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新妻・卯月の仙台暮らし
11.帰り道でお話します。
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卯月視点に戻ります。
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「伊都さんと店長さんって、実はイトコなんだって」
帰り道、定禅寺通りを歩きながら丈さんを見上げると「そうか」と読めない表情で呟いた。「あの二人はどういう関係なんだ?」なんてポツリと彼が尋ねたからだ。私の問いかけるような視線に気が付いて、丈さんは首を振った。
「いや……その、店長が随分あの店員を心配している様子だったから、な」
なるほど、確かに普通の店長と店員にしては目配りが優しいかもしれない。他人だったら彼氏と彼女かと思ってしまうかも。……あ、でも。
「でもそう言えば、血は繋がってないって言ってたよ。細かい事は忘れちゃったけど、伊都さんのお母さんが再婚してイトコになったんだって」
だから厳密に言うと、彼氏彼女の関係になれないこともないかも。もともとイトコって結婚できるしね。でもそう言う雰囲気はあんまり感じないんだよなぁ……あくまで身内って言うか、店長さんは伊都さんの保護者って印象だ。
そんなどうでも良い事を考えていると、丈さんが分析結果を口にするような落ち着いた声を返して来た。
「確かに全くと言って良いほど似てないな」
大きくてガッチリした体格の山男!って感じの店長さんと、小柄で華奢な伊都さん。伊都さんは大きな目が零れ落ちそうな感じで、店長さんは一重か奥二重?の眠たそうにも見える細い目が、笑うと優し気な垂れ目になる。
「うん、全く似てないよね。見た目だけじゃなくて性格も。伊都さんって小動物的な感じだけど、店長さんって大きな動物って言うか、妙に落ち着いているって言うか……」
歩きながら適当な言葉を探していて、ふと閃いた。
「そう!昼寝してるライオンって言うかそんな感じ!」
我ながら物凄く的を得た表現を見つけたと思う。口にしてみると改めて、まさにそんなカンジ!ってしっくり来た。
「ライオン……か」
「うん。お腹いっぱいだから、うさぎが脇を通り過ぎても放って置く……みたいな?ホントは強いけど今は寝てるって言う……」
「……」
好き勝手な妄想を繰り広げていると、丈さんはボンヤリと黙り込んでしまった。ヤバい、子供っぽい話して引かれちゃったかな?!普段は妄想は頭の中だけで収めていた。なのに今日はついつい調子に乗ってしゃべり過ぎた気がする。
久し振りの丈さんとのお出掛けが楽しくて、一緒に牛タン定食を食べてお腹いっぱいで嬉しくて、うさぎのお店に行けて浮かれてて―――私自分のことばっかり話ちゃって、ウザかったかな?!
「丈さん……?」
急に心配になってしまって小走りで彼の前に進み、整った顔を覗き込んだ。少し眉を寄せて何事かを考え込んでいるような表情に俄かに不安になる。
もしかして仕事の事が引っ掛かっているのかも……?今日は珍しく一日お出掛けに付き合ってくれた。ひょっとして、ひょっとしなくても忙しいのに無理してくれたんだろう。
「もしかしてお仕事のこと考えてる?ゴメンね、忙しいのに付き合って貰っちゃって……」
そう言えば、思った以上に『うさぎひろば』に長居してしまったかも。伊都さんに丈さんを紹介できて嬉しかったし、彼女とうさぎネタでおしゃべりするのは本当に楽しかった。だからついつい調子に乗って時間を忘れてしまったんだ。
丈さんも店長さんと話が合っているように見えたし……うさぎ好き男子同士ってなかなか出会えないだろうから、話が弾んでるんだな~とホッコリしていたけど―――本当は丈さん、早くマンションに帰ってお仕事の続きをしたかったのかな?だとしたら、私ってホント気が利かない妻だ……!
「……え?」
「おしゃべり長くなってゴメンね?急いで帰ろうか」
すると丈さんはパッと驚いたように目を見開いて立ち止まった。私もつられて立ち止まり、両手を握り合わせて彼を真っすぐに見上げる。
一拍置いて―――フルッと頭を振った丈さん。
次の瞬間目を細めて柔らかく微笑む彼の笑顔に、ドキリとする。
「いや、仕事じゃない。その―――店長の『ライオン』って言うのがピッタリだと思ってな……髪型もそんなカンジじゃないか?」
「あ……うん。そうだね、そんなカンジ!」
良かった……!
そっか、仕事のこと考えていたんじゃないんだ。私もホッとして笑顔になった。と、同時にドキドキと高鳴る胸を握り合わせていた両手で押さえる。うう……緊張から一転、彼の優しい笑顔にキュン!と来てしまった……!ギャップにドキドキが止まらない!しかし平常心、平常心!こんな街中でキュンキュンしている場合じゃないですよ!大人な女は落ち着いて話さないとねっ!
再び歩き出した私達。歩くリズムに合わせて何とか胸の動悸を抑えつつ、丈さんの言葉を振り返る。うっかりすると『私の旦那様、カッコいいなぁ』なんて妻馬鹿な思考に頭を支配されそうになるから、割と頑張って先ほどの話題に意識を振り向けた。
うん、確かに店長さんの髪の毛って癖毛なのか長めでライオンみたいに膨らんでいる。昼寝中のライオン。周りに無防備なうさぎがチョロチョロしていても欠伸してそうな……
「そう言えば……店長と真逆で、伊都さんは『うさぎ』っぽくない?」
伊都さんに会うたび、小動物って言うかむしろ『うさぎっぽいなぁ』って思ってたんだ。私と同じくうさぎ好き(狂い?)の丈さんにも、この感覚分かって貰えるような気がするんだ。だから彼女ってうさぎっぽくて可愛いって言うか、何となくほっとけないって言うか……
「そうか?」
「こう……状況に慣れるまで物陰に隠れてドキドキしている感じとか、小柄で目がおっきくて可愛らしいところが……」
「ああ……」
丈さんが私の言った台詞を検証するように黙り込んだ時。ハタ、と気が付いた。こうやって自分で口にするまで全くそこまで考えが及ばなかったけど―――
うさぎっぽい可愛い彼女。
そしてうさぎをこよなく愛する丈さん。
あれ?―――これってもしかしてまずくない?伊都さんってひょっとして―――丈さんの好みど真ん中ってヤツだったりして……?!
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「伊都さんと店長さんって、実はイトコなんだって」
帰り道、定禅寺通りを歩きながら丈さんを見上げると「そうか」と読めない表情で呟いた。「あの二人はどういう関係なんだ?」なんてポツリと彼が尋ねたからだ。私の問いかけるような視線に気が付いて、丈さんは首を振った。
「いや……その、店長が随分あの店員を心配している様子だったから、な」
なるほど、確かに普通の店長と店員にしては目配りが優しいかもしれない。他人だったら彼氏と彼女かと思ってしまうかも。……あ、でも。
「でもそう言えば、血は繋がってないって言ってたよ。細かい事は忘れちゃったけど、伊都さんのお母さんが再婚してイトコになったんだって」
だから厳密に言うと、彼氏彼女の関係になれないこともないかも。もともとイトコって結婚できるしね。でもそう言う雰囲気はあんまり感じないんだよなぁ……あくまで身内って言うか、店長さんは伊都さんの保護者って印象だ。
そんなどうでも良い事を考えていると、丈さんが分析結果を口にするような落ち着いた声を返して来た。
「確かに全くと言って良いほど似てないな」
大きくてガッチリした体格の山男!って感じの店長さんと、小柄で華奢な伊都さん。伊都さんは大きな目が零れ落ちそうな感じで、店長さんは一重か奥二重?の眠たそうにも見える細い目が、笑うと優し気な垂れ目になる。
「うん、全く似てないよね。見た目だけじゃなくて性格も。伊都さんって小動物的な感じだけど、店長さんって大きな動物って言うか、妙に落ち着いているって言うか……」
歩きながら適当な言葉を探していて、ふと閃いた。
「そう!昼寝してるライオンって言うかそんな感じ!」
我ながら物凄く的を得た表現を見つけたと思う。口にしてみると改めて、まさにそんなカンジ!ってしっくり来た。
「ライオン……か」
「うん。お腹いっぱいだから、うさぎが脇を通り過ぎても放って置く……みたいな?ホントは強いけど今は寝てるって言う……」
「……」
好き勝手な妄想を繰り広げていると、丈さんはボンヤリと黙り込んでしまった。ヤバい、子供っぽい話して引かれちゃったかな?!普段は妄想は頭の中だけで収めていた。なのに今日はついつい調子に乗ってしゃべり過ぎた気がする。
久し振りの丈さんとのお出掛けが楽しくて、一緒に牛タン定食を食べてお腹いっぱいで嬉しくて、うさぎのお店に行けて浮かれてて―――私自分のことばっかり話ちゃって、ウザかったかな?!
