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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
20.お兄ちゃんとデート
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ロマン亭のチョコレートモンブランは私が大好きなケーキのひとつだ。藻岩山にあるそのパティスリー直営のカフェはとても眺めが良くて、お兄ちゃんがよく連れて行ってくれる場所で私もすごく気に入っているのだ。
「トマトソース生パスタも食べたいけど、チョコモンブランも食べたい」
メニューと睨めっこして唸る私にお兄ちゃんは噴き出した。
「両方食べれば?」
「でも太っちゃうから……」
「珍しいな、凛がそんな事気にするなんて」
お兄ちゃんは今度は目を丸くした。
本気で驚くお兄ちゃんに、私は恥ずかしくなって口を尖らせた。
「やっぱりスラッとしている方が良いなって思って……」
澪の嫋やかな後ろ姿、細い手首が瞼の裏に映し出される。
やっぱりあんな風に折れそうな風情の女の子の方が、素敵だと思う。
「凛は痩せすぎだって。もっと食べな。それにプクプクに太ったって俺には凛が1番可愛いく見えるから大丈夫だ。むしろそれはそれで昔を思い出せるから、良いと思う」
真顔でお兄ちゃんが言うから、私は過剰なお兄ちゃんの身内びいきに真っ赤になってしまった。お兄ちゃん、時々真剣に恥ずかし過ぎる。
私がモゴモゴ言っている間に、店員さんに注文を済ませる姿もスマートだ。ほらまた、店員さんの目がウルウルしている。罪な男め……!何だか腹が立って来て、ついつい憎まれ口をきいてしまう。
「おじさんみたいな事言わないで。それって下手したらセクハラだよー!」
イーってしたら、爆笑された。
何さ、子供扱いして!と思ったが、つられて私も笑ってしまった。
……でも私、本当に子供だなぁ。だから澪と勇気も自然と私の扱いが違っちゃうのかな?2人の対等に分かり合える雰囲気に入り込めないのは、それが主な理由なのか。
割とすぐ注文したものが届いて、テーブルに綺麗に並べられる。
「どうした?食べな」
「うん」
少し落ち込んでいる様子を見て、直ぐに声を掛けてくれる。
何となく思う。私が成長しきれないのって、もしかしてお兄ちゃんが甘やかして過保護にしているせいだったりして?
そう思いながらも、美味しそうなトマトソースの生パスタを捲き取ってパクリと口に入れると、何とも言えない幸福感が体を満たすのを感じて疑問とか不安とかそういう物が取りあえず頭の端っこに追いやられてしまう。私も大概おめでたく出来ている。と言うかただ単に食いしん坊ってだけかもしれない。
「美味し」
目を閉じて、ジーンとひと口の余韻を味わう。
この一瞬に感謝できなくて、生きている意味があるだろうか……いや、無い!
私は目の前の素晴らしい料理に集中する事にした。そのひと皿ひと皿が、キッチンで働いているシェフやパティシエ若しくはパティシエール―――料理人さん達の努力の結晶なのだ……!って大袈裟?でも、そう思って味わってその瞬間を楽しむ方が良い。それに上の空で食べるなんて、せっかく私を明るくさせようと連れて来てくれたお兄ちゃんに失礼だ。
「よしっ、食べる!」
「おう、食べな」
決意を込めてフォークを構え皿と向かい合うと、お兄ちゃんがおかしそうに笑いを噛み殺しながら答えてくれる。こういう時『お行儀が悪い』とか『黙って食べなさい』とか、盛り下げる言葉を言わないお兄ちゃんが大好きだ。
ガツガツ(という気分で。それほど荒々しく食べてはいない)パスタを平らげた後、いよいよ大好きなチョコモンブランとガチンコ勝負!チョコがモンブランの栗クリームの代わりに掛かったチョコ好きの心を抉る一品。初めてお兄ちゃんがお土産に買ってくれた時から、私はここのチョコモンブランの虜になったのだ。
フォークを入れるとパリンと割れて、中のクリームとスポンジまで一気に絡めとる。あーんと大きな口を開けて齧り付こうとしたその時、カツっと音がして私達のテーブルの横に誰かが立った気配に気が付いた。
ポカンと見上げると、そこには腕を胸の前で組んだ綺麗なお姉さんが。
口を開けたままの私に、何故か厳しい視線を投げ掛けて来る。
柔らかい栗色の髪をサラリと肩に下ろし、スタイルの良さを引立てるようなワンピースに高くて華奢なヒールを合わせている。健康的な肌の上にふんわりした眉を顰める顔でさえ、何だかとても色っぽい。
あ、この人私に用があるのかな?知らない人だけど……開けっ放しの口を閉じて、今まさに食べようとしていたチョコモンブランをお皿に下ろす。お行儀が悪いと責められているような気がしてシュンとしてしまう。
彼女は私がフォークを下ろすと、今度は無言でお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんの知り合い?
