180 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
37.友人と私
しおりを挟む
「野球部に入ろうと思って」
「え……」
机に広げている雑誌を眺めていた澪が、顔を上げた。ちなみに今彼女が読んでいるのは文房具が一面所狭しと掲載されている雑誌だ。今度は文房具か……などと思いながら、可愛かったりカッコ良かったり便利だったりする文房具を休み時間に一緒に眺めていた。
「野球部?凛、ボールまっすぐ投げれたっけ?」
えーと、私は運動音痴では無いですよ。ただ、球技が苦手と言うだけで。
何故だ、お兄ちゃんはバスケット上手いのに。
「投げれない。えっとね、マネージャーやるの」
「え?マネージャー??」
澪が僅かに目を大きく開いた。赤の他人が見ればほとんど表情が変わっていないように思うだろうが、私には澪の目いっぱいの驚きが伝わって来た。
「……あの子がいるのに?」
以前絡まれた話はしていなかったんだけど……練習試合での態度で彼女が私に良い感情を抱いていないって、澪は気付いているみたい。澪は物凄く察しが良いのだ。
「うん、勇気の先輩に誘われたの。私もそろそろ人見知りを卒業しないと!と思って」
「日浦君は……何て言っているの?」
ギクリ。やはり澪は鋭い。
ピンポイントに、反対意見を言いそうな奴を上げて来た。
「えーと、私には『無理』だって言われた」
「……じゃあ何で?」
眼鏡の奥の真っ黒な瞳が、真っすぐに私を見つめている。これは適当に逸らしてはいけないヤツだ。そう思った。でも言い辛いなぁ……自分の心の狭さや幼稚さをさらけ出すようで恥ずかしい。
「……澪とは高校離れちゃうだろうし、自立しないとなって。勇気だって違う高校になるかもだし、その内構われなくなっちゃうかもしれないし……人見知りを克服するよう努力だけでもしてみようって考えたの」
「日浦君が凛を構わなくなるなんて、有り得ないと思うけど」
澪がお兄ちゃんと同じような事を、確信をもって答える。
何故だ。ひょっとして2人とも、占い師か予知能力者なのだろうか。
「……勇気、モテるからさ、その内彼女とか出来て遊んでくれなくなっちゃうかもしれないじゃない?」
「……」
澪が変な顔をした。あれ、勇気って澪の好みじゃ無いのかな?私やっぱり勘違いしてたのかな?
「澪は……勇気の事、どう思う?」
「え?どうって……どう言う意味で?」
「その、カッコ良いと……思う?」
澪は眉を顰めて、考え込むように腕組みをした。
え、もうちょっと軽く返事してくれても良いんじゃないかな?そんな考え込むような質問じゃないんだけど。
やはり澪が勇気に興味を持っているのでは、という私の穿った見方は考えすぎだったのだろうか。
「……格好良い……んじゃないかな?」
「そっか」
何だか歯切れの悪い回答だな。でも澪もやっぱり勇気の事、カッコイイって思ってはいるんだ。
「鍛えているだけあってほどほどに体格も良いし、グラブ捌きもバントも上手かったし」
んん??何かちょっと視点が違う気がするなぁ。
ちょっと離れて、商品を見定めているような口振りだ。
「そんな事よりさ」
『そんな事より』?
澪がパタンと、雑誌を閉じて身を乗り出した。
「無理して嫌な所に行く事無いんじゃない?私、別に凛は今のままでも十分イイ子だと思うし、ずっと変わらなくても良いと思う」
「でも……」
「私と一緒の学校行こうよ」
「えっ……澪、K高志望でしょ?」
市内には東南西北と言われる偏差値の高い公立高校があって、そのほかA丘高校や幾つか私立高校の特別クラスなどが難関と呼ばれている。中でも公立のK高が一番偏差値が高いと言われているのだ。当然澪は其処を受けるに違いないと思っていた。
「私はK高は流石に無理だよ」
というか東南西北どれも無理だ。それよりランクの低い進学校も怪しいと思う。本当はお兄ちゃんも通っていたって言う歩いて5分のT校に行きたいんだけど……それも……正直難しいかもしれない。
「じゃあ私立の籐星行こうよ。私特別クラスのSコースを受験するから、普通クラスは?」
「……同じクラスじゃ無いと寂しいなぁ」
多分それだと別の高校通っているのと変わらないと思う……。
「んー、じゃあT高。近いし、蓮さんの母校だし。前、凛行きたいって言ってたじゃない?」
澪が人差し指を顎に当てて小首を傾げた。
その仕草に思わずキュンとしてしまう。でも。
可愛いけど―――言っている事、めちゃくちゃだ!
