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捕獲されまして。<大谷視点>
42.頼まれました。
しおりを挟む帰り道、おじいちゃんに惣菜の受け取りを頼まれた。家から車で二十分ほどの商店街にあるお肉屋さんに寄るよう、指示を受ける。『ふじや』と言うその総菜屋さんはお肉屋さん直営で、本店となるお肉屋さん自体もその三軒隣に店を構えていた。
おじいちゃんと一緒に何度か買い出しに来た事があるので、道は何となく分かる。それに人気のお総菜屋さんなのでスマホで検索すれば簡単に場所は把握できる。レンタカーにはナビも付いているのでスムーズに辿り着く事が出来た。
二つしかない駐車場が一杯だったので、亀田課長を車に残しハザードを出したまま停車して貰って総菜屋までダッシュで走る。おじいちゃんが既に電話で注文済みだったので、少し混んでいたけれどもスンナリと受け取る事が出来た。またしてもダッシュで車へ戻り助手席に座ると、ホワンと良い匂いが車内に充満した。
「旨そうだな……」
「美味しいですよ~。神戸牛入りメンチカツとコロッケです。注文してから揚げてくれるんです。でも今日は事前に予約したから直ぐに受け取れましたけど」
時間も時間なのでおじいちゃんから夕飯を食べて行くようにと言い渡されたのだ。本当は私が亀田課長に美味しいと評判の洋食屋でランチをご馳走したいと思っていたのに……結果として昼は課長に奢って貰ったジェラートでお腹いっぱいになり、その後うさぎの楽園……もとい、ペットショップで時間を忘れてしまいランチの時間はとっくに過ぎてしまっていた。それならば少し早いけど夕飯を奢らせていただこう……と思っている所に、おじいちゃんから「『ふじや』に連絡したからメンチカツ受け取って来てくれ。うちでご飯食べていけ」と言われて頷いてしまったのだ……。
言い訳を言わせて貰えるなら。
その~~……すっごく、美味しいの。ここのメンチカツ!!
久し振りの誘惑に抗えなかったと言うのが正直なところ。『八王子うさぎツアー』の目的は亀田課長にうさぎ成分をたっぷり補給する事だったから、本来の目的は達成できているのだけれど……何とも中途半端、と言うかね。だって表向きの目的の一つ、私が日頃の御礼をしたい、と彼に告げた部分は綺麗さっぱり無かった事になってしまった。うーん……今度ちゃんと何か別のお礼をしなければなぁ。さっきもペットショップで亀田課長、うさぎグッズ購入していたけど……確実にあれ、うータンの為のものだよね。このままじゃ貰ってばっかりになってしまう。
走り出し、商店街の小さな路地を抜けて大きな道路に乗って落ち着いた所で、運転席の亀田課長の横顔をチラリと見に入れ、私は言った。
「あのですね、課長?さっきのお店で……気に入った仔、いましたか?」
「え?そうだな、しいて言えば……どの仔も皆、可愛かったな」
口元がニンマリと緩んでいる。何かを思い出しているのだろう。何を思い出しているかは、一目瞭然だけれども。
「新しい仔……飼いたくなりませんか?」
気に入った仔がいれば、飼えばいいと思う。そうすれば、家に帰ればその仔が亀田課長を癒してくれる。わざわざ人の家に通う、と言う面倒なプロセスはいらないのだ。最近の亀田課長は後ろ髪を引かれるような目で帰って行く。きっとうータンと別れがたいのだろう。私も人の家に通ってうータンに会っていたなら、きっとそんな気持ちになったと思う。夜眠りにつく時、それから朝起きた時に部屋にうさぎがいるのといないのとで、かなり気分に違いがあると思うんだ。
「……」
亀田課長は答えなかった。
それから暫く無言が続いて、ナビが導いた到着地に辿り着いてしまった。
「着いたぞ」
「あ!はい」
あれ?
私……ひょっとして、何か間違えたのかな?
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