181 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
38.幼馴染の態度 3
しおりを挟む
「今日からマネージャーとして入部してくれた、高坂さんだ」
「よろしくお願いします」
グラウンドで、練習用のユニフォームを身に着けた野球部員達がゾロゾロ集まっている前で、門倉先輩に紹介して貰った。
「あまり野球には詳しく無いそうだから、何かあったら教えてやってくれ」
門倉先輩がそう言うと、「「「あっす」」」と大きな声で返事が返って来た。
その中で勇気だけが、ソッポを向いてむっつりと押し黙っているのが目に入った。
恐れていた通り、あの女子マネ、仁見さんが私に仕事を教える担当になってしまった。
1年生の小柄な田口さんと一緒に、彼女の後ろに付いて歩く。
飲み物の準備の仕方を習った。大きなボトルに袋に入った粉を入れて水道水を入れる。結構な重量感でついつい足元がよろめいてしまう。
田口さんと仁見さんは気安い様子で何か分からない話をしている。私はその話を聞いていたけど、割って入る事もできずトボトボと後に続いた。
それから備品の手入れをするように言われ、田口さんと2人、一緒にボールを磨いた。
ひどく居心地が悪い。
仁見さんならここで話を弾ませる事が出来るんだろうな……と思い、ションボリしてしまう。自分の事を嫌いな人が、ちゃんとしていて周りに受け入れられているって状況を目の当たりにすると―――何だか自分が駄目な奴だって言われているような気分になってしまう。お兄ちゃんに言ったら「ぜったい、考えすぎ!」ってまた言われそうだな。
その日はずっと備品の手入れをして、過ごした。私が田口さんに話しかけられたのなんて「この布使っていいのかな?」の一言だけ。彼女も「はい」と頷いただけで俯いてしまい、その後会話は続かなかった。……泣きたくなった。
部活の最後はボール拾いを手伝ったり、備品の後片付けをした。
単純作業が何だかゲームみたい。思わず夢中になってしまって、フェンスの際まで行ってしまったらもう周りに人がいなくなってて慌てた。ボールをたくさん抱えたまま焦って走ったら、腕の中からボールが飛び出し、コロコロ転がって行ってしまう。3方向に転がったボールのひとつを追いかけて戻って来ると、勇気が他のボール2つを拾って回収してくれていた。
「ありがと、勇気」
怖い顔をしたまま大きな手でボールを持っている勇気に、お礼を言った。
そしたら無言で、勇気は私の腕の中から幾つかボールを奪っていった。
気持ちが収まらないのか―――勇気は表情を変えないまま、低い声でポツリと呟いた。
「持ち過ぎ。また落とすぞ」
「……うん」
何となく、ホッとした。
同じ部活なのに口をきかないままなのは、苦しい。
だって私が気兼ねなく話せるのって、この場所では勇気しかいないから。
「よろしくお願いします」
グラウンドで、練習用のユニフォームを身に着けた野球部員達がゾロゾロ集まっている前で、門倉先輩に紹介して貰った。
「あまり野球には詳しく無いそうだから、何かあったら教えてやってくれ」
門倉先輩がそう言うと、「「「あっす」」」と大きな声で返事が返って来た。
その中で勇気だけが、ソッポを向いてむっつりと押し黙っているのが目に入った。
恐れていた通り、あの女子マネ、仁見さんが私に仕事を教える担当になってしまった。
1年生の小柄な田口さんと一緒に、彼女の後ろに付いて歩く。
飲み物の準備の仕方を習った。大きなボトルに袋に入った粉を入れて水道水を入れる。結構な重量感でついつい足元がよろめいてしまう。
田口さんと仁見さんは気安い様子で何か分からない話をしている。私はその話を聞いていたけど、割って入る事もできずトボトボと後に続いた。
それから備品の手入れをするように言われ、田口さんと2人、一緒にボールを磨いた。
ひどく居心地が悪い。
仁見さんならここで話を弾ませる事が出来るんだろうな……と思い、ションボリしてしまう。自分の事を嫌いな人が、ちゃんとしていて周りに受け入れられているって状況を目の当たりにすると―――何だか自分が駄目な奴だって言われているような気分になってしまう。お兄ちゃんに言ったら「ぜったい、考えすぎ!」ってまた言われそうだな。
その日はずっと備品の手入れをして、過ごした。私が田口さんに話しかけられたのなんて「この布使っていいのかな?」の一言だけ。彼女も「はい」と頷いただけで俯いてしまい、その後会話は続かなかった。……泣きたくなった。
部活の最後はボール拾いを手伝ったり、備品の後片付けをした。
単純作業が何だかゲームみたい。思わず夢中になってしまって、フェンスの際まで行ってしまったらもう周りに人がいなくなってて慌てた。ボールをたくさん抱えたまま焦って走ったら、腕の中からボールが飛び出し、コロコロ転がって行ってしまう。3方向に転がったボールのひとつを追いかけて戻って来ると、勇気が他のボール2つを拾って回収してくれていた。
「ありがと、勇気」
怖い顔をしたまま大きな手でボールを持っている勇気に、お礼を言った。
そしたら無言で、勇気は私の腕の中から幾つかボールを奪っていった。
気持ちが収まらないのか―――勇気は表情を変えないまま、低い声でポツリと呟いた。
「持ち過ぎ。また落とすぞ」
「……うん」
何となく、ホッとした。
同じ部活なのに口をきかないままなのは、苦しい。
だって私が気兼ねなく話せるのって、この場所では勇気しかいないから。
0
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる