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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
27.ラーメン屋で
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小さな古いお店は、ユニフォーム姿の男子で一杯だった。スライディングで汚れてしまったらしく勇気は上のユニフォームを脱いで黒いアンダーウェア姿になっている。下はそのままだが、店に入る前にほろって(『ほろう』は『払う』と言う意味の北海道の方言です)奥の小上がりには上がらず、テーブルの席に座った。
「こっち座ったら」
先ほど私を誘った先輩らしき人が、勝手がわからずキョロキョロしている私に手招きした。
小上がりに上がれと言う事か。
そこは知らない大きい男子ばかりで、人見知りの私は震え上がった。
「スイマセン、こいつ人見知りなんで」
そう言ってムスッと勇気は私の手首を掴んで自分の隣に座らせた。先輩はクスリと笑うとそれ以上追及する事もせず、口を噤んだ。
するとカウンターの近くにいる男子が声を上げた。
「大盛醤油の人~」
バババッと手が上がり、その男子の横にいるもう1人がすかさず数を数えた。比較的体が細くヒョロヒョロしている気がする。顔も幼さが残っているから1年生なのかもしれない。
「大盛味噌の人~」
さっきより数は少ないが、何人か手を上げる。
「大盛塩の人!」
残りのほとんどが手を上げた。勇気と中崎君もここで手を上げる。
あれ?あれ?
どうすれば良いの?
心配になって隣の勇気を見上げる。
「ねえ、ここって大盛しかないの?」
囁くように尋ねると、勇気は笑って言った。
「いや、普通盛もある。後は個別に頼むよ」
「何にしよう」
「昔ラーメンの塩って言うのが、一番人気」
「じゃ、それにする」
メニューに悩む余裕も無くて、勧められるままに頷くと勇気が女将さんらしき60絡みの奥さんに「昔ラーメン塩ひとつ」と声を掛けてくれた。女子マネが咎めるように眉を顰めてこちらを見、それから隣の女子達と一緒に「塩ひとつ」「醤油ひとつ」などと個別に注文を追加する。
なるほど、たくさん頼むものは取りまとめて注文すれば効率良いよね。いつも家族と一緒か、澪か勇気と一緒と言う少人数行動しかしない私には物珍しい光景に思えた。団体行動に慣れている人達って言うのは、手際が良いなぁと感心してしまう。
注文が終わるとワイワイがやがやと、それぞれテーブルごとに話し始めるが、試合の反省らしき話題はいつまで経っても出てこない。
「ねえ、勇気?」
「ん?」
中崎君とふざけている勇気のシャツを指で摘まんで、話しかけた。
「ミーティングはラーメン食べた後?」
すると中崎君がブッと噴き出してケラケラ笑い出した。勇気はハーっと溜息を吐いて首を振った。
「ミーティングなんて無いよ」
「えっ無いの?」
じゃあ帰っても良かったのでは……なんて考えたのを読み取ったように中崎君が言った。
「一緒にラーメンを食べて、親睦を深める。そんでチームワークが円滑に進むなら、話なんかしなくてもミーティングみたいなモンでしょ?」
「……そういうモン?」
「そう言うモンです」
真面目な顔で頷いて見せる中崎君に向かって、勇気は思いっきり眉を顰めた。
「違うだろ?だから帰りたかったのに……」
「お前は『凛ちゃん』を、他人に見せたくないだけだろ」
えっそれはどう言う……人見知りの私なんかチームメイトの前に出せないって、そういう事だろうか。それとも私と一緒で揶揄われるのが嫌なのかな。
「『凜ちゃん』って言うな」
ブスッと勇気が不機嫌を露わにする。
中崎君が面白そうに笑って、隣の野球部員に向かって「こいつ余裕無さ過ぎ」と言うと目を丸くしていたその男子はコクリと頷いた。
居心地が悪いなあ……やっぱりこれ、揶揄われている?
私はいたたまれなくなって視線を逸らした。小上がりに目を向けると、私を誘った先輩らしき人がこちらを見ていて、私と目が合うとニコリと笑った。
「こっち座ったら」
先ほど私を誘った先輩らしき人が、勝手がわからずキョロキョロしている私に手招きした。
小上がりに上がれと言う事か。
そこは知らない大きい男子ばかりで、人見知りの私は震え上がった。
「スイマセン、こいつ人見知りなんで」
そう言ってムスッと勇気は私の手首を掴んで自分の隣に座らせた。先輩はクスリと笑うとそれ以上追及する事もせず、口を噤んだ。
するとカウンターの近くにいる男子が声を上げた。
「大盛醤油の人~」
バババッと手が上がり、その男子の横にいるもう1人がすかさず数を数えた。比較的体が細くヒョロヒョロしている気がする。顔も幼さが残っているから1年生なのかもしれない。
「大盛味噌の人~」
さっきより数は少ないが、何人か手を上げる。
「大盛塩の人!」
残りのほとんどが手を上げた。勇気と中崎君もここで手を上げる。
あれ?あれ?
どうすれば良いの?
心配になって隣の勇気を見上げる。
「ねえ、ここって大盛しかないの?」
囁くように尋ねると、勇気は笑って言った。
「いや、普通盛もある。後は個別に頼むよ」
「何にしよう」
「昔ラーメンの塩って言うのが、一番人気」
「じゃ、それにする」
メニューに悩む余裕も無くて、勧められるままに頷くと勇気が女将さんらしき60絡みの奥さんに「昔ラーメン塩ひとつ」と声を掛けてくれた。女子マネが咎めるように眉を顰めてこちらを見、それから隣の女子達と一緒に「塩ひとつ」「醤油ひとつ」などと個別に注文を追加する。
なるほど、たくさん頼むものは取りまとめて注文すれば効率良いよね。いつも家族と一緒か、澪か勇気と一緒と言う少人数行動しかしない私には物珍しい光景に思えた。団体行動に慣れている人達って言うのは、手際が良いなぁと感心してしまう。
注文が終わるとワイワイがやがやと、それぞれテーブルごとに話し始めるが、試合の反省らしき話題はいつまで経っても出てこない。
「ねえ、勇気?」
「ん?」
中崎君とふざけている勇気のシャツを指で摘まんで、話しかけた。
「ミーティングはラーメン食べた後?」
すると中崎君がブッと噴き出してケラケラ笑い出した。勇気はハーっと溜息を吐いて首を振った。
「ミーティングなんて無いよ」
「えっ無いの?」
じゃあ帰っても良かったのでは……なんて考えたのを読み取ったように中崎君が言った。
「一緒にラーメンを食べて、親睦を深める。そんでチームワークが円滑に進むなら、話なんかしなくてもミーティングみたいなモンでしょ?」
「……そういうモン?」
「そう言うモンです」
真面目な顔で頷いて見せる中崎君に向かって、勇気は思いっきり眉を顰めた。
「違うだろ?だから帰りたかったのに……」
「お前は『凛ちゃん』を、他人に見せたくないだけだろ」
えっそれはどう言う……人見知りの私なんかチームメイトの前に出せないって、そういう事だろうか。それとも私と一緒で揶揄われるのが嫌なのかな。
「『凜ちゃん』って言うな」
ブスッと勇気が不機嫌を露わにする。
中崎君が面白そうに笑って、隣の野球部員に向かって「こいつ余裕無さ過ぎ」と言うと目を丸くしていたその男子はコクリと頷いた。
居心地が悪いなあ……やっぱりこれ、揶揄われている?
私はいたたまれなくなって視線を逸らした。小上がりに目を向けると、私を誘った先輩らしき人がこちらを見ていて、私と目が合うとニコリと笑った。
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