俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
上 下
153 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【別視点】

10.勇気(2)

しおりを挟む

角を曲がってすぐに気が付いた。
俺の家の前で、華奢な人影が心細げに門柱に背を預けている。

心臓がキュウッと鷲掴みにされたように縮まって、次にはドクンと大量の血液を体中に送り出す。

たった数日……1週間に満たない時間、距離を取っただけだった。
なのにどうしようもなく……彼女を見ただけで細胞が泡立つように感じるほど、俺の体は酷く干上がってしまっているようだった。

だけど同時に湧き上がる気まずさが、駆け寄りたい衝動を抑え込む。
俺は内心引き裂かれるような気持ちを味わいながらも、努めて何でもないような風を装って、ゆっくりと彼女に歩み寄った。

正面にピタリと立ち止まる。
逃げ出したいような気もしたが―――それだけは何とか意地で堪えた。

俯きがちな顔を上げ、俺を見上げる真剣な表情が……。

さっきから全く、心臓に悪いったら無い。
久し振りに真正面から見てしまった。いつの間にこんなに大人びた表情をするようになったのだろう?

「勇気、何で無視するの」

コイツは俺を萌え殺すつもりなのか……?
睨みつける視線が―――俺をザクリと突き刺す凶器のように思えた。

「……遊びに来ないし」

辛そうな声の重みに、一瞬飛んでいた意識が引き戻される。

「ゴメン」
「お兄ちゃんがあんなこと言ったから怒ってるの?」
「それは―――違う」

俺は思わず気まずさに目を伏せて首を振った。

俺が怒る道理が無い。
だけど気の毒に凛は、そう受け取ってしまったのだ。

散々甘やかして俺無しじゃいられないように育てたくせに―――ちょっと邪な思いを見抜かれたぐらいで、自分を守るために俺が彼女を放り出してしまったから。

「じゃあ何で……?私と遊ぶのつまらなくなった?お兄ちゃんに何を怒られているか分からない子供だから?他の子とは笑って話すくせに、私のことは避けて無視して―――っ」

ポロリと―――見下ろす大きな形の良い瞳から涙の粒が零れて頬を伝った。

「凛……」

気丈にもそれ以上決壊させまいと堪える凛の矜持に、胸を打たれた。
直ぐに俯き、ポケットからティッシュを出して鼻を抑えている。

凛は泣くといつも涙より先に鼻水が出てしまうとボヤいていた。何せ漫画に感情移入し過ぎて、毎週何かしら泣いてしまうのだから凛の泣き顔には俺は慣れっこになっていた筈だ。



だけど今日の涙は―――俺の深い所を揺さぶった。



あんな辛そうな涙はもう、流させたくない。
それなのに……同時に、モヤモヤと胸に蟠っていた物がスッキリと流されるような気分の良さを感じてしまう自分にも戸惑ってしまう。

俺の不在に涙を流して悲しむ凛がいると言う事実に―――今俺は……強い充足を感じている。



可哀想な凛。



コイツはすっかり俺の思惑通り―――俺に懐いてしまっている。
そう、凛は全然悪く無い―――悪いのは……

「お前は何にも悪く無い」
「……」
「図星を差されて動揺したんだ―――蓮さんの言う通りだったから」
「ずっ……どううこと?」

知らず知らずに頬が綻んでしまう。
訳が分からずキョトンとする表情に、つい気の毒になって彼女の頭を撫でた。



ゴメンな。お前に選択肢を与えてやれなくて。



そう心で詫びて―――そのまま胸に仕舞い込んだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...