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プロポーズの後のお話 <大谷視点>
5.朝が来ました。
しおりを挟むガサゴソガサゴソ……
ケージの中のうータンが、牧草を掘る音で目が覚めた。
ゆっくりと目を開けると―――目の前には紺色が広がっていた。つまり丈さんに寝巻として貸したスウェットだ。色々あって(恥ずかしいので詳細は割愛します)落ち着いた後、再び布団を整えて潜り込み丈さんが「お休み」と言って額にキスしてくれた。寝やすいようにちゃんと少しだけ距離を取って自分の布団に潜り込んだハズなのに……何故か丈さんの布団に潜り込んで彼の懐にいつの間にか収まっていたらしい。
そおっと顔を上げると―――こちらを優しい表情で見つめている彼と目が合った。
「お……おはようございます」
「起きたか」
いつもはキッチリと整えられている彼の前髪が、額に掛かっていてちょっと乱れている。うっすらと無精髭が生えているのが男の人!って感じで、何だか胸がグッと苦しくなった。
「あっ、ゴメンなさい。私いつの間にかくっついちゃって……」
頬が熱くなるのを感じた。寝床を狭くしてしまって迷惑掛けたのが申し訳ないやら無防備な彼の様子に萌えてしまうやら……だらしなくグースカ寝ていたのをずっと見られていたのかと思うと、いびきかいてないよね……?!と焦るやらで、何だかとっても恥ずかしい。
ちょっと距離を取ろうとして体を引くと、それを咎めるようにグイッと腰を引き寄せられた。
「た、丈さん……っ」
「謝る必要がどこにある?」
そう言ってチュッと額に吸い付かれた。
「えっと」
額にキスされるのはすごく嬉しい。何だか自分が彼の宝物になったかのような錯覚を覚えるから。愛情が触れている所から流れ込んでくるような気がして……「大事にしてるよ」って丈さんに囁かれているような気がするの。トロン、と思わず意識が蕩けそうになったんだけど、彼の唇が私の唇に柔らかく触れてそれから目尻や頬にそれが降って来て……首筋に移った時、背後から抱き込まれるような形になってしまってちょっと焦った。
「た、たけしさん?」
返事の代わりにチュッとうなじに柔らかい物が触れた。
「ひゃっ……ん!」
くすぐったい!
「あ、あの……っ」
「……」
ギュッと抱き込まれてプチパニックだ。朝起きたばかりの私には刺激が強すぎる。だけど丈さんは知らん振りで返事をしない。
「あああ、朝です!朝ですよー!」
すると返事の代わりにうなじに更に吸い付き、そして首筋を辿ってスウェットの首周りから肩に唇を這わせて来たのだ。
ぎゃ~!!ちょ、ちょっと……!
この状況が恥ずかしいし、触れた所が過敏になっているのかジンジンしてきちゃって本当に恥ずかしいし、とにかく恥ずかしい……!!私はジタバタもがいて逃げようとした。しかし彼の拘束が堅くて逃げ出せない。勿論痛いってコトは無いんだけれども。
するとピタっと彼の悪戯が止まった。
「……朝だな」
「朝です……!お腹空きませんか?」
そう、朝になったらご飯を食べなくては……!明るい日の光の中、昼間に致した経験は無い訳じゃあないけれど、朝っぱらからイチャイチャするのはやっぱ恥ずかし過ぎる!
「腹は……減ったな」
「でしょう?朝御飯にしましょう!」
クルリと彼の檻が緩んだ所で私は向き直った。すると彼はジッと私を真顔で見つめて―――コクリと頷いた。
そしてホッと安堵の息をついた私の耳に―――今度はカプリと噛みついた。
「ひゃあ!」
「……うまい」
フフッと息が漏れた。近過ぎて見えないけれども―――笑ってる?!
「わ、私は朝ごはんじゃ……」
「食いたい」
ぎゃ~~!耳元でその声やめて……!こ、腰に来るっ……!
絶対ぜーったい、ふざけてる!揶揄ってる……!だって台詞に笑いが含まれてるもん!
だけど何だか揶揄って「ハイ、終わり」って感じじゃない。何だかこのまま続きそうな不穏な雰囲気が彼から漂ってきている。
両手は彼の大きな掌に捕らえられて、シーツに縫い止まられてしまった。またしても顔のアチコチに優しくキスを落とされて―――う~ちょっと気持ちが良いっ……!
うわ~ん、もう駄目だ!流されちゃう……と観念しそうになった時。
『ピンポーン』
とチャイムが鳴った。
ピタリと丈さんの動きが止まる。
『ピンポーン』
丈さんがピッタリとくっ付いていた体を離し、両手を私の顔の横に付いて見下ろす形に戻った。お互い目で会話する。
『誰だ?』
『分かりません』
首を振って息を詰めていると―――ガチャッと玄関の扉の鍵が回る音がした。
え!まさか『ママ』?!
と頭の中に浮かんだ時、ガチャン!とチェーンが突っ張る音がした。
「うっちゃん、チェーン外して!」
聞き覚えのある男の人の声。
ここには、いや日本にはいないハズの―――
「パパ……」
「え?」
お互い目を見交わし―――暫し呆然としてしまう。
「おーい!うっちゃん、起きな!パパだよ、開けてくれ!」
扉の隙間を通り抜け、パパの呑気な声が私達の間に飛び込んで来たのだった。
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