41 / 211
俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の奮闘】
2.ねーちゃんは、地学部でお弁当を食べるらしい
しおりを挟むある朝、ねーちゃんが言った。
「今日お昼のお弁当地学部で食べるから……私の教室来ないでね」
「……」
俺はショックで声が出せない。
「えっ……何で?」
地学部で約束って……まさか、王子と一緒に食べるのか?
「……」
「ごめんね。自分の教室で食べてくれる?」
ねーちゃんは、俺を見上げて手を合わせた。
可愛い仕草にいつもなら胸が高鳴る筈なのに―――逆に痛みを感じてしまう。
「……うん」
本当は食事の相手が王子なのか別の部員なのか、若しくは地学部員全員で打合せなのか詳細に確認したかった。
でも、もし王子と2人きりで食べるって答えられたら……。
怖くて聞けなかった。
俺が頷いたのを目にし、ねーちゃんあからさまにホッとした表情をした。
それを見て、更に凹んだ。
** ** **
「何でそんなに……暗いの?」
地崎が俺の肩を叩いた。
朝練の後更衣室で着替えていた俺は、我に返った。
「え……?そう見える?」
「うん。だってシャツ脱ぎかけたまま、固まってたから」
わ、着替えの途中だった。
つい考え事をしていたらしい。
意識を取り戻すとムワっと男臭い匂いが鼻についた。練習後の男子更衣室って最悪だ。
朝のHRまでそれほど時間が残っている訳ではない。俺は地崎の質問への答えを後回しにして、ササッと着替えを終えた。
体育館と教室等を繋ぐ廊下で、地崎が俺を心配気に覗き込んだ。
「大丈夫か?……顔色悪いぞ」
「うん……」
「愚痴くらい聞くけど?」
地崎は階段室のほうへ俺を引っ張って行った。俺は大人しく腕を引かれて歩く。何故か悲しい曲調の『ドナドナ』がバックグラウンドミュージックのように、頭に響いた。
人気の無い階段に、体の大きな俺達は段違いに腰掛けた。
「……森先輩と何かあったのか?」
地崎は察しが良い。
俺が激しく落ち込むのは、ねーちゃん関連だろうと当たりを付けたらしい。
「最近朝も一緒に登校してるし、お昼ご飯も食べてすっげー仲良くやってたじゃん。お前、ちょっと引くくらい機嫌良かったよね」
お見通しのようだ。
そこまで、ばれていたら隠しても意味が無い。
どうせ昼飯時になれば、分かる事だ。
「……今日一緒にお昼食べれないから、3年の教室に来なくていいって言われたんだ」
「それで?」
「……そんだけ」
「え?……それだけ?」
地崎は口をあんぐり開けて、黙ってしまった。
いやいや……俺が落ち込んでいるのはそれもあるが、それだけでは無い。
俺は首を振った。
「地学部で約束があるっていうんだ」
「……地学部員だしな」
地崎は何が問題だか判らないというように、首を傾げた。
「もし王子と2人きりだったら、と思うとムカムカして……」
「王子?それ、通り名かなんか?……もしかして、森先輩の憧れの『王子様』ってコト?……それとも渾名かなんか?」
「ただの苗字。『王子』っていう苗字の3年がいるんだよ。地学部員で姉貴の友達の」
俺はつい吐き捨てるように言ってしまう。
「部活の打合せじゃないの?単なる友達なんだろ?」
さらりと言う地崎。
「王子の方は多分、そう思って無い」
「……」
地崎は少し考える素振りをして、腕を組んだ。
そしてスマホを出して時間を確かめる。
俺も自分のスマホを確認すると、あと3分程でHRが終わる時間になっていた。
立ち上がり教室に向って歩き出す。
窓が小さいため少し仄暗い階段室に差し込む光の道の中に、埃が舞ってキラキラと輝いていた。
「……そもそも今日その王子先輩?と2人きりでご飯食べるって森先輩言っていたのか?他の部員もいるんじゃない?……確認したの?」
「いや、確認してない」
「え?何で?―――そんなに気にしてるのに?」
思っても見ない事を言われた、というように地崎の声が高くなった。
「……万が一2人きりだって姉貴の口から言われたら、ショックで動けなくなりそうで」
「……」
地崎の沈黙が痛い。
わかってる。
ねーちゃんにサラリと聞いてしまえば良いって事は。だって事実は変わらないんだから、悶々としているより聞いてしまったほうが、絶対いいに決まってる。
鷹村だったら俺が自分に突っ込み入れる前に『このヘタレ!』って即座に貶しただろう。
地崎の優しさが、痛かった。
「確認したら?……そんなに具合悪そうにしてるくらいなら」
そうだよね。
他人が今の俺みたいに鬱々と悩んでいたら、俺だってきっとそう言う。
「うん……」
なんとか答えた俺の顔を見て教室の前で振り返った地崎が、その瞬間痛そうな顔になって、俺の肩を叩いた。
「お前、真っ青だ。無理そうだったら―――俺が聞いてこようか?」
地崎は優しい。
俺が女だったら、恋してしまうかもしれない。
だから俺は、首を振って断った。
「いや―――自分で聞いてくるよ。ありがとう」
こんなカッコイイ奴に、ねーちゃんが惚れちゃったら困る。
―――俺が自分で行くと決意したのは、そんな情けない理由に拠るものだった。
相変わらず、俺はヘタレのままだ……。
0
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる