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・後日談 俺とねーちゃんのその後の話のおまけ1・
高坂蓮の待受け <有吉>
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晶の友人 有吉視点の後日談です。
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中国語の講義を終えて晶とご飯を食べていると、男前がトレーを手に近寄ってきた。
「ここ、座っていい?」
「うん。あ、いい?ゆっこ」
私はコクリと頷いた。
けれども私はこの男があまり好きではない。
何というか……自分と似た匂いのする人間と一緒にいるのはあまり楽しいものではないから。
私は宝箱みたいな人が好きだ。
男でも女でも。
中に何が入っているんだろうってワクワクする。
だから色んな人と話すのが好き。自分には思いも寄らない考え方をする人に興味がある。
晶はそういう意味でとても興味深い相手だった。
開けるたびに色んな面が出てきて「何だろ、何だろ」と探っているウチに、彼女の作る美味しい手料理と優しい雰囲気に嵌ってしまった。
端的に言うと、餌付けされてしまったのだ。
今では晶について知らない部分は余り無くなった。
それでも晶の傍は居心地が良いし、行動範囲が違うからいつも一緒という訳では無いけれど、私はこの比較的無表情な友人を気に入っている。
しかしこの間は驚いたなあ。
弟がいるって言う事は聞いてたけど、あんな目立つ男だと誰が想像しようか。
長身の美形。和風の晶と正反対の彫りの深い顔立ち。栗色の髪は日に透けると金色に見えるくらいで。おまけに運動が大の苦手な晶の弟がインカレ常連校のバスケ部に所属しているなんて。所属するだけなら誰でもできるかもしれないけれども、晶の語る処によるとどうやら高校の頃も全国レベルの活躍をしていたらしいから、実力はあるのだろう。
「有吉さん、今日も綺麗だね」
「あらどうも。高坂君も相変わらず格好良いわね」
心の籠らない上っ面の称賛に、私も同じ社交辞令を返した。
コイツ晶に気があるくせに、晶には何にも言わないのよね。
晶の性格から言って、手放しに褒められたら居心地悪い思いをするだろうっていう事は容易に想像できる。だから高坂蓮はきっと慎重に接しているのだろう。
私を褒めるのも、友人を褒められる方が嬉しいという晶の性質を考慮しての事だろう。その方が当人の警戒心を煽らないしね。
「ウチの学部でも高坂君に夢中な子、けっこういるわよ。手広くやっているわね~」
チクリと「アンタが適当に遊んでる事は知っているわよ」と牽制球を投げてみる。
しかし相手は涼しい顔で笑ってスルーした。
晶はというと相変わらずの無表情で黙々とカツ丼を頬張っている。高坂蓮と晶は小学校の頃からの付き合い(きっとこれがいわゆる腐れ縁だ!)という事でこういう話題はすべて聞き流してしまう。晶にとっては高坂蓮がモテるのは日常茶飯事で、女友達が多いのは当り前という認識らしい。
一方私の認識はこうだ。
自然豊かで純朴で大らかな人間が多いハズの北海道で育ったとは思えない腹黒い男。
時々自分を見ているようで、ちょっと嫌ぁ~な気分になる時がある。
だからコイツが晶に執着する気持ちも分からなくは無い。
「晶ちゃん、清美いつこっちに出てくるって?」
「ん?そうだね、卒業終ったら1週間くらいで寮に引っ越すって言っていたよ」
「やっぱり春休みから練習に参加するのか」
「そうみたい」
あれ?弟も顔見知り?
そういえば、ありそうな事だ。
「高坂君、あのキラキラした弟とも知り合いなんだ」
ああ、と高坂は面白そうに嗤った。
「小学校からな。ずっとバスケ一緒にやってたから」
「どっちかって言うと、私より清美の方が高坂君と長い付き合いだよ」
「そうなんだ。もう、バスケはやらないの?」
私が尋ねると高坂は自嘲的な笑みを漏らし「遊びではやるけどね。晶ちゃんの弟みたいに仕事にしようとは思わないから」と言った。
という事は、晶の弟はプロを目指しているのか。
もし本当にプロになったら―――人気出るだろうな~あの容姿だもの。
「プロ志望なんだ。すごく注目されそう」
「昔から人気あったよ。練習試合にファンが押し寄せて大変だった」
「半分以上は、高坂君のファンだった筈」
どんぶりを空にして満足した様子の晶が、高坂蓮の弟評に何でも無いような口調で付け足した。
なるほど。
「つまり昔から高坂さんは、おモテになった、と」
私が皮肉を込めて要約すると、高坂蓮は箸を置いてふっと笑った。
「幾らモテても、本命に振り向いて貰えなかったら、意味ないけどね」
おっと、微妙な台詞……。
思わず晶の表情を確認してしまった。
すると晶はほんの少し眉を寄せて悲しそうな顔をしていた。
んん?
晶は気付いているのか?
そんな風には見えなかったけど……。
「この間帰省した時、素っ気なくされてショックでさ」
「それは寂しいね」
え?
もしかしてコイツ札幌に彼女がいるの……?
晶も知っているってこと?そんな事実今まで耳にした事無かった。
私の見立て違いだった?晶に気があると確信していたんだけど……。
しかし地元に本命の彼女がいるくせに、適当に遊んでいるコイツって、最悪の男だな。
そこまで酷い奴だとは思わなかった。
何より晶の友達だから、最低限の礼儀くらい心得ていると思っていたのに。
「随分、執心しているんだね。どんな娘なの……?」
聞いたのは単なる好奇心だった。
高坂に騙されている気の毒な女の子。遠く離れた東京で遊びまわっている恋人の身辺に気付き始めて、不信感から態度が素っ気なくなってしまったに違いない。
「こんな子」
そう言って、高坂蓮は自分のスマホの待受画面を私に向けた。
そこには仁王立ちに足を踏ん張って立っている―――可愛らしい女の子が写っていた。
「……アンタ、ロリコン?」
どう見ても、一歳か……二歳くらい?
ぬいぐるみを脇に抱えてご満悦の表情の女の子が、バーンと待受け画面いっぱいに立ちはだかっていた。
「阿保か。妹だっつの」
くそっコイツ私に何という口をきくんだ。
仮にも去年のミス・キャンパスだぞ。
「可愛いでしょ。今人見知り期なんだって」
晶は安定のスルー技術で高坂の酷い台詞を聞き流し、真顔で待受けの幼女を褒めた。
「わかった。『ロリコン』じゃなくて『シスコン』だ」
「自覚はある」
ふんっと鼻を鳴らしてソッポを向いた高坂蓮は、少し頬を染めていた。
そんな様子を晶が見て、ほんのり優しい笑顔になった。
わ。レアだわ~。
私が晶の微かな笑顔に夢中になっていると、同じように目を見開いてそれに釘付けになっている視線に行き合った。
瞳孔が開いている。
やっぱりコイツは晶に気があるな。
私は更に確信を深めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高坂先輩は『マザコン』なうえ『シスコン』になってしまいました。
諸説ありますが、興味があるもの好きな物を見る時、人の瞳孔は開くそうです。
ご存知かと思いますが、念のため補足。
お読みいただき、有難うございました。
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中国語の講義を終えて晶とご飯を食べていると、男前がトレーを手に近寄ってきた。
「ここ、座っていい?」
「うん。あ、いい?ゆっこ」
私はコクリと頷いた。
けれども私はこの男があまり好きではない。
何というか……自分と似た匂いのする人間と一緒にいるのはあまり楽しいものではないから。
私は宝箱みたいな人が好きだ。
男でも女でも。
中に何が入っているんだろうってワクワクする。
だから色んな人と話すのが好き。自分には思いも寄らない考え方をする人に興味がある。
晶はそういう意味でとても興味深い相手だった。
開けるたびに色んな面が出てきて「何だろ、何だろ」と探っているウチに、彼女の作る美味しい手料理と優しい雰囲気に嵌ってしまった。
端的に言うと、餌付けされてしまったのだ。
今では晶について知らない部分は余り無くなった。
それでも晶の傍は居心地が良いし、行動範囲が違うからいつも一緒という訳では無いけれど、私はこの比較的無表情な友人を気に入っている。
しかしこの間は驚いたなあ。
弟がいるって言う事は聞いてたけど、あんな目立つ男だと誰が想像しようか。
長身の美形。和風の晶と正反対の彫りの深い顔立ち。栗色の髪は日に透けると金色に見えるくらいで。おまけに運動が大の苦手な晶の弟がインカレ常連校のバスケ部に所属しているなんて。所属するだけなら誰でもできるかもしれないけれども、晶の語る処によるとどうやら高校の頃も全国レベルの活躍をしていたらしいから、実力はあるのだろう。
「有吉さん、今日も綺麗だね」
「あらどうも。高坂君も相変わらず格好良いわね」
心の籠らない上っ面の称賛に、私も同じ社交辞令を返した。
コイツ晶に気があるくせに、晶には何にも言わないのよね。
晶の性格から言って、手放しに褒められたら居心地悪い思いをするだろうっていう事は容易に想像できる。だから高坂蓮はきっと慎重に接しているのだろう。
私を褒めるのも、友人を褒められる方が嬉しいという晶の性質を考慮しての事だろう。その方が当人の警戒心を煽らないしね。
「ウチの学部でも高坂君に夢中な子、けっこういるわよ。手広くやっているわね~」
チクリと「アンタが適当に遊んでる事は知っているわよ」と牽制球を投げてみる。
しかし相手は涼しい顔で笑ってスルーした。
晶はというと相変わらずの無表情で黙々とカツ丼を頬張っている。高坂蓮と晶は小学校の頃からの付き合い(きっとこれがいわゆる腐れ縁だ!)という事でこういう話題はすべて聞き流してしまう。晶にとっては高坂蓮がモテるのは日常茶飯事で、女友達が多いのは当り前という認識らしい。
一方私の認識はこうだ。
自然豊かで純朴で大らかな人間が多いハズの北海道で育ったとは思えない腹黒い男。
時々自分を見ているようで、ちょっと嫌ぁ~な気分になる時がある。
だからコイツが晶に執着する気持ちも分からなくは無い。
「晶ちゃん、清美いつこっちに出てくるって?」
「ん?そうだね、卒業終ったら1週間くらいで寮に引っ越すって言っていたよ」
「やっぱり春休みから練習に参加するのか」
「そうみたい」
あれ?弟も顔見知り?
そういえば、ありそうな事だ。
「高坂君、あのキラキラした弟とも知り合いなんだ」
ああ、と高坂は面白そうに嗤った。
「小学校からな。ずっとバスケ一緒にやってたから」
「どっちかって言うと、私より清美の方が高坂君と長い付き合いだよ」
「そうなんだ。もう、バスケはやらないの?」
私が尋ねると高坂は自嘲的な笑みを漏らし「遊びではやるけどね。晶ちゃんの弟みたいに仕事にしようとは思わないから」と言った。
という事は、晶の弟はプロを目指しているのか。
もし本当にプロになったら―――人気出るだろうな~あの容姿だもの。
「プロ志望なんだ。すごく注目されそう」
「昔から人気あったよ。練習試合にファンが押し寄せて大変だった」
「半分以上は、高坂君のファンだった筈」
どんぶりを空にして満足した様子の晶が、高坂蓮の弟評に何でも無いような口調で付け足した。
なるほど。
「つまり昔から高坂さんは、おモテになった、と」
私が皮肉を込めて要約すると、高坂蓮は箸を置いてふっと笑った。
「幾らモテても、本命に振り向いて貰えなかったら、意味ないけどね」
おっと、微妙な台詞……。
思わず晶の表情を確認してしまった。
すると晶はほんの少し眉を寄せて悲しそうな顔をしていた。
んん?
晶は気付いているのか?
そんな風には見えなかったけど……。
「この間帰省した時、素っ気なくされてショックでさ」
「それは寂しいね」
え?
もしかしてコイツ札幌に彼女がいるの……?
晶も知っているってこと?そんな事実今まで耳にした事無かった。
私の見立て違いだった?晶に気があると確信していたんだけど……。
しかし地元に本命の彼女がいるくせに、適当に遊んでいるコイツって、最悪の男だな。
そこまで酷い奴だとは思わなかった。
何より晶の友達だから、最低限の礼儀くらい心得ていると思っていたのに。
「随分、執心しているんだね。どんな娘なの……?」
聞いたのは単なる好奇心だった。
高坂に騙されている気の毒な女の子。遠く離れた東京で遊びまわっている恋人の身辺に気付き始めて、不信感から態度が素っ気なくなってしまったに違いない。
「こんな子」
そう言って、高坂蓮は自分のスマホの待受画面を私に向けた。
そこには仁王立ちに足を踏ん張って立っている―――可愛らしい女の子が写っていた。
「……アンタ、ロリコン?」
どう見ても、一歳か……二歳くらい?
ぬいぐるみを脇に抱えてご満悦の表情の女の子が、バーンと待受け画面いっぱいに立ちはだかっていた。
「阿保か。妹だっつの」
くそっコイツ私に何という口をきくんだ。
仮にも去年のミス・キャンパスだぞ。
「可愛いでしょ。今人見知り期なんだって」
晶は安定のスルー技術で高坂の酷い台詞を聞き流し、真顔で待受けの幼女を褒めた。
「わかった。『ロリコン』じゃなくて『シスコン』だ」
「自覚はある」
ふんっと鼻を鳴らしてソッポを向いた高坂蓮は、少し頬を染めていた。
そんな様子を晶が見て、ほんのり優しい笑顔になった。
わ。レアだわ~。
私が晶の微かな笑顔に夢中になっていると、同じように目を見開いてそれに釘付けになっている視線に行き合った。
瞳孔が開いている。
やっぱりコイツは晶に気があるな。
私は更に確信を深めたのだった。
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高坂先輩は『マザコン』なうえ『シスコン』になってしまいました。
諸説ありますが、興味があるもの好きな物を見る時、人の瞳孔は開くそうです。
ご存知かと思いますが、念のため補足。
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