上 下
194 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話 別視点1】

51.田口

しおりを挟む
女子マネ1年生、田口視点です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日からマネージャーとして入部してくれた、高坂さんだ」
「よろしくお願いします」

グラウンドで、物見高い野球部員達がゾロゾロ集まっている後ろ、その隙間から門倉先輩が紹介している彼女を見ていた。

「あまり野球には詳しく無いそうだから、何かあったら教えてやってくれ」
「「「あっす」」」

と浮き立ったような、妙に張り切った大きな声が響く。

彼等のヤル気度が、昨日とは全然違う。
何故なら―――新しく入ったマネージャーがトンデモ無い美少女だからだ。



チッと舌打ちが聞こえてヒヤリとした。
2年生の仁見先輩は、手際も良いしマネージャーの仕事はキチンとやっていると思う。卒業してしまった野球部の先輩と付き合っていたと聞いた事がある。私が入部した春頃、仁見先輩は私との作業中はずっと彼氏の話をしていたのだけれど、暫く前から惚気を全く聞かなくなった。何となく上手く行っていないのだと感じた。その頃からだろうか。彼女はまだ2年生だけどレギュラーで活躍している日浦先輩を親し気に構うようになった。

これが恋愛ゲームか。
私はソワソワした。

だって、私は恋愛とは無縁の生活をしているから。何だか仁見先輩から大人っぽい香りと雰囲気が漂って来るとドギマギしてしまう。いや、ドギマギと言うよりヒヤヒヤしてしまう。

どちらかというと私は皆に好かれていると思う。女子にも、男子にも。
小柄で子供っぽい容姿をしていて、野球部員や友達にマスコット扱いされている。でも恋愛対象では……ないんだなぁ。私もそう言う事にまだあまり興味が無い。実は小学校まで野球チームに入っていた。だから野球は大好きだ。だけど……決定的に素養に恵まれていなかった。チームにまるで貢献できない事が嫌になる程分かったので、諦めてマネージャーをやる事にした。偶々通っている中学の野球部はマネージャーを受け入れていたからだ。後から知ったのだけれど、中学校の野球部に女子マネって珍しいらしい。
純粋に野球が好きで部活に入ったので、部活内で彼氏を作るなんて発想を持っている仁見先輩はまるで私と違う国に生きている人のように感じてしまう。

だけど仁見先輩は私の事を気に入っているみたい。
何故かというと『ライバル』に成り得ないから。

仁見先輩は早熟と言うか……自分の対抗馬になりそうな女の子に厳しい。だから去年はもう1人同じ学年の女子マネがいたそうなんだけど、何でも仁見先輩と揉めて途中でやめてしまったらしい。その人は優しい人で部員達に人気があったんだって。だけどちょっと気が弱くて仁見先輩の圧力に耐えられなかったらしい。
喜んで良いのか分からないが、仁見先輩にライバル認定されないマスコットな私は、そういう圧力を受けずに済んでいる。部活は続けたいので、その立ち位置には取りあえず満足している所。



けれども新しく入ったマネージャーは。

とーっても、とーってもキレイだった。
スッピンなのに、肌はツルツルほっぺはバラ色。長い髪も艶々で。

仁見先輩も美人だけど、かなり気を使って色々作り上げている部分がある。しかし素材の良い新鮮な極上のマグロが―――美味しいソースをかけた凝った一皿を凌駕するみたいに、天然美少女の魅力はあっさりと野球部員の視線を奪ってしまった。
あ、ちなみに3年生の女子マネの先輩達は性格も良くてキップも良くて、魅力的な人です。仁見先輩は盲目なのでは無く立ち位置を図れる人なので、美人さんでも先輩には突っかからないようにしているらしい。だから今まで平和だった。

美少女に見惚れていた私の頭は、仁見先輩の舌打ちでサァッと冷えた。
何だか暗雲が立ち込めている。私はどういう身の振り方をするべきか―――嵐の前の静けさの中で考えが纏まらず、ビクビクしていたのだった。



案の定、仁見先輩は必要最低限の事しか、高坂先輩に伝えないし話し掛けない。
飲み物を作る時もぶっきらぼうに通り一辺倒の説明をしたあと放置。移動中も私にばかり話しかけて来る。私は後ろでトボトボ、荷物を持って歩いている高坂先輩が気になってしょうがなかった。
でも下手に話しかけて、仁見先輩の反感を買うのも怖い。

ああ、でも……この重ーいギクシャクした空気。耐えられないよう……!






その後仁見さんの指示で、私と高坂先輩の2人で備品の手入れをする事になった。
どうしよう?何か話しかけてみようか?えーと……「仁見先輩、日浦先輩の事狙っているんですよね!」ってコレはマズイよな。「どうして野球部入ったんですか?」って、何だか詮索しているみたいだな……「仕事慣れました?」って今日始めたばっかで慣れる筈ないでしょう……!

何か話し掛けようと心の中でグルグルしていた時、顔を上げるとジッと私を見つめているつぶらな瞳と目が合った。

「うっ……」

雷が当たったように、動けなくなる。
近くにいるのが耐えられないような、逃げ出したくなるようなカワイ子ちゃんだ……!
私の胸はドキドキと早鐘を打った。
その桜色のプルンとした健康的な唇が開くのを、食い入るように見つめてしまう。その美しい唇から言葉が零れ落ちたのを、夢の中にいるような気持ちでボンヤリと聞いていた。

「この布……使っていいのかな?」

な、なんと可愛らしい声……!
私はズキュン!と撃ち抜かれた。
違うっこれわっ……私は恋とかそう言うのは経験した事はないけれども、女の子が好きとかそう言うのじゃなくて……!

私の中で言い訳が渦巻いた。
ドキドキする胸を抑えて―――私は喘ぐように返事をした。

「―――はい……」

ニコリと寂し気に微笑む笑顔の儚げなこと。
私はそれ以上何も口にする事ができなかった。



仁見先輩すげえ、単純にそう思った。



私は高坂先輩の一言で、簡単にその足元に屈服してしまった。対抗心を持てるなんて―――仁見先輩も相当大物だなぁ……なんて、呑気な賞賛がその時私の中に生まれたのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...