俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
上 下
165 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】

22.幼馴染と私

しおりを挟む
家に帰ると既に玄関に勇気のスニーカーがあった。
居間のソファで勇気とお母さんが話をしている。小さな頃から出入りしている勇気をお母さんは息子みたいに可愛がっている。お兄ちゃんが少し嫉妬しちゃうくらい。だからその光景を見た時、案の定お兄ちゃんは不機嫌そうに眉を顰めた。

「あ、蓮君と凛、帰って来た」

そう言って嬉しそうにお母さんが顔を上げると、すぐにお兄ちゃんの表情は緩む。だからお母さんはお兄ちゃんが焼き餅を焼いているなんて気が付いていないかもしれない。

「蓉子さん、お土産買って来たよ」
「わぁ、やった!すぐ食べても良い?あ、勇気君も食べるよね」
「あ、はい」
「私も、私も!」

と伸びあがって手を上げると、お兄ちゃんが少し呆れたように笑った。

「さっきあんなに食べたのに、まだ食べれるの?」
「ケーキは別腹なの!」

それに、色々あって疲れたしね!
だけど私はお兄ちゃんの恋愛トラブルに巻き込まれた事は口には出さない。お兄ちゃんはお母さんの前では常に良い子で居たがるから。武士の情けですよ!って奢って貰った立場で私も偉そうだなぁ。

「蓮君は?」
「俺はお腹いっぱい。ちょっと部屋で休んでから仕事片付けようかな」
「じゃあ、後でお茶持ってって上げる。紅茶で良い?」
「うん、ありがとう」

そう言って、私の頭をついでみたいにポンポンと叩いてからお兄ちゃんは2階に上がって行った。お兄ちゃんはいつも忙しそうだ。だけどそういう合間を縫って私を構ってくれる。これを当たり前に思っていたら駄目だな、と私は珍しく反省した。綺麗なお姉さんの必死な様子を見て思ったんだ。お兄ちゃんの時間をわざわざ割いて貰って、気にして貰う事に感謝を忘れないようにしようって。今までもそう思っていたけど、もうちょっと真剣に。

「勇気、部活お疲れ」
「おう。凛は蓮さんと何処行ってきたんだ?」
「藻岩山のロマン亭。パスタとチョコモンブラン奢って貰ったの」
「わー、俺絶対入れ無さそう!どうせお洒落なトコなんだろ?カップルか女しかいないような」

そう言えば、男子だけの組み合わせってあの場所には存在しなかったかも。

「確かに女性客とカップルだけだったかも」
「蓮さんは慣れてるんだろうけどな」
「そうだね、今日も本当は彼女と来る予定だったみたい」
「へー」

勇気が遠い世界のニュースでも聴いているかのような顔で相槌を打つ。確かにお兄ちゃんなら、種類としては勇気と同じ男の人なんだけど……あの場所に違和感なく存在できる。あのマジックをみているかのような女の人あしらいを目にしたら、きっと勇気なんかますます目が点になるんだろうな。私は想像してクスリと笑った。

「それがさ、お兄ちゃん彼女との約束キャンセルして急に私を誘ったみたいで、彼女と鉢合わせしちゃったんだ」
「どういう事だ?」
「私が落ち込んでいるのを見て、心配になって私のこと誘ってくれたらしいの。急にキャンセルされてその原因の妹が呑気にニコニコご飯食べてるの見て、彼女が腹を立てちゃって……私はそんな事知らなかったからちょっと驚いたけど」
「え?修羅場?」
「いや、結局お兄ちゃんがニッコリ笑ったら、怒ってたお姉さんも大人しくなっちゃった」

勇気も女子に優しいけど、あんな芸当中2の男の子には出来そうもない。
というか勇気はお兄ちゃんの年になっても出来なさそう。同じセリフでも勇気が言ったらちょっと気持ち悪いかもしれない。

「何かすげーな」
「うん、魔法みたいにね。お兄ちゃんが何か言うとお姉さんの怒りがシュルシュル萎んでいってしまうの。ちょっと唖然としちゃった」



「ところで、何で落ち込んでたんだ?」



不意に痛い所をを突かれて、思考が止まる。

「何か……あったのか?」

心配げに私の顔を覗き込む勇気から、私は咄嗟に目を逸らしてしまった。
悩みの元の本人に向かって、なんと答えて良いか分からなかったからだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

思い思われ嵌め嵌まり

凛子
恋愛
一目惚れした彼と知り合いになるために考えた策とは……

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...