「駄目!私に合わせて澪みたいな優等生のランク下げたら、先生に怒られちゃうよ~!」
「個人の自由でしょ?」
「私が嫌なの……!」
「じゃあ、凛K高行こ。今から頑張ればまだ間に合うよ、私と一緒に勉強しよ?」
事も無げに言うけど……絶対無理!そう思った。
何より私、そんなに勉強が好きでは無いのだ。背伸びして高いランクの高校行ったらその後が悲惨だろう……。
真顔で私を見つめる澪の前で、私は目を閉じて頭を振った。
「……やっぱ、野球部入る方向で……」
もうそれしかない、そう思った。
「え……」
机に広げている雑誌を眺めていた澪が、顔を上げた。ちなみに今彼女が読んでいるのは文房具が一面所狭しと掲載されている雑誌だ。今度は文房具か……などと思いながら、可愛かったりカッコ良かったり便利だったりする文房具を休み時間に一緒に眺めていた。
「野球部?凛、ボールまっすぐ投げれたっけ?」
えーと、私は運動音痴では無いですよ。ただ、球技が苦手と言うだけで。
何故だ、お兄ちゃんはバスケット上手いのに。
「投げれない。えっとね、マネージャーやるの」
「え?マネージャー??」
澪が僅かに目を大きく開いた。赤の他人が見ればほとんど表情が変わっていないように思うだろうが、私には澪の目いっぱいの驚きが伝わって来た。
「……あの子がいるのに?」
以前絡まれた話はしていなかったんだけど……練習試合での態度で彼女が私に良い感情を抱いていないって、澪は気付いているみたい。澪は物凄く察しが良いのだ。
「うん、勇気の先輩に誘われたの。私もそろそろ人見知りを卒業しないと!と思って」
「日浦君は……何て言っているの?」
ギクリ。やはり澪は鋭い。
ピンポイントに、反対意見を言いそうな奴を上げて来た。
「えーと、私には『無理』だって言われた」
「……じゃあ何で?」
眼鏡の奥の真っ黒な瞳が、真っすぐに私を見つめている。これは適当に逸らしてはいけないヤツだ。そう思った。でも言い辛いなぁ……自分の心の狭さや幼稚さをさらけ出すようで恥ずかしい。
「……澪とは高校離れちゃうだろうし、自立しないとなって。勇気だって違う高校になるかもだし、その内構われなくなっちゃうかもしれないし……人見知りを克服するよう努力だけでもしてみようって考えたの」
「日浦君が凛を構わなくなるなんて、有り得ないと思うけど」
澪がお兄ちゃんと同じような事を、確信をもって答える。
何故だ。ひょっとして2人とも、占い師か予知能力者なのだろうか。
「……勇気、モテるからさ、その内彼女とか出来て遊んでくれなくなっちゃうかもしれないじゃない?」
「……」
澪が変な顔をした。あれ、勇気って澪の好みじゃ無いのかな?私やっぱり勘違いしてたのかな?
「澪は……勇気の事、どう思う?」
「え?どうって……どう言う意味で?」
「その、カッコ良いと……思う?」
澪は眉を顰めて、考え込むように腕組みをした。
え、もうちょっと軽く返事してくれても良いんじゃないかな?そんな考え込むような質問じゃないんだけど。
やはり澪が勇気に興味を持っているのでは、という私の穿った見方は考えすぎだったのだろうか。
「……格好良い……んじゃないかな?」
「そっか」
何だか歯切れの悪い回答だな。でも澪もやっぱり勇気の事、カッコイイって思ってはいるんだ。
「鍛えているだけあってほどほどに体格も良いし、グラブ捌きもバントも上手かったし」
んん??何かちょっと視点が違う気がするなぁ。
ちょっと離れて、商品を見定めているような口振りだ。
「そんな事よりさ」
『そんな事より』?
澪がパタンと、雑誌を閉じて身を乗り出した。
「無理して嫌な所に行く事無いんじゃない?私、別に凛は今のままでも十分イイ子だと思うし、ずっと変わらなくても良いと思う」
「でも……」
「私と一緒の学校行こうよ」
「えっ……澪、K高志望でしょ?」
市内には東南西北と言われる偏差値の高い公立高校があって、そのほかA丘高校や幾つか私立高校の特別クラスなどが難関と呼ばれている。中でも公立のK高が一番偏差値が高いと言われているのだ。当然澪は其処を受けるに違いないと思っていた。
「私はK高は流石に無理だよ」
というか東南西北どれも無理だ。それよりランクの低い進学校も怪しいと思う。本当はお兄ちゃんも通っていたって言う歩いて5分のT校に行きたいんだけど……それも……正直難しいかもしれない。
「じゃあ私立の籐星行こうよ。私特別クラスのSコースを受験するから、普通クラスは?」
「……同じクラスじゃ無いと寂しいなぁ」
多分それだと別の高校通っているのと変わらないと思う……。
「んー、じゃあT高。近いし、蓮さんの母校だし。前、凛行きたいって言ってたじゃない?」
澪が人差し指を顎に当てて小首を傾げた。
その仕草に思わずキュンとしてしまう。でも。
可愛いけど―――言っている事、めちゃくちゃだ!
「駄目!私に合わせて澪みたいな優等生のランク下げたら、先生に怒られちゃうよ~!」
「個人の自由でしょ?」
「私が嫌なの……!」
「じゃあ、凛K高行こ。今から頑張ればまだ間に合うよ、私と一緒に勉強しよ?」
事も無げに言うけど……絶対無理!そう思った。
何より私、そんなに勉強が好きでは無いのだ。背伸びして高いランクの高校行ったらその後が悲惨だろう……。
真顔で私を見つめる澪の前で、私は目を閉じて頭を振った。
「……やっぱ、野球部入る方向で……」
もうそれしかない、そう思った。
0
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる