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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
49.幼馴染と私 4
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「―――っ」
みるみる内に、目の前の勇気の顔が真っ赤に染まった。
そんな顔を見たのは初めてだった。
それで漸く心の底から理解する。
あ、勇気って、私のこと本当に好きなんだ……。
ボンっと体がレンジでチンし過ぎた肉まんみたいに膨れ上がった。
きっと私の顔も―――真っ赤になっているのだろう。
勇気の手が伸びて来て、私の手首を再び捕まえる。
最近多くなったその仕草。それまでは私を留めたり、制止したりする目的で行われていたとばかり思っていた、その仕草に新しい意味が与えられる。
大きな手は私を拘束していたのではない。
この手はいつだって私を守る為にあったのだ。
仁見さんに絡まれた私をその場から連れ出してくれた。
落ち込んでいる様子の私の気持ちを聞き出そうとしてくれた。
独りで帰ると言い張る私を送ろうとしてくれた。
さっきのは流石にビックリしちゃったけど……でも、今改めて勇気が私を好きだと言う前提で考えると。……うーん、「コイツ何勘違いして勝手に変な方向に走って行こうとしてるんだ!」って勇気の方こそ吃驚しちゃったんだって事は―――何となく分かる。それで押し倒すのはどうかと思うけど。要するに勇気の堪忍袋の尾がとうとう切れちゃったって事だよね……うん、私が悪いのかも。
「あの……勇気、ゴメンね。私気が付かなくて……」
「うん。―――いや、いいんだ」
勇気は頷いてから、首を振った。
「俺も最初は気付かれない方が良いって思っていたんだ」
「え……?」
それはどういう意味?
「凛は俺の物だってずっと思ってた。凛には俺しかいないって勝手に己惚れてた。でも、そう思う一方で―――はっきり凛に気持ちを伝えて、その上で拒否されるのが怖かったんだ」
驚いた。
いつも勇気は自信に満ち溢れているような気がした。何でも卒なくできて、誰とでも楽しく話せて、人付き合いに躊躇したり他人を怖がったりなんかしない。私の出来ない事、全部できているような勇気が羨ましかったし、いつも頼もしいなって思っていた。
クラスでは勇気のいる場所はピカピカ輝いているのに、私はいつも隅っこの暗ーい場所に隠れているようなイメージがあった。澪がいたからそれでも楽しかったけど。でもきっと独りだったら周りと引き比べて自分の不甲斐なさに落ち込んで卑屈になっていたかもしれない。
だから勇気が私にどう思われるかをそんなに気にして、怖れさえ抱いていたなんて想像もしていなかった。いつも私の方が勇気に一歩も二歩も遅れているような気がしていたから……。
私の手首を握っていた手が―――掌を掬い上げるように移動し、お互いの掌がぴったりと触れ合う。
大きくて温かな温もりがそこから伝わって来る。
「でも怖がってばかりいたら駄目だな。それが凜を不安にさせてたなんて、そこまで考えが及ばなかった。―――凛、俺こそゴメン」
「ううん」
私は首を振った。
勇気が謝るような事じゃない、本当にそう思ったからだ。
「凛が好きだよ。友達じゃない、いや今でも大事な友達だけど―――女の子としても好きなんだ。だから俺の……彼女になって欲しい」
真剣に覗き込まれて、私はもうベッドに押し付けられている訳でも無いのに、固まってしまった。ドキドキ胸が高鳴る。
あれ、勇気ってこんなに格好良かったっけ……。何だか2割増しくらい頼もしく見える。
私はスッゴく恥ずかしくなった。
頬が再び熱を持つのが分かる。
だけどもう、何故そんなにドキドキしてしまうのか……その理由を知ってしまったから。
その場から逃げ出したくなるような衝動を抑えて、私も負けじと勇気の手を握り返した。
「はい。―――こちらこそ、よろしくお願いします」
見上げる勇気は強張っていた表情を、ホッと緩めて笑顔になった。
わあ、何だか……。
胸の中にほんわかと温かいものが湧き上がって来る。
気付いて無かったけど、私はこんなに勇気の事が好きだったんだって、改めて実感してしまった。
勇気と同じだ。
私も勇気を失うのが怖かった。だから見ない振りをしていたのかもしれない。
友達だったら、少し距離が離れたって決定的に交流が途切れる事なんて無くならない。なんたって勇気はお隣さんなんだし。
怖かったのは私も同じなんだなぁ……と思うと、何だかおかしくなってクスリと笑いが込み上げて来る。
クスクス笑っていると、大きくフウッと息を吐いた勇気が―――そっと私の肩に腕を回して私の体を引き寄せた。柔らかく抱き締められて―――少し驚いたけれども、私は勇気の胸に耳を付けてみた。するとドキドキと勇気の胸も割と早いリズムを刻んでいると言う事が手に取るように理解できたのだ。
みるみる内に、目の前の勇気の顔が真っ赤に染まった。
そんな顔を見たのは初めてだった。
それで漸く心の底から理解する。
あ、勇気って、私のこと本当に好きなんだ……。
ボンっと体がレンジでチンし過ぎた肉まんみたいに膨れ上がった。
きっと私の顔も―――真っ赤になっているのだろう。
勇気の手が伸びて来て、私の手首を再び捕まえる。
最近多くなったその仕草。それまでは私を留めたり、制止したりする目的で行われていたとばかり思っていた、その仕草に新しい意味が与えられる。
大きな手は私を拘束していたのではない。
この手はいつだって私を守る為にあったのだ。
仁見さんに絡まれた私をその場から連れ出してくれた。
落ち込んでいる様子の私の気持ちを聞き出そうとしてくれた。
独りで帰ると言い張る私を送ろうとしてくれた。
さっきのは流石にビックリしちゃったけど……でも、今改めて勇気が私を好きだと言う前提で考えると。……うーん、「コイツ何勘違いして勝手に変な方向に走って行こうとしてるんだ!」って勇気の方こそ吃驚しちゃったんだって事は―――何となく分かる。それで押し倒すのはどうかと思うけど。要するに勇気の堪忍袋の尾がとうとう切れちゃったって事だよね……うん、私が悪いのかも。
「あの……勇気、ゴメンね。私気が付かなくて……」
「うん。―――いや、いいんだ」
勇気は頷いてから、首を振った。
「俺も最初は気付かれない方が良いって思っていたんだ」
「え……?」
それはどういう意味?
「凛は俺の物だってずっと思ってた。凛には俺しかいないって勝手に己惚れてた。でも、そう思う一方で―――はっきり凛に気持ちを伝えて、その上で拒否されるのが怖かったんだ」
驚いた。
いつも勇気は自信に満ち溢れているような気がした。何でも卒なくできて、誰とでも楽しく話せて、人付き合いに躊躇したり他人を怖がったりなんかしない。私の出来ない事、全部できているような勇気が羨ましかったし、いつも頼もしいなって思っていた。
クラスでは勇気のいる場所はピカピカ輝いているのに、私はいつも隅っこの暗ーい場所に隠れているようなイメージがあった。澪がいたからそれでも楽しかったけど。でもきっと独りだったら周りと引き比べて自分の不甲斐なさに落ち込んで卑屈になっていたかもしれない。
だから勇気が私にどう思われるかをそんなに気にして、怖れさえ抱いていたなんて想像もしていなかった。いつも私の方が勇気に一歩も二歩も遅れているような気がしていたから……。
私の手首を握っていた手が―――掌を掬い上げるように移動し、お互いの掌がぴったりと触れ合う。
大きくて温かな温もりがそこから伝わって来る。
「でも怖がってばかりいたら駄目だな。それが凜を不安にさせてたなんて、そこまで考えが及ばなかった。―――凛、俺こそゴメン」
「ううん」
私は首を振った。
勇気が謝るような事じゃない、本当にそう思ったからだ。
「凛が好きだよ。友達じゃない、いや今でも大事な友達だけど―――女の子としても好きなんだ。だから俺の……彼女になって欲しい」
真剣に覗き込まれて、私はもうベッドに押し付けられている訳でも無いのに、固まってしまった。ドキドキ胸が高鳴る。
あれ、勇気ってこんなに格好良かったっけ……。何だか2割増しくらい頼もしく見える。
私はスッゴく恥ずかしくなった。
頬が再び熱を持つのが分かる。
だけどもう、何故そんなにドキドキしてしまうのか……その理由を知ってしまったから。
その場から逃げ出したくなるような衝動を抑えて、私も負けじと勇気の手を握り返した。
「はい。―――こちらこそ、よろしくお願いします」
見上げる勇気は強張っていた表情を、ホッと緩めて笑顔になった。
わあ、何だか……。
胸の中にほんわかと温かいものが湧き上がって来る。
気付いて無かったけど、私はこんなに勇気の事が好きだったんだって、改めて実感してしまった。
勇気と同じだ。
私も勇気を失うのが怖かった。だから見ない振りをしていたのかもしれない。
友達だったら、少し距離が離れたって決定的に交流が途切れる事なんて無くならない。なんたって勇気はお隣さんなんだし。
怖かったのは私も同じなんだなぁ……と思うと、何だかおかしくなってクスリと笑いが込み上げて来る。
クスクス笑っていると、大きくフウッと息を吐いた勇気が―――そっと私の肩に腕を回して私の体を引き寄せた。柔らかく抱き締められて―――少し驚いたけれども、私は勇気の胸に耳を付けてみた。するとドキドキと勇気の胸も割と早いリズムを刻んでいると言う事が手に取るように理解できたのだ。
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