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新妻・卯月の仙台暮らし
ことの顛末(5) <戸次>
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待合わせ場所は、ショッピングセンターの一角にあるカフェだ。到着して暫くして、伊都さんが姿を現した。俺はてっきり彼女は一人で来るものだと思い込んでいたのだが―――隣に見覚えのある人影を発見して、自分の恥ずかしい思い込みに気付かされた。
……いや、想定内。想定内だよ。
考えてみれば、そうだよな。あの人見知りの権化の伊都さんが、自分から男を誘って二人切りで食事?……ねぇよな!
卯月さんが一緒っつうなら、成り行きがすんなり理解できる。ただ彼女……いや彼女達が『相談したいこと』には、イマイチ心当たりがないのだが。
動揺を押し隠しつつ、落ち着いた態度を装って珈琲に口を付ける。そこで飲み物を頼み終えた伊都さんが、ずずいっと身を乗り出して来た。
「亀田さんって、浮気してると思いますか?」
「ブッ……」
飲み込みかけた珈琲を噴き出し掛けて、俺は慌てておしぼりを手にした。
隣に座っている卯月さんも、あまりのことに目を丸くしている。
「―――んなワケあるかっ……!」
思わず大声を出してしまった。
そこで正気に返り、おしぼりで口を拭う。
「……ですよねぇ!」
突然のことに二の句も継げない俺の目の前で、伊都さんはいかにも満足気に頷いた。そして晴れ晴れとした笑顔を、隣で呆気に取られている卯月さんに向けたのだった。
「ですって。卯月さん!!」
まさか、そんなことで呼び出されたのだとは。
もしかして、新婚夫婦の些細な痴話喧嘩か何かか? く、くっだらねぇえ……!! つーか彼女に振られたばかりの俺に聞くことかよ?! いや、伊都さんはそんなこと知らないかもしれないけど……でも、不愉快極まりないっ!
そもそも職場で見せないような、あんな甘ったるい雰囲気かもしだしている亀田部長の何を疑うって言うんだ? あの人うさぎと奥さんに関することを除外すれば、ほぼ仕事のことしか考えて無さそうだぞ?! 女性陣にキャーキャー言われても慣れ過ぎてるのかちっとも浮かれたりしねぇし、と言うか全く取り合わず知らん顔してるし。
とにかく、いらん心配だよな!
『夫婦喧嘩は犬も食わない』とはこのことか?
ホント……妙な心配して、アレコレ悩んで……損したっ!!
つーか俺、伊都さんへの無難な返答は……とか言って上から目線でナニ考えてたっけ……?ああもう勘違いしていた自分が、滅茶苦茶恥ずかしくなって来たっっ!!!
俺はガックリと肩を落とした。
が、気を取り直し亀田部長の疑いを晴らすべくフォローを続けていると……何故か「支店って、相当乱れているんですか?」なんて、卯月さんから不本意なジト目を向けられてしまう。
そしてソコ! 伊都さん!
何故そんな風に目を丸くして、こっちを見るんだ? 俺は無実だぞ!……いや花井さんの件については無実……と、正々堂々と言えないような気もするが。
いや、違う! 乱れてないっ……それは遠藤課長くらいだから! 俺は無実、無実なんだっ!!
俺は必死で反論を重ねた。……が、目の前の二人の女性にそれが伝わっているのかいないのか。もし俺の下手なフォローの所為で、無実の亀田部長が疑われてしまったらと思うと、申し訳ない。……一気に肩が重くなった。
この後の午後の外回り、トークに精彩を欠いてしまったのは……たぶん、そんな気疲れの所為だと思う。
あ~ホント、今日は疲れた……。
その日家に帰ってから、無言のヨツバに愚痴りまくったのは、言うまでもない。
……いや、想定内。想定内だよ。
考えてみれば、そうだよな。あの人見知りの権化の伊都さんが、自分から男を誘って二人切りで食事?……ねぇよな!
卯月さんが一緒っつうなら、成り行きがすんなり理解できる。ただ彼女……いや彼女達が『相談したいこと』には、イマイチ心当たりがないのだが。
動揺を押し隠しつつ、落ち着いた態度を装って珈琲に口を付ける。そこで飲み物を頼み終えた伊都さんが、ずずいっと身を乗り出して来た。
「亀田さんって、浮気してると思いますか?」
「ブッ……」
飲み込みかけた珈琲を噴き出し掛けて、俺は慌てておしぼりを手にした。
隣に座っている卯月さんも、あまりのことに目を丸くしている。
「―――んなワケあるかっ……!」
思わず大声を出してしまった。
そこで正気に返り、おしぼりで口を拭う。
「……ですよねぇ!」
突然のことに二の句も継げない俺の目の前で、伊都さんはいかにも満足気に頷いた。そして晴れ晴れとした笑顔を、隣で呆気に取られている卯月さんに向けたのだった。
「ですって。卯月さん!!」
まさか、そんなことで呼び出されたのだとは。
もしかして、新婚夫婦の些細な痴話喧嘩か何かか? く、くっだらねぇえ……!! つーか彼女に振られたばかりの俺に聞くことかよ?! いや、伊都さんはそんなこと知らないかもしれないけど……でも、不愉快極まりないっ!
そもそも職場で見せないような、あんな甘ったるい雰囲気かもしだしている亀田部長の何を疑うって言うんだ? あの人うさぎと奥さんに関することを除外すれば、ほぼ仕事のことしか考えて無さそうだぞ?! 女性陣にキャーキャー言われても慣れ過ぎてるのかちっとも浮かれたりしねぇし、と言うか全く取り合わず知らん顔してるし。
とにかく、いらん心配だよな!
『夫婦喧嘩は犬も食わない』とはこのことか?
ホント……妙な心配して、アレコレ悩んで……損したっ!!
つーか俺、伊都さんへの無難な返答は……とか言って上から目線でナニ考えてたっけ……?ああもう勘違いしていた自分が、滅茶苦茶恥ずかしくなって来たっっ!!!
俺はガックリと肩を落とした。
が、気を取り直し亀田部長の疑いを晴らすべくフォローを続けていると……何故か「支店って、相当乱れているんですか?」なんて、卯月さんから不本意なジト目を向けられてしまう。
そしてソコ! 伊都さん!
何故そんな風に目を丸くして、こっちを見るんだ? 俺は無実だぞ!……いや花井さんの件については無実……と、正々堂々と言えないような気もするが。
いや、違う! 乱れてないっ……それは遠藤課長くらいだから! 俺は無実、無実なんだっ!!
俺は必死で反論を重ねた。……が、目の前の二人の女性にそれが伝わっているのかいないのか。もし俺の下手なフォローの所為で、無実の亀田部長が疑われてしまったらと思うと、申し訳ない。……一気に肩が重くなった。
この後の午後の外回り、トークに精彩を欠いてしまったのは……たぶん、そんな気疲れの所為だと思う。
あ~ホント、今日は疲れた……。
その日家に帰ってから、無言のヨツバに愚痴りまくったのは、言うまでもない。
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