37 / 99
幕間
現世と幽霊
しおりを挟む
〔ゴゴゴゴゴゴーーーーーーーッ〕
「キャアアアアアアアアアーーーーッ!」
「・・・・・・。」
善朗は勢い良く急坂を下るジェットコースター『スプラッターマウンテン』を眺めながら、気持ち良い悲鳴を上げる乗客の様子を見ていた。
「・・・善朗君、遊びで来てるんじゃないんだからねっ。」
「あっ、ごめん。」
ボ~ッと眺めていた姿を冥に怒られて、善朗が謝る。
「・・・もうっ・・・私達はただでさえ注目されてるのよっ!ちゃんとしないと示しがつかないんだからっ。」
両腰に手を当てて、ご立腹の冥。
「・・・いや・・・死んでから、ここに来るなんて思わなかったから・・・。」
頭をかきながら冥の怒りを静めようとする善朗。
「・・・ふぅ~~っ・・・確かに善朗君も高校生だし・・・仕方ないのは認めるけど・・・。」
やれやれといった表情で善朗を見る冥。
「・・・・・・。」
善朗は冥の怒りが静まった事に安心すると、どうにも落ち着かないように周囲を見ている。
「・・・どうしたの、善朗君?」
キョドキョドしている善朗に冥が尋ねる。
「・・・なんていうか・・・人多いなって・・・。」
善朗が周囲を見ながら、冥に答える。
「そりゃ、ネズネズアイランドですものっ、人は多いに決まってるじゃないッ!」
何の事かと心配していたのがバカらしくなって、また怒りがよみがえってくる冥。
「・・・いや・・・そうじゃなくて・・・。」
善朗が未だ困惑しながら冥の方を見ている。
「・・・だ・か・ら、幽霊だって、多いのよっ!」
善朗の困惑を言い当てて、少し語尾を強くする冥。
冥が大きく手を広げるその先にも善朗が困惑する風景が広がっていた。
そこには、普通に楽しんでいる『生きている人』が大勢楽しんでいる姿があったのだが、それに重なるように『見えない人』達もたくさん楽しんでいたのだ。
「・・・・・・。」
そのあまりにも不思議な光景に善朗は言葉を失う。
普通の日本人の親子連れに混じって、団体観光する見えない人達。
外国の観光客が写真を取っている周りで、変顔をして遊ぶ見えない人達。
空を見上げれば、見えない人達が当然のように空を飛んで楽しんでいた。
さらに不思議な光景は、乗り物に生きてる人が乗っているのに、その場所に重なって見えない人達が一緒に乗っている様子だった。空を自由に飛べる人達がいまさら絶叫マシンで怖がるのだろうかと思うが、そこはそこ。楽しんでいる本人達は、生きていた頃を思い出して楽しんでいるのだろう。見えない人達独特の乗り方、『ジェットコースターに捕まって乗る』という、人生を終えた人だからこそ出来る遊び方をする者もいた。この人達は、エンで一日パスを買って、現世を満喫しに来ているのだろう。
「ビールいかがっすかぁ~~っ!」
「おっ、兄ちゃんっ。こっちに2杯頼むわっ!」
「へい、毎度っ!」
善朗の近くを当然のようにビールを売り歩く見えないボーイ。
それを当然のように買う見えないおじさん。
流石に見えない人達はお店は持てないので、殆どが売り子という形で園内で商売をしていた。律儀な事に、見えない世界では、ちゃんと見えない人用に係員が乗り物の列を管理しており、傍若無人というわけではなかった。
「・・・人に酔いそう・・・。」
あまりにも多い人混みに善朗は気分が悪くなった。
「ちょっと善朗君、しっかりしてよ・・・。」
善朗の情けない姿に冥が少しがっかりする。
生きている内には見えない人達が、善朗にはしっかり見えているので、通常の2倍の人出が善朗の目には映っていた。見えない人達は、生きている人達を気にする必要が無いので、平気で透けて通っていくのがまた、気分を悪くするという不思議な感覚が善朗を襲っていた。
「・・・こんな所にも、悪霊っているんですね・・・。」
口を押さえながら善朗が冥に尋ねる。
「・・・お化け屋敷とか暗い場所にはたまにいるんだけど、基本的にはいろは番付の上位の悪霊はいないわ。」
冥が善朗の質問に素直に答える。
「えっ・・・じゃぁ、今日は何しに?」
善朗は冥に当然の質問を再び尋ねる。
「・・・悪霊って言っても、『いろはにほへとちりぬるを』って分けられてて、今日は大体『ちり』より下の低級霊や動物霊の退治よ・・・上の方の悪霊は基本的に明るかったり、楽しかったりする場所は避けるから、こういう場所には滅多に姿を見せないけど、下の方の霊は知能も低くて分からずに迷い込んで、一般人を襲ったりするから、私達が管理会社から定期的に見回るように依頼を受けてるの。」
冥は今度は丁寧に、右も左も分からない善朗に優しく教える。
「・・・なるほど・・・。」
本当に全てを理解したか分からない善朗がとりあえず相槌を打つ。
「・・・結界のほころびの確認とかがメインだけど、たまにイレギュラーで中にまで入ってくる事があるからね・・・これでも、いい仕事になるのよ。」
冥が胸を張って、ニコリと笑う。
「・・・そういうことなんで、ちゃんと頑張って下さいねっ。」
「・・・なんで、乃華さんも来てるんですか?」
当然のように善朗の隣にいる乃華に冥が疑問を投げかける。
「・・オホンッ、まだまだ式霊として、分からない事が多いと相談されましたので・・・。」
変な対抗意識でなぜか胸を張る乃華。
「・・・別にいいですけど・・・管理官って、そんなに一つに関わり多かったですか?」
腕組みをして、なぜか対抗する冥。
「・・・・・・。」
二人の板ばさみで沈黙して苦笑いするしかない善朗。
「わああああああああっ、乃華ちゃ~~~~んっ、見てみてチョロスチョロスッ!」
「なんで、あんたまで来てんのよっ!!」
両手にチョロスを持って、飛んでくる伊予に向かって、乃華が怒鳴り散らす。
「ええええええええっ、せっかく現世の遊園地に行くって言うからぁ・・・これは管理官の特権だなって・・・。」
チョロスを頬張りながら伊予があっけらかんと答える。
「まったく・・・これだから・・・今日は仕事できてるのよっ!」
「もうっ、そんなに怒んないでよぉ。」
鬼の形相で伊予を睨む乃華をのらりくらりと交わす伊予。
「・・・・・・ふぅ~~っ・・・善朗君に管理官が二人・・・モテモテね。」
ジト目の冥が少しトゲがある口調で善朗に言い放つ。
「・・・伊予さんとは、今日初めて話したぐらいで・・・乃華さんの親友っていうからっ・・・。」
「親友じゃありませんッ!悪友です!!」
善朗の伊予の説明に食い気味で乃華が否定する。
「あああああ~~んっ・・・ひどいよぉ~~っ・・・私は乃華ちゃん、親友だと思ってるのにぃ~~っ。」
両手の甲で目を覆い、泣いてみせる伊予。チョロスはしっかりと両手に握られている。
「親友と思うなら、その親友の仕事中に買い食いしないでしょっ!」
「・・・・・・。」
乃華の正論に伊予はチョロスを食べながら上目遣いで乃華を見る。
「きゃああああああああああああっ!」
4人がてんやわんやしていると、何処からともなく女性の悲鳴が聞こえた。
「向こうだわッ!」
冥がいち早く声の方向を特定して走り出す。
「あっ、ちょっとずるいっ。」
冥の示した方向に善朗と乃華が飛んで向かうのを冥が悔しがる。
冥はどうしても人混みを掻き分けないといけないので、飛んでいける二人が羨ましかったのは仕方がなかった。
「いってらっしゃぁ~っ・・・。」
「・・・ッ!?」
「・・・いきますぅ~~~・・・。」
飛んでいく乃華達をチョロスを頬張りながら見送ろうとした伊予だったが、乃華の睨み一閃に渋々飛んでついていく。
「・・・熊ッ?!」
見えない人たちが逃げてくる先が見えた善朗が混乱の元凶の姿を見て、言葉を発する。
「動物霊ですねッ、少し強い・・・ち組の上ですか・・・結界に引っかからないなんて、珍しいですっ。」
乃華が熊を見て、素早く分析して、善朗に教える。
「はあああああああああっ!」
善朗達が熊の姿に気を取られていると、その下を冥が人混みを巧みに掻き分けて、素早く熊に近付いていく姿が見えた。
普通に遊園地を楽しんでいた熊の見えない一般人は冥を見て、何事かと不思議がっている。
「やああああああっ!」
あっという間に熊まで辿り着くと、冥は勢い良く空中に飛び、数珠を巻きつけた右ストレートを熊に放つ。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
事情が分からない一般人達が想像以上に高い冥の跳躍を見て、歓声を上げる。
見えない人達も、安全な所から歓声を同じように上げる。
「がおおおおおおおおおおおおおっ!」
襲い掛かってきた冥に威嚇して、両手を広げる見えない熊。
〔ドパアアアアアアッ!〕
冥のきれいな右ストレートが熊に炸裂すると、熊は当たった瞬間に吹き飛んで姿を消した。
「・・・すごっ・・・。」
余りの手際の良さに善朗の口から感嘆の言葉がこぼれ落ちる。
「・・・・・・。」
乃華も華麗な冥の除霊に言葉を失っていた。
「うわあああああああっ、冥チャンすご~~~いっ。」
後から渋々来ていた伊予が冥の仕事ぶりを見て、ゴマをするように冥に勢い良く近付いて讃えた。
「・・・・・・。」
冥の行動を一部始終分かる善朗達と対照的に何も見えない人達は、空中に飛んで、何もない所に叫びながら右ストレートを放つ冥の行動を見て、さっぱり理解できないで居た。
「・・・・・・。」〔パンッ、パンッ〕
冥はそんな雰囲気の中でも、冷静に服装を整えて、スタスタと何処かへと歩いていく。
「・・・・・・。」
一般人が唖然として見送る中、善朗達も静かに冥の後を追う。
一方、見えない人達は
〔パチパチパチパチパチッ!〕
「すげーぞ、ネエちゃんっ!」
「カッコいいっ!」
黙って歩いている冥を見えない人達が拍手喝采で、見送っている。
「・・・・・・。」
冥は見えない人たちの歓声に恥ずかしくなって俯いて顔を隠し、歩を早めた。
足早にその場を離れようとした原因はこれだった。
善朗はそんな冥が相棒として、少し誇らしくなって、頬が緩む。
「・・・ここですね・・・。」
熊を退治して、園内を一通り巡回してから結界の調査をしていると、結界のほころびを乃華が見つけた。
「・・・普通じゃないですね・・・。」
冥は結界のほころびを見て、それが自然と発生したものではないと判断した。
結界には通常では考えられない大きな穴が開いており、周囲を調べてみると、見事に御札が焼き切られている残骸が見つかった。冥は結界担当の霊能者を手配して、結界を張り直したが、管理会社には意図的なものだと伝えた。
「・・・今日はとりあえず、仕事は終わりだけど・・・なんだか、すっきりしないわね。」
冥が腕組みをして、管理会社の建物から見える夕日に彩られる園内を見て、そう呟いた。
「・・・それでも、すごかったですね・・・熊退治。」
延び延びになっていた除霊の感想をここぞとばかりに善朗が冥に告げる。
「・・・あれぐらい大した事ないわ・・・貴方でも出来るでしょ?」
