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第3幕 虹色の刀士と悪霊連合編
妖刀は血をススル
しおりを挟む〔ウウウウウウウウーーーンッ、ウウウウウウーーーーンッ!〕
街の喧騒を掻き消すようにパトカーのサイレンが夜の街に鳴り響く。
「・・・・・・。」
冥は警察が周りで慌しく動く中、刑事に連れられて、人間の遺体を眺めている。
「これは・・・そっち系のモノなんでしょうか?」
中年でヨレヨレの紺のスーツを着た男性が、冥の隣に立っている空柾に尋ねる。
「・・・あまり認めたくは無いでしょうが・・・我々の見解としては間違いありませんね・・・。」
空柾が遺体を見ながら、腕組みをして、中年男性にそう答えた。
「・・・我々には、切れ味のいい刃物で切られた惨殺事件にしか見えんのですが・・・。」
頭をかきながら中年男性が困り果てた顔で呟く。
困惑する中年男性の後ろに控えていた目のぎらついた若いスーツの男性が、冥達を睨んでいる。
「先輩っ、この人達なんなんですかっ?」
若い男性は中年男性の耳元で小声ながらも強い口調で空柾達をチラチラと見ながら、怪訝そうに尋ねる。
「お前、霊感ってあるか?」
「えっ?」
中年男性が突然突拍子も無い質問を若い後輩に投げかける。若い後輩は突然の不思議な質問に困惑を隠せない。
「俺には霊感はないよ・・・でも、この仕事をしてると認めざるを得ないんだよ・・・特に今回のこういう事件に関わっちまうとな・・・。」
やれやれと肩を落として、中年男性が遺体に目線を落とす。
困惑する青年に肩を落とす中年男性を見ていた空柾が青年の方に近付く。
「・・・申し遅れました。私は『救霊会』に所属しています『鼓條 空柾』(こじょう あきまさ)と言います・・・この度はお邪魔して、もうしわけありません。」
空柾は困惑している青年に丁寧に自己紹介をして、深々と頭を下げる。
「えっ・・・あぁっ・・・ご丁寧にありがとうございます・・・。」
青年は丁寧に対応する空柾に直立不動で、綺麗にお辞儀をして対応する。
「空柾さんは、我々では対応できない『そっちの世界』の事件を解決して下さる専門家なんだよ・・・今回は、その専門分野っていうわけさ・・・。」
中年男性はそう言うと、キビスを返して、どこかへと歩き出していく。
「先輩っ!?」
現場を離れる先輩に空柾の顔を見ながら、先輩を呼び止めようと声を掛ける青年。
「我々には我々の仕事をするしかない・・・目撃者が居ないか聞き込みしてきますんで・・・先生方、よろしくお願いします・・・。」
肩をすぼめて中年男性が背中を向けたまま、空柾にそう言葉を投げかけた。
「・・・対応ありがとうございますっ・・・よろしくお願いしますっ。」
空柾は中年男性の背中に深々と頭を下げてお礼を言う。
「・・・・・・。」
冥はそんな兄を不服そうに見ている。
空柾は冥の態度を感じつつも、最後までその姿勢を崩さずに二人を見送った。
「・・・我々は求められていても、異物だ・・・仕事をスムーズにしたかったら、頭は下げれるだけ下げろ・・・。」
二人の刑事が現場から居なくなってから、冥に向けて空柾が言った世渡りについてのアドバイスだった。
空柾は刑事が居なくなった後に、遺体を入念に調べる為に膝をついて、白い手袋で出来る限り詳しくみていく。
「・・・・・・。」
冥はそんな兄の姿を見つつも、周囲で自分達を怪訝そうに見ている警察関係者達の視線が気になって仕方なかった。
(・・・異物か・・・確かに自分に霊が見えなくて、いきなり仕事場を荒らされたら、私でも怒るよね・・・。)
腕組みをしつつ、横目で周囲を見ながら冥が自分を納得させる。
「冥、忘れるな・・・我々はできる限り、霊と人の世界を守ることが仕事なんだ・・・そのためには如何なる方法も使う・・・。」
空柾が自分達の使命を冥に忘れないように諭していく。
「・・・何回も聞いた・・・。」
冥は兄のいつもの説教に呆れて、答える。
「お前はどう思う?」
空柾が一旦遺体の調査を終えて、立ち上がりながらずっと見ていた冥に尋ねた。
「・・・切り口からすごい霊力を感じる・・・悪霊が使った刃物でもここまで力の痕跡が残るなんて・・・。」
冥は素直に空柾の質問に答えていく。
「・・・そうだな・・・あまりにも痕跡が残りすぎている・・・悪霊が獲物を狩るならもっと隠すだろうが・・・。」
「わざとって・・・こと?」
空柾が腰に手を当てて、遺体を睨みそう言うと、冥が先読みをして続く。
「わざとだとすると・・・誰に教えているのか・・・悪霊の中にはシリアルキラーはたしかに多いが・・・それとも違う気がしてならない・・・。」
空柾が冥の糸口をたどって答えに辿り着こうとする。
「それにしても、切り口も鮮やかっていうのかしら・・・なんだか、変な感じだけど・・・きれい・・・。」
冥が遺体の切り口を見て、心で思ったことが言葉となって口からこぼれる。
遺体の切り口は鋭利な刃物で左肩から右わき腹にかけて一刀で斬られていた。その傷口は一切の戸惑いも無く、骨すらも障害物にはならないほどの切れ味だった。その時、ふと口を開くもの有り・・・。
「・・・闘々丸(とうとうまる)・・・。」
今までずっと黙っていたヒヒロが突然、言葉を呟いた。
「闘々丸?」
空柾がヒヒロの顔を見ながら復唱する。
空柾はヒヒロの顔を見て、驚く。ヒヒロは何か恐ろしいモノを見たかように怯え、額に豆粒大の汗を大量にかいていた。
「・・・何か知ってるの?ヒヒロさん・・・。」
冥が臆せず、ヒヒロに尋ねる。
「・・・もしも、闘々丸なら・・・菊の助にしか止められない・・・。」
ヒヒロが小刻みに震えながら遺体の切り口を凝視している。
冥達が殺人現場で話している様子を建物の屋上から何者かが見ていた。
「・・・・・・。」
パンツスーツを着た女性で、スーツには返り血がびっしりと飛び散っている。
そして、その右手には、刀としては少し短い、ドスにしては飾りがしっかりとしている刃物が握られていた。その刃物は赤い月の光に反射して輝いているが、どこか暗い紫色の光沢を自ら放っているようだった。
女は冥達を見て、白目で笑っている。裂けんばかりにあげられた口角が白い歯を浮き立たせて、次の獲物を見定めた猛獣のようだった。
「・・・待っているぞ、姉上・・・。」
女性はそう言葉を残して、その場から姿を消した。
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