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おとうとが私にかまい過ぎる
5.おとうとは…… 【最終話】
しおりを挟む焦げ茶のガルバリウムの外壁が見えて来て、晶は安堵する。
眠気で頭がフラフラした。そろそろ限界だった。
「はー、眠い……」
と呟いたのは、ほとんど無意識だ。
歩道橋からずっと、2人は一言も発せず歩いて来た。黙々と後を付いて来る弟も、きっと眠いのだろうと彼女は想像している。いつもよりずっと早い時刻に起床し、運動して適度に疲労している筈。無理をさせてしまった事を、本人に「気にするな」と言われてもやはり少し申し訳なく感じてしまう。
チラリと後ろを振り返ると、ポケットに手を入れてボンヤリと周りを見ながら歩いている清美と目があった。
清美も眠そうだ。
―――ハンバーグに、から揚げも付けてあげよう。
睡眠不足で朦朧とし始めた頭で、晶は誓った。
夜遅くまで仕事をしている両親はまだ眠っている時間帯だ。
晶は玄関の鍵を開けて、レバーハンドルに手を掛けた。
ぐっと力を入れようとした時、晶の手を後ろから大きなゴツゴツとした手がそっと抑えた。
「何?清美どうし……」
何か間違いを窘められたのだろうか?
それほどなめらかに滑り込んできた手に、晶はただ尋ねようとした。
しかし清美は答えず、晶の柔らかい小さな手を骨ばった大きな右手で包み込むと、空いている左腕で晶の細い腰を抱え込んだ。
晶の背中に暖かな体がピタリと覆い被さってきたので、彼女は清美が寝不足で倒れ込んで来たのだと思った。
慌てて振り返ろうとして……
「きよ……」
そのとき。
晶の頬に掛かる黒髪一房を、清美の右手が櫛で梳くように持ち上げた。
そして何か生暖かい柔らかいモノが、晶の雪見大福のように薄く柔らかい左頬に押し付けられたのだった。
「……み?」
それは一瞬の出来事で。
気が付くと、晶は清美に強い力でぎゅうっと抱き竦められていた。
「俺もう、子供じゃないから」
耳に擦れた息が掛かり、襲ってきた熱量に鼓動が早くなって行き、体が動かない。
住宅街の屋根の連なりから少しずつ顔を覗かせた朝日を受けて、きらきらと光る栗色の柔らかな頭髪が頬にあたって、くすぐったい。
いつの間にか、
『おとうと』は『男のひと』になっていたようだ。
晶はそのことに、ようやく気付かされたのだった。
【おとうとが私にかまい過ぎる・完】
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お読みいただき有難うございました。
次章から弟、清美視点となります。
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