当然とばかりに胸を張って、後ろ髪を左手で払って、答える冥。
「・・・ですかね?」
除霊といっても、縄破螺しか経験した事がない善朗はピンと来なかった。
「・・・・・・それで・・・乃華さん達は?」
冥が姿が見えなくなったお邪魔虫・・・もとい、乃華達の事を善朗に尋ねた。
「なんだか、気になるから先に帰って調べるって言ってました。伊予さんは残るって駄々こねてましたけど・・・。」
苦笑いを交えながら善朗が答える。
「・・・そうっ・・・なんだかんだ言っても、管理官だけあって助かるわ・・・善朗君も何か分かったら、連絡お願い。」
冥が真剣な目で善朗を見て、そう頼む。
「ハイッ!」
善朗は冥の言葉に、ピンと背筋を伸ばして、元気良く返事をした。
「・・・う~~~~んっ・・・それじゃ、帰りましょうか?」
冥は大きく背伸びをして、善朗にそう提案する。
「・・・もう帰るんですか?」
夕日に染まる園内を見ながら善朗が尋ねる。
「・・・善朗君、私達は仕事で来たのよ?」
右手の人差し指を善朗に突きつけて冥が眉間にしわを寄せる。
「あはははっ、そうでした・・・。」
頭をかきながら反省する善朗。
「・・・まぁ、今度はゆっくりね・・・。」
冥が誰にも聞こえないようにボソリという。
「えっ?」
余りにも小さな声だったので聞き取れなかった善朗が聞き直す。
「・・・・・・なんでもないっ!それじゃぁねっ!」
「アッ!?」
冥は恥ずかしさを隠すようにそう言って早歩きで部屋を出て行った。
突然、立ち去った冥に声を掛けようとするも届かない善朗の声。
「・・・・・・あのっ・・・・・・どうやって、帰ったら・・・。」
残された善朗が、まだ不慣れな霊界との行き来について困惑して立ち尽くした。
その後、乃華に涙目で電話して迎えに来てもらった。
「キャアアアアアアアアアーーーーッ!」
「・・・・・・。」
善朗は勢い良く急坂を下るジェットコースター『スプラッターマウンテン』を眺めながら、気持ち良い悲鳴を上げる乗客の様子を見ていた。
「・・・善朗君、遊びで来てるんじゃないんだからねっ。」
「あっ、ごめん。」
ボ~ッと眺めていた姿を冥に怒られて、善朗が謝る。
「・・・もうっ・・・私達はただでさえ注目されてるのよっ!ちゃんとしないと示しがつかないんだからっ。」
両腰に手を当てて、ご立腹の冥。
「・・・いや・・・死んでから、ここに来るなんて思わなかったから・・・。」
頭をかきながら冥の怒りを静めようとする善朗。
「・・・ふぅ~~っ・・・確かに善朗君も高校生だし・・・仕方ないのは認めるけど・・・。」
やれやれといった表情で善朗を見る冥。
「・・・・・・。」
善朗は冥の怒りが静まった事に安心すると、どうにも落ち着かないように周囲を見ている。
「・・・どうしたの、善朗君?」
キョドキョドしている善朗に冥が尋ねる。
「・・・なんていうか・・・人多いなって・・・。」
善朗が周囲を見ながら、冥に答える。
「そりゃ、ネズネズアイランドですものっ、人は多いに決まってるじゃないッ!」
何の事かと心配していたのがバカらしくなって、また怒りがよみがえってくる冥。
「・・・いや・・・そうじゃなくて・・・。」
善朗が未だ困惑しながら冥の方を見ている。
「・・・だ・か・ら、幽霊だって、多いのよっ!」
善朗の困惑を言い当てて、少し語尾を強くする冥。
冥が大きく手を広げるその先にも善朗が困惑する風景が広がっていた。
そこには、普通に楽しんでいる『生きている人』が大勢楽しんでいる姿があったのだが、それに重なるように『見えない人』達もたくさん楽しんでいたのだ。
「・・・・・・。」
