墓地々々でんな ~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~

葛屋伍美

文字の大きさ
上 下
6 / 139
第1幕 異世界転生失敗??? 悪霊 縄破螺編

僕の未練

しおりを挟む
「・・・弟の・・・善文の事が・・・心配です・・・。」


 かっこいい兄として、最後まで胸を張れたのか。
 今になって、記憶が鮮明になり、自分の死んだ瞬間がよみがえってきた善朗。

 若い男子高校生。

 思い残した事なんて5万とあるはずなのに、善朗の心の中にはそれだけが唯一残っているように思えた。弟のためにかっこつけたくて、危険な川に入り、無事に猫を助けれたけれど、弟の目の前で死んでしまった不甲斐無い兄。弟の善文が自分の責任じゃないかと思いつめていないかと死んだ今でも心配で仕方なかった。

「・・・・・・なるほどな・・・。」
 扇子で口元を隠しながら菊の助がウナズく。

「・・・乃華ちゃん・・・そう言うことだから、もう少し待ってはくれないかい?」
 秦右衛門がニヤリと微笑みながら乃華に頼み込む。

「・・・・・・。」
 乃華は頬を少し膨らませて塞ぎ込む。

 乃華としても、善朗の願いは是が非でも叶えなければならない大事な事だった。
 魂の迷いはけがれにつながり、極楽に行くどころか、それが原因で自縛霊や浮遊霊となってしまい、最悪、悪霊となれば、案内人としては責任問題となる。だからこそ、乃華は善朗にちゃんと確認をした上で、思い残しが無い状態で案内しなければならなかった。
 だから、秦右衛門の提案は乃華としては、確認されなくても絶対に断れないものだった。

「・・・嬢ちゃん・・・そういうことだからすまねえが連れて行っちゃくれねぇか?」
 菊の助が少し険しい顔を作って乃華に頼む。

「・・・ホントずるいですよね・・・どこまで考えてたんだか・・・。」
 乃華は菊の助を睨み、語尾を聞こえないように小さく囁きながら答える。

「・・・・・・。」
 菊の助と乃華のやりとりを互いの間でキョロキョロしながら善朗が困惑する。

「・・・魂は現世には一人では行かせられません・・・一人で行くと余計な誘惑にけがれてしまうかもしれませんし・・・一族の皆様方も安心して下さるようですからっ。」
 乃華は最初は丁寧な口調で、最後の方に徐々に口調を強めながら説明してくれた。

「・・・善朗、行って来い・・・思い残しがないようにな・・・。」
 菊の助はまた青年の姿に戻り、優しい眼差しで善朗を導く。

「・・・あっ・・・ありがとうございます・・・。」
 善朗は自然と菊の助に深々と頭を下げて、土下座していた。



「・・・・・・あなたまでついてこなくてもいいですよっ。」
「・・・保護者として、そう言うわけには行きませんからっ。」
 なぜか目線は合わせないながらも、バチバチと静かに火花を散らす乃華とのぶえ。



「・・・善朗・・・思い残しがなくなっても、とどまってええんやぞ・・・。」
 善朗の決意を分かった上で、吾朗が提案する。

「・・・ありがとうひいじいちゃん・・・でも、善文が大丈夫そうなら俺はここにいてもしょうがないし・・・。」
 頬を右手人差し指で少し掻きながら善朗が吾朗の提案を微笑みながらやんわりと断る。

「・・・そうか・・・。」
 吾朗は残念そうに弱々しい微笑を返す。

「さぁさぁ、誘惑が多い場所からは早々に立ち去りましょうっ。」
「あっ?!」
 乃華が善朗の手を引いて連れて行こうとする。

「そんな急ぐ事ないと思いますけどっ。」
「イタイイタイイタイイタイッ。」
 乃華が引っ張った右手とは逆の左手を引いて、のぶえが対抗する。

「おばあさん、あまり強引だと孫に嫌われますよっ。」
「・・・・・・。」
「あらあら、強引なのはどっちなんでしょうっ?」
 ここに大岡越前はいない。痛みを静かに我慢しながら善朗は耐える。


「・・・一族として引き止めたいのはわからんでもねぇが・・・のぶえ、まずは善朗の事を第一に考えてやれや・・・なっ・・・。」
 扇子で肩を軽く叩きながら優しい顔でのぶえを諭す青年菊の助。

「・・・すいません・・・。」
 菊の助の言葉に素直に善朗の手を離して謝るのぶえ。

「そうですそうです、のぶえさんは無理についてこなくてもいいんですよっ。」
 善朗の影からあっかんべをしながらのぶえを挑発する乃華。

「乃華さん・・・どうか、善朗を頼みます。」
「ッ?!」
 菊の助が乃華に頭を深々と下げるとその後ろには宴会で騒いでいた一同が静かに菊の助に続くように一斉に頭を下げていた。その風景に呆気にとられる乃華。

