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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
48.私の気持ち 5
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勇気にもみくちゃにされた髪の毛を整えていると、スッと目を細めた勇気の手が再び伸びて来て、私の髪を梳き始めた。
真剣な表情で、自分で乱した私の髪を再び丁寧に元に戻している勇気を見上げた。
そこにいるのは、公園で私を引っ張った少年と―――同じであって同じではない。
あの頃勇気と私は同じくらいの背丈だった。
声もすっかり低くなっちゃって。
女子としてはそれほど小柄では無い私より、ずっと大きくて。
例え初対面でも、誰とでも気さくに話せる図太い性格は昔のままだけれど―――
「ん、おっけ。元に戻った」
満足気に微笑んで、頭をポンポン撫でる勇気の瞳は何だかとても優しくて。
いつでも勇気はそんな優しい目で私を見ていてくれたのに……何故、お兄ちゃんの言いなりで無理に接してくれているなんて、私は考えたのだろう。
「勇気は―――お兄ちゃんに言われたから仕方なく私を構っているんだと思ったの」
私の告白に、勇気は目を丸くした。
「はあ?何だそれ。そんなんで、ここまでベッタリ構う男がいるか」
「う……そう言われると、そうかもしれないけど」
でもそう思い込んでしまった。
何故なら―――怖かったから。
私が親しく思っている、傍に居るのが当り前になっている男の子が、子供から大人になって恋をして―――私から離れて行くのが恐ろしかったから。
「ずっと傍に居て欲しかったの。勇気が大人の男の人みたいになって、誰か他の女の子を大事にして私の傍からいなくなってしまうのが―――怖かったの」
「……」
「だから、それをジリジリ待つのが怖くて―――黙ってじっとしていられなかったの。何かしなきゃって。……勇気が離れて行くのをただじっと見守るのは落ち着かなかった。我儘言って縋ってしまいそうで……。勇気には幸せになって貰いたいのに、勇気が誰かと幸せになるのを喜べない自分が嫌で―――きちんと喜べる人間になりたかった。だから―――早く一人前の、独りでも大丈夫な人間になりたかったの」
「凛……」
昔読んだホラー漫画に出て来た自動書記みたいに、言葉が知らずにスラスラと私の口から紡ぎ出された。それで漸く自分の中にあった、モヤモヤした気持ちやもどかしい焦りの正体に、私は気が付いた。
つまり私は―――単にヤキモチを焼いていただけなのだ。
澪と勇気の仲を邪な目で疑ったりしたのも―――ヤキモチで目が曇っていただけ。
女子マネの仁見さんが勇気に親し気に話しかけ触れる事が面白く無かったのも、勇気の事分かったような口振りで話すのに苛立ってしまうのも。
「私……もしかして」
髪を梳く為に私の目の前に勇気は膝を進めて来ていた。
テーブルの隔たりのない距離。それはいつもこれまで当り前にあった距離で―――それこそ、お兄ちゃんに怒られるまではいつでも、こんな近くに……勇気が存在していたんだ。
「勇気の事……好きなのかも」
真剣な表情で、自分で乱した私の髪を再び丁寧に元に戻している勇気を見上げた。
そこにいるのは、公園で私を引っ張った少年と―――同じであって同じではない。
あの頃勇気と私は同じくらいの背丈だった。
声もすっかり低くなっちゃって。
女子としてはそれほど小柄では無い私より、ずっと大きくて。
例え初対面でも、誰とでも気さくに話せる図太い性格は昔のままだけれど―――
「ん、おっけ。元に戻った」
満足気に微笑んで、頭をポンポン撫でる勇気の瞳は何だかとても優しくて。
いつでも勇気はそんな優しい目で私を見ていてくれたのに……何故、お兄ちゃんの言いなりで無理に接してくれているなんて、私は考えたのだろう。
「勇気は―――お兄ちゃんに言われたから仕方なく私を構っているんだと思ったの」
私の告白に、勇気は目を丸くした。
「はあ?何だそれ。そんなんで、ここまでベッタリ構う男がいるか」
「う……そう言われると、そうかもしれないけど」
でもそう思い込んでしまった。
何故なら―――怖かったから。
私が親しく思っている、傍に居るのが当り前になっている男の子が、子供から大人になって恋をして―――私から離れて行くのが恐ろしかったから。
「ずっと傍に居て欲しかったの。勇気が大人の男の人みたいになって、誰か他の女の子を大事にして私の傍からいなくなってしまうのが―――怖かったの」
「……」
「だから、それをジリジリ待つのが怖くて―――黙ってじっとしていられなかったの。何かしなきゃって。……勇気が離れて行くのをただじっと見守るのは落ち着かなかった。我儘言って縋ってしまいそうで……。勇気には幸せになって貰いたいのに、勇気が誰かと幸せになるのを喜べない自分が嫌で―――きちんと喜べる人間になりたかった。だから―――早く一人前の、独りでも大丈夫な人間になりたかったの」
「凛……」
昔読んだホラー漫画に出て来た自動書記みたいに、言葉が知らずにスラスラと私の口から紡ぎ出された。それで漸く自分の中にあった、モヤモヤした気持ちやもどかしい焦りの正体に、私は気が付いた。
つまり私は―――単にヤキモチを焼いていただけなのだ。
澪と勇気の仲を邪な目で疑ったりしたのも―――ヤキモチで目が曇っていただけ。
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「私……もしかして」
髪を梳く為に私の目の前に勇気は膝を進めて来ていた。
テーブルの隔たりのない距離。それはいつもこれまで当り前にあった距離で―――それこそ、お兄ちゃんに怒られるまではいつでも、こんな近くに……勇気が存在していたんだ。
「勇気の事……好きなのかも」
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