そのあまりにも不思議な光景に善朗は言葉を失う。
普通の日本人の親子連れに混じって、団体観光する見えない人達。
外国の観光客が写真を取っている周りで、変顔をして遊ぶ見えない人達。
空を見上げれば、見えない人達が当然のように空を飛んで楽しんでいた。
さらに不思議な光景は、乗り物に生きてる人が乗っているのに、その場所に重なって見えない人達が一緒に乗っている様子だった。空を自由に飛べる人達がいまさら絶叫マシンで怖がるのだろうかと思うが、そこはそこ。楽しんでいる本人達は、生きていた頃を思い出して楽しんでいるのだろう。見えない人達独特の乗り方、『ジェットコースターに捕まって乗る』という、人生を終えた人だからこそ出来る遊び方をする者もいた。この人達は、エンで一日パスを買って、現世を満喫しに来ているのだろう。
「ビールいかがっすかぁ~~っ!」
「おっ、兄ちゃんっ。こっちに2杯頼むわっ!」
「へい、毎度っ!」
善朗の近くを当然のようにビールを売り歩く見えないボーイ。
それを当然のように買う見えないおじさん。
流石に見えない人達はお店は持てないので、殆どが売り子という形で園内で商売をしていた。律儀な事に、見えない世界では、ちゃんと見えない人用に係員が乗り物の列を管理しており、傍若無人というわけではなかった。
「・・・人に酔いそう・・・。」
あまりにも多い人混みに善朗は気分が悪くなった。
「ちょっと善朗君、しっかりしてよ・・・。」
善朗の情けない姿に冥が少しがっかりする。
生きている内には見えない人達が、善朗にはしっかり見えているので、通常の2倍の人出が善朗の目には映っていた。見えない人達は、生きている人達を気にする必要が無いので、平気で透けて通っていくのがまた、気分を悪くするという不思議な感覚が善朗を襲っていた。
「・・・こんな所にも、悪霊っているんですね・・・。」
口を押さえながら善朗が冥に尋ねる。
「・・・お化け屋敷とか暗い場所にはたまにいるんだけど、基本的にはいろは番付の上位の悪霊はいないわ。」
冥が善朗の質問に素直に答える。
「えっ・・・じゃぁ、今日は何しに?」
善朗は冥に当然の質問を再び尋ねる。
「・・・悪霊って言っても、『いろはにほへとちりぬるを』って分けられてて、今日は大体『ちり』より下の低級霊や動物霊の退治よ・・・上の方の悪霊は基本的に明るかったり、楽しかったりする場所は避けるから、こういう場所には滅多に姿を見せないけど、下の方の霊は知能も低くて分からずに迷い込んで、一般人を襲ったりするから、私達が管理会社から定期的に見回るように依頼を受けてるの。」
冥は今度は丁寧に、右も左も分からない善朗に優しく教える。
「・・・なるほど・・・。」
本当に全てを理解したか分からない善朗がとりあえず相槌を打つ。
「・・・結界のほころびの確認とかがメインだけど、たまにイレギュラーで中にまで入ってくる事があるからね・・・これでも、いい仕事になるのよ。」
冥が胸を張って、ニコリと笑う。
「・・・そういうことなんで、ちゃんと頑張って下さいねっ。」
「・・・なんで、乃華さんも来てるんですか?」
当然のように善朗の隣にいる乃華に冥が疑問を投げかける。
「・・オホンッ、まだまだ式霊として、分からない事が多いと相談されましたので・・・。」
変な対抗意識でなぜか胸を張る乃華。
「・・・別にいいですけど・・・管理官って、そんなに一つに関わり多かったですか?」
腕組みをして、なぜか対抗する冥。
「・・・・・・。」
二人の板ばさみで沈黙して苦笑いするしかない善朗。
「わああああああああっ、乃華ちゃ~~~~んっ、見てみてチョロスチョロスッ!」
