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番外編・うさぎのきもち
54.セロリを食べるヨツバ
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セロリの葉の部分を卯月さんが差し出すとヨツバは後足で立って首を伸ばし、その葉をショリショリと食べ始めた。
「フフフ……ヨツバ、たんとお食べなさい!」
卯月さんの様子がなんだか変だ。目がキラキラ……と言うよりギラギラしている。亀田部長や伊都さんがうさぎに関する事でガラリと雰囲気が変わる一方で、彼女にだけは落ち着いた常識人、と言うイメージを抱いていたのだが―――やはり同類なのだな、と納得する。
そんな人間達の注目をものともせず、ヨツバはとにかく一心不乱にセロリを齧っている。
ドンドンセロリの葉っぱが口の中に吸い込まれて行くのを眺めながら、俺は気を取り直して伊都さんに尋ねた。
「セロリが安全な野菜って事は、危険な野菜もあるんですか?」
「そうですね……危険と言うほどじゃないんですが、さっき言ったように下痢を誘発するような水分の多い野菜は注意した方が良いと思います。栄養的には問題ないんですが例えば一般的にレタスとかキュウリ、トマトなんかはあげ過ぎない方が良いと言われていますね」
「水分が問題なんですか?じゃあニンジンは大丈夫ですね」
うさぎと言えばニンジンだ。有名なうさぎのキャラクターが齧っているイメージが強い。
「でもできれば葉っぱの方が良いと思います。根の方は糖分が多いので、これもやっぱりあげ過ぎはマズいんですよね。あと気を付けた方が良いのはイモ類とか……でんぷん質はうさぎの腸に合わないので胃腸の調子を悪くする可能性が大きいです。それときっと匂いが嫌で食べないとは思いますが、ネギ類も中毒を起こす可能性があるので危険です」
真剣な表情に思わずこちらも緊張してしまう。
「じゃあ飼い主の責任は重大ですね。知らなかったらうっかりあげてたかもしれない」
「そうですね。だから戸次さんが真っ先にうちの店に来てくれてよかったです。今はスマホで直ぐに調べられる時代ですけど……逆に古い情報が残っていたり、掲載する人によって考え方も違うので情報が錯綜している場合もありますし。やっぱり初めは慣れている人に聞くのが一番の近道ですよね。だからヨツバの為にも……戸次さんが一歩踏み出してくれて本当に良かったです」
そう言ってふっと表情を緩めた伊都さんの笑顔にギクリとする。
みのりが俺の連絡に応じてくれれば、あの店にわざわざ出向く事も無かったんだ。そしてみのりが俺の連絡に応じないのは、風間の言い分を信じればおそらく俺と花井さんの事を誤解した所為で。……更に言えば俺がこれまで少しでもヨツバの世話に関心を持っていればちゃんと世話が出来たワケで。そもそもそんな風にみのりと距離を取っていた時期が無ければ、花井さんの事をみのりが誤解する、なんてことにはならなかった可能性もあって。
俺の行動を好意的に受け取ったらしい伊都さんの笑顔に、後ろ暗い気持ちを抱かずにはいられない。ヨツバの事を真っすぐな気持ちで心配してくれる伊都さんが眩しいような気がして―――俺は思わず目を逸らした。
褒められるような事はしていない。むしろ―――。
そのまま口を噤んだ俺を見て伊都さんは訝し気に首を傾げたが、シャクシャクセロリの葉を食べるヨツバに視線を移し目を細めた。まるで愛しい子どもを見つめるように口元を緩める横顔を見て、この人は本当にうさぎが好きなんだな……と改めて納得する。
うさぎの事を真剣に考えている、真面目そうな伊都さん。
ヨツバの今の苦境が、俺とみのりのトラブル……つまり痴話喧嘩みたいなモノが発端だったと聞いたら、彼女は眉を顰めるだろうか。
「フフフ……ヨツバ、たんとお食べなさい!」
卯月さんの様子がなんだか変だ。目がキラキラ……と言うよりギラギラしている。亀田部長や伊都さんがうさぎに関する事でガラリと雰囲気が変わる一方で、彼女にだけは落ち着いた常識人、と言うイメージを抱いていたのだが―――やはり同類なのだな、と納得する。
そんな人間達の注目をものともせず、ヨツバはとにかく一心不乱にセロリを齧っている。
ドンドンセロリの葉っぱが口の中に吸い込まれて行くのを眺めながら、俺は気を取り直して伊都さんに尋ねた。
「セロリが安全な野菜って事は、危険な野菜もあるんですか?」
「そうですね……危険と言うほどじゃないんですが、さっき言ったように下痢を誘発するような水分の多い野菜は注意した方が良いと思います。栄養的には問題ないんですが例えば一般的にレタスとかキュウリ、トマトなんかはあげ過ぎない方が良いと言われていますね」
「水分が問題なんですか?じゃあニンジンは大丈夫ですね」
うさぎと言えばニンジンだ。有名なうさぎのキャラクターが齧っているイメージが強い。
「でもできれば葉っぱの方が良いと思います。根の方は糖分が多いので、これもやっぱりあげ過ぎはマズいんですよね。あと気を付けた方が良いのはイモ類とか……でんぷん質はうさぎの腸に合わないので胃腸の調子を悪くする可能性が大きいです。それときっと匂いが嫌で食べないとは思いますが、ネギ類も中毒を起こす可能性があるので危険です」
真剣な表情に思わずこちらも緊張してしまう。
「じゃあ飼い主の責任は重大ですね。知らなかったらうっかりあげてたかもしれない」
「そうですね。だから戸次さんが真っ先にうちの店に来てくれてよかったです。今はスマホで直ぐに調べられる時代ですけど……逆に古い情報が残っていたり、掲載する人によって考え方も違うので情報が錯綜している場合もありますし。やっぱり初めは慣れている人に聞くのが一番の近道ですよね。だからヨツバの為にも……戸次さんが一歩踏み出してくれて本当に良かったです」
そう言ってふっと表情を緩めた伊都さんの笑顔にギクリとする。
みのりが俺の連絡に応じてくれれば、あの店にわざわざ出向く事も無かったんだ。そしてみのりが俺の連絡に応じないのは、風間の言い分を信じればおそらく俺と花井さんの事を誤解した所為で。……更に言えば俺がこれまで少しでもヨツバの世話に関心を持っていればちゃんと世話が出来たワケで。そもそもそんな風にみのりと距離を取っていた時期が無ければ、花井さんの事をみのりが誤解する、なんてことにはならなかった可能性もあって。
俺の行動を好意的に受け取ったらしい伊都さんの笑顔に、後ろ暗い気持ちを抱かずにはいられない。ヨツバの事を真っすぐな気持ちで心配してくれる伊都さんが眩しいような気がして―――俺は思わず目を逸らした。
褒められるような事はしていない。むしろ―――。
そのまま口を噤んだ俺を見て伊都さんは訝し気に首を傾げたが、シャクシャクセロリの葉を食べるヨツバに視線を移し目を細めた。まるで愛しい子どもを見つめるように口元を緩める横顔を見て、この人は本当にうさぎが好きなんだな……と改めて納得する。
うさぎの事を真剣に考えている、真面目そうな伊都さん。
ヨツバの今の苦境が、俺とみのりのトラブル……つまり痴話喧嘩みたいなモノが発端だったと聞いたら、彼女は眉を顰めるだろうか。
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