19 / 375
捕獲しました。<亀田視点>
18.気になります。
しおりを挟む
「……ちょう……課長!」
阿部の呼び掛けで、やっと我に返る。
「大丈夫っすか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
眼鏡の位置を直して、顔を阿部の方へ向ける。
「すいません、データ送りましたんで確認お願いします」
「分かった」
そう言って阿部は、俺のPCを覗き込み作った資料データを入れたフォルダを示した。俺が緊急で頼んだ資料だと言うのに、何という事だ。俺はギュッと瞼を一度瞑って頭を軽く振った。すっかり頭が別の事で一杯になってしまっていたのだ。
「阿部、助かった」
礼を言うと、阿部が少し神妙な表情で俺の顔を暫し見つめて言った。
「あの……亀田課長、具合でも悪いんですか?」
「……いや?」
「顔色が悪いような気がします」
それは単純に寝不足だからだ。
ミミの事がどうも気がかりで眠れなかったのだ。今朝も見た感じ元気があるようには見えた。セロリとニンジンの葉を、ミミはリズム良くポリポリと食べていた。しかしやはりペレットに気が向かない様子に変化は無く、新しい袋を開封して餌箱の中身を入れ替えてみたのだがフンフンと鼻を近づけただけで……すぐに頭を引っ込めてしまった。
牧草を主食に据えている飼い主もいるくらいなので、牧草はタップリ置いて来たのだが―――ちゃんと食べているだろうか?急に体調を崩していないだろうか?ネットの情報は色々で、悪い物を見ればキリがない。『急変する場合もあるから要注意』と言う記事もあって、やはりこうしていても何か落ち着かない気持ちは拭えない。ミミの傍にいられないと言う状態をこれほど不安に感じるのは、俺にとって初めての経験だった。
ふと思う。ペットのウサギが体調を壊しただけでもこれほど不安なるのに、これが自分の子供だったら心労はいかばかりだろう、と。樋口さんの苦労の一端を身に染みるように想像してしまう。必ず定時に帰るし飲み会も出ない。子供に何かあれば休みも取る樋口さんが、人並以上に仕事をこなしている事を単純に「すげーな」と思った。
うーん、世の働くお父さんお母さんは常にこんな落ち着かない状態で仕事をしているのか。きっと今想像している以上に大変なのだろうな。それに比べたら―――俺の少々の寝不足くらい、物の数にも入らない。
「いや、少し寝不足なだけだ。何ともない」
「はあ……」
納得できない様子の阿部を尻目に、ファイルを開く。
ザッと目を通して、すぐに気づいた事を口にした。
「あ、これフォントサイズ小さ過ぎるぞ。爺様達は老眼だから12ポイント以上が必須だ!」
「あっ、ハイ」
「これも、これも誤字だ……うーん、ちょっと赤入れるから……後で直しな」
「うっ……了解っす!」
せっかく心配してくれた阿部に対して、容赦なく駄目出しをしてしまった。
阿部がサッサと逃げ出してくれて助かった。ミミの事で弱っている所は部下にはあまり見せたくない。仕事は仕事。割り切って取り掛からなければ周りに迷惑を掛けるし、効率が悪くなって結局帰宅が遅れ、ミミに寄り添う時間が減ってしまう。
俺は気持ちを切り替えて、阿部の作ってくれた資料のチェックに専念する事にした。
阿部の呼び掛けで、やっと我に返る。
「大丈夫っすか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
眼鏡の位置を直して、顔を阿部の方へ向ける。
「すいません、データ送りましたんで確認お願いします」
「分かった」
そう言って阿部は、俺のPCを覗き込み作った資料データを入れたフォルダを示した。俺が緊急で頼んだ資料だと言うのに、何という事だ。俺はギュッと瞼を一度瞑って頭を軽く振った。すっかり頭が別の事で一杯になってしまっていたのだ。
「阿部、助かった」
礼を言うと、阿部が少し神妙な表情で俺の顔を暫し見つめて言った。
「あの……亀田課長、具合でも悪いんですか?」
「……いや?」
「顔色が悪いような気がします」
それは単純に寝不足だからだ。
ミミの事がどうも気がかりで眠れなかったのだ。今朝も見た感じ元気があるようには見えた。セロリとニンジンの葉を、ミミはリズム良くポリポリと食べていた。しかしやはりペレットに気が向かない様子に変化は無く、新しい袋を開封して餌箱の中身を入れ替えてみたのだがフンフンと鼻を近づけただけで……すぐに頭を引っ込めてしまった。
牧草を主食に据えている飼い主もいるくらいなので、牧草はタップリ置いて来たのだが―――ちゃんと食べているだろうか?急に体調を崩していないだろうか?ネットの情報は色々で、悪い物を見ればキリがない。『急変する場合もあるから要注意』と言う記事もあって、やはりこうしていても何か落ち着かない気持ちは拭えない。ミミの傍にいられないと言う状態をこれほど不安に感じるのは、俺にとって初めての経験だった。
ふと思う。ペットのウサギが体調を壊しただけでもこれほど不安なるのに、これが自分の子供だったら心労はいかばかりだろう、と。樋口さんの苦労の一端を身に染みるように想像してしまう。必ず定時に帰るし飲み会も出ない。子供に何かあれば休みも取る樋口さんが、人並以上に仕事をこなしている事を単純に「すげーな」と思った。
うーん、世の働くお父さんお母さんは常にこんな落ち着かない状態で仕事をしているのか。きっと今想像している以上に大変なのだろうな。それに比べたら―――俺の少々の寝不足くらい、物の数にも入らない。
「いや、少し寝不足なだけだ。何ともない」
「はあ……」
納得できない様子の阿部を尻目に、ファイルを開く。
ザッと目を通して、すぐに気づいた事を口にした。
「あ、これフォントサイズ小さ過ぎるぞ。爺様達は老眼だから12ポイント以上が必須だ!」
「あっ、ハイ」
「これも、これも誤字だ……うーん、ちょっと赤入れるから……後で直しな」
「うっ……了解っす!」
せっかく心配してくれた阿部に対して、容赦なく駄目出しをしてしまった。
阿部がサッサと逃げ出してくれて助かった。ミミの事で弱っている所は部下にはあまり見せたくない。仕事は仕事。割り切って取り掛からなければ周りに迷惑を掛けるし、効率が悪くなって結局帰宅が遅れ、ミミに寄り添う時間が減ってしまう。
俺は気持ちを切り替えて、阿部の作ってくれた資料のチェックに専念する事にした。
0
お気に入りに追加
1,547
あなたにおすすめの小説
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる