俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話

38.見れば分かります <晶>

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「晶、今日飲みに行かない?」

明らかに一般人と一線を画しているような容姿と着こなしの美人が、食堂の私の席の横にトレーを置いて当たり前のように腰かけた。クルクルと巻かれた栗色の髪をほよんほよんと揺らしながら素敵に微笑んでいる。

ミスキャンパスの『ゆっこ』こと、有吉裕子は私の数少ない友人の一人だ。

私の友人はほとんどが天文サークル関係なので、それ以外の付き合いと言えば教養過程の中国語のクラスを一緒に取ったよしみで仲良くなったゆっこと、高校時代からの友人の高坂君くらい。
相変わらず、交友関係は狭い。
でも以前よりずっと、そういった事を気に病まなくなった。

サークルの仲間は私とテンポが似ている人が多いので居心地が良い。だから自然とサークル活動にも力が入るし、勉強も忙しい。本もたくさん読みたいし、家庭教師のバイトもしている。以前なら付き合う範囲にいなかったような、見た目がちょっと派手で、趣味も違うゆっこや高坂君のような友人もいる。

今、それなりに充実した日々を送っていると思う。

ゆっことは2人でご飯を食べることもあるけど、交友範囲の広い彼女の知り合いの飲み会に誘ってくれることもある。見た目は女優さんみたいに美しいが、男前でお節介な性質のゆっこは、全く知らない相手ばかりの飲み会に私を連れて行くとき、きちんとフォローをしてくれて周りに馴染むよう世話を焼いてくれる。だからそれほど居心地が悪いということは無いのだけれど……やはり根っから人見知りの私は積極的に参加することは無い。
でも断っても嫌な顔ひとつしないし、こうして懲りずに声を掛けてくれるのだ。

「ごめん、今日弟が来るから」
「弟?」
「こっちの大学に合格して、下見に来るからうちに泊めるんだ」
「うちの大学?もしかして4月から一緒に住んだりする?」

泊まりづらくなるなーと、ゆっこが少し眉を寄せる。
私のこじんまりとした1ルームにお泊りする時間を、ゆっこは大変楽しみにしているのだ。彼女は私の作る何でもないような家庭料理をいつも美味しい美味しいと言って、平らげてくれる。

「ううん、M大。弟はバスケ部の練習があるから寮に入るんだ」

「え!」と、ゆっこが驚愕の表情で固まった。

「M大のバスケって名門じゃん……晶の弟が?」

そう言って、じろじろ無遠慮に見られる。



……ですよね。



150センチより少し上という程度の身長。切れまくっている運動神経。
嫌だというのにゆっこにフットサルのメンバーの穴埋めに駆り出され、数分後顔面にボールを受けて失神した私の弟が名門バスケ部に入るなどと、誰が想像できようか。

「安心して。遺伝子構成は全く違うから」
「へ?」
「連れ子同士なの。と言っても弟が小4の頃から一緒だから、ほとんど血が繋がっている家族と意識の上では変わらないけど。弟の体格は私と全然違うし、あっちは運動神経の塊なんだ」

ゆっこはなるほど、と頷いた。
中身男前の彼女の辞書に遠慮という文字はない。

「じゃ背、高いの?身長、どのくらい?」
「確か198センチ……かな?前、聞いた時それくらいだったような」
「すごく大きいね、さすがバスケ選手。じゃ、晶より50センチくらい大きいんだね?……あ、今入ってきた留学生も大きい。もしかして、あの人くらい?晶の弟の身長って」

私が背を向けている入口を見ながら、ゆっこは目線で指し示した。
豚汁の具を掬おうとしていた箸を止めて、私は入口を振り返った。

「あ、うん」
「じゃ、ホントに大きいんだ」
「……うん、そうだね」



本人だった。



高3になった清美はますます逞しくなって、体つきは既に一見して一般人とは異なっている。栗色だった髪の色素は年を経るほどに薄くなり、ますます日本人離れした容姿になっていた。

振り返った私を認め、ズンズンとこちらに大股で歩いてくる。

「あれ?……あの人こっち、来るよ」

ゆっこは、ぼんやりとその様子を見ている。
ちなみに父親の仕事の関係で外国暮らしが長かったゆっこは、外国人に免疫がある。
それに日本の大学は近年競争力を高めるために、留学生を積極的に受け入れているという。一応日本で有数の名門大学であるT大も御多分に漏れず留学生が多いから、外国人が珍しいという訳では無い。

「……あれ、私の弟」
「はぁ?」

そんな外国人を見慣れているゆっこでさえ、目を丸くしている。

うん。そうだよね。
清美も目立つけど、それ以上に私の弟だと言うことが受け入れがたいよね。



百聞は一見に如かず。



今ほどこの諺が効果的に使える瞬間は無いだろう。

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