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9.凱旋騎乗
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「賢そうな子だね」
「うん。毛並みも立派で惚れ惚れしてしまうよ。穏やかな気質みたいだし、俺の良い相棒になってくれるといいな」
王家から下賜されたのは若いメスの白馬だった。なかなかの美人さんだ。かなりの駿馬らしいし、遠乗りに行くときとかに活躍してほしいな。
「エドワード、君が先に乗ってくれ」
「わかった」
エドワードは馬に乗り慣れているので、ひとりで颯爽と馬に乗った。
マジで白馬の王子様じゃん。さっき「好きにしていい。すべて私が許す」って言ってくれたときも思ったけど、こんなに男前でかっこよくて綺麗な人が俺の親友だなんて信じられるか?
観客席にいる令嬢たちもエドワードの乗馬姿にメロメロで、もちもちのやわっこそうな頬を桃色に染めて「きゃあっ♡」と歓声をあげている。許されるなら俺も「きゃあっ♡」って言いたい。
あー、本当に好きだな。めっちゃ好き。
このままヒロインとか出てきてほしくないなって思っちゃうくらい、大好きだ。
「ウィリアム?」
「あぁ、ごめんね。俺もすぐ乗るよ」
いつも通りふわふわの笑顔を浮かべながら、彼のあとに続いて騎乗した。
手綱を握ったら自然とエドワードを後ろから抱き込むみたいな体勢になり、彼が俺の腕の中にすっぽり収まってしまったことに驚く。
エドワードも175cmあって体を鍛えてるから小柄って感じではないけど、俺が185cmあってそれなりにガタイも良いからこんな感じになるのかな。
「ふたりで同じ馬に乗るなんて初めてだ」
「たしかにそうだね」
この状況を楽しんでいるようで、エドワードが微笑みながら俺を振り返る。胸板にもたれて少し体重をかけてくるので、さらさらの髪が顎のあたりに当たってちょっとくすぐったかった。
さすがの俺も好きな人とこんなにくっついてたらドキドキしてしまう。
「ふふ、鼓動が早いね。緊張してるの?」
体が密着してるから、ぐっと上がった体温もハイスピードで脈打つ心臓も全部エドワードに筒抜けだ。
「……あんまり意地悪を言わないでくれ」
参ってしまって吐息だけで苦く笑うと、彼はくすぐったそうに笑いながら「意地悪じゃないよ」と首を横に振る。
「実を言うと、私も君と同じように緊張してるんだよ」
エドワードが少し照れたように打ち明けてくれるのを見て、きゅんと胸が締め付けられた。彼に恋してからというもの、この心臓は高鳴ったり締め付けられたり大忙しである。
「それなら、あなたの心臓の音が聞きたいな。あなたが嘘をついてないか確かめないといけないから……ね、聞かせてくれる?」
ちょっとした仕返しとして、俺は彼の耳元に唇を寄せて、とびきり優しい声で囁いた。
そうしたらエドワードは、ぴゃっと馬上で体を小さく跳ねさせ、真っ赤になった耳を押さえる。涙目で軽く睨まれるけど、正直そんなことされても可愛いだけで全然怖くない。
でも、少し意地悪したかっただけでエドワードの機嫌を損ねたかったわけじゃないから、俺はすぐに「ごめんね」と眉を下げてよわよわと微笑む。
「……怒ってないよ。びっくりしただけだ」
エドワードは俺のこの表情に弱いらしく、尖っていた唇が困ったなぁというように綻んだ。
俺はそれに安心して、ほわほわ花を飛ばしながら彼の頬にスリッ…と自分の頬を寄せる。
凱旋騎乗中、拡声魔法機器はプライバシーに配慮してオフになってるから、彼の声は俺にしか聞こえてない。その逆も然りだ。
でも、観客たちは俺たちが顔を寄せ、ひそひそと小さな声で話しながら時折笑い合う姿を見ているだけで盛り上がることができるらしい。会場のあちこちから大きな歓声が聞こえてくる。
少し目を伏せて柔らかく微笑み、エドワードの話に相槌を打っているだけで悲鳴みたいな歓声があがるからびっくりした。
なんにもしてないのにどうして?と思ったけど、みんなからしたらライブでアイドル同士の絡みを見てるような感覚なのかも。
エドワードは言うまでもなく圧倒的なキラキラ王子様系イケメンだし、俺もダウナー系の色気っていうかダークな雰囲気のある美形だから、絵面としては最高だろうな。
エドワードに何かあったらいけないので、俺は手綱から片時も手を離すことなく、たっぷり時間をかけて剣技場を一周し終えた。
今度は俺が先に馬から下りて、エドワードに手を差し出す。彼は俺の控えめなエスコートを受け、颯爽と地面に足をつけた。
あぁ、本当に夢みたいな時間だったな。
エドワードがこの腕の中にすっぽり収まっていた感触を思い出そうとするだけで、体の芯から熱くなってくる。
俺たちは目を見合わせて微笑みを交わすと、エドワードは軽く手をあげ、俺は胸に手を当てて観客たちの大きな歓声に応えた。
こうして、波乱万丈の勇剣祭は、俺の優勝という形で幕を閉じたのである。
「うん。毛並みも立派で惚れ惚れしてしまうよ。穏やかな気質みたいだし、俺の良い相棒になってくれるといいな」
王家から下賜されたのは若いメスの白馬だった。なかなかの美人さんだ。かなりの駿馬らしいし、遠乗りに行くときとかに活躍してほしいな。
「エドワード、君が先に乗ってくれ」
「わかった」
エドワードは馬に乗り慣れているので、ひとりで颯爽と馬に乗った。
マジで白馬の王子様じゃん。さっき「好きにしていい。すべて私が許す」って言ってくれたときも思ったけど、こんなに男前でかっこよくて綺麗な人が俺の親友だなんて信じられるか?
観客席にいる令嬢たちもエドワードの乗馬姿にメロメロで、もちもちのやわっこそうな頬を桃色に染めて「きゃあっ♡」と歓声をあげている。許されるなら俺も「きゃあっ♡」って言いたい。
あー、本当に好きだな。めっちゃ好き。
このままヒロインとか出てきてほしくないなって思っちゃうくらい、大好きだ。
「ウィリアム?」
「あぁ、ごめんね。俺もすぐ乗るよ」
いつも通りふわふわの笑顔を浮かべながら、彼のあとに続いて騎乗した。
手綱を握ったら自然とエドワードを後ろから抱き込むみたいな体勢になり、彼が俺の腕の中にすっぽり収まってしまったことに驚く。
エドワードも175cmあって体を鍛えてるから小柄って感じではないけど、俺が185cmあってそれなりにガタイも良いからこんな感じになるのかな。
「ふたりで同じ馬に乗るなんて初めてだ」
「たしかにそうだね」
この状況を楽しんでいるようで、エドワードが微笑みながら俺を振り返る。胸板にもたれて少し体重をかけてくるので、さらさらの髪が顎のあたりに当たってちょっとくすぐったかった。
さすがの俺も好きな人とこんなにくっついてたらドキドキしてしまう。
「ふふ、鼓動が早いね。緊張してるの?」
体が密着してるから、ぐっと上がった体温もハイスピードで脈打つ心臓も全部エドワードに筒抜けだ。
「……あんまり意地悪を言わないでくれ」
参ってしまって吐息だけで苦く笑うと、彼はくすぐったそうに笑いながら「意地悪じゃないよ」と首を横に振る。
「実を言うと、私も君と同じように緊張してるんだよ」
エドワードが少し照れたように打ち明けてくれるのを見て、きゅんと胸が締め付けられた。彼に恋してからというもの、この心臓は高鳴ったり締め付けられたり大忙しである。
「それなら、あなたの心臓の音が聞きたいな。あなたが嘘をついてないか確かめないといけないから……ね、聞かせてくれる?」
ちょっとした仕返しとして、俺は彼の耳元に唇を寄せて、とびきり優しい声で囁いた。
そうしたらエドワードは、ぴゃっと馬上で体を小さく跳ねさせ、真っ赤になった耳を押さえる。涙目で軽く睨まれるけど、正直そんなことされても可愛いだけで全然怖くない。
でも、少し意地悪したかっただけでエドワードの機嫌を損ねたかったわけじゃないから、俺はすぐに「ごめんね」と眉を下げてよわよわと微笑む。
「……怒ってないよ。びっくりしただけだ」
エドワードは俺のこの表情に弱いらしく、尖っていた唇が困ったなぁというように綻んだ。
俺はそれに安心して、ほわほわ花を飛ばしながら彼の頬にスリッ…と自分の頬を寄せる。
凱旋騎乗中、拡声魔法機器はプライバシーに配慮してオフになってるから、彼の声は俺にしか聞こえてない。その逆も然りだ。
でも、観客たちは俺たちが顔を寄せ、ひそひそと小さな声で話しながら時折笑い合う姿を見ているだけで盛り上がることができるらしい。会場のあちこちから大きな歓声が聞こえてくる。
少し目を伏せて柔らかく微笑み、エドワードの話に相槌を打っているだけで悲鳴みたいな歓声があがるからびっくりした。
なんにもしてないのにどうして?と思ったけど、みんなからしたらライブでアイドル同士の絡みを見てるような感覚なのかも。
エドワードは言うまでもなく圧倒的なキラキラ王子様系イケメンだし、俺もダウナー系の色気っていうかダークな雰囲気のある美形だから、絵面としては最高だろうな。
エドワードに何かあったらいけないので、俺は手綱から片時も手を離すことなく、たっぷり時間をかけて剣技場を一周し終えた。
今度は俺が先に馬から下りて、エドワードに手を差し出す。彼は俺の控えめなエスコートを受け、颯爽と地面に足をつけた。
あぁ、本当に夢みたいな時間だったな。
エドワードがこの腕の中にすっぽり収まっていた感触を思い出そうとするだけで、体の芯から熱くなってくる。
俺たちは目を見合わせて微笑みを交わすと、エドワードは軽く手をあげ、俺は胸に手を当てて観客たちの大きな歓声に応えた。
こうして、波乱万丈の勇剣祭は、俺の優勝という形で幕を閉じたのである。
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