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第2幕 霊界 ネオ大江戸辰区縄張り激闘編
善朗の成長 *挿絵有
しおりを挟む〔ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!〕
佐乃道場に近付くにつれて、善朗達の耳に怒号とも取れる人々の声が届いてくる。
(・・・すごい・・・どれだけの人が押し寄せてるんだ・・・。)
善朗はまだ見えない群集の大きさに身が震えていた。
すると、佐乃道場に続く道の角を曲がると虎丞組の組員が何人か見張りに立っていた。
「っ!?」
「なんだ、てめぇはっ!佐乃のもんか!?」
善朗は勢い良く曲がってしまった為にあっさりとみつかってしまい、睨まれた。
「ちょっと貴方達っ、こんな所で何してるんですかっ!」
善朗についてきていた乃華が管理官としての立場を使い、組員を追い払おうとする。
「あぁっ?!・・・区役所の人間かっ?・・・これは俺たちの問題だっ、お前はすっこんでろっ!!」
組員達は最早誰一人として、冷静な人間はおらず、少しでも自分達の邪魔をする者は全員敵として、排除しようと息巻いていた。
〔ドンッ!〕
「キャッ!」
「乃華さんッ!」
乃華は殺気立つ組員の一人に強く手で押されて、尻餅をつく。善朗はそんな乃華に透かさず近付いて、気遣った。
「ちょっと、相手は女性ですよっ!暴力はやめて下さいっ!」
善朗は組員達の余りの乱暴に少し頭に血が上って怒鳴る。
「・・・ヒーロー気取りか、兄ちゃんっ!あんまり舐めてるとお前も消すぞっ!」
別の組員が顔を近付け、善朗達を見下ろして、怒鳴り散らす。
「主ッ!こやつらに言葉などは不要だっ・・・ここは戦場っ・・・押して通るまでっ!」
「ッ?!」
善朗達に迫る組員との間に大前が割り込んで、組員に怒鳴る。
姿形はグラマラスな女性と言えど、流石、付喪神の大前の迫力に組員達は一歩引いて、臨戦態勢を取った。
「・・・乃華さん・・・少し離れれて下さい・・・。」
善朗は大前の言葉に覚悟を決めて、ゆっくりと立ち上がり剣を相手の首元に突きつけるような構えをする。
無手だった善朗の手には、大前が姿を消して、いつの間にか一振りの刀が握られていた。
「・・・てめぇ~・・・。」
組員がドスや刀を取り出して、いよいよ戦いが始まろうとしていた。
〔キンッ、ヒュンッ、カキンッ、ビュンッ〕
善朗は大前を中段に構えて、組員達の攻撃を交わしていく。
「・・・・・・。」
相手は生前なら道を余裕で開けるほどの強面の大人の男性達だったが、善朗は怖気づく事無く、落ち着いて全体を見て、相手の攻撃を受け続ける。
これは佐乃道場で十郎汰達と修業した成果だろう。
善朗には、組員達の攻撃が易々と予測が出来て、その通りに動く相手の行動が手に取るように分かった。しかし、
〔キキンッ、ビュビュンッ、カキンッ、ヒュンッ〕
善朗は受けに回るだけで、一行に攻めようとはしなかった。
(主よっ、なぜ攻めぬっ!)
「・・・・・・。」
頭の中で、攻めに回らない善朗に大前が憤慨する。
だが、善朗は苦しい表情で流すだけだった。
敵の攻撃が熾烈で一杯一杯なのではない。
善朗の中に迷いがあり、モヤモヤとして、動きを鈍らせていた。
(・・・主よ、相手が自分の攻撃で消滅してしまわないか、怖がっておるのか?)
「ッ?!」
大前の的確な言葉に、善朗がハッとする。
善朗は組員達と、戦っている中で、余りにも力の差があると認識してしまった。
そのことにより、どうしても、相手を切り捨てると言う事が出来ないでいたのだ。
(まったく主よ・・・どこまで優しいのだっ・・・相手は主の事が消えようがなんとも思っておらん連中ぞっ・・・安心せい、菊の助のように相手を圧倒する事ができなくとも、気絶させると思うだけで、霊体はそう簡単に消滅したりせぬっ。)
「・・・えっ?!」
戦いの中で、相手を思いやりすぎる善朗に対して、あきれ果てる大前だったが、そこも善朗と良さとして、霊体バトルの中で、相手を気遣えば、容易に消滅はないと優しく説明する。
その説明を聞いて、一気に善朗の中のモヤが晴れた。
「ガキがっ!何、腑抜けてやがるっ!」
「ちょこまか動きやがってっ!」
「調子のんじゃねぇーぞっ!!」
組員達が、なかなか捉える事のできない善朗に対して、イライラが爆発して、大振りに襲い掛かってきた。
〔ズバンッ、スパパパンッ・・・・・・ドサッ、ドササッ〕
勝負は一瞬だった。
大前の説明で、相手を無闇に殺める事はないと聞いた善朗は相手を思いやりながら、それでもすばやくその場にいる組員全員を切って捨てた。斬られた組員達は全員が一刀の元、気を失いその場に倒れこんだ。
「・・・すご・・・い・・・。」
善朗の戦いを見ていた乃華が地面に座り込んだまま唖然とする。
縄破螺との壮絶な戦いも目にしていた乃華だったが、今回の善朗には、技と言う洗礼された動きがあった。その美しいまでの無駄のない動きが素人の乃華の目にもスッと入ってくるほどだった。それは、これまでの善朗がどれほど刀と向き合ったかの証明でもあった。
「大丈夫ですか、乃華さん。」
敵を全員倒した善朗が座り込んだままの乃華を気遣って声を掛ける。
「えっ・・・えぇっ・・・大丈夫です・・・。」
善朗の手を借りて、ゆっくりと立ち上がる乃華。
「・・・乃華さん、俺、師匠が心配で・・・ちょっと飛ばしますんで、後からゆっくり来て下さい。」
善朗は立ち上がった乃華に微笑んでそう告げる。
「・・・はい・・・。」
完全に善朗の戦いに心奪われた乃華が呆けた表情で一言だけ返事をした。
乃華の返事を聞くと、善朗は抜き身の大前を下段に構えて、佐乃道場の方へと走っていった。
「乃華ちゃああああああああああんっ!」
乃華の頭上から伊予の声が届く。
「乃華ちゃん、置いてくなんてひどいよっ!こんなに面白そうなのにっ!」
「うん、ごめんね・・・。」
「乃華ちゃん?!」
伊予は乃華の姿を空から見つけると一目散に飛び降りて、乃華に掴みかかり、恨み言をぶちまけた。しかし、心ここにあらずの乃華の素直な謝罪に唖然としてしまう。
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