墓地々々でんな ~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~

葛屋伍美

文字の大きさ
上 下
19 / 142
第1幕 異世界転生失敗??? 悪霊 縄破螺編

冥VS縄破螺

しおりを挟む


 善朗が霊界に戻り、縄破螺に対抗するための修行に移っていたその最中、人々が今日も日々の時間に追われる現世で冥がなんとか自分だけで解決できないかを思案していた。



「・・・このお守り・・・すごいわね・・・。」
 冥が善文や美々子が通う学校の近くの公園にあるベンチに座りながら、とこさんが吾朗に渡してもらったお守りを眺め、素直な感想を漏らす。

 守護霊は守護している対象からあまり離れる事が出来ないので、冥が学校を抜け出す形をとって、とこさんと作戦会議をしていた。そこで、とこさんが見せたのが菊の助推薦のお守りだった。一般人には見ることすら出来ない霊界特性のお守りだが、そこは才能のある冥、とこさんから見せてもらうだけでなく、直に触って、お守りが持つ力を実感していた。

「・・・私達のご先祖様が下さった貴重な物だそうで・・・。」
 オロオロと今も不安で仕方がない善文の守護霊とこさん。

「・・・霊界って、こんなにすごいの?・・・現世でも見たことないわ・・・。」
 お守りを隅から隅まで穴が開くほど眺める冥。

「・・・そっ・・それじゃぁっ。」
 とこさんは冥の説明を聞いて、希望に満ちたキラキラした目で冥を見る。

「・・・時間稼ぎにはたしかになる感じですね・・・。」
「ああああああああっ・・・。」
 冥が率直な感想を述べると絶望の大きな塊が肩に乗り、肩を沈ませていくとこさん。

「・・・それでも、だいぶ稼げると思うわ・・・とこさんはこれを持ってっ・・・。」
 冥がお守りをとこさんに返しながら勇気付けようとしたその時だった。


 〔ボッ・・・チリチリチリチリッ・・・。〕
「アツッ?!」
 冥が持っていたお守りに突然火が点き、燃え出した。
 その熱さに堪らず、冥はお守りを地面に投げ捨てる。


「・・・・・・。」
 とこさんはその時、自分達を包む暗い暗い周囲の雰囲気に気付いて怯え出した。



「・・・つまらんことをしているな・・・。」
 深い海の底からネットリと絡みつく名も知らない海草の様に冥達を巻き込んでいく声が響く。



「・・・くっ・・・。」
 冥はその声の方向を見て、臨戦態勢を取る。

 冥が投げ捨てたお守りを見てみると、完全に灰になって燃え尽きていた。

「・・・・・・霊能者風情が、俺たちの邪魔をするならどうなるか分かっているだろう?」
 縄破螺が公園の雑木林の闇からヌルリと姿を現す。

「・・・・・・。」
 冥はとこさんを守るように縄破螺との間に入る。

「・・・お前達はそこらへんの低級霊や動物霊を払って、死神のケツでもなめておけばいいんだよ・・・。」
 コートの脇にある両ポケットにそれぞれ手を突っ込みながら酷い猫背の縄破螺がグチョリグチョリと歩み寄る。

 〔ウエエエエエエンッ、ウゥゥゥッゥウッ、オカアサアアアアアンッ・・・。〕
 相変わらず、縄破螺の周囲には子供たちの決して親には届かぬ助けを求める声が響き渡る。

「・・・ずいぶん早いわね・・・。」
 ゆっくりと時間をかけると言っていた縄破螺の早い登場に冥がけん制をかける。

「・・・ふひひひひッ・・・俺の流儀は守る・・・ゆっくりゆっくり絶望の泥沼に落として、しっかり味付けをするんだよ・・・それは変わらない・・・今日はお前達に優しく注意しにきてやっただけだ・・・。」
 縄破螺はニチャリと笑みを浮かべながらコートのポケットから両手を抜いて、ダランと前に垂らした。


「・・・案外、優しい・・・のねっ!」
 冥は長い数珠を素早く両手に巻きつけて、先制攻撃に打って出る。

 〔バチンッ・・・ジュゥゥゥゥゥッ・・・〕
 縄破螺は一歩も動かず、冥の右手のストレートを片手で受け止める。

 受け止めた縄破螺の手の平から煙が立ち上る。タイヤの焦げた匂いや落ち葉が焼ける匂いという鼻に優しい物ではない。劇物を燃やした時の刺激臭と腐敗した鼻の中にまとわりつく異臭がその煙から立ち込める。

「ハアアアアアアアッ!」
 冥はその状況に一歩も引かずに縄破螺の顔面にハイキックを入れようとする。

 〔バチンッ!〕
「キャアアアアアアアッ!」

 冥のハイキックが縄破螺に届く前に縄破螺の右手から放たれた鞭のようにしなるロープが、冥の左頬を弾く。
 その攻撃に冥の身体は宙に浮き、とこさんの元まで飛ばされた。

「ふひっ・・・式霊すらいないガキが良い声でなくじゃねぇか・・・ちょっと逝きかけたぜ・・・。」
 冥の悲鳴を聞いて、少し興奮する縄破螺。

「・・・あわわっ・・・。」
 冥の様子と縄破螺の姿にオロオロキョロキョロするしかないとこさん。

「・・・ぐぅうぅぅ・・・。」
 左頬の痛みに耐えながら冥が立ち上がる。

「・・・ふひひっ・・・良い声で鳴くが、お前は俺の趣味じゃない・・・が、これ以上邪魔をするなら・・・コロスゾ・・・。」
 そういうと縄破螺はゆっくりと冥達に無防備に背中を向けて、雑木林の闇へと消えて行った。

 縄破螺が姿を消すと、公園はいつものような明るさになり、雑木林にも光が戻った。
 縄破螺が作り出した闇が周囲の空間そのものを変えていたようだった。


「・・・くそぉ~・・・。」
 冥は大粒の涙を流して悔しがった。


 地面を握り締めて、血を流しながらも土を握り締めずにはいられなかった。
 その痛みが、自分の不甲斐無さを掻き消してくれるのではないかとすがり付く。

「・・・あぁ・・・冥さん・・・。」
 とこさんが心配して、冥の肩にそっと触れる。

「・・・・・・・ごめんなさい、とこさん・・・大丈夫だから・・・。」
 顔を隠したまま、冥がとこさんに答える。

「・・・すいません・・・私達のために・・・。」
 申し訳なさに押しつぶされそうなとこさんが謝る。

「・・・・・・謝るなら・・・こちらの方です・・・力に・・・なれなくて・・・すみません・・・とこさんは善文君の近くに・・・残念ですが・・・今は少し離れた場所で・・・今は・・・見守ってあげて下さい・・・。」
 冥は一度もとこさんに顔を見せないまま、フラフラと歩き出した。

「・・・・・・。」
 とこさんはもうそれ以上、冥に声をかけられなかった。

「・・・・・・。」
 冥はフラフラと公園から出て、どこかへと歩いていってしまった。

 とこさんの足元には灰になったおまもりが風に遊ばれて、粉々になって空に消えて行った。






しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】 宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。 異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。 元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。 そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。 大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。 持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。 ※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

処理中です...