「お待ちしておりました、曹兵衛さん。」
 空柾達が入った空洞の先には、10畳ぐらいの殺風景な部屋があり、そこに一人の巫女姿の女性と腰に少し長めの西洋の剣を携えた男が立っていた。



 女性の名は『ネヤ』。
 救霊会の霊能者で実力はトップの女性。服装は年末に神社で見るようなありふれた紅白の巫女服を着て、ダークブルーのさらさらのロングヘアが背中の位置まで伸びている。瞳はあらゆる嘘を見破るような真っ直ぐな眼差し、肌は白すぎず、健康的な肌をしている。

 ネヤの横に控える男の名は『流(リュウ)』。
 ネヤの式霊で、日本では珍しいロングソードを使いこなす。背中には、盾を備えていて、鋭い眼光が隙の無さを相手に知らしめる。髪は黒の短髪で、赤いバンダナを巻いていて、全体的に皮製のコテやボディースーツ、ブーツも皮製でまとめられている。



「お前がわざわざ来るとは珍しいな・・・。」
 リュウが腕組みをしながら片目だけを開けて、曹兵衛を見て、声を掛ける。

「今回はこちらからのお願いもありますので、まとめ役としては、粗相のないようにと思いましてね。」
 久しぶりの旧友に向けるような笑顔をリュウに向ける曹兵衛。

「あれ?リュウじゃん・・・向こうで見ないから心配してたよっ。」
 リュウの姿を見て、天凪がニコニコしながらリュウに声をかける。

「・・・俺は、無縁仏だ・・・向こうに知り合いがいるわけでもない・・・向こうにいたってしかたがないだろ・・・。」
 リュウが天凪をチラリと見て、視線を外し、呆れ声で答える。

「いやいや~~っ、ネヤちゃんの事が男として、心配なんでしょう?」
 天凪がリュウに左肘をグリグリするような仕草で近付き、ニヤニヤしている。

「アホウが・・・式霊として契約者といるのは、当たり前の事だろ・・・。」
 リュウが当然だとばかりに天凪に素っ気無く答える。

「違う違うっ、もっとこう・・・あれだよっ。」
 天凪がリュウの反応にイライラしながら、さらに詰める。

「お前はいくつだ・・・生きている人間と死んだ人間が惹かれあっても仕方がないだろ。」
 リュウは天凪の与太話に一切興味を示さず、きれいに切り捨てる。

「・・・・・・。」
 ヒヒロはリュウの隣で、一瞬少しさびしい目をしたネヤの表情を見逃さなかった。

「どうかしたのか、ヒヒロ?」
「えっ・・・ううん、なんでもないわ。」
 ヒヒロがネヤに目を奪われていると、空柾がヒヒロに声をかける。ヒヒロは空柾に悟られまいと視線を泳がせて、誤魔化した。

「さぁ、みなさん・・・八救星も下でお待ちしています・・・どうぞ。」
 ネヤが自分達の後ろにスタンバイしてあったエレベータを開いて、曹兵衛たちを導く。

「・・・ゴウや、イナキ達もいるのですか?」
 導かれるようにエレベーターに入りながら、曹兵衛がネヤに質問した。

「ゴウやイナキは悪霊連合の動きの方を警戒してくれています。ことがことですので、公務員の方々とも連携をしてくれています・・・。」
 ネヤが丁寧な言葉で、曹兵衛に丁寧に答える。

「・・・そうですか・・・ノムラや武城も式霊として、待機はしていますので、安心して救霊会と会合が出来そうですね。」
 曹兵衛がニコニコして、ネヤに話す。

「ここには、出来る限りの人員を集めていますので、そうそう攻めては来ないでしょう・・・安心して、おじじ様達とお話下さい。」
 ネヤも曹兵衛に答えるように笑顔を作る。

 〔チーーンッ〕

 エレベーターが少し時間をかけて、地下に潜り、目的地に着いたことを曹兵衛達に報せた。

 〔ワイワイガヤガヤッ〕

 エレベーターの扉が開くと、そこには広大な体育館のようなスペースが広がっており、人と霊が慌しく動いていた。ビルを出た現世では考えられない、現世と霊界が交じり合ったような不思議な空間がそこには存在していた。



「・・・ここも普段はもう少し静かなのですがね・・・お待ちしておりましたよ、曹兵衛様・・・。」
 雑踏を背に一人の老人が曹兵衛たちに近付き、軽いお辞儀をして出迎えてくれる。



「ギキョウ、久しぶりですね・・・まだまだお元気そうで何よりです。」
 曹兵衛が老人の名前を口にして、笑顔を送る。

「おじじ様、わざわざお迎えにこられなくても・・・。」
 ネヤがギキョウを労わるように寄り添い優しく声をかける。

「ほっほっほっほっ、そろそろお世話になる上役には丁寧に接しておかねばなるまいて。」
 曹兵衛に微笑みながら孫のネヤに答えるギキョウ。

「その様子だと、まだまだ貴方とは向こうでは会えませんね。」
 曹兵衛がにこやかに会話を弾ませる。

「さぁ、こちらへ・・・おじじ様が退屈で出迎えに来たのなら、他の皆さんも待ちくたびれておいででしょう。」
「おやおや、ひどい言われようだ・・・。」
 ネヤが丁寧に曹兵衛達を決められた場所に導く。ギキョウはネヤの痛い言葉に苦笑いをする。



「お待ちしておりましたっ。」



 ネヤが導く先の仰々しい扉を開けると、そこには長い立派なテーブルが用意されていて、入って左手側の席に、7人の男女の老人が立って、深々と曹兵衛達にというよりか、曹兵衛に対してお辞儀をしている。その後ろには、若い男女十数人が壁を背に立っており、こちらもまた、曹兵衛達に深々とお辞儀をしている。

「すみません、お待たせしました・・・さぁ、皆さん、席に着きましょう。」
 曹兵衛はそう言うと、少し足早にテーブルの右側の方に向かい、ちょうどテーブルの真ん中の席に座った。

 佐乃達も曹兵衛に続くようにテーブルの右側の用意された席にそれぞれ座り、空柾やネヤ、リュウは左側の壁を背に立っている男女の中に入っていく。


「ついて早々ですみませんが、さっそく悪霊連合についての会合を始めてもらっても宜しいでしょうか?」
 曹兵衛は席について、両肘を手を組み、その後ろから全体をぐるりと見ながら話を始める。

 一枚岩ではない、霊界と救霊会の人間達。
 悪霊連合に対しての自分達の利益を忍ばせた駆け引きを交えたすり合わせが、いよいよ始まろうとしていた。




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