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後日談 黛家の妊婦さん2

(157)抱き枕・おまけ

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前話の続き、短いおまけ話です。


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 妊婦になると寝転がる、というのも一苦労である。

 お腹を圧迫するのが苦しいのは勿論だが、手の置き場や足の置き場にも困るし、どんな姿勢になってもどこかしら『コレジャナイ』と思える部分が出て来る。それは単純にお腹が大きくなった所為なのかホルモンバランスの所為なのか、はたまた出産準備に向かって骨盤が徐々に緩んで来ると言うから、骨と骨を繋ぐ関節の部分が今までと変わってきている所為なのか……とにかく落ち着く形、というのを見つけるのが難しいのだ。お腹の子『ナーナ(黛命名の仮名)』の健やかな成長の為にも、出来るだけ質の良い睡眠をとりたい所なのに。



 と言うわけで割と妊娠初期から、七海は出来るだけ良い睡眠姿勢を保つために、いろいろな抱き枕を試して来た。



 まず最初はオーソドックスな細長い円柱タイプ。なかなか良い感じだったが、その時サイトで人気ナンバーワンとなっていた、くねくねとしたタツノオトシゴのような形の抱き枕が気になって購入。つわりで気持ちが悪い時、一人で眠る時などこれはなかなかに重宝した。

 しかしお腹が大きくなってくると、徐々にそのタイプでは寝づらくなってくる。

 七海は授乳マクラにも抱き枕にもなると言う三日月タイプを新たに購入。しかし体型が変わった所為か、これ一つだと七海の体には微妙にフィットしない。結局追加で、ニワトリの形の授乳マクラを手に入れた。こうして横になり三日月タイプに抱き着き頭を乗せ、ニワトリを脚の間に挟むようにして上の足を乗せて、漸く落ち着くことになる。

 そしてその状態が暫く続いたある日。ついに七海は見た目だけで衝動的にシロクマの抱き枕を購入した。これが―――妊娠後期の七海の体型に、ピタリ!と来た。臨月が近づく今、七海の腕の中にはシロクマ、脚の間にニワトリが眠る時の定番となった。こうして今の彼女の入眠スタイルは確定したのである。



 無駄遣いの出来ない体質の七海が、初めてした散財だった。シロクマを購入した時の衝動を思い出すと、七海は空恐ろしい気さえする。



 『あの抱き枕があれば、もしかしてもっと良い体勢に落ち着けるのではないか?』そんな妄想に取りつかれて、居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。

 自分に合う一品を求めて、ボーナスで幾つも高い靴を買いあさってしまい金欠気味だと愚痴っていた大学時代の友人の話を、別世界の話のように聞いていたことがある。しかし今、七海は彼女の気持ちが、何となく分かるような気がした。衝動買いは『する』のではなく『してしまう』ものなのだ。

 今日も七海はニワトリに足を乗せ、シロクマに抱き着く体勢でごろりと横になっている。黛の寂しそうな声を聴いても、例え『愛が薄い!浮気だ!』と罵られても、これだけは譲れない……かもしれない。いま七海はシロクマがいなければ安眠出来ない体になってしまったのだ……!

 そしてとうとう昨夜『七海は俺よりシロクマの方が良いのか?』などと詰め寄った黛を放置して、七海は夢の中へ旅立ってしまった―――






 目を醒ますと背中に温かい体温を感じる。そっと黛の腕が背中から自分の肩を包み込むように伸びていた。―――シロクマを抱き込んだ七海を、黛は抱き枕にしていたらしい。

 ……昨日、睡魔に任せて夫を放置したような気がする。



「ん……ふわぁ」



 七海の身じろぎに、黛が僅かに欠伸をして仰向けに寝転がった。『起きたのかな?』と、重い体ごとなんとか後ろの夫の方を振り向いてみると、黛はいまだスヤスヤと眠っている。

 その長い睫毛が息をするたび揺れるのを、七海は暫く眺めていた。

 ふと思いついて、眠る夫の体に抱き着くように、ゆっくりと腕と脚を上に乗せてみることにした。そして、



「……シロクマより黛君の方が好きだよ?」



 気持ち良さげに眠る『抱き枕』に、そっと囁いてみる。



「…………………………」



 暫く目を瞑っていた七海が、再びゆっくりとそこから離れた。



「黛君あついっ……そして硬い……!」



 やはり今の七海にとっての添い寝ナンバーワンは―――シロクマらしい。
 クルリと黛に背を向け、七海はギュッとひんやりと柔らかいシロクマを抱きしめる。そして諦めて……再び目を瞑ったのだった。






 愛情より快適さが勝ったという(黛にとって)悲しいお話。


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果たして再びイチャイチャで終われる日が来るのでしょうか?
可哀想な黛が、再び愛を取り戻しシロクマに勝てるのはいつなのか……!

黛夫妻のすれ違い(?)のお話でした( ;∀;)……なんちゃって。
大丈夫、昼間はちゃんと仲良しです。

本当にふざけた話でスミマセン<(_ _)>
お読みいただき、有難うございました!

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