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・番外編・ 天然タラシ(無自覚)はご遠慮ください
5.もしかしてキープですか?
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ハナが月1の定例打合せため本社を訪れると、珍しく萌香から声を掛けられた。
最近歯牙にも掛けていないというように無視されていたのに―――にこやかに話し掛けてくる萌香にハナは少し戸惑いを感じた。
そして彼女にランチに誘われたのだ。
いつも本社に来るたびランチは和美と一緒だったので、萌香に誘われた事を伝えると和美は笑顔で「いってらっしゃい」とハナを送り出した。またしてもハナは違和感を覚える。
『田舎ババア』事件以来、萌香がハナに突っかかっている事に気付いた和美はずっと密かに警戒心を示していたから、心配そうな表情も見せずすんなり許可を出したのが意外だった。
萌香に連れられて入ったのは、品の良いお洒落なカフェだった。
「平井さん、元気そうだね」
あれだけ遣り込めたのにわざわざ自分をランチに誘うなんて、なかなかどうして骨があるな……と、向かい合う美貌の新人社員を見ながら考えた。
「ええ。ちょっと、楽しみな事ができて」
と朗らかに萌香は言いながら注文を済ませた。そして水をひと口飲んで、ハナを見て笑顔になった。
「子育てって、大変ですか?」
唐突に出された質問だったが、気遣うような口振りだったので、特に警戒心も抱かずハナは答えた。
「そうね、小さい時は。うちはもう小5だから、今はいろいろ手伝ってくれて楽なくらいだけど」
「森さんも子育て大変そうですよね。最近森さんのお母さんが入院されて家事に手が回らないようなので、心配になります」
同情を滲ませて瞼を伏せる萌香の台詞に、ハナは驚いていた。和美と3日と開けずメールの遣り取りをしているが、母親の入院に関する事は話題に上らなかったからだ。
当の和美としては、これ以上愚痴ばかり言ってハナに呆れられたくないと考え直し、マイナス発言を抑制するように心掛けていただけだった。母親が退院してから『母親が入院して家事をやる事になったけど、結構楽しいね』とか何とか余裕のある発言を添えて報告しようと考えていたのだ。バタバタしている最中に愚痴を言うと止まらなくなりそうな予感がして、好きな相手にこれ以上情けない所を見せたくないと考えていたのだ。
それが、裏目に出るとは気付かずに。
「この間飲みに誘っていただいたんですけど、いつも笑顔で崩れない森さんがひどく酔っ払ってしまって。自分を支えてくれる人が必要だって、気付かれたようですよ。やっぱり男手1人で仕事と家庭を維持するのは大変ですものね。それに才能のある方ですから、いずれは海外事業の案件に戻られるでしょうし、きちんと家を護って例えば外国に出向になっても付いて行ける女性が彼を支えた方が、会社の為にもなりますよね」
「はあ」
滔々と語る萌香に、とりあえず相槌を打った。
なるほど彼女が自分に伝えたかったのは、このことかと合点が言った。萌香が自分をライバル視する対象から既に外しているのはなんとなく感じていた。ほとんど無視に近い形で敵意を向けてくる事も無くなったからだ。売られた喧嘩は買うが、特に喧嘩好きではないハナはホッとしていた。
実際は和美とハナは現在進行形で付き合っているのだから、油断している場合では無いのだが。
自分は2人きりで飲みに誘って貰える立場である、そして和美が無防備な姿を晒して彼女に愚痴を言ったのだ―――という事を言いたいらしい。更に和美は家庭を支えてくれる伴侶を求めていて、それに相応しいのは……と、その矛先を示唆するような口振りである。
けれどもそれほど彼女の言葉に強い攻撃性があるわけでは無い。
どちらかというと、自慢……若しくは駄目押し……のような含みを持っている気がする。
もしかして遣り込められた仕返しなのだろうか?それとも単に改めて牽制しているのかも。とハナは受け取った。
しかし和美の母親の入院と、それをハナには話さず身近にいる萌香に語った事自体は事実なのだろう。
そして和美が誘ったという訳では無いかもしれないが、萌香と2人で飲みに言った事も。
何らかの和解があった上で……だからこそ和美は笑顔でランチに2人を送り出したのだ。和美と萌香の心の距離が縮んだのは、まず間違いない。
(和美って酔って女を口説く癖があったの……?!昔はどんなに酔っぱらっても愚痴ひとつ言わない奴だったのに……)
遠距離子持ちそして働き盛りの仕事人間同士という組み合わせに未来が無いのは、ハナにも何となく予想が付いていた。和美が落ち込んでいる間はハナを必要とするだろうが、ある程度浮上してくれば、専業主婦志望の若い伴侶を求めるようになるのは当たり前の事だと思った。和美の母親にも、息子の清美にも、和美自身のためにも―――そちらの方が断然望ましい。
しかし、やっぱり。
面白くない。
だいたい一応あっちから『付き合おう』と言いだして交際を始めたのに、断りも無く別れも告げず、ハナをキープしたまま水面下で嫁探しをするなんてどういうつもりだ。
和美は今ではハナにとって掛け替えの無い存在になっている。ハナだって和美を必要としているのだ。手放す事になったら面倒な嫉妬心に苦しめられるだろうし、和美が居場所を作った心の一部にぽっかりと穴が開いてしまうではないか。
(よっし)
ハナは決意した。
今晩問い詰めて文句を言って、あの綺麗な顔に平手を1発お見舞いして別れてやる……!
和美なんて掌の痕が付いた顔で会社に通って、好奇の目に晒されればいいんだ!
鼻息も荒く拳を握りしめるハナの鼻腔に、ランチプレートが良い匂いを運んできた。
「わあ、美味しそうですね!」
ピチピチした頬を朗らかにほころばせる正面の若い女性を見て、溜息を吐いた。
「平井さんなら、良いお嫁さんになりそうだね」
「え?」
思いも拠らない褒め言葉に、萌香は頬を染めた。
「有難うございます。そうなれたら嬉しいんですけど」
「いーわね、若いって。私は娘がいるから仕事も手放せないし、海外に住む人に付いて行くなんて……絶対ムリだわ」
「えーそんな」
ハナのおどけた台詞にクスリと笑いつつも、萌香は否定しなかった。
(……平手2発でもいいかも)
あらためて心の中に闘志が湧いて来るのを感じたハナであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回、最終話となります。
最近歯牙にも掛けていないというように無視されていたのに―――にこやかに話し掛けてくる萌香にハナは少し戸惑いを感じた。
そして彼女にランチに誘われたのだ。
いつも本社に来るたびランチは和美と一緒だったので、萌香に誘われた事を伝えると和美は笑顔で「いってらっしゃい」とハナを送り出した。またしてもハナは違和感を覚える。
『田舎ババア』事件以来、萌香がハナに突っかかっている事に気付いた和美はずっと密かに警戒心を示していたから、心配そうな表情も見せずすんなり許可を出したのが意外だった。
萌香に連れられて入ったのは、品の良いお洒落なカフェだった。
「平井さん、元気そうだね」
あれだけ遣り込めたのにわざわざ自分をランチに誘うなんて、なかなかどうして骨があるな……と、向かい合う美貌の新人社員を見ながら考えた。
「ええ。ちょっと、楽しみな事ができて」
と朗らかに萌香は言いながら注文を済ませた。そして水をひと口飲んで、ハナを見て笑顔になった。
「子育てって、大変ですか?」
唐突に出された質問だったが、気遣うような口振りだったので、特に警戒心も抱かずハナは答えた。
「そうね、小さい時は。うちはもう小5だから、今はいろいろ手伝ってくれて楽なくらいだけど」
「森さんも子育て大変そうですよね。最近森さんのお母さんが入院されて家事に手が回らないようなので、心配になります」
同情を滲ませて瞼を伏せる萌香の台詞に、ハナは驚いていた。和美と3日と開けずメールの遣り取りをしているが、母親の入院に関する事は話題に上らなかったからだ。
当の和美としては、これ以上愚痴ばかり言ってハナに呆れられたくないと考え直し、マイナス発言を抑制するように心掛けていただけだった。母親が退院してから『母親が入院して家事をやる事になったけど、結構楽しいね』とか何とか余裕のある発言を添えて報告しようと考えていたのだ。バタバタしている最中に愚痴を言うと止まらなくなりそうな予感がして、好きな相手にこれ以上情けない所を見せたくないと考えていたのだ。
