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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の奮闘】
7.ねーちゃんの後輩に、採寸された
しおりを挟むあれ以来、鴻池は俺を叩かなくなった。
それに必要以上に話し掛けて来ないので、話す機会が激減した。
それで今まで鴻池から積極的に話し掛けて来ていたから話す機会が多かったんだって、嫌が応にも意識した。
趣味の合う話し相手が減って少し寂しい気がする。
でもこれで良かったんだとも思う。何より(肉体的に)痛い思いをする事が無くなって、楽になった。
今日も地学部でお弁当を広げる。
時折安孫子さんがやって来てなにやら俺の知らないアニメの話をするのを、聞き流す。彼女は特にコメントなどを要求していないから楽だった。どうやら、彼女のお気に入りのキャラクターに俺が似ているとのこと。
そこまでは何となく理解できたけど、どんどん専門用語が多くなってそれ以上の内容を把握することは難しかった。
ある日安孫子さんが一番乗りで、部室で待ち構えていた。
何故かメジャーを鞭のようにビシッと顔の前に斜めに構えて、正面に立っていた。
「ちょーっとだけ、採寸させて」
「え?……え?」
俺が戸惑っている間に素早く首回りから足のサイズまで測定されて、メモられた。全く安孫子さんの言動や行動は―――俺の理解の範疇を越えている。
胸囲を測定しようと安孫子さんが俺の胸にメジャーを回そうとしたとき、ガチャッと扉が開いた。
「え……あっ、ご、ゴメン!」
扉を開けたのはねーちゃんで、何故か彼女は俺達を認めると頬を朱くして扉を閉めてしまった。
安孫子さんと俺は視線を合わせ―――その後、自分達の恰好を振り返る。
制服の上着を脱いだ俺に、メジャーを回そうとぴったりと抱き着くような恰好をしている安孫子さん。俺の中途半端に上がった腕が……今まさに彼女を抱きしめようとしているように見えなくも無いという事に気が付いた。
「ね、ねーちゃん!」
俺は慌てて、扉を開けて飛び出した。
ねーちゃんは扉の横に立っていた。少し頬が朱い―――何を考えて朱くなったんだ~!
「ご、誤解だよ!」
「え……?」
「今、採寸されていて……」
「ふーん、セーターでも作ってもらうの?相変わらずモテてるね」
そう言ったのは、ねーちゃんの隣に立っている王子だった。
なんで、王子と一緒なんだ。
不快感を覚えながらも、俺は取り敢えず弁明した。
「いや……突然測られて何が何だか……」
ねーちゃんが強張っていた頬を、ちょっと緩めて息を吐いた。
「いや、焦ったよ。密室で抱き合っているから……弟のラブシーンって心臓に悪いね」
「―――んなわけないだろ!」
とぼけた事を言うねーちゃんに、焦って突っ込みを入れる。
「お似合いなんじゃない?……付き合っちゃえば?」
王子がニヤニヤと嗤っている。
この野郎……。
俺が殺気を込めて奴を睨むと、その王子様フェイスを更にキラキラさせて爽やかに笑いやがる。
「ねえ、そう思うよね?森」
そして、ねーちゃんに同意を求めた。
ねーちゃんが口を開こうとした、その時。
そこに凛とした声が響いた。まるで、舞台女優のように大仰に。
「誤解です!」
背後からスッと安孫子さんが現れて、王子を右手で制した。
……しかしいちいちこの人って、芝居がかっているな。
「王子先輩だけは……王子先輩だけは誤解しないで下さい」
え?
もしかして……安孫子さんって俺の気持ちに気付いている……?
安孫子さんが感極まったように主張する様子を見て、ねーちゃんはヒクッと僅かに顔を引き攣らせた。
王子は眉を顰めて安孫子を見守った。
「私は決しておふたりの仲を邪魔しません」
おふたり?
誰と誰のこと?
「王子先輩と森君の至上の愛の物語は今、幕を開けたばかりなのですから……!」
あちゃー、言っちゃった……と呟き、顔を覆うねーちゃん。
「何言ってんの?馬鹿なの?!」
キレる王子。
「は……王子と……俺ぇ?!」
何を言われたか理解できない俺。
「主君『遙』にそっくりな王子先輩と護衛騎士『聖耶』にそっくりな森君。おふたりがこうして出会うなんて……運命に違いありません。さぁ!王子先輩、存分に森君を強気攻めで落としちゃってくださいっ!私に遠慮せずっ!さぁ!」
さぁっ!さぁっ!と、まるで卓球選手のように掛け声を発する安孫子さん。
俺の中の何かが、フッと冷たくなった。
王子を見ると同じように感情の欠けた冷たい瞳で、安孫子(こっちも、もう、『さん』付けしない事に決定)を見ていた。
俺はこの一瞬だけ、王子にシンパシーを抱いた。
勿論、幻想だろうけど。
「清美、えと……時間大丈夫?」
「あ!」
またしても、ねーちゃんの指摘で我に返る俺。
部室に戻り一気にお弁当を平らげて、すぐ立ち上がった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「フフフ……」
「あとは、俺に任せて気兼ねなく練習してね」
余計な事を言ってキラキラした笑顔を惜しげもなく俺に浴びせかける王子を『爆ぜろ!』という念を込めて睨見つけてから俺は、体育館へ走ったのだった。
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