「なんで、あんたまで来てんのよっ!!」
両手にチョロスを持って、飛んでくる伊予に向かって、乃華が怒鳴り散らす。
「ええええええええっ、せっかく現世の遊園地に行くって言うからぁ・・・これは管理官の特権だなって・・・。」
チョロスを頬張りながら伊予があっけらかんと答える。
「まったく・・・これだから・・・今日は仕事できてるのよっ!」
「もうっ、そんなに怒んないでよぉ。」
鬼の形相で伊予を睨む乃華をのらりくらりと交わす伊予。
「・・・・・・ふぅ~~っ・・・善朗君に管理官が二人・・・モテモテね。」
ジト目の冥が少しトゲがある口調で善朗に言い放つ。
「・・・伊予さんとは、今日初めて話したぐらいで・・・乃華さんの親友っていうからっ・・・。」
「親友じゃありませんッ!悪友です!!」
善朗の伊予の説明に食い気味で乃華が否定する。
「あああああ~~んっ・・・ひどいよぉ~~っ・・・私は乃華ちゃん、親友だと思ってるのにぃ~~っ。」
両手の甲で目を覆い、泣いてみせる伊予。チョロスはしっかりと両手に握られている。
「親友と思うなら、その親友の仕事中に買い食いしないでしょっ!」
「・・・・・・。」
乃華の正論に伊予はチョロスを食べながら上目遣いで乃華を見る。
「きゃああああああああああああっ!」
4人がてんやわんやしていると、何処からともなく女性の悲鳴が聞こえた。
「向こうだわッ!」
冥がいち早く声の方向を特定して走り出す。
「あっ、ちょっとずるいっ。」
冥の示した方向に善朗と乃華が飛んで向かうのを冥が悔しがる。
冥はどうしても人混みを掻き分けないといけないので、飛んでいける二人が羨ましかったのは仕方がなかった。
「いってらっしゃぁ~っ・・・。」
「・・・ッ!?」
「・・・いきますぅ~~~・・・。」
飛んでいく乃華達をチョロスを頬張りながら見送ろうとした伊予だったが、乃華の睨み一閃に渋々飛んでついていく。
「・・・熊ッ?!」
見えない人たちが逃げてくる先が見えた善朗が混乱の元凶の姿を見て、言葉を発する。
「動物霊ですねッ、少し強い・・・ち組の上ですか・・・結界に引っかからないなんて、珍しいですっ。」
乃華が熊を見て、素早く分析して、善朗に教える。
「はあああああああああっ!」
善朗達が熊の姿に気を取られていると、その下を冥が人混みを巧みに掻き分けて、素早く熊に近付いていく姿が見えた。
普通に遊園地を楽しんでいた熊の見えない一般人は冥を見て、何事かと不思議がっている。
「やああああああっ!」
あっという間に熊まで辿り着くと、冥は勢い良く空中に飛び、数珠を巻きつけた右ストレートを熊に放つ。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
事情が分からない一般人達が想像以上に高い冥の跳躍を見て、歓声を上げる。
見えない人達も、安全な所から歓声を同じように上げる。
「がおおおおおおおおおおおおおっ!」
襲い掛かってきた冥に威嚇して、両手を広げる見えない熊。
〔ドパアアアアアアッ!〕
冥のきれいな右ストレートが熊に炸裂すると、熊は当たった瞬間に吹き飛んで姿を消した。
「・・・すごっ・・・。」
余りの手際の良さに善朗の口から感嘆の言葉がこぼれ落ちる。
「・・・・・・。」
乃華も華麗な冥の除霊に言葉を失っていた。
「うわあああああああっ、冥チャンすご~~~いっ。」
後から渋々来ていた伊予が冥の仕事ぶりを見て、ゴマをするように冥に勢い良く近付いて讃えた。
「・・・・・・。」
冥の行動を一部始終分かる善朗達と対照的に何も見えない人達は、空中に飛んで、何もない所に叫びながら右ストレートを放つ冥の行動を見て、さっぱり理解できないで居た。
「・・・・・・。」〔パンッ、パンッ〕
冥はそんな雰囲気の中でも、冷静に服装を整えて、スタスタと何処かへと歩いていく。
「・・・・・・。」
一般人が唖然として見送る中、善朗達も静かに冥の後を追う。
一方、見えない人達は
〔パチパチパチパチパチッ!〕
「すげーぞ、ネエちゃんっ!」
「カッコいいっ!」
黙って歩いている冥を見えない人達が拍手喝采で、見送っている。
「・・・・・・。」
冥は見えない人たちの歓声に恥ずかしくなって俯いて顔を隠し、歩を早めた。
足早にその場を離れようとした原因はこれだった。
善朗はそんな冥が相棒として、少し誇らしくなって、頬が緩む。
「・・・ここですね・・・。」
熊を退治して、園内を一通り巡回してから結界の調査をしていると、結界のほころびを乃華が見つけた。
「・・・普通じゃないですね・・・。」
冥は結界のほころびを見て、それが自然と発生したものではないと判断した。
結界には通常では考えられない大きな穴が開いており、周囲を調べてみると、見事に御札が焼き切られている残骸が見つかった。冥は結界担当の霊能者を手配して、結界を張り直したが、管理会社には意図的なものだと伝えた。
「・・・今日はとりあえず、仕事は終わりだけど・・・なんだか、すっきりしないわね。」
冥が腕組みをして、管理会社の建物から見える夕日に彩られる園内を見て、そう呟いた。
「・・・それでも、すごかったですね・・・熊退治。」
延び延びになっていた除霊の感想をここぞとばかりに善朗が冥に告げる。
「・・・あれぐらい大した事ないわ・・・貴方でも出来るでしょ?」
当然とばかりに胸を張って、後ろ髪を左手で払って、答える冥。
「・・・ですかね?」
除霊といっても、縄破螺しか経験した事がない善朗はピンと来なかった。
「・・・・・・それで・・・乃華さん達は?」
冥が姿が見えなくなったお邪魔虫・・・もとい、乃華達の事を善朗に尋ねた。
「なんだか、気になるから先に帰って調べるって言ってました。伊予さんは残るって駄々こねてましたけど・・・。」
苦笑いを交えながら善朗が答える。
「・・・そうっ・・・なんだかんだ言っても、管理官だけあって助かるわ・・・善朗君も何か分かったら、連絡お願い。」
冥が真剣な目で善朗を見て、そう頼む。
「ハイッ!」
善朗は冥の言葉に、ピンと背筋を伸ばして、元気良く返事をした。
「・・・う~~~~んっ・・・それじゃ、帰りましょうか?」
冥は大きく背伸びをして、善朗にそう提案する。
「・・・もう帰るんですか?」
夕日に染まる園内を見ながら善朗が尋ねる。
「・・・善朗君、私達は仕事で来たのよ?」
右手の人差し指を善朗に突きつけて冥が眉間にしわを寄せる。
「あはははっ、そうでした・・・。」
頭をかきながら反省する善朗。
「・・・まぁ、今度はゆっくりね・・・。」
冥が誰にも聞こえないようにボソリという。
「えっ?」
余りにも小さな声だったので聞き取れなかった善朗が聞き直す。
「・・・・・・なんでもないっ!それじゃぁねっ!」
「アッ!?」
冥は恥ずかしさを隠すようにそう言って早歩きで部屋を出て行った。
突然、立ち去った冥に声を掛けようとするも届かない善朗の声。
「・・・・・・あのっ・・・・・・どうやって、帰ったら・・・。」
残された善朗が、まだ不慣れな霊界との行き来について困惑して立ち尽くした。
その後、乃華に涙目で電話して迎えに来てもらった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる