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結婚するまでのお話 <大谷視点>
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思い立ったが吉日。
話がしたくてうずうずしている私は、早速丈さんに『お仕事中かな?終わったら連絡ください』とメッセージを送った。
……のだけれど、既読が付かない。やっぱりまだ仕事中?あ、飲み会中と言う場合もあり得るよね。接待とか。もし仕事の打合せやその関係の飲み会の最中だったら、電話を掛けて中断させてしまうのは申し訳ない。でもいつ頃帰るのか、今日少しでも会えるのかそれだけでも分からないかな。
迷った末、図々しいとは思いつつも三好さんにメールを送ろうと思い立つ。丈さんがまだ職場にいるかどうかだけでも知りたかった。連絡先を表示してメールを打とうとした所で―――スマホが震えてドクンと心臓が跳ねた。
『亀田課長』
うわっ!び、吃驚した。
丈さんだ!ちなみに未だにアドレス帳の表示は『亀田課長』……何となく変えそびれている。震える指で受話器アイコンをドラックすると耳に馴染んだ低い声が、鼓膜を震わせた。
『卯月?』
「……」
まさか折り返し電話が掛かって来ると想像していなかった私の動悸は、なかなか収まらない。心の準備が出来なさ過ぎだ。
『どうした?』
その少し硬い声で、意識が浮上する。其処で気が付いた。そうか、丈さん何か緊急の要件があると思って電話にしてくれたんだ。
「あっうん、ちょっと吃驚しただけ。今スマホ操作しようとしていて……ゴメンね、電話有難う。まだ仕事中?」
『いや、今終わった所なんだが……スマン、これから飲みに行く事になった』
「そうなんだ……」
そうだよね、最近早く帰って来る事自体が稀なんだから、こういう事態も予想はしていた。
『遅くなるかもしれないんだが』
「あ、うん!大丈夫だよ、モチロン。今日じゃなくても!」
本当に申し訳なさそうな声だったので、私はことさら明るく声のトーンを上げた。気持ちが逸って早速連絡を入れたものの、実はまだどんな風に尋ねようかとか、何を聞こうかって具体的に固まっている訳じゃない。うん、今日は取りあえず自分の中で気持ちの整理を付けて……それから彼の時間のある時に改めて丈さんと向き合おう。うん、それが良い。
『え?……あ、ちょっと待ってくれ』
丈さんは誰かに話し掛けられたようだった。消音になったのか、声が途切れる。けれども直ぐに通話は復活した。
『卯月?』
「はい」
『その……飲み会に君も一緒にどうかと言われたんだが』
え?どういう事?
「お仕事の飲み会じゃないの?接待とか」
『いや、身内の―――仙台支店の桂沢部長が、お前も同席できないかと』
「へ……?」
な、なんだって……?!
『……いきなりだよな。スマン、もう家だろ?無理しなくても……』
丈さんの気遣いよりも、気になったのは別のコト。
昨日も一緒だったのに、今日も一緒?!
思わず頭に血が昇ってしまった。
それともあれか、今日が『その日』なのか?丈さんから私に辛い真実を告げる時が……今、やって来たと言うのか……?!
いや、マテマテ。彼がいい加減な態度を取れる人じゃないって、さっき感動的に思い出したばかりじゃない。信じるって、真正面から確認するって決めたばかりだ。そう、丈さんはそんなつもりじゃないと思う。少なくともこんな、ついでみたいに引導を渡すような事はしないハズ。
……と言う事はあれか?
丈さんは彼女に靡いていない、若しくはそこまで気持ちが傾いていない状態だけれど―――仕事にかこつけて桂沢部長は二人の時間を演出していた、とか?だって川北さんが全くの嘘を吐いているのでなければ二日連続一緒に夕食の時間帯(……だけだと思いたい)を過ごしている事になる。
だけど丈さんがなかなか落ちてこないから―――彼を取り戻す為に、直接彼に対して行っていたまだるっこしいアプローチをすっ飛ばして、付き合っている相手、私と直接対決しようって腹だとしたら……?!
支店とは言え部長が。
派遣社員の私に―――彼を譲れと迫るつもり……?それってパワハラじゃない?
若しくは其処まで行かなくても、相手がどういう人間かじっくり見定めて攻め方を決めようとしているとか?諦めろと説得するとか?それとも一転して泣き落としで責められたりして……!例えば『彼の出世の妨げになりたくないでしょう?』なんて意味深なプレッシャーを掛けられたり……。
いや、考え過ぎ。
幾らなんでもそんな恋愛小説みたいな展開、あり得ないよね?
そこでふと。一本真の通ったような、スッキリと伸びた背筋を思い出す。
背中側から一瞬見ただけなのに、出来る女性って雰囲気がバリバリ伝わって来た。彼女の事なんか、聞き齧っただけで実際何にも分かっていないのに―――対面して勝てる気が全くしないのは何故だ。もしかして私、吉竹さんの桂沢部長に対する心酔具合に影響されてしまったのだろうか。
川北さんの言うように、本当に彼女に勝てるのは『若さ』しか無いのかもしれない。
―――だとしても。
私は向き合うって決めたんだ。丈さんを彼女に渡すわけには行かないもの。それに私には専属白魔女姫、うータンだって付いている……!正々堂々じゃなくても丈さんが手に入れば良い!いざとなれば丈さんのウサギ中毒だって利用しちゃうんだから!
そう、元カノだろうがカリスマ女性部長だろうが関係ない。売られた喧嘩、受けて立ってやる……!
話がしたくてうずうずしている私は、早速丈さんに『お仕事中かな?終わったら連絡ください』とメッセージを送った。
……のだけれど、既読が付かない。やっぱりまだ仕事中?あ、飲み会中と言う場合もあり得るよね。接待とか。もし仕事の打合せやその関係の飲み会の最中だったら、電話を掛けて中断させてしまうのは申し訳ない。でもいつ頃帰るのか、今日少しでも会えるのかそれだけでも分からないかな。
迷った末、図々しいとは思いつつも三好さんにメールを送ろうと思い立つ。丈さんがまだ職場にいるかどうかだけでも知りたかった。連絡先を表示してメールを打とうとした所で―――スマホが震えてドクンと心臓が跳ねた。
『亀田課長』
うわっ!び、吃驚した。
丈さんだ!ちなみに未だにアドレス帳の表示は『亀田課長』……何となく変えそびれている。震える指で受話器アイコンをドラックすると耳に馴染んだ低い声が、鼓膜を震わせた。
『卯月?』
「……」
まさか折り返し電話が掛かって来ると想像していなかった私の動悸は、なかなか収まらない。心の準備が出来なさ過ぎだ。
『どうした?』
その少し硬い声で、意識が浮上する。其処で気が付いた。そうか、丈さん何か緊急の要件があると思って電話にしてくれたんだ。
「あっうん、ちょっと吃驚しただけ。今スマホ操作しようとしていて……ゴメンね、電話有難う。まだ仕事中?」
『いや、今終わった所なんだが……スマン、これから飲みに行く事になった』
「そうなんだ……」
そうだよね、最近早く帰って来る事自体が稀なんだから、こういう事態も予想はしていた。
『遅くなるかもしれないんだが』
「あ、うん!大丈夫だよ、モチロン。今日じゃなくても!」
本当に申し訳なさそうな声だったので、私はことさら明るく声のトーンを上げた。気持ちが逸って早速連絡を入れたものの、実はまだどんな風に尋ねようかとか、何を聞こうかって具体的に固まっている訳じゃない。うん、今日は取りあえず自分の中で気持ちの整理を付けて……それから彼の時間のある時に改めて丈さんと向き合おう。うん、それが良い。
『え?……あ、ちょっと待ってくれ』
丈さんは誰かに話し掛けられたようだった。消音になったのか、声が途切れる。けれども直ぐに通話は復活した。
『卯月?』
「はい」
『その……飲み会に君も一緒にどうかと言われたんだが』
え?どういう事?
「お仕事の飲み会じゃないの?接待とか」
『いや、身内の―――仙台支店の桂沢部長が、お前も同席できないかと』
「へ……?」
な、なんだって……?!
『……いきなりだよな。スマン、もう家だろ?無理しなくても……』
丈さんの気遣いよりも、気になったのは別のコト。
昨日も一緒だったのに、今日も一緒?!
思わず頭に血が昇ってしまった。
それともあれか、今日が『その日』なのか?丈さんから私に辛い真実を告げる時が……今、やって来たと言うのか……?!
いや、マテマテ。彼がいい加減な態度を取れる人じゃないって、さっき感動的に思い出したばかりじゃない。信じるって、真正面から確認するって決めたばかりだ。そう、丈さんはそんなつもりじゃないと思う。少なくともこんな、ついでみたいに引導を渡すような事はしないハズ。
……と言う事はあれか?
丈さんは彼女に靡いていない、若しくはそこまで気持ちが傾いていない状態だけれど―――仕事にかこつけて桂沢部長は二人の時間を演出していた、とか?だって川北さんが全くの嘘を吐いているのでなければ二日連続一緒に夕食の時間帯(……だけだと思いたい)を過ごしている事になる。
だけど丈さんがなかなか落ちてこないから―――彼を取り戻す為に、直接彼に対して行っていたまだるっこしいアプローチをすっ飛ばして、付き合っている相手、私と直接対決しようって腹だとしたら……?!
支店とは言え部長が。
派遣社員の私に―――彼を譲れと迫るつもり……?それってパワハラじゃない?
若しくは其処まで行かなくても、相手がどういう人間かじっくり見定めて攻め方を決めようとしているとか?諦めろと説得するとか?それとも一転して泣き落としで責められたりして……!例えば『彼の出世の妨げになりたくないでしょう?』なんて意味深なプレッシャーを掛けられたり……。
いや、考え過ぎ。
幾らなんでもそんな恋愛小説みたいな展開、あり得ないよね?
そこでふと。一本真の通ったような、スッキリと伸びた背筋を思い出す。
背中側から一瞬見ただけなのに、出来る女性って雰囲気がバリバリ伝わって来た。彼女の事なんか、聞き齧っただけで実際何にも分かっていないのに―――対面して勝てる気が全くしないのは何故だ。もしかして私、吉竹さんの桂沢部長に対する心酔具合に影響されてしまったのだろうか。
川北さんの言うように、本当に彼女に勝てるのは『若さ』しか無いのかもしれない。
―――だとしても。
私は向き合うって決めたんだ。丈さんを彼女に渡すわけには行かないもの。それに私には専属白魔女姫、うータンだって付いている……!正々堂々じゃなくても丈さんが手に入れば良い!いざとなれば丈さんのウサギ中毒だって利用しちゃうんだから!
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