それが、裏目に出るとは気付かずに。
「この間飲みに誘っていただいたんですけど、いつも笑顔で崩れない森さんがひどく酔っ払ってしまって。自分を支えてくれる人が必要だって、気付かれたようですよ。やっぱり男手1人で仕事と家庭を維持するのは大変ですものね。それに才能のある方ですから、いずれは海外事業の案件に戻られるでしょうし、きちんと家を護って例えば外国に出向になっても付いて行ける女性が彼を支えた方が、会社の為にもなりますよね」
「はあ」
滔々と語る萌香に、とりあえず相槌を打った。
なるほど彼女が自分に伝えたかったのは、このことかと合点が言った。萌香が自分をライバル視する対象から既に外しているのはなんとなく感じていた。ほとんど無視に近い形で敵意を向けてくる事も無くなったからだ。売られた喧嘩は買うが、特に喧嘩好きではないハナはホッとしていた。
実際は和美とハナは現在進行形で付き合っているのだから、油断している場合では無いのだが。
自分は2人きりで飲みに誘って貰える立場である、そして和美が無防備な姿を晒して彼女に愚痴を言ったのだ―――という事を言いたいらしい。更に和美は家庭を支えてくれる伴侶を求めていて、それに相応しいのは……と、その矛先を示唆するような口振りである。
けれどもそれほど彼女の言葉に強い攻撃性があるわけでは無い。
どちらかというと、自慢……若しくは駄目押し……のような含みを持っている気がする。
もしかして遣り込められた仕返しなのだろうか?それとも単に改めて牽制しているのかも。とハナは受け取った。
しかし和美の母親の入院と、それをハナには話さず身近にいる萌香に語った事自体は事実なのだろう。
そして和美が誘ったという訳では無いかもしれないが、萌香と2人で飲みに言った事も。
何らかの和解があった上で……だからこそ和美は笑顔でランチに2人を送り出したのだ。和美と萌香の心の距離が縮んだのは、まず間違いない。
(和美って酔って女を口説く癖があったの……?!昔はどんなに酔っぱらっても愚痴ひとつ言わない奴だったのに……)
遠距離子持ちそして働き盛りの仕事人間同士という組み合わせに未来が無いのは、ハナにも何となく予想が付いていた。和美が落ち込んでいる間はハナを必要とするだろうが、ある程度浮上してくれば、専業主婦志望の若い伴侶を求めるようになるのは当たり前の事だと思った。和美の母親にも、息子の清美にも、和美自身のためにも―――そちらの方が断然望ましい。
しかし、やっぱり。
面白くない。
だいたい一応あっちから『付き合おう』と言いだして交際を始めたのに、断りも無く別れも告げず、ハナをキープしたまま水面下で嫁探しをするなんてどういうつもりだ。
和美は今ではハナにとって掛け替えの無い存在になっている。ハナだって和美を必要としているのだ。手放す事になったら面倒な嫉妬心に苦しめられるだろうし、和美が居場所を作った心の一部にぽっかりと穴が開いてしまうではないか。
(よっし)
ハナは決意した。
今晩問い詰めて文句を言って、あの綺麗な顔に平手を1発お見舞いして別れてやる……!
和美なんて掌の痕が付いた顔で会社に通って、好奇の目に晒されればいいんだ!
鼻息も荒く拳を握りしめるハナの鼻腔に、ランチプレートが良い匂いを運んできた。
「わあ、美味しそうですね!」
ピチピチした頬を朗らかにほころばせる正面の若い女性を見て、溜息を吐いた。
「平井さんなら、良いお嫁さんになりそうだね」
「え?」
思いも拠らない褒め言葉に、萌香は頬を染めた。
「有難うございます。そうなれたら嬉しいんですけど」
「いーわね、若いって。私は娘がいるから仕事も手放せないし、海外に住む人に付いて行くなんて……絶対ムリだわ」
「えーそんな」
ハナのおどけた台詞にクスリと笑いつつも、萌香は否定しなかった。
(……平手2発でもいいかも)
あらためて心の中に闘志が湧いて来るのを感じたハナであった。
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次回、最終話となります。
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