「・・・オホンッ・・・案内人としては当然のことなので・・・ご安心下さい。」
 善朗の影から服装をちゃんと整えて胸を張る乃華。

「・・・善朗君・・・歓迎会はちゃんとできなかったが、送別会はちゃんとしてやるからなっ。」
 ピシッとした姿勢の秦右衛門が優しくそういって、最後に微笑む。

「・・・・・・。」
 善朗は涙を堪えながら深々と一族に頭を下げた。







しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界英雄の学園生活~英雄に休息なんてありません~

パチ朗斗
ファンタジー
魔法が存在する世界リレイリア。その世界には人類の敵である魔王という者が存在した。その魔王はとてつもなく強く、人類は滅亡すると思われた。だが、たった一人の男がいとも容易く魔王を討伐する。その男の名はキョーガ。 魔王討伐という任務を終えたキョーガは自分の元住んでいた世界……"日本"に帰還する。

神様を育てることになりました

チョッキリ
ファンタジー
死後の世界で転生待ちをしていた。誘導にしたがって進んでいたが、俺だけ神使に別の場所に案内された。そこには5人の男女がいた。俺が5人の側に行くと、俺達の前にいた神様から「これから君達にはこの神の卵を渡す。この卵を孵し立派な神に育てよ」と言われた。こうしてオレは神様を育てることになった。

〇〇の化身

お玉杓師
ファンタジー
何気ないクリスマスを過ごしていた主人公・フリーは、ある朝――父親に残酷な真実を告げられる。何度も繰り返すループを越えた先に居たのは神のような存在「化身」だった。 ※誤字脱字・意味不明な言い回しがあるかもしれないです。 ※「よーい、どん」「記憶の固執」などのエピソードは読まなくても構いません。ただ本編のことを少し知れるだけなので、読みたい方は是非。 不定期更新です。 感想・お気に入りしてくれたら嬉しいです!よろしくお願いします!

ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ
ファンタジー
この世界では昔から原因不明である人々が突然に行方不明になる事件が多発していた。 四つに分かれた大陸の一つ、東大陸にある田舎街ではそんな事はいざ知らず、地元ではその頭の悪さから粗大ゴミと馬鹿にされている赤髪の男『バッジョ』は、昔からの親友であり相棒とも呼べる男『ディーノ』にそそのかされ、遥か昔から伝わる伝説の地『禁断の花園』へと目指すことなる。 そこに行けばありとあらゆる願いが叶うと言われるが、その道中には数々の困難、『逸脱』と呼ばれる異能の力を持った敵が壁となって二人の前に立ちふさがる。 時を同じくして、東西南北に別れた大陸では様々な冒険者が禁断の花園を目指していた。野望のまま己が願いを叶えるため挑む者、突然に生き別れた肉親の再会を望む者、かつての故郷を再現するために人の世の理を覆そうとする者、そして自身の失われた記憶を取り戻そうとする者。 ──しかし、そこに待っていたのは『禁断の花園』を守る四人の『禁断の守護者』であった……。

龍神村の幼馴染と僕

栗金団(くりきんとん)
ファンタジー
中学生の鹿野一角は、シングルマザーの母の入院に伴いおばの家がある山間部の龍神村に越してくる。 しかし同い年のいとこの北斗は思春期からか冷たく、居心地の悪さを感じて一人自転車で村を回ることにする。 小学校や田んぼ道を走りながら、幼いころ夏休みの間に訪れた記憶を思い起こす一角。 記憶では一角と北斗、さらにいつも遊んでいる女の子がいた。 最後に龍神神社を訪れた一角は、古びた神社で懐かしい声を聞く。 自身を「いっくん」と呼ぶ巫女服姿の少女の名はタツミ。彼女はかつての遊び相手であり、当時と同じ姿形で一角の前に現れた。 「いっくん、久しぶりだね!」 懐かしい思い出に浸りながら、昔と変わらず接するタツミと子供のように遊ぶ一角。 しかしその夜、いとこからある質問をされる。 「ねぇ一角、神域に行ってないよね?」 その一言から、一角は龍神村とタツミの違和感に触れることとなる。

そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。 彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。 眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。 これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。 *あらすじ* ~第一篇~ かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。 それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。 そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。 ~第二篇~ アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。 中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。 それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。 ~第三篇~ かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。 『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。 愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。 ~第四篇~ 最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。 辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。 この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。 * *2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。 *他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。 *毎週、火曜日に更新を予定しています。

処理中です...