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捕まった後のお話
44.友達でしたか? <大谷>
しおりを挟むランチを突きつつ昔話に花を咲かせていると、徐々に二人の間にあった蟠りのような物が溶けて行くような気がした。やっぱり水野君と話すのは楽しい。さり気ない気遣い、柔和な表情に程好く尽きない話題。これは……
これはモテるでしょう?!
そうだよねー、そりゃそーだっ!余程男の人にちやほやされ慣れている美人さんとか、内藤さんみたいにそれこそ男の人達に混じって同等に付き合って行ける人じゃなけりゃ、二人で何度も食事とかしていたら……勘違いしちゃうのが当たり前なんじゃないの??それとも単に私がチョロ過ぎるだけ??
まあ、それについては全く否定できないのだけれど……だいたい丈さんに壁ドンされて、それまで全然男として見ていなかったくせにコロリと絆され……直後に部屋にあげちゃうくらいには……ハイ決定!単に私がチョロイだけですねっ!
「あのさ」
話題が一区切りついた所でランチプレートも空になった。頼んでいたコーヒーが運ばれてきて、それを一口含んだ後にうっすらと微笑みを浮かべながら水野君が口を開く。
「俺達って……『友達』だったんだ?」
言われている事が分からずに、首を傾げる。
「?」
え?え?まさか……アレ?そういう展開?!
飲み会で『友達』って主張した私の台詞に一瞬沈黙した水野君を思い出した。
もしかして……『君みたいな地味な、単なる知合いに友達認識されているなんて思いも寄らなかったよ?ちょっと構っただけで勘違いしちゃうって……本当に君、おめでたいよね?』なんて、腹黒台詞がイキナリその柔和な口元から飛び出してきたり??
『彼女』って勘違いしていたのも痛かったけど……もしかして社交的な彼からしたら『友達』と言う括りにすら入って無かったと言う、そんな展開だったり……???
ふと混乱して顔を上げると―――今度は滅多に見た事が無い、彼の真顔にかち合った。
えええ!マジか~~!!!
「えっと、その……」
「まあ分かってたけどね。君が俺の事、ただの友達としか認識していなかったなんて。だけどああもハッキリ断言されると……かなり凹むよ」
「?」
んん?何か彼の台詞に違和感が……『私』が彼を『ただの友達としか認識していなかった』って……逆でしょ?
「俺は君と付き合いたくて……頑張ってアピールしていたのにな」
「は?」
言われている意味が分からなくて、思わず目を剥いてしまう。
な、何言ってんの?水野君……??
「え?でも……水野君、彼女いたでしょう?ほら、飲み会で田村君に揶揄われていたよね、可愛い子とデートしていたって」
「『彼女』?ああ……ひょっとして飲み会で話題に出た同僚の事?そっか、ちょっとは俺に関心持ってくれていたんだ」
フッと零れた水野君の笑顔は、どこか皮肉めいて見えた。
「違うよ、少なくともあの時は彼女はいなかった。職場の子に『相談に乗ってくれ』って言われて……偶々その時、同じ店に田村が飲みに来てたんだ」
そう言って気まずげに視線を逸らす。そんな仕草……常に世間の表通りを闊歩しているように見えていた水野君には滅多に見られなかったもので。目を逸らしたまま、水野君は言葉を続けた。
「ちょっとは俺の事、惜しいと思ってくれないかな?と思って否定しなかったんだ。嫉妬してくれないかなって。まさかその後から大谷さんと会えなくなるなんて考えてなかったから。もしかして誤解されたままかも、とは少し考えたけど―――俺、口を濁したけどハッキリ肯定はしなかったし。事の真偽の確認もされなかったって事は、やっぱりそもそも大谷さん、俺の事眼中にないんだって……」
「あ、あの……ちょっと待って」
急展開過ぎて頭が付いて行かない。片手を上げて、つい水野君の言葉を遮ってしまった。無性に今、頭の中を整理したくなった。ええと、ええとつまり……私の認識はこの際横に置いておいて。水野君の認識だけ考えると―――
一、水野君と同僚の『カワイ子ちゃん』は付き合っていなかった。つまり水野君にあの時彼女はいなかった。
二、水野君は私に嫉妬して欲しくて、わざと曖昧な態度を取った。
三、私と付き合いたくて頑張ってアピールしてくれていたらしい。
つまりその―――結論から言うと、水野君は私を好きだったのだと―――
えええ!!!そ、そうだったの……?!
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