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第3幕 虹色の刀士と悪霊連合編
名刀はスパスパ斬れる!って言いますが、それを試した人はいるんでしょうか?・・・私はためしたい・・・なんて思いません・・・よ?
しおりを挟む菊の助の武家屋敷の一室で、ヒヒロと菊の助が対面して座り、秦右衛門と金太が菊の助を守るように左右に控えて神妙な面持ちで座り、何やら密談をしていた。
「ヒヒロ様、間違いないのですか?」
秦右衛門がいつに無く真剣な顔でヒヒロに尋ねる。
「・・・ヒヒロの見立てなら間違いあるめぇよぉ・・・。」
目を閉じたまま腕組みをして、青年菊の助がヒヒロが答える前に秦右衛門に答えた。
「いよいよ動き出したんでしょうか?」
金太も何も食わずに、背筋を伸ばして、菊の助に尋ねる。
「・・・断凱のあの台詞も強がりとは思わん・・・仕掛けてきたのは間違いねぇなっ。」
菊の助が目を見開いて、金太に答える。
「・・・・・・今まで、見つけられなかった闘々丸が、まさか『悪霊連合』の中に居たなんて・・・。」
ヒヒロが深刻そうな顔で畳を見ながら話す。
鋭利な刃物で惨殺された殺人事件。
あの事件だけならば、この4人はこうも深刻な雰囲気に飲まれたりはしなかった。しかし、あの惨殺事件を皮切りに、辰区に近しい関係にある現世の地域で、不可解な殺人事件や行方不明事件が多発していた。余りにも、多発する事件に警察としては人員が足りず、ろくに捜査が出来ない中で、空柾の所属する組織『救霊会』もてんてこ舞いとなっていた。それはもちろん、多発する事件がことごとく、悪霊が関係している事件ばかりだったからだ。いつもの悪霊事件なら、悪霊は賢く手がかりを消していくところなのだが、今回は違った。善良な霊や人間側に挑戦してくるようなあからさまな痕跡を残して、人を殺めていっていた。この対応に、救霊会は全国の会員に号令をかけ、霊界ではあまりにも異常な悪霊達の行動に辰区では留まらず、全12区の猛者達も動き出そうとしていた。
「悪霊連合が動き出した以上、ワシらも動かざるを得ねぇ~・・・何より、原因はワシらにあるようなもんだからな・・・。」
菊の助は天井を見ながら、苦虫を潰す。
「善朗君は正しい行いをしただけです・・・我々が楽な選択をしてきたツケでしょう・・・。」
秦右衛門が菊の助に座ったまま少し近付いて意見する。
「あたりめぇよっ・・・他の区の奴らにどれだけ言われようが、善朗には何の責任もねぇっ・・・これはワシらの問題だっ。」
菊の助は秦右衛門の意見に同意した上で、秦右衛門を鋭い目で見て言い放つ。
「霊界は何処まで動くかしらか?」
ヒヒロが真剣な眼差しで菊の助をみて、尋ねる。
「んん~~っ・・・俺に来てる情報からは相当上の方まで動くみてぇだが・・・穏健派はとりあえず動く格好だけで静観だろうよ・・・。」
菊の助は苦虫をさらに数匹潰しながらヒヒロを見て答える。
「・・・殿っ・・・我々はいかがしますか?」
秦右衛門が正座しながら、両拳を畳につけて、前のめりで菊の助に指示を仰ぐ。
「・・・・・・ワシは今回は強引な手を使う・・・秦の字達は、奴との間合いをしっかり見て、闘々丸を追えっ。」
「ハッ!」
「御意ッ!」
菊の助の指示に秦右衛門と金太は頭を深く下げて、素早く音を立てずにその場から離れていく。
「・・・善朗君を・・・。」
ヒヒロが何かを察して、不安そうな目を菊の助に向ける。
「・・・大前の所有者は善朗に渡った・・・ワシの考えが甘かったと今更、後悔しても仕方あるまい・・・闘々丸が本格的に動き出した以上・・・奴の狙いは大前を持っている善朗になる・・・善朗をムザムザ失うわけにはいくめぇよ・・・佐乃も心配していたが・・・多少強引だったとしても、次の段階に行くしかあるめぇよ・・・。」
菊の助は眉間にシワを寄せ、目を閉じ、腕組みをして、言葉を搾り出す。
「菊の助も不安なの?」
ヒヒロが菊の助の含みを指摘して尋ねる。
「・・・戦場をかけてたワシやお前にとっては当然の葛藤で飲み込めたが・・・佐乃はワシ達とは生きていた時代が違う・・・佐乃の心配も分からんでもねぇが・・・向き合うのは、いつだって一人で、本人しかいねぇ・・・ワシらが甘やかして大事に育てても仕方ない・・・と、割り切るしかあるめぇよぉ・・・。」
菊の助はゆっくりと目を開けて、悲しげな表情をしながら、ヒヒロにそう答えた。
「・・・あの子ならきっと大丈夫・・・貴方の子孫ですもの・・・。」
ヒヒロが優しい微笑を菊の助に向ける。
「神様は本当にえげつねぇもんだぜ・・・。」
菊の助はヒヒロに答えるように元気なく口角を少し上げる。
「善朗さんっ!」
「はいっ!」
善朗が大前と道を歩いていると、空から乃華の声が降り注ぐ。善朗は条件反射のように乃華に返事をして、空を見上げた。
「大前さんも一緒なんですねっ・・・丁度よかった・・・。」
乃華は空から善朗の目の前に舞い降りて、真剣な目で二人を見る。
「何を言うておる・・・ワシが主から離れるわけが無かろうっ。」
紙袋の中から栗饅頭を取り出して、頬張りながら大前が乃華に抗議する。
(・・・よく言うよ・・・ちょくちょく甘いものにつられていなくなるくせに・・・。)
乃華に徹底抗議する大前を横目に、善朗が心の中で大前の主張を否定する。
「あれっ?そういえば、あのヤンキーは今日はいないんですね・・・話がややこしくならなくてよかった・・・。」
乃華がキョロキョロしながら、賢太の姿が見えない事にホッとする。
「賢太さんなら、美々子ちゃんと一緒に現世で何か探しモノがあるとかで・・・。」
善朗が乃華に素直に賢太の事を教える。
「へぇ~、そうなんですかぁ・・・って、あの人のことなんて、どうでもいいんですっ!大前さん、闘々丸っていう刀を知ってますよねっ?」
「ッ?!」〔・・・ドサッ・・・〕
乃華が真剣な目を大前のみに向けて、闘々丸のことを大前に尋ねる。大前は乃華の質問に目を丸くして、持っていた栗饅頭の入った大事な紙袋を地面に落とした。
「・・・オヌシ、どこでそいつの名前を聞いた?」
大前はいつもは見せない鬼気迫る表情で乃華に顔を近付けて、尋ね返す。
「うっ・・・いえ、現世の方で悪霊に関する事件が多発してまして、大江戸12区のそれぞれの区役所はその対応で大忙しなんですが・・・辰区の管轄にある所で起きた惨殺事件に、闘々丸という妖刀の事に関する資料の中に、大前さんの名前があったものですから・・・善朗君が巻き込まれるんじゃないかと・・・。」
乃華は完全に大前の眼力に心がひざまずき、怯えながら知っていることを全部スラスラと話した。
「・・・・・・。」
大前は乃華の話を全部聞いても尚、その険しい表情は直らず、さらに暗い闇が増えたように思えた。
「・・・だっ、大前?」
善朗がさすがに心配になって、大前に声をかける。
「主よ、今すぐ菊の助の元に行くぞっ!」
「えっ?!」
大前は近付いてきた善朗の手をガッシリと掴み、おもむろに駆け出した。善朗は大前に突然掴まれて、引っ張られるも余りにも強い大前の力に身体が宙に浮いて、抗う術がなかった。
「ちょっ、ちょっとっ?!」
乃華はあっという間に大前に置いて行かれて、声だけ残して、姿が見えなくなってしまった。
(・・・とっ、闘々丸って・・・いったい・・・。)
善朗は大前に無抵抗で引っ張られながら、何も言えずにいた。
何も言える訳が無かった。
余りにも怒りや殺気に満ちた大前の顔を見ていると、とても軽々しく言葉を発すること自体がためらわれたからだ。
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