俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の事情】

1.俺のねーちゃん

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『おとうとが私にかまい過ぎる』の弟、清美視点の続編となります。


※基本は清美の一人称で進みます。前作とヒーローの印象が変わる可能性がありますので「イメージと合わないな」と言う方は、大変申し訳ありませんが回避していただければと思います。


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俺のねーちゃんは、人見知りだ。

だから友達が少ない。というかほとんどいないと思う。
家に友達を呼んだことが無い。大抵1人で本を読んでいる。
学校でも、同じだ。休み時間は机の上に本を開いているか、図書室にいるらしい。

小学校の頃は、それでも会話を交わす相手は居たと思う。ねーちゃんは無表情だし自分から話し掛ける事はしないけれど、相手から話し掛けられればちゃんと応える。他人に対して意地悪だったり冷たかったりという性質では無いから、小学校の同窓生にねーちゃんを悪く思う人間はいなかった筈。例えば同小出身の中学の女子バスの駒澤先輩は、ねーちゃんと親しくは無いものの一目置いていたと思う。長く付き合えば、ねーちゃんの優しい公平な人柄は伝わるものだ。

後から知った事なのだが中学校で一時期人間関係で嫌な経験をし、それが元で周囲と交流を一切しなかった時期があったようだ。
しかしその頃ねーちゃんには俺がいた。

内弁慶で心を許した相手とは結構話せるねーちゃん。俺には何故か初めて顔を合わせた時から気を許してくれていたと思う。

俺もそうだ。

俺が小4、ねーちゃんが小6の時、両親が再婚して俺達は家族になった。
すぐに打ち解けて一緒にテレビを見たりオヤツを食べたり、おしゃべりをした。東京から来て右も左もわからない時期、公園のバスケットゴールにボールを入れる俺を楽しそうに眺めていた。
後で考えるとねーちゃんがこんな風にすぐに打ち解ける相手は、俺ぐらいだったかもしれない。ねーちゃんは『弟』の俺を、本当に大事にしてくれた。きっと早く新しい環境に慣れて貰おうって姉心だったかもしれない。もしかして少しは無理していたのかな?

ねーちゃんが学校で孤立していた時期、これも後でわかったのだが、ねーちゃんの心を癒したのは俺だったらしい。人見知りで独りでいるのが苦にならないとはいえ、やはり誰とも話をしないのは寂しい。そんな気持ちを、弟である俺と一緒に遊んだり取り留めないおしゃべりをしたりする事で解消していたらしい。少しでもあの頃の俺がねーちゃんの役に立っていたのなら、こんなに嬉しい事は無いのだが。





ねーちゃんを見ていると時々、まるで『黒い子猫』のようだ、と思う。

道端で見つけた可愛い小さな黒猫。
自分だけに懐く黒い瞳、柔らかな毛並みの生き物。

ねーちゃんは、小さい。
150センチメートル台。細かい数字は知らないけれども、俺より今30センチは小さい筈だ。俺が少し力を入れただけでぽっきり折れそうな、細い手足は見ているだけで心許ない。

そして黒縁眼鏡の奥にひっそりと隠されている、大きな黒曜石のように艶やかな漆黒の瞳は、密生した長い睫毛に縁取られている。腰まである長い髪はまっすぐでサラサラ。上から見下ろすと天使の輪がキラキラと光を放っていて、そのままシャンプーのCMになりそうだ。

そのつぶらな瞳でまっすぐに見つめられると、キュウっと心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。

……悪意のある一部の女生徒からは『お菊人形』と揶揄されているらしい。
口の悪い連中には「無表情」「暗い」「ノリが悪い」だとか陰口をきく奴もいるらしい。全く許しがたい事だ。

だけどまあ、いい。
そいつ等は、ねーちゃんの価値が解らない奴だ。

人見知りのねーちゃんは、知らない人間には笑いかけたりしない。
でもそんなところも、警戒心の強い子猫みたいで可愛いと思う。

ねーちゃんの魅力を分からないなんて、そいつ等は断然おかしいと思う。
でも一方で。そのまま、俺以外の誰にも彼女の魅力なんて知らせないままでいたい―――そう密かに願ってしまう自分がいる事も否定できない。

親し気に綻ばす口元も柔和に下がる目尻も、耳に心地良い少し低めの声で紡がれる軽口も小さい体から放たれる正直すぎて胸を抉るうっかり暴言さえも―――俺だけに向けられていれば良い。
ほかの人間に、この僥倖を分けたいとは思わない。





ねーちゃんは、とんでもなく頭が良い。

小学校で受けたIQテストの数値が高くて、当時の担当教師が大層興奮していたらしい。後の担当教師が、家庭訪問でそんな事を言っていた。だけどねーちゃんも、ねーちゃんの実の母親であるかーちゃんも、その事実をあまり気にしていないようだ。
大抵の人は喜ぶモンだと思うけどなぁ…と呟くと、ねーちゃんは諭すようにこう言った。

「IQテストは、元々普通学級の勉強について行けるかどうかを判定するテストであって、頭の良さを図る指標では無いんだよ」

と。この時彼女は小6。その時の俺は「6年生にもなると色んな事を知っているものなのだなぁ」と感心したものだが、高1になった今では、大人でもそんな事実を知っている人間は稀だと言う事を知った。単にねーちゃんが特殊なのだ。



ねーちゃんは沢山の本を読んでいる。最近は、星座の本とか科学雑誌を愛読しているようだ。その他にも、冒険小説やエッセイ、実用書―――とジャンルは幅広い。この間は何故か、梅干しの浸け方に関する本を開いていた。

でも普通にお笑いも好きで、テレビを一緒に見たりもする。だから俺と話が合わないという事は無い。……時折、俺のわからない難しい単語が、彼女の口から飛び出して来ることがあるにしても。

そんなねーちゃんは、ソコソコの進学校である、家から一番近い高校に入学した。

受験勉強は近くの安い私塾に通うだけで何とかなったようだ。特に家ではバリバリ勉強している様子は見られなかった。
高校の偏差値にこだわりは無いらしい。ねーちゃんなら余裕で市内一の進学校に入学できた事だろう。
だけど彼女がこだわったのは、学費が安い事と交通費が掛からない事だった。小6まで母子家庭で暮らしてきたねーちゃんは、親に苦労を掛けるという事を自然に避ける傾向があるらしい。仕事人間の両親の収入はきっとかなりなモノで、学費の心配なんて必要ないのだと思うのだけれど。



そんなソコソコの進学校でも、その当時の俺からしたら、受験勉強は『八ヶ岳に軽装で挑む素人登山』みたいなものだ。

装備は春物のウインドブレーカーと、スニーカー、チョコ一枚です。
―――それじゃ、すぐ遭難するでしょ!

と、万人に突っ込まれるかもしれない。
しかし俺はねーちゃんと少しでも一緒にいる時間を増やしたくて、必死で勉強した。
小さい頃からバスケばっかりやっていて、背丈と運動神経は自慢できるけれど、実際それしか取り柄が無かったから受験勉強は本当に辛かった。

幸いその高校は公立なのにバスケの強豪校でもあったから、尚更頑張った。

「もしかして、ねーちゃんがランクを落としてこの高校を選んだのは、バスケ部が強くて俺が通える学校だからかな……ねーちゃんも、俺ともっと居たいと思ってくれているのかも……」

などと自分に都合の良い妄想をしたりして、参考書を開きながら勝手にニヤニヤしていた。
そしてある時ドキドキしながら、その可能性について遠回しに尋ねてみた事がある。
結果分かったのは、ねーちゃんは2年も通っているのに自分の高校のバスケ部がインターハイに出場するような強豪だと言う事を認識していなかった、という事実だけだ。

周りを見ていないのにも、程がある。
そして、俺に対する関心がいかに薄いかって事も。
その日、少し泣いた。



受験勉強は思ったより、はかどったと思う。
それはねーちゃんの個人授業とアドバイスを受けられたからだ。
中3の夏、バスケ部員の総力を継ぎ込んで全国大会に出場を果たした。引退して抜け殻になった俺は、ねーちゃんの助けを得て今度は受験勉強にのめり込んだのだ。

目の前に美味しいニンジンがぶら下がっていたからかもしれない。短期間で飛躍的に俺の学力は向上し見事この春、俺は志望高に合格したのだった。


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