【R18】夜の短編集

きの。

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婚約を決められてしまったお嬢様が家庭教師に身も心も奪われる話♡

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豪華なお城の一室。アリサは憂いを帯びた目でバルコニーから広い庭を眺めていた。

「お嬢様~!お着替えのお手伝いに参りました!」

お手伝いのメイドがバタバタと慌ただしく部屋に入ってくる。いつもと変わらない退屈な日の始まりだった。

「自分でできるって言ってるでしょう」
「これは私の仕事の内ですので!それに、今日は新しい家庭教師の方がいらっしゃるようで、、なんでも大層美しい男性だと聞きましたわ!」

大層美しい男性、ね。
メイドの言葉にはさして興味も示さず、アリサは部屋の中に入る。

名家のお嬢様として生まれた私は、日々語学の勉強に生花やピアノなど様々な教育に時間を費やしていた。それも全て立派な男性を婿にもらい、更に一族を繁栄させていく責務のためだった。

この国の中に名家はいくつもあるが、中には人口が減少により衰退、乗っ取りに合う家も少なくなかった。こんな中途半端な家柄ではなく、いっそのこと一国の姫として生まれたかったと何度思ったことか。

アリサの城も近年、それらに脅かされる危険を感じていた。そのためにも、人口を増やしていくことが目標だった。しかし、ただ人を増やしただけでは意味はなく、より優秀な子を産むということも大事なことなのである。

アリサは自分が繁栄のための道具になっていることに嫌気が差し始めていた。元々自己肯定感もそんなに高くないこともあり、どれだけの教育を受けたとしても、素敵な男性が見初めてくれるはずはないとも思い始めていたのだった。

「お名前はルーク様だそうです!素敵な名ですよね~!!」
「、、ほんとね。あなたも同席させましょうか」
「嫌だわお嬢様、ご冗談を!旦那様に怒られてしまいますわ!」

──なんなら代わってくれてもいいのに。
きゃぴきゃぴと浮き足立つメイドを横目に、身支度の最終チェックを終える。新しい家庭教師とやらが訪れるのを待つことにした。


***


「初めまして、ルークと申します」

家庭教師は、予定時間ぴったりに城を訪ねてきた。

金髪のサラサラの髪。整った顔立ちにスラっとした背。声も爽やかで、品の良さそうな佇まい。何より今まで見てきた家庭教師の中でも一際若かった。

「初めまして、アリサと申します。本日はお越しいただきありがとうございます」

隣のメイドは思わず顔を赤らめていたが、アリサは顔色ひとつ変えず、表面だけの笑顔で迎えた。

「そのお歳で家庭教師だなんて、よほど才能がお有りなのでしょうね。本日の授業、とても楽しみです」
「そんな、恐れ多いです。歳も近そうですし、アリサお嬢様が宜しければもっと気さくに話しかけてください」

くしゃりと笑った笑顔に、既にメロメロだった隣のメイドは卒倒しかけていた。

こんな素敵な男性、既に決まった恋人がいるから婚約済に決まっている。すぐに別の教師に変わるだろうと思っていたアリサの読みは全く外れるのだった。


***


あれから3ヶ月。

最初はよそよそしかったアリサも、ルークの授業の面白さから、その人柄にどんどん打ち解けていき、今ではルークが来る日が待ち遠しいほどになっていた。

それは、肝心の責務を忘れてしまうほどに。

誕生日を迎え、既に国で定められた子を産む適齢期となっていたアリサの元に、婚約者が決められたと通達が来た。

「お嬢様、、」
「いいのよ、、ちょっと下がってくれないかしら」

あまりに暗いアリサの表情に、常時テンションの高いメイドも言葉をなくしていた。

仕方がない、というのが真っ先に出た感想だった。ここまで立派な男性に見初められなかった、努力不足だった自分が悪いのだ。

メイドが部屋を出ると同時に我慢していた涙が溢れてくる。もう諦めたはずだったのに、、なぜ。

こんな時に思い出してしまうのは、ルークの優しい顔だった。


***


泣き疲れて眠った翌日。少し目が腫れてしまったのに、そんな日に限ってルークの授業が控えていた。1週間で1番楽しみにしていた時間を、こんなに憂鬱な気分で迎えるのは初めてのことだった。

「それでは、授業を、、。と、その前に」
「どうしました?ルーク様」
「目が腫れているように見えますので、、昨晩何かありましたか?」

黒板と机、椅子があるだけの小さくて簡易的な学習室の中。心配そうに寄ってきたルークにスッと前髪をどかすようにして目元を覗かれる。

「あっ...いえ、これは」
「もしかして泣いていたのですか?」
「まあ、そんなところです。実は───...」

その距離で話しかけられると赤面を抑えられることはできなくなっていた。自分の心臓の音が聞こえ、ルークにも伝わっていないか不安になる。

婚約者のことを話すつもりはなかったが、もう何もかもどうでもよかった。どっちみち、これで最後の授業になるのだから───。
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