それなら有りそうな事だ。勇気と休みに駅ビルのショッピングセンターに買い物に行った時、何度かお兄ちゃんが女の人と歩いているのを見た事がある。いつも違う人なのだけれど……どの人もとてもお洒落で素敵だった。この人もお兄ちゃんと並んだらとてもお似合いだろうと思う。ただもう少し笑ってくれると有難いんだけど……よく分からないけど何だか年上の女の人に厳しい表情をされると、肋骨の間がキュッと緊張するような気がして嫌だと思った。
問いかけるように私もお兄ちゃんに目を移すと、お兄ちゃんは女性の視線を微塵も感じないように、ニコリと私に微笑みを返して来た。
いや、笑顔はいらない。説明が欲しい。
「蓮さん、どういう事?用事が出来たって言ってデートをすっぽかしておいて―――何故違う女の子とデートしているの?」
「……!……」
お、お兄ちゃん!『都合が悪くなった』って言ったじゃない!
てっきり彼女に用事が出来たと思ったのに、どういう事??
もしかして―――まさか私と出掛けるために、彼女とのデート……前日にキャンセルしちゃったって言うの??
「トマトソース生パスタも食べたいけど、チョコモンブランも食べたい」
メニューと睨めっこして唸る私にお兄ちゃんは噴き出した。
「両方食べれば?」
「でも太っちゃうから……」
「珍しいな、凛がそんな事気にするなんて」
お兄ちゃんは今度は目を丸くした。
本気で驚くお兄ちゃんに、私は恥ずかしくなって口を尖らせた。
「やっぱりスラッとしている方が良いなって思って……」
澪の嫋やかな後ろ姿、細い手首が瞼の裏に映し出される。
やっぱりあんな風に折れそうな風情の女の子の方が、素敵だと思う。
「凛は痩せすぎだって。もっと食べな。それにプクプクに太ったって俺には凛が1番可愛いく見えるから大丈夫だ。むしろそれはそれで昔を思い出せるから、良いと思う」
真顔でお兄ちゃんが言うから、私は過剰なお兄ちゃんの身内びいきに真っ赤になってしまった。お兄ちゃん、時々真剣に恥ずかし過ぎる。
私がモゴモゴ言っている間に、店員さんに注文を済ませる姿もスマートだ。ほらまた、店員さんの目がウルウルしている。罪な男め……!何だか腹が立って来て、ついつい憎まれ口をきいてしまう。
「おじさんみたいな事言わないで。それって下手したらセクハラだよー!」
イーってしたら、爆笑された。
何さ、子供扱いして!と思ったが、つられて私も笑ってしまった。
……でも私、本当に子供だなぁ。だから澪と勇気も自然と私の扱いが違っちゃうのかな?2人の対等に分かり合える雰囲気に入り込めないのは、それが主な理由なのか。
割とすぐ注文したものが届いて、テーブルに綺麗に並べられる。
「どうした?食べな」
「うん」
少し落ち込んでいる様子を見て、直ぐに声を掛けてくれる。
何となく思う。私が成長しきれないのって、もしかしてお兄ちゃんが甘やかして過保護にしているせいだったりして?
そう思いながらも、美味しそうなトマトソースの生パスタを捲き取ってパクリと口に入れると、何とも言えない幸福感が体を満たすのを感じて疑問とか不安とかそういう物が取りあえず頭の端っこに追いやられてしまう。私も大概おめでたく出来ている。と言うかただ単に食いしん坊ってだけかもしれない。
「美味し」
目を閉じて、ジーンとひと口の余韻を味わう。
この一瞬に感謝できなくて、生きている意味があるだろうか……いや、無い!
私は目の前の素晴らしい料理に集中する事にした。そのひと皿ひと皿が、キッチンで働いているシェフやパティシエ若しくはパティシエール―――料理人さん達の努力の結晶なのだ……!って大袈裟?でも、そう思って味わってその瞬間を楽しむ方が良い。それに上の空で食べるなんて、せっかく私を明るくさせようと連れて来てくれたお兄ちゃんに失礼だ。
「よしっ、食べる!」
「おう、食べな」
決意を込めてフォークを構え皿と向かい合うと、お兄ちゃんがおかしそうに笑いを噛み殺しながら答えてくれる。こういう時『お行儀が悪い』とか『黙って食べなさい』とか、盛り下げる言葉を言わないお兄ちゃんが大好きだ。
ガツガツ(という気分で。それほど荒々しく食べてはいない)パスタを平らげた後、いよいよ大好きなチョコモンブランとガチンコ勝負!チョコがモンブランの栗クリームの代わりに掛かったチョコ好きの心を抉る一品。初めてお兄ちゃんがお土産に買ってくれた時から、私はここのチョコモンブランの虜になったのだ。
フォークを入れるとパリンと割れて、中のクリームとスポンジまで一気に絡めとる。あーんと大きな口を開けて齧り付こうとしたその時、カツっと音がして私達のテーブルの横に誰かが立った気配に気が付いた。
ポカンと見上げると、そこには腕を胸の前で組んだ綺麗なお姉さんが。
口を開けたままの私に、何故か厳しい視線を投げ掛けて来る。
柔らかい栗色の髪をサラリと肩に下ろし、スタイルの良さを引立てるようなワンピースに高くて華奢なヒールを合わせている。健康的な肌の上にふんわりした眉を顰める顔でさえ、何だかとても色っぽい。
あ、この人私に用があるのかな?知らない人だけど……開けっ放しの口を閉じて、今まさに食べようとしていたチョコモンブランをお皿に下ろす。お行儀が悪いと責められているような気がしてシュンとしてしまう。
彼女は私がフォークを下ろすと、今度は無言でお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんの知り合い?
それなら有りそうな事だ。勇気と休みに駅ビルのショッピングセンターに買い物に行った時、何度かお兄ちゃんが女の人と歩いているのを見た事がある。いつも違う人なのだけれど……どの人もとてもお洒落で素敵だった。この人もお兄ちゃんと並んだらとてもお似合いだろうと思う。ただもう少し笑ってくれると有難いんだけど……よく分からないけど何だか年上の女の人に厳しい表情をされると、肋骨の間がキュッと緊張するような気がして嫌だと思った。
問いかけるように私もお兄ちゃんに目を移すと、お兄ちゃんは女性の視線を微塵も感じないように、ニコリと私に微笑みを返して来た。
いや、笑顔はいらない。説明が欲しい。
「蓮さん、どういう事?用事が出来たって言ってデートをすっぽかしておいて―――何故違う女の子とデートしているの?」
「……!……」
お、お兄ちゃん!『都合が悪くなった』って言ったじゃない!
てっきり彼女に用事が出来たと思ったのに、どういう事??
もしかして―――まさか私と出掛けるために、彼女とのデート……前日にキャンセルしちゃったって言うの??
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