「丈さん……?」
急に心配になってしまって小走りで彼の前に進み、整った顔を覗き込んだ。少し眉を寄せて何事かを考え込んでいるような表情に俄かに不安になる。
もしかして仕事の事が引っ掛かっているのかも……?今日は珍しく一日お出掛けに付き合ってくれた。ひょっとして、ひょっとしなくても忙しいのに無理してくれたんだろう。
「もしかしてお仕事のこと考えてる?ゴメンね、忙しいのに付き合って貰っちゃって……」
そう言えば、思った以上に『うさぎひろば』に長居してしまったかも。伊都さんに丈さんを紹介できて嬉しかったし、彼女とうさぎネタでおしゃべりするのは本当に楽しかった。だからついつい調子に乗って時間を忘れてしまったんだ。
丈さんも店長さんと話が合っているように見えたし……うさぎ好き男子同士ってなかなか出会えないだろうから、話が弾んでるんだな~とホッコリしていたけど―――本当は丈さん、早くマンションに帰ってお仕事の続きをしたかったのかな?だとしたら、私ってホント気が利かない妻だ……!
「……え?」
「おしゃべり長くなってゴメンね?急いで帰ろうか」
すると丈さんはパッと驚いたように目を見開いて立ち止まった。私もつられて立ち止まり、両手を握り合わせて彼を真っすぐに見上げる。
一拍置いて―――フルッと頭を振った丈さん。
次の瞬間目を細めて柔らかく微笑む彼の笑顔に、ドキリとする。
「いや、仕事じゃない。その―――店長の『ライオン』って言うのがピッタリだと思ってな……髪型もそんなカンジじゃないか?」
「あ……うん。そうだね、そんなカンジ!」
良かった……!
そっか、仕事のこと考えていたんじゃないんだ。私もホッとして笑顔になった。と、同時にドキドキと高鳴る胸を握り合わせていた両手で押さえる。うう……緊張から一転、彼の優しい笑顔にキュン!と来てしまった……!ギャップにドキドキが止まらない!しかし平常心、平常心!こんな街中でキュンキュンしている場合じゃないですよ!大人な女は落ち着いて話さないとねっ!
再び歩き出した私達。歩くリズムに合わせて何とか胸の動悸を抑えつつ、丈さんの言葉を振り返る。うっかりすると『私の旦那様、カッコいいなぁ』なんて妻馬鹿な思考に頭を支配されそうになるから、割と頑張って先ほどの話題に意識を振り向けた。
うん、確かに店長さんの髪の毛って癖毛なのか長めでライオンみたいに膨らんでいる。昼寝中のライオン。周りに無防備なうさぎがチョロチョロしていても欠伸してそうな……
「そう言えば……店長と真逆で、伊都さんは『うさぎ』っぽくない?」
伊都さんに会うたび、小動物って言うかむしろ『うさぎっぽいなぁ』って思ってたんだ。私と同じくうさぎ好き(狂い?)の丈さんにも、この感覚分かって貰えるような気がするんだ。だから彼女ってうさぎっぽくて可愛いって言うか、何となくほっとけないって言うか……
「そうか?」
「こう……状況に慣れるまで物陰に隠れてドキドキしている感じとか、小柄で目がおっきくて可愛らしいところが……」
「ああ……」
丈さんが私の言った台詞を検証するように黙り込んだ時。ハタ、と気が付いた。こうやって自分で口にするまで全くそこまで考えが及ばなかったけど―――
うさぎっぽい可愛い彼女。
そしてうさぎをこよなく愛する丈さん。
あれ?―――これってもしかしてまずくない?伊都さんってひょっとして―――丈さんの好みど真ん中ってヤツだったりして……?!
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